「野葡萄」


 芸大の学生時代に、「午後の慈光」という題の絵を描きました。二人の女性の後方に、この野葡萄が実をつけ、秋の午後の神秘的な光が画面を満たしている‥‥そんな構図でした。

 野葡萄をはじめて見つけたのは、京都東山にあった移転間際の芸大の校舎裏。制作のための写生をしたのは府立植物園、どちらにも今はもう、野葡萄は残っていないけれど、子供を持つようになって、外を歩き回る機会が増えると、いろいろな所でこの実に出くわします。通い慣れた神社や、近くの学校の体育館裏、洛北の散歩道…。

 けっこうどこにでもあるし、こんなにカラフルな可愛い色の実をつけるのに(実は虫こぶなんだそうですが)不思議なくらい、みんな気がつかないで通り過ぎていってしまう…。

 毎年、通りすがりにこの実が色づきはじめるのを見つけるたびに、自分が第一発見者のように嬉しくて、自然に顔がほころんでしまいます。




nobudou