「街へ」
出演協力    りかさん




りか
「この辺りでいい景色ってない? 山でも川でも海でも何でもいいの」

渡り鳥
「う〜ん・・・いい景色ねぇ・・・」

コード
「僕たち、世界中のいろんな景色を見るために旅をしているんだ・・・」



長く長く続く2人きりの旅。
そんな旅先で出会った渡り鳥の群れ。
全く見知らぬ土地・・・全く知らない場所・・・。

『渡り鳥さんならいろいろな事を知っているのでは?』

りかとコードは群れの中の1羽にいろいろとたずねていました。


渡り鳥
「良い景色・・・良い景色・・・??」

りか
「どんな場所でも・・・いいんだけど・・・」

コード
「・・・ない?」

渡り鳥
「! 良い景色じゃないけど、面白い場所なら知ってるよ」

りか
「面白い場所?」

渡り鳥
「ああ、君たち『街』って知っているかい? 人間達がたくさん住んでいる場所なん
だけど」

コード
「ううん・・・知らない」

りか
「珍しい・・・の?」

渡り鳥
「ああ、あそこは珍しいっていうか・・・変な場所だね。山のように大きい石造りの
四角いモノがたくさん立っているし、夜になってお日様が沈んでいるのにその『街』
っていう所はものすごく明るいんだ」

コード
「?? お日様が沈んでるのに?」

渡り鳥
「ああ、だから変な場所なんだ・・・もし見に行くとしても決して近付き過ぎちゃい
けないよ。どこか高い山の上から見下ろすようにしてみるのが一番良い」

りか
「なんで、そんな遠くから??」

渡り鳥
「人間ってやつはとっても恐ろしい生きもので、僕ら動物を捕まえては食い殺す生き
ものなんだよ。群れの仲間もやつらに掴まってどれだけ殺されたか・・・」

コード
「そんなに恐い所なんだ・・・・・・でも、一度でいいからその『街』って見てみた
いなぁ」

りか
「・・・ねぇ、大丈夫かなぁ? 恐い場所なんでしょ?」

コード
「渡り鳥さんが言ってたじゃないか、遠い場所から見るだけだよ、大丈夫・・・で、
その『街』にはどうやって行けるの?」

渡り鳥
「ここから少し東にいくと川があって、その川をずーっと下って行くとそのうち川が
ふたてに別れる場所があるからそこを左に。さらに川を下って行くと大きな池に・・
・その池の対岸が砂丘になっていてね、その砂丘を突っ切れば『街』だよ」

りか
「えっと・・・ふたてに別れた川の左を行った先にある池の対岸にある砂丘の先ね」

渡り鳥
「ああ、でも、ぐれぐれも『街』に近寄っちゃいけないよ、それだけは忘れちゃダメ
だ」

コード
「うんっ、ありがとう渡り鳥さん、行こう」

りか
「うん」



2人は教えてもらった『街』を目指してその場をあとにしました。
いくたの危険を乗り越えてきた2人にとって「恐ろしいから・・・」という言葉だけ
では旅を止める理由になりませんでした。
今まで一度も聞いた事のない『街』が見れる・・・。
2人の心にはそんな誘惑が満ちあふれていました。
そう、どんな事が起こるのかも予想できずに。



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りか
「ねぇ・・・コード、お日様が沈んできちゃったよ・・・」

コード
「仕方ないよ、川の流れがゆっくりだもん・・・まっ、急がずあわてずに行こうよ」

りか
「そうじゃなくて、川の上が安全かどうかよ」

コード
「大丈夫だよ・・・」



教えてもらった川に辿り着いてからどれくらいの時間が過ぎたでしょうか?
川の流れが2人を載せたボートをゆっくりと下流へ運んで行きました。
水面に近いせいでしょう、お日様が沈んで行くにしたがって涼しくなっています。


コード
「そういえばさ、こうやって川の上から景色を見るっていうのもそんなに機会ないよ
ね」

りか
「そういえばそうね・・・でも、周りの景色見てて間違った方向にいかないように気
をつけてね」

コード
「もう、心配性だなぁ・・・」



静かな静かな時間。
海岸からはいつしか鳥達のさえずりから虫達の音色へと変わって行きました。
長い長い船旅・・・。
空から見るのと地面を行くのとではかなりの感覚の違いがあります。
それでも2人は『街』を見るために進みます。
そして揺りかごのような船もゆっくりと『街』へと近付いていました。
そう・・・確実に。



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りか
「ねぇ・・・コード、間違ってないよ・・・ね?」

コード
「はぁ・・・はあ・・・はあ・・・うん、言われた通りに来てるよ・・・」

りか
「これってさ・・・砂丘っていうより、はあ、はあ、はあ、さ・・・砂漠だよね」



まる一日の船旅。
長い長い時間の先には間違いなく終点が待っていました。
大きな池の一角にある砂丘。
意志があるかのようにそこへと辿り着いた船から飛び下りた2人は、食事をすませる
と最後の目的場所『街』へと歩き始めましたが・・・。


コード
「あつ〜いっ!」

りか
「お水持ってくればよかった・・・死んじゃうよぉ」



日射しを避けるわずかな場所も、ほんの少し喉を潤す水場もありませんでした。
まだまだ沈むには高すぎるお日様。
普段は生き物全てに暖かな日を浴びせているお日様も、ここではうらめしく思うほど
強烈な日射しを放っていました。


その暑すぎる日射しに、木々はとうの昔にその姿を消していました。
川の水も形をとどめる事が出来ませんでした。
あるのはさらさらとした滑らかな砂ばかり・・・。
2人はその砂の上に一つ、また一つと足跡を残して行きます。
まるで自分達がここに来た証拠を残すように・・・。


コード
「変だよね・・・あそこにある遠くの山のてっぺんには雪があるのにさぁ・・・」

りか
「お水・・・欲しいね・・・」



暑い日射しに暑い砂・・・。
以前には極寒の世界を乗り切った2人でしたが、これほど暑い世界は初めてでした。
ひょっとしたら死んじゃうかな・・・そんな絶望がよぎります。
なんとかなるよね、今までもそうだもん・・・そんな希望を持ち続けます。
暑さでもうろうとする中、かげろうのように浮かび上がってきました・・・2人の目
的地が。


りか
「・・・? ね、ねえ、コードっ・・・あれ、ひょっとして・・・」

コード
「えっ?? あれ・・・かな? あれだねっ!」



細長く四角い石がいくつも集まっている場所。
『街』がようやっと見えてきました。






コード
「りか、行こうっ、もう少しだ!」

りか
「うんっ、がんばろうっ」



身体の一番深い場所から力が沸き上がってきました。
一歩一歩踏み出す足にも力が入ります。
ようやっと見れた『街』をもう少し近くでじっくりと見てみたい、喉の渇きを無くし
たい・・・そんな気持ちが2人の全てになってしまいました。
そう、渡り鳥さんの約束も忘れて。






その結果2人は・・・。




「ぐれぐれも『街』に近寄っちゃいけないよ、それだ
けは忘れちゃダメだ」