「白銀の世界」


シーマ
「なんだろう? すごく寒くなってきたねぇ・・・まだまだ冬が続くのかなぁ? 早く春にならないかなぁ・・・」

オゼ
「寒いはずだよ・・・シーマ、見て見てっ」

シーマ
「ん? どうしたのオゼ? ・・・・・・うわぁっ! すごぉいっ」


木の幹にポッカリとあいた2人のお家。
入り口で外の様子を見ていたオゼは、嬉しそうに微笑みながらシーマに向かって「おいでおいでっ」て手招きをしています。
冷たい空気・・・。
シーマは体をさすりながらオゼの元へ。
オゼに言われてお家の外を見てみると、


シーマ
「うわあぁぁぁ・・・雪が降ってるぅ!!」





本当なら、今頃は西の空に沈むお日さまの姿が見えている時間でした。
でも、今日にかぎってはお日様の姿はなく、空いっぱい厚くて黒い雲がいっぱい・・・。
その雲の中からはたくさん・・・本当にたくさんの雪が降ってきていました。
けれど、ちょっと多すぎる感じ。
遠くの山の姿がなんとか見えるほどですから。
吹雪・・・。
風は強くありませんが、そんな言葉がぴったり。


オゼ
「すごく降ってるねぇ・・・こんだけ降るんだもん寒いよ」

シーマ
「うん・・・山の形もほとんど分からないよ・・・」

オゼ
「たくさん積もるねっ」

シーマ
「あしたは雪合戦できるかな? それにソリ遊びに、雪だるま・・・」

オゼ
「うんっ♪ きっとできるねっ・・・」


さっきまでの寒さを忘れるほど心がワクワクしてきました。
お友達と一緒に何して遊ぼっかな?
おっきな雪だるま作れるかな?
遊びたいことが次から次へと浮かんできます。
その夜、2人は入り口から雪が入ってこないようにして、眠りにつきました。



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翌朝、いつもの朝と変わらないはじまりでした。
いつも見かける山や森、それに青空・・・。
違うところはたった1つだけ。
地面はすべて雪に包まれていました。
いったいどれほど積もっているのでしょうか?
掘っても掘ってもなかなか地面にたどりつかないほど。


シーマ
「ひゃあ・・・すごいねぇ、こんなに降ったんだぁ・・・」

オゼ
「去年よりもずいぶん多いねっ、ふふふっ♪ 雪がギュッギュッて鳴るよ」


冷たいけれどとってもサラサラしてて柔らかい雪。
ちょっと油断していると、ズブズブって埋まってしまいます。
シーマとオゼは注意しながら、雪の世界の探検を始めました。


オゼ
「本当にすごいね・・・森の中にまで積もってるもん。 木がたくさん集まってるところだけだよ、雪が少ないの」

シーマ
「うん、いつもだとずーっとずーっと雪が降らないとこうならないもんね」

オゼ
「ねぇシーマ、いつもの草原に行ってみようよっ」

シーマ
「うんっ、行ってみようっ!!」


追いかけっこをしたり、ボール投げをして遊んでいるお気に入りの草原。
きっと何かがあるんだろうな・・・2人は注意しながら、でも急ぎ足で草原へと向かいました。


シーマ
「うわぁ・・・」

オゼ
「はあ・・・な〜〜んにもないねっ」

シーマ
「すっごぉーいっ!! 岩も草もぜ〜んぶなくなってるぅ」


雪原・・・。
そこにあるのは、お日様の光を浴びてまぶしく輝いている雪だけでした。
反対側の森に続いていた1本道。
ねこ君のお気に入りの岩。
かくれんぼができた背の高い草がたくさん生えていた場所。
ありとあらゆるものが雪に隠されていました。

まるでいつも遊んでいる場所とのかくれんぼ。
もちろん、鬼はシーマとオゼの2人。
あっちへと行ってみたり、こっちの様子を見たり・・・ひろ〜くなんにもない雪原に2人の足跡だけがずっとずっと続いていました。


オゼ
「みんないないねっ? まだ寝てるのかな?」

シーマ
「オゼっ、みてみてっ」

オゼ
「んっ? なにを・・・・・・? 足跡?」


シーマは自分達の足跡を指してニコニコと微笑んでいました。


オゼ
「なんにも変わった様子はないけど・・・どうしたのシーマ?」

シーマ
「オゼ、分からない? 僕達はねっ、だ〜れもいないこの草原に一番最初に足跡をつけてきたんだよっ♪ 一番最初」

オゼ
「そっか! 僕達がはじめてなんだねっ」

シーマ
「うんっ!」


シーマがニコニコ♪
オゼもニコニコ♪
誰も歩いていない雪原に残る2人の印。
今日が素晴らしい思い出になる出来事。





「はじめて」
最初の言葉。
これから始まる事、不安でいっぱいな事。
楽しい事が待っていそうな事、希望がいっぱいある事。
心がつながる事、出会う事。
ひとりぼっちになる事、何も分からなくなる事。
「はじめて」は、これからはじまる事。
真っ白いキャンパス、無垢な気持ち、心。

真っ白な雪原(キャンパス)に、自分の気持ち(心)を描いていきましょう。
冷たい雪につける「はじめて」の一歩。
とても小さい一歩だけど、心に残る大きな証。


シーマ
「もっともっと、僕達のはじめてを残そうよっ」

オゼ
「うんっ、たくさんたくさん残そうねっ」


遠い遠い向こうまで続いている2人の足跡。
それはいずれ消えてしまう足跡です。
春なのか、あしたなのか、それとも今日なのか・・・。
避けられない事・・・でも、今はよけいな事を考えずに歩き続けましょう♪




だって・・・。
思い出にはしっかりと残っているのですから。