十二の夜


木野花ドラマスタジオ『十二の夜』☆☆☆

シェークスピアの「十二夜」から、主にエチュードで作り上げた舞台です。「十二夜」は、漂流して生き別れになった双子の兄妹。妹が男になりすまし、公爵の下で小姓として働く内、公爵が求愛している令嬢に惚れられてしまいますが、妹は実は公爵が好きだったのです。そこへ兄が登場して‥‥、という例のお話です。

木野花さんは以前、加藤健一事務所の若手公演(桜組)で、同じ「十二夜」を演出したことがあります。この話って新人公演向きの演目なのでしょうか。見せ所がいっぱいあって、皆がいきいきと遊べるのがいいのかもしれない。その時も、若手の生き生きとした演技に心地良い感動を覚えたものです。

今回は、一人二役とかがないかわり、原作の世界のほかに、二人の日本女性の場面が挟まっています。タカコは、ぼろぼろのジーンズに、煙草スパスパで、登場しないけど、傍らには女の子(三才?)がいるらしく、「ちょいとマキ」など、べらんめえ調で喋ります。サヤカは、おとなしめのシェイクスピアを読んでいる女性。タカコはサヤカに、「そんな話つまんないよ。だって嘘なんだもん。現実はそんなに簡単にハッピーエンドにならないし、本当はその後のほうが大変なんだから」といいます。

あと原作と違う所では、フェステという石売りがでてきます。「好きな石を好きな値段でかってくれればいいよ」という女の子で、時々は不思議な力をもった石を売ったりもします。「石なんてそんなに価値があるの?」と訊かれると、「ダイヤモンドだって石だよ」「じゃこの中に、磨くと光る宝石があるのか、君にはわかるかい?」「それは使う人次第さ。めのうだって海岸にごろごろころがっているので、現地の人はどうして高く売れるのか分からないっていうし、エジプトの人は海に憧れをもっているので、青い石が重宝された、っていうよ」と答えます。彼女は、時々にこやかに現れては、黒い布の上に様々な石を並べます。ひとつひとつ取り上げては丁寧に磨き、派手な石がいいという人に、地味な茶色い石を与え、「君自身と思って大切にしてくれよ」といったりします。

このそれぞれの石(原石)は、役者をめざす若者の事だと思います。いろんな形。様々な色。磨けばどんな宝石になるのかどうかはわからないけど、無限の可能性を秘めているし、それ以前に、ひとつひとつがかけがえのない個性である若い役者たち。そんな彼等への思いがこの舞台には込められているのです。

それ故か、この世界では、双子の兄妹なんて成立しない。公爵と妹は結ばれるけど、兄は、令嬢と離れ、アントーニオと旅立ち、令嬢は、「あの兄妹は、やっぱり別人。あの人がたとえ女性でもいい。十年でも二十年でも、公爵が心変わりするのを待つ」事になるのでした。

タカコは、サヤカに「一緒に暮らさないか」といいます。一度は拒否したサヤカでしたが、「やってみなけりゃわからない」というタカコの言葉に、一緒に暮らすことにしますが、イギリスへの2年間の留学が決まります。サヤカ「君がイギリスまで追い掛けてくる、というハッピーエンドはどうだい?」タカコ「マキを連れてかい? それよりも二年後、ボクが公園で散歩していたら、見違えるほど素敵な格好をした君が歩いてくるというのはどうだい?」二人は、「おわったんじゃない、今本当に始まった所なんだ」と云って微笑みを交します。そこへフェステ。「君には運命がわかるのかい?」と問う二人。フェステは「運命は勝ち取るものさ」と云って、にっこり微笑むのでした。

木野花ドラマスタジオの第一期生の公演でしたが、ぽろぽろと先行き楽しみな役者さんたちが散見されました。中でも、フェステを演じた石川裕理は、キラキラと輝く瞳がとってもきれいな、つみきみほライクな女優さんでした。あと、ヴァイオラ役の飯田ミカも次回が楽しみです。とまれ、全ての役者さんたちを始め、裏方さんも含めて、それぞれに輝いている、とても気持ちのいい公演であったとさ。(^_^)


木野花ドラマスタジオ第一期生
『十二の夜』☆☆☆
【脚色・演出】木野花
【会場】黒テント作業場
【日時】1993/10/29〜31
【観劇日】10/31 19:00 〜

時かけ



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