巽やよいとこ
(三下り)
巽やよいとこ
素足があるく
羽織やお江戸のほこりもの
(本調子)
八幡鐘が鳴るわいな
伊東深水 作
二世常磐津三蔵 曲
(注)「巽」は「辰巳」とも書くようである。
「辰巳」とは深川仲町の遊里を指したもので、
深川が江戸城の辰巳(東南)の方角に当たったからで、
深川の富岡八幡宮は江戸時代には深川全町、
日本橋を氏子として一般の信仰が厚かった。
明暦三年新吉原が出来てから間もなく、
深川八幡の門前に遊女町ができ、
吉原の仲の町に対し門前仲町と呼ばれた。
新吉原は女郎が主で芸者が従であるのに対し、
深川が芸者が主で女郎が従、
主として町人の遊び場所で「岡場所」と呼ばれ、
深川八幡宮の明け六つの鐘は「八幡鐘」とよばれた。
仲町の芸者は「辰巳芸者」と呼ばれ、
吉原の芸者が羽織を許されず、
白足袋をはく定めになっている逆をいって、
裾をひいた着物に羽織をひっかけ、
素足の清らかさを自慢していた。
また、辰巳芸者は名前が男の様なのが特色で、
「梅暦辰巳園」の芝居では仇吉、米八となっているように、
言葉づかいも鉄火肌で「おめえ」「貰いてえ」とか男の様な言葉であった。
(「芝居小唄」)。
木村菊太郎著「昭和の小唄その一」より