(3) 企業的経営を可能にした最新技術

 オランダでは、安価なスペイン・アフリカ諸国の農産物に対抗していくため、年々経営規模が大きくなってきている。これら大規模な農場においても、コスト削減・労働管理・作業の合理化等への取り組みが不可欠となっている。

@ トータルエネルギーシステム

 オランダでは、施設園芸でのエネルギー消費量についても1985年を基準に2000年までに50%削減する目標があり、また、生産者としても、生産者コストの低減のためにもエネルギー削減に取り組んでいる。

施設栽培で利用される主なエネルギーとして、補光・動力等で使われる電力と暖房・COのために用いられる天然ガスがある。天然ガスについては、自国で採掘されて安価に供給されており(規模にもよるが27セント(16円)/m程度:日本の約1/10)、この安価なエネルギー源を利用して電気と暖房(CO)の両方を供給するシステムが考えられた。このシステム(トータルエネルギーシステム)では、天然ガスを燃料に発電機を動かし、その際の熱を利用して温湯を作り、発生するCOは施設内に導入する。また、つくられた温湯は、保温タンクに貯蔵して必要に応じて暖房に利用される。暖房が優先され発電量が多くなった場合は、電力会社に余剰電力が販売される など、無駄のないエネルギー利用システムである。

 施設の導入費は、1.4haのバラ農家の場合で約50万ギルダー(約3,000万円)で、電力コストでは電力会社の電気を利用するより3セント/kwhの節減となる。

 バラ、キク、ユリ等でナトリウムランプにより補光をおこなっている農場やトマト等でも規模の大きな農場で導入されており、光熱費の節減のための有効な設備となっている。また、さらにエネルギーの利用効率を上げるため、温湯の流量制御をバルブの開閉だけでなく、周波数コントローラー(インバーター制御)等によりきめ細やかな管理をする省エネルギー技術も開発・導入されている。

A レジスターシステム

経営面積の規模が大きくなればなるほど労働者も増え、ほ場の状態(作物の状態や病害虫の発生等)や労働者の管理に目が届きにくくなる。これを解決するため、レジスターシステム(レジスターを利用した労務・栽培等管理システム)が導入されてきている。

 このシステムでは、畝やスパン毎にほ場を細かく区切り、労働者は作業時に作業エリア、作業名、作業者、作業時間、収量、特記事項(病害、害虫、その他)等を入力する。経営者はそれぞれのエリア毎に集計して収量、作業時間、生育状況等を把握し、今後の栽培管理や作業計画、労働管理、コスト計算等を行うものである。これにより、つかみにくかったほ場全体の状態や労働者の働き等が数字的に把握され、管理や作業の適正化を図ることができ、収量では10%、作業効率では10〜30%が向上する。また、生産者によっては労働者毎に収量・品質の実績を賃金に反映させている例も見られた。

主に導入されているシステムは、ネットワークシステム(コンピュータ端末を各エリアに設置し、作業毎に入力する)、バーコードシステム(労働者が端末機を持ち入力し、作業後に全データをコンピュータに入力する)、テレホンシステム(電話機のような簡単な端末に数字で情報を入力する)等があり導入価格はネットワークシステムで35,000ギルダー(210万円)〜である。

 このようなシステムは1.5ha以上の経営規模で効果があり、トマト、パプリカ農家で50%以上、バラ農家で30%程度導入されている。経営効率の向上のためには、レジスターシステムを導入してコスト低減を図らなければ、生き残れないであろうと考えられており、急速な導入が予想される。

さらに、現時点のコストや気候による収量・品質予測等ができるようなシステムを開発中とのことであった。

B 栽培管理のオートメーション化

 規模が大きくなるに従い、効率よく作業を行うことが大きな意味を持つようになってくる。それぞれの農家(企業)は、様々な作業に機械・施設を利用したり、分業したりして効率化を図っている。

特に、鉢花や球根切り花のように容器に作付けたのち温室で栽培し、出荷する作物では、土入れや容器の配置などに機械を導入して労働力を減らすとともに、作業は流れ作業化し効率を上げ、効率的な労働管理を行っている先進的農家が見られた。

