愛しいあの人を殺したくなるこんな夜


花歌マジックトラベラー『愛しいあの人を殺したくなるこんな夜』☆☆

なんとも不思議な舞台でした。いろんな断片のオムニバスかと思えば、次第に話しが繋がってくるし、幕開きでユニゾンとダンスがあって終わりもユニゾン、ギャグもあって結構サービス精神に溢れている。結局の所、何を狙ったのだかよくわからない部分もあったのだけど、全体としては面白かったし、楽しめました。(^_^)

ひとつひとつのエピソードのテンションがバラバラでまとまりがないし、つながりの必然性もない、と思われた前半から、いつのまにか役柄が時間の順序を越えたりしながらつながりを持ちはじめ、つながりから外れた役柄の人物はいなくなり、(一人何役もこなす中で、関係ない役が淘汰されていく!)という具合で、「もう少し練れば、ひとつの話になるのに」とも思うけど、もしかしたら狙いかも知れず、演劇が出来ていく過程につきあわされているような感じもありました。

役者さんでは、天才少女の窪田さんがやっぱり上手い。あとコンビニの店長?やってた人も手堅いです。でもエピソードの力で言えば、るー&嫌世の「終電乗り遅れコンビ」がいいです。あのエピソードが繋がっていったので芝居に芯ができたみたいです。他の人たちと何が違うかといえば、やっぱり人生経験の差でしょう。セリフの行間に込められた、語られることのない言葉や感情がボワッと噴出してくる様は戦慄ものでした。他の人たちが「演技」で止まっていた所を「生活」まで持っていってましたもの。

ラストのセリフが聞き取れなかったのだけれど、「倒れたとき、たまたま手にしたのが花ならいいけど‥‥」といって花を客席に差し出す仕草で終わっていたように思いました。これは言外に「ナイフだったらあなたを殺すわよ」という意味を込めているように思いました。これはもう推測の世界なので全く外しているような気もしますが、花を差し出すにしても、殺意をこめて差し出す、というシーンにしてほしかった気がしました。花を手折るということは、花を殺すということだから。その清濁合わせ持った「心」を差し出すならば、全存在をかけようとした「贋作・桜の森‥‥」の夜長姫に繋がっていくような気がしたのですが、これはもう全く別のお話ですね。


劇団花歌マジックトラベラー
「愛しいあの人を殺したくなるこんな夜」☆☆☆

【作・演出】窪田昌子
【劇場】東中野エウロス 【観劇日】3/26 13:00
 

時かけ



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