「出発」 |
出演協力 りかさん |
イルカ
「世界って所はそりゃあものすごく広い所だよ。見た事もないようなもの、危険なもの、 いろんなモノがたくさんたくさんあるんだ」 とある海の中・・・そんなふうに話を始めたのは1頭の真っ白なイルカでした。 流線形をしたその体をゆっくりと動かし気持ちよさそうに泳いでいます。 りか 「ねえねえ、そんなにすごい所なの? 危ない事しかないの?」 ゆっくりと泳ぐイルカの隣には、1頭のペンギンが・・・。 話をよく聞こうと、手足を一生懸命に動かしてイルカの前へと移動してきました。 イルカ 「いいや・・・素晴らしい事もたくさんあるさ。海の中では見られない綺麗なものだって たくさん・・・」 りか 「綺麗なものって・・・お星様やお月様より?」 イルカ 「ああ、そうだよ・・・それに、ふだん見ているお月様やお星様だって山の上で見るとも っともっときれいに見えるって話だ」 りか 「へえ・・・・世界・・・かぁ・・・」 |
海の中で生活し、海から出ても浜辺の辺りしか歩いた事のないりかにとって、イルカさん の話はとても衝撃的なものでした。 いつも見る大きな山の向こう、そこにはまだ見たことのない、広い広い世界が広がってい る・・・。 そう分かった瞬間、もっともっといろんなものを見てみたい、たくさんの事を知りたいと 強く思うのですが、大きな問題がありました。 りか 「私も見てみたい・・・でも、私達ペンギンのご飯って、海の中にしかないから無理ぁ・ ・・」 イルカ 「なんだ、お前さん知らないのかい? ここから少し北に行った入り江で行動しているペ ンギンのグループには、海を飛び出して山のてっぺんで暮らしているやつがいるんだ。」 りか 「えっ? 私達って海にいなくても大丈夫なの?」 イルカ 「そいつが全く平気なんだから、お前さんだって大丈夫さ・・・まあ、楽な事ばかりじゃ ないって聞いたがな」 りか 「そっか・・・ありがとう、イルカさんっ」 私も世界を見に行けるんだっ。 心の中に希望と言う光が生まれ、体の中いっぱいに嬉しさが広がったりかは、大急ぎで群 れのみんなの元へと戻りました。 しかし・・・、家族や群れのみんなは反対しました。 群れの中には獣に襲われたものもいたし、みんな陸上がどれほど危険か知っていたからで す。 海の中でさえ危険はいっぱい。 ましてや、動きの遅くなる陸上ではもっともっと危険に・・・。 みんな、危険を知らない子供のたわごとだと思っていました。 でも、そんな軽い気持ちではありませんでした。 はじめは笑って相手にもしていなかったみんなも、真剣な説得にしだいに考えを変えてい きました。 もちろんみんなの心配事が消えたわけではありません。 それでも、お父さんやお母さん、群れのみんなに見守られながらまだ見ぬ世界への冒険が 始まりました。 初めの目標は、いつも見上げている山のてっぺん。 見上げるのと実際に登るのとは大違い。 切り立った崖から転落しそうになったり、鷹に襲われそうにも・・・。 でも、みんなから教わった知識のおかげで危機を乗り越え、目標の場所へといっぽいっぽ 確実に近付いていきました。 −−− −−− −−− −−− −−− −−− −−− −−− りか 「はぁ・・・・・・・、すごぉい・・・・」 山のてっぺんまであと少しの所・・・りかの足はその場に釘付けになりました。 海の中では見る事のできない広大な景色が、崖の先に広がっていたのです。 自分を襲おうとしていた鳥達も、はるか下を飛んでいます。 イルカさんや、群れのみんな、鳥達よりも高い場所に立っている・・・。 今までの苦しかった出来事がみんな消えていきました。 コード 「こんにちはっ!!」 りか 「!?」 突然の声。 慌ててりかが振り向くと、そこには一匹のダルメシアンが。 りか 「あ、あなたは誰? わ、私、食べたって美味しくないわよ・・・」 コード 「えっ? そんな事しないよぉ・・・僕は、この景色を見たいだけなんだから」 そう言いながらりかの隣へ歩み寄ったコードは、ペタンと座り込むとニコニコと微笑み、 しっぽをパタパタと振りながらりかが見ていた景色を見つめました。 突然目の前に現われた見た事もない動物に戸惑いを隠せないりかでしたが、そのひとなつ っこい笑顔といつまでも襲ってこない態度に緊張が薄らいでいきます。 コード 「こういう景色っていいよね。綺麗だし、すっごいし、見ていて気持ちいいよね・・・、 僕、こういう景色を見るのって大好きなんだ」 りか 「他にも・・・こういうすごい景色、見た事ある?」 コード 「うん、あるよ。でもね、まだ他にもこんな景色がいっぱいあるから見に行くんだ・・・」 りか 「!! わ、私もなのっ! 私もね、いろんな景色が見たくてここまで来たのっ」 思わぬ所での素晴らしい出合い・・・。 同じ目的を持った仲間と出会えて嬉しくなったりかは、今までのいきさつを話しました。 海の中だけだった生活。 両親や群れのみんなとの別れ。 途中、たくさんの危険に出会った事。 コードの方も夢中になって話しているりかの話を真剣に聞き、いつしかお互いにいくつも 共通している部分がある事が分かりました。 コード 「ねぇ・・・よかったら、僕と一緒に行かない? 1人でちょっと寂しかったんだ・・・。 それに、もっともっと海の事も聞きたいし・・・」 りか 「あ、ありがとう。 よろしくお願いします」 コード 「こちらこそ、よろしくお願いします・・・」 お互いに頼もしく心強いパートナーが出来ました。 生活の仕方も、姿形も違う2人ですが、思う気持ちはおんなじ・・・。 はるか崖の下から、2人を旅立たせるかのように風が吹き上げって来ます。 旅先には楽しい事もあれば、辛い事もあります。 来なければよかった・・・と思う事もあるでしょう。 けれど、2人の足は大きな一歩を踏み出しました。 たった今、大きな大きな冒険が始まったのです。 |