ダイオキシン
猛毒化学物質ダイオキシン類による環境汚染への不安が高まっている。発がん性や催奇形性に加え、最近では、人間の生殖機能や免疫機能をむしばむ「環境ホルモン」の1つにも挙げられ、排出源のゴミ焼却施設などを巡って各地で論争が活発化している。ピコ(1兆分の1)という極小単位で計測されるダイオキシン類の恐ろしさを探る。
ダイオキシンは、有機塩素系化学物質の一種。正式名はポリ塩化ジベンゾダイオキシン(PCDD)といい、塩素原子の数や位置によって75種類の同族体がある。よく似た化学構造のポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)135種類を加え、計210種類をダイオキシン類と呼ぶ。
PCDDで7種類、PCDFで10種類が特に猛毒とされ、もっとも強い「2,3,7,8−ダイオキシン」に換算して毒性を評価する。
その毒の一番の特徴は、極微量でもすさまじい威力があることだ。
急性毒性は農薬の百万倍も強く、青酸カリの千倍、サリンの2倍とも言われる。たった12キロ・グラムで日本国民が全滅するという試算もある。
厚生省が体内に摂取しても安全とする量(耐容一日摂取量)は体重1キロ当たり10ピコ・グラム、一兆分の十グラム。そんな微量でも健康を左右する可能性が大きいわけだが、実はこの基準でさえ、米国より千倍も甘い。
しかもダイオキシン類は自然に分解せず、水に溶けない。体内に入るとなかなか排せつされず、脂肪組織や肝臓に蓄積していく。
発生源
一般のゴミ焼却施設が8割、産業廃棄物処理施設が1割と推定されている。普通のたき火でも発生するケースがあるが、最も問題なのは塩化ビニールなどのプラスチック類。容器や包装を中心に日常生活にあふれているうえ、分別収集していない地域が多く、焼却時の技術的対策も十分でないためという。
厚生省がゴミ焼却施設の排出規制を実施したのは昨年12月。それに先立ち、自治体のゴミ焼却施設1641ヶ所を対象に排煙中のダイオキシン類濃度を調査したところ、1立方メートル当り80ナノ・グラム(ナノは十億分の一)を超え、操業停止などの緊急対策をとるべき施設が全国で107ヶ所もあった。
汚染大国
発生源に対する規制が遅れた日本では大気中のダイオキシン類の濃度が欧米諸国より一ケタ高い。昨年度の測定で全国最悪だった大阪府堺市では、冬の測定時に1立方メートル中2.84ピコ・グラムを記録した。
大気中に飛散したダイオキシン類は土や農作物を汚染する。川や海にも流れ込んで生物に蓄積され、食物連鎖で次第に濃縮される。体内に入るダイオキシン類の大半は食物からというのが定説だ。
宮田秀明・摂南大教授は「特に汚染度が高いのは沿岸の魚介類。日本人の場合、食物経由の6割を魚介類が占めるとみられ、注意が必要だ」と指摘する。
母乳の汚染も問題になっている。公表された調査データでは、母乳中の濃度が世界一高いのは大阪で、脂肪分1グラム当たり51ピコ・グラム。この濃度だと乳児が摂取する量は耐容一日摂取量の5倍から13倍になるといい、「食品なら廃棄処分ものだ」と宮田教授は話す。
環境ホルモン