「林檎」


 林檎は、私たち日本人にもとてもなじみの深い果物です。ところが、一歩林檎の林に足を踏み入れると、受ける印象はまったく違ってきます。林檎の木立の中は非日常の清浄な世界。ここが日本だということも忘れ、時間の流れも止まってしまったかのように感じられます。

 林檎にまつわる様々な童話や神話、聖書の言葉などが、私たちの心の奥深くに、知らず知らずに刻み込まれているからでしょうか。

 私にはひとつ、林檎を見るたびに思い出す光景があります。

 取材旅行で訪れた津軽で、ほっぺの真っ赤な三歳の女の子が、林檎林を走り回った末に、一個の林檎の実をもいで、
「たべるべ?」 と、差し出したあどけない笑顔。

 林檎には、童女のイメージがよく似合います。




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