1993・待つ


蜷川幸雄『1993・待つ』☆☆☆

ベニサン・ピットでの公演は初めてなのですが、いろいろ自由度が高く、実験的公演には向いているなぁ、と思いました。公演自体は、個々のエピソードは、それなりに見せてくれましたが、全体として考えると、「習作」の域を越えていなかったという気がしました。お客さんに見せるべきものではないような気もしました。オムニバス毎の繋がりが稀薄、あるいは、とってつけたようで、話しが次へ移るごとに、見ている側のテンションが少しずつ減退してしまいました。

個人的には、グールドのエピソードが一番好きでした。200円返してくれる演出はなかなか良かったです。舞台中央に突然穴が開き、次から次から次から〜〜〜〜〜〜、役者さんたちが這い上がってきて、なんだかんだやって、蜷川さんも深刻そうな顔してなんだかんだやった後、演出と思しき人が、しょうがない、200円返します、という決断をして、返してくれる‥‥。舞台への入り方としては面白かったです。

PS. 舞台の天井付近から、光と砂が一体となって降ってくるイメージの演出は、息をのむ程美しいものでした。あの演出をもっと生かせば、傑出した舞台を作ることができると思います。それ故に今回の舞台は惜しかった。観劇中、何故か懐かしさを感じていたのですが、それが何か、田植えの稲が二本残った辺りに砂が降ってきたとき気が付きました。それは、腐海の下に広がる地下空洞に間断なく降り注ぐ、清めの砂でした。見上げると、その上には腐海の森が広がっているような、そんな錯覚に陥ってしまい、込み上げてくるものを禁じ得ませんでした。

時かけ



観劇印象レビュー[ TOP | 93年 ] 時かけ