「たからもの」

シーマ
「うわぁ・・・可愛いなぁ・・・」

ぎん
「あのね、このうさたんね、もらったんだよ・・・いいでしょ?」

オゼ
「ねぇ、ねぇ、もうちょっとよく見せてよぉ・・・」

ぶた
「うん・・・いいよ」


とある広場・・・ぎんが大切に持っていたうさぎのお人形から始まったたからもの自慢。
ぶた君のたからものは、いつもかぶっているお気に入りの帽子。
可愛いお人形や素敵な帽子を見てみんなうらやましがっています。


ぎん
「ぶた君の帽子も、いいなぁ・・・ぎんたん
もね、帽子ほしいなぁ」

ぶた
「ありがとう、ぎんちゃん。ぎんちゃんのう
さぎさんも真っ白で可愛いよね」

ぎん
「うん・・・うさたんね、ぎんたんのたから
ものなの」


そんな二人のたからものを見つめていたシー
マとオゼですが・・・、

ぶた
「ねえねえ、シーマとオゼのたからものも見せてよ」

ぎん
「あっ、ぎんたんも見たい見たいっ」

シーマ
「えっ・・・・」

オゼ
「・・・・・」


とつぜんたからものを見せてといわれて困ってしまいました。
二人はたからものを持っていなかったのです。

ぶた
「どうしたの? もってるでしょ・・・?」

オゼ
「う・・ううん・・・・、もってないよ」

ぎん
「えーっ! シーマ君とオゼ君、たからものもってないの?」

シーマ
「うん・・・・」

ぶた
「変だよ・・・僕やぎんちゃんだってもってるし、他のみんなもたからもの、
もってるんだよ」


本当にたからものを持っていなかったシーマとオゼは困りながら顔を見合わせるのがやっと。
『変だよ・・・』
ぶた君の言った言葉が頭の中をぐるぐる回っています。
確かにみんな必ずたからものをもっていて、そのたからものをみんなが誉めてくれました。

ぶた
「あっ。シーマ君もオゼ君もこれからたからものを見つければいいんだよ」

ぎん
「うんっ、それがいいよ・・・ぎんたんのうさたんみたいなの・・・ね?」

シーマ
「・・・うん。そうだね」

オゼ
「たからもの、かぁ・・・」


ぶた君とぎんに言われたシーマとオゼはさっそく『たからもの探し』に出かけ
ました。
『みんなが持っていないような、みんなが凄く誉めてくれるたからもの』
そんな素敵なたからものを二人は探しはじめました。




 ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** **




二人がたからもの探しを初めてしばらくすると、気持ちよさそうにお昼寝をしているネコ君と出会
いました。
『どんなたからものをもっているんだろう・・・?』
気になった二人はネコ君を起こすとたずねました。

ネコ
「・・・・にゃ? なんだぁ、シーマ君とオ
ゼ君じゃないかぁ・・・なぁに?」

オゼ
「ねぇ、ネコ君・・・ネコ君はたからものも
ってる?」

シーマ
「僕たちね、僕たちだけのたからものを探し
てるんだっ」


熱心に話しているシーマとオゼ。
ネコ君はいやがる事もなく二人にたからもの
を教えてあげました。

ネコ
「いいよ♪ 僕のたからものはね、これだよ・・・この鈴。お友達がくれたんだよ」

シーマ
「うわぁ・・・きれいな鈴・・・ピカピカしてるぅ」

オゼ
「ネコ君のたからもの、すごいね・・・僕たちもこんなたからものほしいなぁ」


ネコ君の喉元でピカピカと光っている金色の鈴に二人の目は釘付けに・・・。
風が吹くと『チリンチリン・・・』と柔らかくきれいな音が響きます。
その音を聞くとさらに二人は目を真ん丸にして見つめました。

オゼ
「シーマ、僕たちもこんな素敵なたからものほしいね」

ネコ
「ふふふっ・・・ありがとう。でもね、僕のたからものはこの鈴だけじゃないんだよ」

シーマ
「えっ? まだあるの??」

ネコ
「うん・・・僕ね、お昼寝がすごく大好きなんだぁ・・・だからお昼寝している時間もたからもの
なんだぁ」


顔を見合わせたシーマとオゼの頭にはおおきな『?』マークが浮かんでいました。
目に見えない『お昼寝の時間』がたからもの・・・。
二人にはその言葉が分かりませんでした。

オゼ
「ねえ、ネコ君・・・なんでお昼寝の時間なの? そんなのみんな見れないし、誰だってお昼寝は
できるんだよ」

シーマ
「そう言うのってたからものじゃないよ・・・」

ネコ
「そうかにゃあ〜? お昼寝の時間はこの鈴とおんなじぐらい大好きなんだ・・・だから僕のたか
らものなんだけどなぁ・・・」

シーマ
「でも、だれも誉めてくれないよ・・・」

ネコ
「う〜ん、でも、たからものってこの鈴みたいに見えるモノだけじゃないと思うにゃ。目に見えな
いたからものもあると思うよ」

シーマ
「えーっ??」

オゼ
「・・・・・・・」

ネコ
「これが僕のたからものだって思う事が大切なんじゃないかにゃ〜?」


なにか不思議でへんてこな気持ちになった二人・・・。
たからものを見せてくれたネコ君にお礼をいうとたからもの探しの続きを始めました。
でも、二人の頭の中にある事はおんなじ。
『目に見えないたからものって変・・・・・』




 ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** **




ガンガンガンガン・・・・・。
ギュイイィィィィィィィィン。
ガリガリガリ・・・ドンドンドン。


オゼ
「なに? この大きな音・・・」

シーマ
「なんだろう?」


大きな音の正体を突き止めるために近付いて行く二人。
恐い気持ちもありましたが、二人の心にはみんなが見た事もない宝物が見つかるかもしれないとい
う気持ちが・・・。

KAMIU
「んっ? なんだ、シーマとオゼじゃないか、どうしたこんな所で?」

シーマ
「あっ」


オゼ

「KAMIU・・・」


森を抜けると目の前には広い広い砂漠が・・・。
二人の目の前には大きな道具をもったKAMIUがいました。


シーマ
「また何か作ってるの?」

KAMIU
「ああ、お客さん用の新しい建物だよ。工事
中で危ないから中で遊んだりしちゃダメだぞ」

オゼ
「うん・・・、あっそうだ、ねえKAMIU
・・・」

オゼはさっそくKAMIUにもたからものを
訪ねてみました。
『きっとすごいたからものをもっているんだ
・・・』

二人は期待に胸を膨らませ、目の前に出てくる宝物をいろいろと考えました。
ところが・・・。

シーマ
「えええ〜〜っ!!!」

オゼ
「なにそれっ! そんなのたからものじゃないよ」

シーマ
「そうだよ、おかしいよっ!」

KAMIU
「おい、聞いといてずいぶんと辛口な意見だな・・・」


ネコ君の『お昼寝の時間』にもびっくりした二人でしたが、あまりにも大きすぎるKAMIUの答
えに頭の中が真っ白・・・。
KAMIUが言ったたからもの。
それは『KAMIU's World全部』と『遊びに来てくれた人達』でした。

シーマ
「ねえKAMIU、たからものって他の人に見せてあげる事が出来たり、みんながうらやましがる
モノだよ、人とか木や山や海とか全部が宝物だなんて変だよ」

オゼ
「そうだよ・・・そんなのたからものって言ったってだれも『すごいね』とか言ってくれないよ・
・・」

KAMIU
「確かに二人の言う事は正しいよ。でもね、もともとたからものに『×××じゃなきゃいけない』
って決まりはないんだよ。大きいモノだろうと、小さいモノだろうと、目に見えても見えなくても
・・・。自分が『大切にしたい』って思えるモノをたからものって言うんじゃないかな?」

シーマ
「え〜〜〜っっ??」

オゼ
「なにそれ??」


けっきょく、混乱するだけにおわったシーマとオゼはその場を立ち去りました。
ネコ君とKAMIUは何を言っているのだろう・・・。
目に見えないたからもの・・・。
ぶた君のすてきな帽子・・・。
ぎんちゃんの可愛いお人形・・・。
いろんな事が頭の中に浮かんできました。

シーマ
「ねえ、オゼ? わかった?」

オゼ
「ううん・・・ぜ〜んぜん。なんでネコ君や
KAMIUはあんな事言ったのかな?」

シーマ
「ネコ君は分からないけど、きっとKAMI
Uはみんなのもってるたからものを見た事な
いんだよ」

オゼ
「そうかっ。だからKAMIUはあんな変な
事言ったんだね」


シーマ
「うんっ、そうだよきっと」

オゼ
「じゃあ、僕たちのたからものを見つけてKAMIUに見せてあげようよ」

シーマ
「うんっ」


二人はたからもの探しの続きを始めました。
ぶた君のすてきな帽子・・・。
ぎんちゃんの可愛いお人形・・・。
ネコ君のきれいな鈴・・・。
そのどれにも負けない、みんながうらやましがるたからものを。


シーマ
「ないね?」

オゼ
「ないね?」



シーマ
「どこにあるのかな?」

オゼ
「みつからないね?」


二人は一生懸命に探しました。
岩の下に洞穴の中、草むらの中、そして川の中も・・・。
いつしか空のてっぺんにあったお日様も西の山に近付いていました。
お友達もみんな家に帰り始めようとしています。
その時・・・。

