野生の未来 Vol.4


ボディサットヴァ文化研究所『野生の未来 Vol.4』☆☆☆☆

ベンヤミンの天使 〜鳥男を捕獲する〜

この「野生の未来」という催しは、プログラムが四つありまして、ダンス、公開研究会、トークセットョンなどがあるのですが、今回は、その中の舞踏?についての感想です。

この舞台は、舞踏と朗読とスライド映写と音楽で成り立っています。最初、暗闇の中、出演者が出てきてスライドが映写される。レオナルドダビンチの絵の一部分だったり、人間の体の一部分のクローズアップだったり、逆光で撮った木々の白黒写真だったり。そのスライドにあわせて英語のナレーションが流れる。そして最後に英語の文字が映写され、舞踏が始まる。その文字の光は、時折、演者の体に写ったりして、微妙な効果を生む。その舞踏に、音楽と朗読が絡んでくる‥‥。てな構成です。

今回第一にとりあげるべきは、音楽です。それもリアルタイム音楽! 開演前には、舞台(といっても10センチほどの高さの縦長の長方形)の回りに、いろいろな鳴り物が置いてあってびっくり(@_@;)。シンバルやら、鐘やら、太鼓やらに混じって、何故か竹筒やら、2メートル程の鉄パイプ、お手玉、などが散乱している。最初に福原さんが舞台中央で、じっとたたずみ微妙に手足を動かしているとき、下手から、舞台に向かい小さな鐘?を投げる人がいます。5〜6個投げ終わると、次はお手玉。次第に舞台に上がってきて、次々に投げます。そのたびに音がします。これが音楽なのです!なんともはや。。。やがて、舞台の端から端へお手玉を投げますが、驚くほどコントロールが正確。舞台の際際にきっちりと飛んでいきます。「うう、只物ではないな」ちょっと見直します。やがて彼が舞台を降りると、あらためて中央にいる福原さんが目に入ります。さっきより少しだけ体が動いています(^^;) 。音楽の彼は下手舞台下で、何やら小さい箱を抱えています。音楽はどこからか無機質な電子音が聞こえてきます。その小さな箱から音が紡ぎ出されているらしい、と気が付いたのは、しばらくたってからのことです。まるで、オシャマさんのような人です。次に、その小さな箱を持って、観客よりに置かれたスピーカーに近付いてきます。そして、スピーカーの前で手をかざすと、「キーン」という音。どうやら、ハウリングを利用して音楽を作っているようです。微妙に手を動かすと確かに音楽が聞こえてきます。凄い凄い。この辺りで、舞台上では女性二人による舞踏がくりひろげられているのですが、舞台の上なんて見ちゃあいられません。かなり上手い二人なのですが。。。続いて、太鼓をどんどんとやり出した時は、心底びっくり。一人で叩いているのに、複数の音が聞こえてくる!どうやら小さな箱でサンプリングして、遅らせて音を出しているようです。う〜ん。。やるわい。シンセやっている人には常識なのでしょーが、私は驚いた。しかも舞台でこんなことやるのは、普通の芝居ではできないだろうから、このようなパフォーマンスならでは、という所でしょうか。そのほかにも彼は、鉄パイプを石にぶつけ、キーンという音を出し、あまっさえ、強弱で音階をつけ、残像音がしている鉄パイプを微妙に揺らして抑揚をつけ、極細の竹を持ち出したかと思えば、風をきって音をだす。もう、したいほうだいです。風切りの時は福原さんが舞踏しているすぐ側でやるものだから、それが当るのじゃないかとひやひや。こんな形で「空間」を意識させるとはいやはや。

あと、中尾さんの朗読も、自由に遊んでいる感じがしてよかったし、スライドも相乗効果で、いい味を出していた。それぞれの演者がこれほど自由に他者に制約されることなく演じることができたのは、驚きでもある。

福原さんが意識している事とは違うかもしれないけど、もしかしたら福原さんは、舞踏の中に、音楽や朗読やスライドなど、異質の物を取り込もうとしているのではないだろうか、という気がした。それによって、本来、大地の呪縛から逃れられない舞踏を解放し、あらたに宇宙の呪縛に拠って立つつもりではないか、と。。。

時々、芝居の中でスライド映写をすることがあるけど、その場面ではたいがい素に戻ってしまい逆効果の事が多いけど、今回は、これらが全て違和感無く成立していた。舞台のマルチメディア化ということを考えた場合、芝居よりも舞踏のほうが、OSとして優れているのではないか、これが今回の結論である。このユニットは、ちょっと目が離せない存在になりました。


ボディサットヴァ文化研究所「野生の未来 Vol.4」より
『ベンヤミンの天使 〜鳥男を捕獲する』☆☆☆☆

【舞踏ダンス】福原哲郎+大迫尚子+坂田有妃子+長谷川恵美子
【 音 楽 】多田正美
【  声  】中尾幸世
【 映 像 】塩原 卓

【会場】スタジオams
【期間】1994/1/14 〜1/16 【観劇】1/15
【連絡先】ボディサットヴァ文化研究所(0423-25-7614)
     スタジオams      (03-3413-1111)

時かけ



観劇印象レビュー[ TOP | 94年 ] 時かけ