篠田節子作品
これまでに読破した、篠田作品の感想文です。
読んでからだいぶ時間が経ったものもあり、今この感想文を読み返してみて
もう一度読みたくなる小説もありますね。
何度も読み返したくなる小説ってやっぱり凄いと思います。

愛逢い月夏の災厄贋作師神鳥-イビス-聖域美神解体

ブルーハネムーンアクアリウムカノン子羊誕生

愛逢い月  短編集     集英社文庫

最初に読んだ篠田作品です。はっきり言って内容はあまり記憶に残っていません
それまでの私の中の「篠田節子」像というのが、SFというイメージではなかったので
ちょっとびっくりしました。
「こういう系統の作品を書く人なんだあ」というのが率直な感想でした。
(まるで本の感想になっていないなあ(-o-;))

夏の災厄  パニック小説  文春文庫 

これはすごいです!この小説で「篠田マジック」にはまりました           
東京郊外のニュータウンに発生した伝染病をめぐるパニック小説ですが現実の社会でも
実際起きているのではないか?
という恐怖が最後に残る小説で。かなりボリューム感のある作品ですが、
あっという間に読み進んでしまいました。   
読者をぐいぐい引っ張っていく力はさすがです。私の中ではいちおしの作品で。
解説を瀬名秀明が書いているのも興味深いです。

贋作師   謎解き小説?   講談社文庫              

自殺した洋画界の大御所の遺作を修復する仕事を引き受けた主人公その作業を続けるうち、
かつて自分の恋人だった大御所の弟子の死に疑問を抱き始める美術界の裏に隠された真実を探るうち
自分自身にも命の危険が・・・          
真の芸術とは、人間の欲とは、ひとつの絵の修復を通して考えさせる作品である。

神鳥-イビス-   いわゆるSF小説   集英社文庫            

「贋作師」同様これも「朱鷺飛来図」という絵をめぐっての小説だ。
ただ「贋作師」とのおおきな違いは、その謎を解明するうちに主人公が異次元の空間に迷い込み、
現実にはありえない朱鷺の復讐を体験する点だ           
まさにSF的発想で物語は進んで行くが、読みながらもヒッチコックの「鳥」を
連想するくらいの恐怖感がある。     
夏におすすめの一編かも・・・    

聖域    謎解き小説か?   講談社文庫       

これも大好きな作品です。出版社につとめる主人公は、自分が編集長をつとめた雑誌 廃刊の
責任をとって閑職にあまんじていました。その時偶然にも見つけた「聖域」という小説に
心をうばわれます。
これは未完のまま前任者が残していった原稿でしたが、そこまで読んで編集者としての魂に火がつき
なんとしても完成させ本として出版したいと、作家を捜し始めます。
しかし、それに関わっていた人や作家と関わった人々は皆精神に異常をきたし、
だれもが途中でその作品を投げ出してしまうのです。「その小説の結末はもう出ているのだ」と。                 
けれど主人公の編集者にはそれでもなお、この小説を世に出したいとの気持ちが燃え続けます。
そしてついに作家は最後まで書くことを承知するのでしたが・・・       
これもただの謎を追って行く小説ではなく、その間に作家の生い立ちや過去あるいは
宗教等様々な展開とともに読む人をあきさせません。仏教に対する概念も興味深いものがあります    

美神解体  角川ホラー文庫     

篠田作品としては、淡々としたイメージがあります。主人公の女性の生き方がそうだからかな?
でも醜いばかりに他人に受け入れられず悩む主人公が、整形をしてすばらしい美貌を手に入れても尚、
孤独から抜けられずにいるというのは、身につまされるというか、人間の愚かな部分と悲しい部分を
うまくついていると思います。
後半部分で自分が殺されるかもしれないと思いながらも殺人者のもとへ帰ってしまう主人公、
たとえ外見がどうなっても「誰かに自分を認めてもらいたい」と願わずにはいられない孤独な人間の
心理は変わらないものなのです。う〜ん切ない

ブルーハネムーン    光文社文庫         

これはどの分野に分けられるのだろう?篠田作品としてはごくノーマルな作品です
「ふつう」って感じがしました。
割と軽く読めますね。反対に言えば「ふつう」すぎて手応えがないって感じ。
ただ一連の篠田作品を読みながらちょっと違う空気のものが読みたいというときにおすすめです。
いってみれば「結婚詐欺師同士のだましあい」です。
最後に勝つのはどっちか? 途中からねたばれみたいな展開もありますが、たまにはこんなのも
いいかもねというのが素直な感想です。     

アクアリウム  まさにSF? 新潮文庫       

親友の恋人にたのまれて、ダイビング中に死んだ親友の遺体を引き揚げに行く主人公。
しかし彼がそこで見たものは不思議な死に方をしている親友の遺体と謎の生き物だった。
その生き物に魅せられた主人公は、そこでしか生きられないその生物を守るために、
土地開発をたくらむ団体と戦う決心をしたのだが・・・                      
ここに登場する謎の生物はまるで人間の心を見透かすかのように、主人公の心をつかんでしまいます。
たとえば恋人のように。人間と動物の愛情物語はよくある話ですが、その生物を守るために
ダイナマイトまで使って戦うなんて、
普通でない展開に、ただただ驚くばかりです。でもそれを一気に読ませてしまうのは
主人公とその生物との間に流れるゆっくりとした愛情の交換が丁寧に描かれ、主人公と同じ気持ちに
させられてしまうからなのでしょうか?
これも「篠田マジック」か   

カノン                                         

同業の夫と喘息もちの息子を抱えながらも高校の音楽教師としてごく平凡に生きてきた主人公。
しかし学生時代の恋人の自殺をきっかけにそれまで意識の下に隠し過去のものとして
封印してしまった自分自身と否応にも向き合わなければならなくなる。
そこには過去の自分と今の自分が対立して存在していた。                                
人は自分自身を振り返った時始めて、本当の自分に出会えるのかもしれない
しかし、その時にやり直せる自分がいるのか、
それともそのまま先に進むしか無いのか。結構自分の生き方についても考えされられる作品でした。    
           

子羊   短編収録アンソロジー   集英社文庫                     

名前もなく、家族もなく、ただ「その時」をまっているだけの毎日
しかし、ある疑問を持ったときから自分が誰で何のために生きているのかを知る少女
その時彼女に選択できるのは、生きる道なのか自分に与えられた使命に従う事なのか。    
この作品を読んで何ヶ月後かにTVで、「遺伝子」や「クローン」といったものを扱う番組が、
未来の医学として特集しているのを見ました。
時折しも、国内での臓器移植が始まったばかりの現代、改めて事実が小説を越え始めて
いるのかもしれないと思いました。   

誕生  短編収録アンソロジー  角川ホラー文庫                     

どこからともなく突然やってきた女の子。
それまで夫とはすれ違いながらも生き甲斐のもてる仕事と家庭を両立していると
信じていた主人公は遠い記憶から自分の犯した罪にさいなまれ、全てを失うことに・・・             
同じく働く女性の立場から言わせてもらえば、この結末はちょっと辛すぎますでも同時に、
本当は女性の幸せってこういうことなのかもと思っている自分を再確認してしまいました。                               
短編の中にも考えさせられる内容の濃い作品です。
本当は私もこんなふうに女の子に来て欲しいのかもしれないなあ