キラッ

白く眩しい光を二人は見つけました。
胸がドキドキしはじめ、二人は夢中になって光りの見えた方へと走りました。

オゼ
「あったー!」

シーマ
「うわあ・・・すごくきれい、ネコ君の鈴よりもきれいでキラキラしてるよ」

オゼ
「ほんと、きれいだよね・・・」


二人が見つけたもの・・・それはたぶんKAMIU's Worldを訪れた誰かが落としていった水晶のネ
ックレス。
落としてしばらくたっていたのかちょっと汚れていましたが、ほんのちょっとホコリを落としたら
お日様の光を浴びてピカピカと眩しく輝きました。
しかも、こんなきれいなアクセサリーのたからものは誰も持っていなかったので、二人は興奮して
います。


オゼ
「よいしょっ・・・ふふふっ、こんなに大き
い」

シーマ
「すごいよね、オゼ! こんなの誰ももって
ないよ」

オゼ
「きっとみんなおどろくよね、こんなにきれ
いなんだもん」

シーマ
「なんだろうね、コレ、真ん丸だよ・・・」


オゼ
「あはははっ、シーマの目も真ん丸になってるよぉ」


ガラスよりもきれいな水晶・・・。
ようやっと自分達のたからものを見つける事が出来た二人は、途中何度も何度
もお日様の光でピカピカと光らせながら大喜びで家へと帰りました。
明日になったらみんなに見せてあげよう。
みんなすごくおどろいていっぱい誉めてくれるんだろうな。
お友達に囲まれている姿を二人は思い浮かべていました。




 ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** **





オゼ
「きれいだね、僕たちのたからもの・・・」

シーマ
「・・・・・・・・・」

家に帰ってきてからもオゼは見つけた宝物を
ニコニコしながら見つめていました。
でも、シーマは暗くなった夜空を見上げて何
かを考えていました。

オゼ
「?? シーマ、どうしたの? 大丈夫?」

シーマ
「ん・・・うん、大丈夫だよ。 ねぇ、オゼ

・・・ネコ君とKAMIUの話したたからもの、憶えてる?」

オゼ
「うん、憶えてるよ・・・『お昼寝の時間』と『KAMIU's World全部』と『遊びに来てくれた人
達』でしょ。 でも、明日コレを見せてあげたら二人ともわかってくれるよ、きっと」

シーマ
「・・・あのね、僕ずっと考えてたんだけど、ようやっとネコ君とKAMIUの言ってたたからも
のの事がわかったんだ・・・」


シーマはそう言うと嬉しそうにオゼに向かって微笑みました。
オゼは不思議がってたからものを置くとシーマの隣に座りました。

オゼ
「・・・??」

シーマ
「あのね、僕のたからものはね、見つけたあのピカピカ光るモノじゃなくてオゼなんだよ」

オゼ
「ええ〜っ? シーマ、何を言ってるの? なんで僕がシーマのたからものなの? 僕たち友達じ
ゃなかったの・・・?」


二人のたからものを見つけて喜んでいたばかりなのに、シーマは突然ネコ君やKAMIUよりも変
な事を言い出したのです。
シーマのいきなりの言葉にオゼはおどろきを隠せませんでした。
『僕は友達じゃなかったの?』という悲しい気持ちになると同時に『なんで僕がたからものなの?
』という疑問でいっぱいになりました。

シーマ
「あのね、オゼ・・・もしも、もしも僕がいなくなっちゃったらどうする?」

オゼ
「ええっ?? シーマ、どこかに行っちゃうの?」

シーマ
「違うよ、どこにも行かないよ・・・もしも、もしもだよ。朝起きた時とか遊んでいる最中に僕が
いなくなったらどうする?」

オゼ
「そんなの決まってるじゃないか・・・探すよ、シーマがいなくなるの嫌だもん」

シーマ
「僕もそうだよ、オゼがいなくなるの嫌だから・・・オゼが見つかるまで探すよ。つまりね、『い
なくなったら嫌だ』って思うくらいオゼは『大切な友達』なんだよ」

オゼ
「えっ・・・?」

シーマ
「だからね、今日拾ってきたアレやお花や冒険よりもオゼは僕の大切なたからものなの。きっとネ
コ君も『お昼寝の時間』がなくなっちゃったらすごく嫌なんだ、なくなったら困るモノなんだよ」

オゼ
「じゃあ・・・KAMIUのも同じなのかな? なくなっちゃったら嫌なモノなのかな?」

シーマ
「きっとそうだよ、ネコ君もKAMIUも『なくなったら嫌なとても大切なモノ』って言いたかっ
たんじゃないかな?」

オゼ
「じゃあ、僕のたからものはシーマだねっ!」




誰にも渡せない、とてもとても大切なモノ・・・。
それはたまたま目に見えるモノでしょうか?
それとも目に見えないモノでしょうか?
あるいは手の平に乗るくらいの小ささですか?
それとも全部が見えないくらい大きさですか?

お金だったりモノだったり気持ちだったり・・・。
たからものは人それぞれ・・・決まり事はありません。
シーマとオゼは誰にも渡せない大切な大切な宝物を見つける事が出来ました。
誰にも負けないとっても素敵なたからもの。

今度は二人を見ていたあなたが見つけてみましょう。
自分だけの大切なたからものを・・・。