「夏」


ミ〜ン、ミ〜ン、ミ〜ン・・・


「ふぅ・・・今日も暑いなぁ・・・」


朝から始まるセミ達の大合唱大会。
森の中では蝉の声以外がかき消されそうなほどです。
木のおかげで直接日は当たりませんがそれでもと〜っても暑い。
元気いっぱいなのは夏に活動する虫達だけ・・・。
動物達は涼しい洞穴の中でジッとしたり、風通りのいい木陰でお昼寝をしています。


「う〜ん・・・何か涼しくなる事ないかなぁ? あっ! そうだ・・・」


ニコッと微笑むきつね君。
家から小さく折り畳まれたモノを持ち出すと、元気よく歩き始めました。
ある場所を目指して一目散に。



「ん〜、つめたーいっ!」


川の水に手を入れたきつね君はその冷たさに大喜び。
その川の中を元気に泳ぐお魚・・・ワクワクしてくる気持ちを押さえきれなくなった
きつね君は大きくジャンプすると、

ザッバ〜ンッ!!

と飛び込みました。


「くぅぅぅ・・・気持ちいいっ!!」


暑く火照った身体を冷たい川の水が冷やしていきます。
何もせずにボーッとしてみたり、思う存分泳ぎ回ったり、川の中に潜ってお魚と泳い
だり・・・。
夏の暑さを忘れてきた頃、きつね君はもってきた小さなモノを膨らませはじめました。
お気に入りの浮き輪。
パンパンに膨らませるとその中心に座り、手で漕いで川の中心に。


「さあ、レッツゴー!」


川下りの冒険が始まりました。
浮き輪は川の流れにのってどんどん下流へと向かって進んで行きます。
お日様のギラギラした日射し、でもお尻の方から伝わってくる涼しさがとってもいい
気持ち。
それに、どんどん変わって行く景色が暑さを忘れさせてくれました。






「うわ〜、あんな山があったんだぁ・・・ペンギン君の山とどっちが高いかなぁ」


「へんてこな木、なんて言うんだろう?」


「うわっ! たっ、滝だぁ〜〜!! わっ、わっ、わっ!!」


「どんどん流れが速くなってきたなぁ・・・」


「わあぁ〜!! ぶつかるうぅぅぅぅぅ・・・・・・いったぁ!!!」





小さな浮き輪にすべてをかけた大冒険。
何度も転覆しましたが、きつね君はめげずにどんどん川を下って行きます。
最初は狭く流れの速かった川も、今では広く緩やかな流れに変わっていました。


「ふ〜ん・・・こんな場所もあったんだぁ・・・・・・あっ、やっほー!」


きつね君の知らない場所、知らない動物達の姿がありました。
見ず知らずの動物が川下りをしているきつね君に手を降ってくれていたのできつね君
も返事を。
少しばかり不安になっていたきつね君の心が元気になりました。
ゆっくりと・・・でも確実に海の方へと向かっているきつね君。
お日様がだいぶ西の空へと傾いてきた頃、とうとう海の入り口にまでやってきました。


「くんくん・・・・・・面白い匂いだなぁ・・・何の匂いだろう? これが海ってい
う匂いなのかなぁ?」



生まれて初めて嗅いだ海の匂い。
ペンギン君から話に聞いていた、海にだけある匂い・・・。
でも、不思議ときつね君は昔から知っているような感じでした。
とってもとっても懐かしい・・・そんな感じ。
ふと、思い出したように手を水につけてペロッ。


「・・・・・・うわぁ、しょっぱ〜〜〜〜〜いっ!!!!」


いつの間にか海に変わっていた水。
そういえば心なしか少しベトベトしてきたような・・・。


「うえぇ・・・、やっぱり海なんだ・・・ペンギン君に聞いてなかったら水飲んじゃ
うところだったよ・・・」



吹き抜ける風が潮の匂いでいっぱいになっています。
川よりも波が立っている水面。
真正面には陸地の無い水だけの世界が見えました。




「どこまで広がってるのかなぁ・・・」


大きく広がった海まで後もう少し・・・。
歓迎するようにいるか達が前方を横切っていきます。
陸地と全く違う世界・・・一体どんな出来事が待っているのでしょう?
きつね君の、新しい冒険の世界。


「さてと・・・どうやって・・・・・・帰ろうかなぁ?」