ア ヘデラ農場(ルンドゥ農場)

 2.9haの温室で8.5cmポット(5本挿し)で8週間、13cmポット(10本挿し)で13週間で出荷し、年間500万鉢出荷している。連日計画的な出荷と作付けが行われており、作業機械導入によるオートメーション化を図っている。

 ポットへの土入れ、移動式ベンチへの配置、灌水等は機械により自動的に行われる。挿し木は人手で行うが、挿し木の終わったベンチは順次電動車で温室内に配置している。鉢間広げや出荷時には、再び電動車でベンチを作業場に運びいれて行い、集約的に作業をしている。すべての作業を作業場で行うため温室内に通路の必要がなく、電動車の軌道以外100%に近い利用率となっている。

 30名程度の雇用労働者はそれほど広くない作業場で、運ばれてくるベンチの上の鉢間広げ、出荷調整作業等を黙々とこなしており、挿し木等たくさんの労働力が必要な際は学生アルバイトを導入している。

このシステムのメリットは、労働管理の利便性と温室内の高利用率であるとのことであり、経営者は、作業効率のほか、労働管理に大きな関心を払っているようであった。

イ ユリ・チューリップ農場(アルディア社)

 アルディア社では、0.64haの温室で半年ユリ、半年チューリップを栽培している。この時期はユリの栽培を行っており、70万本を生産している(チューリップは1,200万本)。

移動式ベンチを利用したコンテナ栽培を行っており、球根の植え付け以外(土入れ、覆土、灌水等)はすべて機械化されている。植え付けられたコンテナはクーリング処理(チューリップ)等を行ったのち、ベンチの上に自動で配置され、コンベヤで温室内に移動される。(45万球のチューリップを25名で6時間で植え付けることが可能)。温室では作業を行わないため通路はなくベンチ移動用のレールが敷かれているのみである。ベンチは生育に応じて育成用の高温温室から開花用の低温温室へと移動させ、開花・出荷となる。

 出荷調整はベンチを作業場に移動させ、ユリでは4人で1万本/日、チューリップでは18名で10万本/日もの収穫を行う。収穫後の残渣も自動的に屋外へ排出され、堆肥等再利用されている。

 これらのオートメーション化で25%の人件費が節減でき、システムの導入費130万ギルダー(8,000万円)に対し、導入効果は上がっているとのことであった。

 

 オランダでの施設園芸は、温度、湿度、光線等の管理がマニュアル化・コンピューター制御化されており、高収量・高品質を維持しながら、大規模化・低コスト化を追求しているようである。経営者は大規模化していく農場の様々なコストを数字的に把握した上で、そのコスト削減のためにどうするかを判断するなど、生産ばかりでなく企業経営者としての考えで経営に当たっている。まさに、オランダの農業は工業製品の製造と同様の考えでコスト削減を推し進めている。

日本においても、作業の機械化等については導入され始めているが、規模が小さいためにこれらのシステムをそのまま導入できる例は少ないと思われる。ここで学ぶことは、単にハードの導入を行うのではなく、個々の生産者が経営者としてコスト意識をしっかり持ち、削減可能な部分を検討し、経営全体としての生産性の向上を図っていくことであると思われる。

 

(4) オランダの野菜産業

@ 温室野菜生産の概要

 温室野菜の栽培面積は4,247haで、近年はほぼ横這いで推移している。栽培農家は4,411戸と減少し、その分平均経営面積が96aと拡大傾向にある。総生産額は24億ギルダー(1,440億円)を誇っている。

トマトの生産量は59万tで、そのほとんどが生食用である。しかしながら、スペインがEUに加盟したことでEU諸国への輸出について市場障壁がなくなり、安いトマトを大量に輸出するようになったことや4週間程度日持ちするロングライフトマトが開発され品質が良くなったことによって、オランダのトマト栽培面積は大幅に減少している。また、生食用トマトは味が良く、小さなトマトが要望されることから、従来栽培の多かった丸玉トマトに代わってより商品性の高い房どりトマト(栽培面積の70%)やミニトマト(〃15%)への作付け転換が進んでいる。また、お弁当等の食材として「トム&ジェリー」の商標でミニトマトの3個パックを販売するなどオランダ産トマトの消費拡大の取り組みもなされている。

