風の流れは問題にならないのか?
風も大きな影響を与えることは、測定者誰しも実感されているのではないでしょうか。
当然実験室ですから、ほとんど肌で風を感じることはありません。
人が近くを通り過ぎるときや、空調装置からの風を感じるのが、最も強く吹いている風ではないでしょうか。
”風の流れなどないから、考慮するに値せず”、が恐らく最も妥当な意見だと思います。
本当に、風の流れはないのでしょうか?
そして、そんなほとんどない風は測定に影響しないのでしょうか?
弊社もそうですが、”まあ、影響はないだろう”で済ませていませんか。
改めて、考えてみることにします。
<<<静かな室内で、目の前をチリが漂っていることは経験あると思います。そのチリは、軽いがゆえに、落下もせず、上がったり下がったりしています。
風がなければ、チリと言えどその重力で、自然に垂直落下するはず。ところが、目の前のチリはそのような動きを見せません。何らかの力が働いていることは明らかです。浮力、揚力、抵抗、・・・チリに働く力が考えられます。
空気も質量があるので、重力が働きます。そのため、空気の分子は他の分子との相互作用の下にふらふらと動きます。ブラウン運動です。これにより、空気の密度は空間的に揺らぎ、熱の伝播も不均一になります。つまり、実際に体験する空間は揺らぎがあります。
この働く力や揺らぎまで範囲を広げると、簡単な推測ではなくなりますので、ここでは取り上げません。>>>
肌では感じないが、わずかな風のある場合、空気はその密度を保ちながら、動いている。このわずかな風の流れを対象にします。
この場合、空気は乱れず、粘性を持たず、圧縮もされない、と条件を付けてみます。
この条件化で、ベルヌイの定理が成り立ちます。
q^2/2+p/ρ+gz=const (ベルヌイの定理)
ここで、 qは流速、pは圧力、ρは密度、gは重力加速度、zは高さ、です。
密度の変化がないとすると、風が吹いている場合、
P=P0−ρ/2*q^2
と示される圧力PがP0(風のない場合の圧力)から変わります。
通常の大気では、ρ=1.293[kg/m^3]、P0=1.01325×10^5[Pa]です。
様々な流速下での値を求めると、下表になります。流速の単位は、[m/s]です。
流速 | 0.00001 | 0.0001 | 0.001 | 0.01 | 0.1 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
差(P0−P) | 6.465×10^−11 | 6.465×10^−9 | 6.465×10^−7 | 6.465×10^−5 | 6.465×10^−3 |
非常に小さな値です。大気圧から比べると、1cm/sの風はたった、1/10^9、10億分の1、しか変化を見せません。
予想通り、”気にしなくてよい”様に思えます。
本当に、”気にしなくてよい”、だろうか。
空気の屈折率変化を求めると、Δn=2×10^−13、となる。(エドリンの式による)
計測のためにレーザ光が直進する距離が計1mの場合、距離誤差ΔLは
ΔL=2×10^−4[nm]
となる。確かに、1cm/sの風は”気にしなくてよい”。
では、どこまでの風が吹いたら、影響が出るのだろうか?
10cm/sの風で、ΔL=0.02[nm]、となる。これも、問題にはならない。
実験室で吹いている風程度では問題にならない。
(強い風の場合には、この簡単な推測の前提(空気は乱れず、粘性を持たず、圧縮もされない)を満たさないので省く。)
上記の値は安心感を与えるが、上記の推測は前提が大きな因子となっている。風が流れたら、空気の乱れがあったり、圧縮されたりしているはず(実感)。
つまり、ベルヌイの定理で示す理想的な風の流れでは本当のところがわからない。
つまり、現状のところでは、”気にしなくてよい”、から、”多少気にしなくてはならない”、程度なのではないだろうか。
その他に、人体が近くに近づいた場合に起きる風もあるので、そちらも参考にしてください。
人の存在による観測結果への影響について(PDF版)
<経験談より>
実際の経験から、風の影響を無視できないこと、を感じました。
実験室内は、温度制御をするため、空調設備があります。この空調設備、見かけ上24時間連続一定動作しています。しかし、現実には動作が周期的にON/OFFします。この周期は、機械により、環境により、温度により、変動します。温度を計測するとはっきりわかると思います。空調は設備より暖気(または冷気)を外に向けて、流すタイプが圧倒的です。このタイプでは、風を作り出し、その風の風力や風向は時間とともに変動します。
この時間的変動が影響を与えたのです。実験室を2重のカーテンで覆い、外の空調の影響を抑えたつもりでした。当然、実験系に空調の風は当たりません。そこで、”空調の風の影響はない”と断定していました。
しかし、なぜか、空調による温度変動周期と同じ周期でノイズが発生しました。最初は、温度変動だろう、と思っていました(確かに温度変動も大きかったです)が、中で作業する人のため、(酸素がなくては作業できませんから)、2重カーテンの裾は床に密着せず、10cm程開いていました。
原因がわからないまま、やけくそで、この隙間をシールで塞いだところ、ノイズが消えました。原因はいまだにわかりません。ただ言えるのは、”風の流れを甘く見ていた”、ということだけです。
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