西の空が夕焼けで真っ赤になるその頃・・・。 紺色に染まりはじめた東の空。 その東のずっとずっと遠く。 1人の女神様が馬車に乗ってやってきます。 女神様の名前はセレネ。 乗っている馬車は静かに輝く銀の色。 馬車を引く馬も美しい銀色のたてがみをしています。 セレネをのせた馬車は物凄い勢いで東の地を飛び出すとどんどん天空へと。 お日様が西の空へと完全に沈んで空が暗黒に包まれると、セレネの馬車は銀色の輝きを増して大地を照らしはじめます。 そう、セレネは月の女神様。 セレネの乗る馬車はいつも夜空にあるお月様です。 その輝きはお日様とは違い眩しくありません。 優しく大地を包みます。 まるでセレネの優しさのように。 うるさい音もその輝きによって鎮められてしまいます。 神様から許された音だけしかお月様の前では聞こえないのです。 虫達の音色。 美しさをたたえるオオカミの遠ぼえ・・・。 そして、お月様を見つめているモノ達の声。 仲秋の名月の季節です。 夏から秋へと移り変わるこの時期、夜空には雲も少なくお月様の綺麗な姿がいつもよりハッキリと見えるようになってきます。 新月から三日月。 三日月から半月・・・そして満月へ。 まるで眠っていたお月様のまぶたが開いていくようです。 眠っていたお月様が目を覚まして一番元気できれいに輝く時、それが満月です。 この綺麗な姿を見上げる人間が多いように、動物達も楽しみにしています。 今年もまた見れるかな・・・? 去年は少し雲があって残念だったね・・・。 雨が降ってて見れなかった・・・。 遊び疲れて寝ちゃったから見逃しちゃった・・・。 心にある思いはみんなそれぞれ。 きつね 「ペンギン君、このあたりでいいよねっ」 ペンギン 「うんっ、海の匂い・・・ひさしぶりだなぁ」 きつね 「どう? 故郷で見るお月様は?」 ペンギン 「すごく綺麗・・・来てよかった」 きつね 「喜んでもらえてよかった♪」 ペンギン 「きつね君、一緒に来てくれてありがとうっ、来年もまた一緒に見ようねっ」 きつね 「コンッ!!」 |
シーマ 「静かだねぇ・・・虫の音しか聞こえないよ・・・」 オゼ 「ねぇ、シーマ。お月様って女神様の乗り物だって知ってた?」 シーマ 「えっ! そうなの?? でも・・・女神様の姿見えないよ?」 オゼ 「神様って姿が見えないんだって。でもね、神様からはちゃんと僕達の姿が見えてるんだって」 シーマ 「ふ〜ん、じゃあ、今もお月様にいる女神様は僕達のこと見てるんだねっ」 オゼ 「うん」 シーマ 「誰から聞いたの?」 オゼ 「僕のおじいちゃん」 |
1つの満月を見上げていったいどれだけの話が産まれてくるのでしょう? 真剣な話でしょうか? 悲しい話でしょうか? 楽しい話でしょうか? お月様の不思議な不思議な魔法です。 独りでも、大切な人とでも、家族と一緒にでも・・・。 少しの間だけ真ん丸のお月様を見上げてみましょう。 周りの音がゆっくりとゆっくりと消えていった時に始まりますよ。 お月様が聞かせてくれる・・・一夜物語が。 |