パプリカは少しずつであるが面積は増加しており、数年後にはトマトの面積を上まわるものと予想されている。

A 温室野菜の栽培管理の特徴

(ア) 温室

ダッチライト型ガラス温室がほとんどで、軒高は従来の2.8mから近年4mと高くなり、1枚のガラス幅も73cmから 112cmと温室内の温度や光条件がより安定するように改良されている。1u当たりの建設費は200〜250ギルダー(12,000〜15,000円)と日本での1/3以下で建設できる。

(イ) ロックウール栽培システム及び養液管理

果菜類のほとんどはロックウールを培地として養液栽培されている。

定植作業は、白黒ダブルフィルムのバックに入った長さ135cm×幅20cm×高さ10cm程度のスラブを条間隔に並べ、10数cm角の立方体キューブで育苗された苗をスラブの上に株間隔に定置し、株元のキュ−ブに給液用のマイクロチューブを差し込んで終了する。

ロックウールは7〜8年連続使用するが、一般的には毎年1回蒸気による消毒を行う。

養液管理の基準は栽培作物毎に表のような基準値が設定されているが、実際の栽培では培地溶液は概ねpH5.5〜6.5、EC2.2〜3.5の範囲で管理されている。

pHが変化すると酸や水酸基を入れ、ECが高いと水を加える等のコントロールはコンピューターで自動制御している。細かい養分バランスについては給液、ロックウール培地中の養液及び排液を2週間に1度採取し、Blggのような民間会社に調査個体1点につき60ギルダー(3,600円)で分析を依頼している。分析会社から19項目の各成分の含有量等の分析結果と改善策のアドバイスをもらって、7種類の各成分原液の供給をマニュアル調整している。また、養液量は秋期で7万リットル/日/ha(ナスの場合)が必要である。

(ウ) 温室の環境管理

暖房はボイラーで天然ガスを燃焼させ温湯を作り、鉄パイプで各畦間に供給して温湯暖房している。各畦間に60cmの幅で平行に配管される鉄パイプは作業台車のレールとしても利用される。

 CO施用は果菜類の栽培では基本技術となっている。多くは天然ガスを燃焼した時に発生するCOを煙突部分で冷却して温室内に取り込み、直径5cm程度のビニールのダクトを各畦間に配管し施用している。ダクトの位置は、地表面に配管している農場が多いが、より光合成活動の活発な葉位である概ね1.5mの高さに吊り下げて配管している農場も見られた。外界のCO濃度である350ppmを下回ると生産量が急速に低下することから、温室内は一般的には350〜500ppmに保たれている。施用しない場合、現在の収量レベルより30〜40%減収するようである。また、施用量は1,500kg/ha/週(天然ガス1.8kg/m換算)である。

 概ね0.5ha毎に1センサーを配し、温度、CO濃度、湿度等を測定し、暖房機の稼働状況、天窓の開閉等をコンピューターで自動コントロールしている。

(エ) 温室土耕栽培

土耕栽培される野菜は葉菜類がほとんどで、ラディシュ、サラダナ、パクチョイ、エンダイブが中心である。

土壌消毒は蒸気消毒で年1回実施されるが、土壌消毒を専門とする会社に委託するのが一般的である。委託料は3ギルダー(180円)/uで、消毒時間は24〜30時間である。ボイラーを積んだトラックから鉄パイプとゴム管で蒸気をハウス内に引き込み、1スパンを厚手のシートで覆い、シートのまわりを床土や大きな鎖などでできるだけ蒸気が漏れないように押さえて消毒する。

有機物は乾燥鶏糞や椰子ガラを施用し、施肥は年間20回程度行っている土壌分析の結果に基づいて化成肥料を施用している。

灌水については土壌中(10、20〜25、60cm深)の水分量をコンピューター管理し、灌水管理を自動化している農場も見られた。

 


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