カラマゾフの兄弟


フラワーズ・カンパニー『カラマゾフの兄弟』☆☆☆☆

「あぁ、久々にいい芝居を見たなぁ‥‥」と、僕はいつも呟くのです。それが実は、少しも「久々」ではなく、前回観た芝居で感激していたとしても、やっぱり、いい芝居を見たらこう呟き、しみじみとしていたいのです。「あぁ、久々にいい芝居を見たなぁ‥‥」(^_^;)(^_^;)

<感想>
いつに間に、こんなに堂々たる演出力を身につけたのだろうか。『AとBの俳優修行』を見なかったので、彼女の演出を見るのは『真夏の夜の夢』、以来だけれど、以前あった、「はじらい」は影をひそめ、一分の隙もない、正攻法の堂々たるお芝居でした。緊張感の持続で、3時間弱の上演時間も少しも気にならず、すこしでも長く、このまま、身を委ねていたいという幸福感に包まれていました。

幕開きの、シェークスピアのような長台詞から、片桐はいりの、早口の状況説明に至る導入部は乗れなかったけれど、淡々とした展開で、いつのまにか観客を、劇世界の中にいざなってしまう構成力は久々の本格派の味わいで、小劇場をみなれた目には新鮮でした。

一見、推理ドラマの体裁をとりながら、その実、訴えかけているのは、神であり宗教であり、生きる事であり、兄弟愛であり、男女の愛であり、一貫して流れるテーマは、「赦す」ということ‥‥。この見事な設定は、確かにドストエフスキーの物ではあるけど、それに正面から立ち向かった木野花の演出は見事と云う他はありません。「赦す」という重い課題を背負って、無実の獄につながれた健太郎はキリストのように、あらゆる人の罪の身代わりとなって生きているのであり、兄を置いて出発する真は、使徒のように、「赦す」ことを広く伝えて生きて行くのでしょうか‥‥。

「僕たちがどこへ行き、どんな境遇に陥ろうとも、僕たちを結び付けてくれた 少年の事を忘れない」と、つみきみほが誓う時、僕は、わけもわからぬまま、えもいわれぬ深い感動に包まれていたのです。

PS. 当日券が若干残っているようで、空席も目立ちました。
  終演後、木野花さんが、受付けの所にいたけど、とてもきらきらと
  輝いてみえました。


フラワーズ・カンパニープロデュース公演
第一回『カラマゾフの兄弟』☆☆☆☆
原作:ドストエフスキー 脚色・演出:木野花
出演:松重豊、巻上公一、つみきみほ、吹越満
金久美子、渡辺信子、利根川祐子他
会場:スペース・ゼロ
期間:1992/7/17 〜 28  観劇日:7/22

時かけ



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