■■■ 柴野拓美さんを偲ぶ/附・作品リスト(オロモルフ)■■■


 このところ、SF界に大きな功績を残されハード研にも協力して下さった方が何人も鬼籍に入られました。
 そのお一人である柴野拓美さんが亡くなられたのは、今年(平成二十二年)の一月十六日、直接の原因は肺炎で、享年八十三だったそうです。
 衷心よりご冥福をお祈りいたします。

 戦後の日本SF勃興期におきまして、商業誌を創刊して牽引したのが福島正実さんなら、同人誌をつくって多くのSF作家を世に送り出したのは柴野拓美さんでした。
 このお二人は、いわば、戦後日本SFを乗せた車の両輪だったと言えるでしょう。
 柴野拓美さんの活躍は、日本で初めて成功したSF同人誌である『宇宙塵』の創刊運営にはじまり、翻訳や創作やSFファンダムの活性化など、じつに多方面におよび、皆に敬愛されました。
 私も、柴野さんの肝いりで設立されたSFファンダム賞などいくつかいただいたほか、いろいろな面でお世話になりました。

 記録を調べますと、柴野さんが『宇宙塵』を創刊なさったのは、昭和三十二年で、五月号が最初でした。
 当時、新宿の紀伊國屋書店の同人誌コーナーに置かれているのを見たことはあるのですが、就職したばかりで猛烈に忙しく、残念ながら購読を申し込むゆとりはありませんでした。
 それからしばらくして結婚して学位論文などのめどがついて精神的にもゆとりが出来てからSF的な何かを書きたいという欲求が強くなり、福島さんの『SFマガジン』の購読をはじめたのですが、そこから『宇宙塵』が同人募集をしていることを知り、すぐに申し込みました。
 入会は昭和三十九年一月でした。
 それからすぐにお便り魔になりまた初心者的なSFを送って掲載していただいて喜んだりしているうちに、『ハイウエイ惑星』が福島正実さんの目にとまり、商業誌にもデビューする事が出来ました。
 この『ハイウエイ惑星』の初稿は、とても短いもので、単なるアイディアを並べただけの掌編でしたが、柴野さんはアイディアを褒めて下さると同時に、もっと長く理屈をこねて小説として構築するように――と指導して下さり、私も「なるほど」と思ってその通りに中編に仕上げたものでした。
 多くのSF作家と同じく、私も柴野拓美さんの指導を受けてSF界にデビューできたのです。
 柴野邸でなされる『宇宙塵』の例会にも、時々お邪魔いたしました。

 次にお世話になったのは、『SF図書目録(現在のSFデータベースの元)』の編纂でした。
 これは野田昌宏さんのお勧めで始めたのですが、自宅にはまだSF本は部分的にしかなく、そもそもどういうSFが世の中にあるのか――も知りませんでした。
 そこで、柴野さんのお宅(旧宅)にお邪魔して、書庫全体を写真に撮らせていただき、その部分部分を拡大して調べて、別の日にアルバイトを引き連れてまたお邪魔して、カードに資料を写しました。
 昭和四十三年五月〜六月のことです。
 ふつうコレクターという人たちは、あまり自分のコレクションは見せないものらしいのですが、柴野さんはじつに快く見せてくださいました。
 その後国会図書館を利用したり、古書で買えるものは最大限購入したりしましたが、私のSFデータベースの大元は柴野邸のSF書庫だったわけです。
 このSF図書目録は幸い好評で、国会図書館の内部雑誌にまで取り上げられ、後には2000年までを纏めてCD−ROM化もいたしました。
 いま拙宅のSF書庫を、まじめなSFファンには開放して利用していただいておりますのは、このように自分自身が昔柴野さんの書庫を利用させていただいたという感謝の気持ちがあるからです。

 それからもう一つ、柴野拓美さんの思い出に、SFファン科学勉強会(通称SFフ科会)があります。
 これは大宮信光さんの『宇宙塵』のエッセイに対する小松左京さんのコメントに端を発して出来た勉強会でして、大宮さんを事務局として昭和四十三年の一月から石原の自宅で毎月開催されました。
 合計して100回はなされたと思います。
 柴野さんは年齢的にもSF界での経歴においても、私より上であり、私を呼びつけてもよいようなお立場だったのですが、いつもにこやかにお出でになり、座を取り持ってくださいましたし、また宇宙塵の会員のなかで科学に興味を持つような方を次々に紹介して下さいました。
 そういうわけで、本格デビューの前に田中光二さんや山田正紀さんがSFファンと歓談なさったのは、たぶん拙宅のSFファン科学勉強会の席が最初だったろうと思います。

 柴野さんはお若いころから持病がおありで、拙宅の会合でもよくお薬を吸引しておられました。
 一病息災です、などと笑っておられましたが、そういう事があって、後半生は、その方面の大きな病院のある近くに転居なさいました。
 そういう病身を抱えながら、日本SF界のために粉骨砕身、よくもここまで頑張られたものと、驚嘆いたします。
 また、その病気がちの柴野さんを陰で支えておられた奥様のご苦労にも、深く感謝いたします。

 柴野拓美さんの思い出は尽きませんが、そのSF界への貢献の大きさは、永遠に語り継がれるべきだろうと思います。
 合掌・・・。

(昭和四十三年当時の柴野邸の書庫の写真の一部と、初期出版物の書影(『アイスワールド』と『超人間X』)と、柴野さんの文筆家としての業績のリストを記して、故人を偲ぶよすがといたします。なお柴野さんの文筆家としてのペンネームは小隅黎で、これは cosmic ray=宇宙線 からきています)

*本稿はSF同人誌に掲載した追悼文です。写真はここでは略します。


<<小隅黎名義創作>>
超人間プラスX(NW)/小隅黎/金の星社/A5/1969年02月
月ジェット作戦(NW)/小隅黎/金の星社/A5/1969年08月
北極シティーの反乱(NW)/小隅黎/インタナル出版/B6/1977年05月
月ジェット作戦(NW)/小隅黎/金の星社/A5/1977年12月
超人間プラスX(NW)/小隅黎/金の星社/A5/1980年03月
北極シティーの反乱(NW)/小隅黎/徳間書店/A6(文庫判)/1981年07月

<<小隅黎名義翻訳>>
天の向こう側(SW)/アーサー・C・クラーク/早川書房/B40(新書判)/1969年07月
アイスワールド(NW)/ハル・クレメント/早川書房/B40(新書判)/1971年09月
大宇宙の墓場(NW)/アンドレ・ノートン/早川書房/A6(文庫判)/1972年04月
われはロボット(SW)/アシモフ/ポプラ社/B6/1972年05月
恐怖の疫病宇宙船(NW)/アンドレ・ノートン/早川書房/A6(文庫判)/1973年06月
超惑星への使命(NW)/ハル・クレメント/早川書房/B40(新書判)/1974年03月
異次元の陥穽(NW)/グレゴリイ・カーン/早川書房/A6(文庫判)/1975年04月
サーガンの奴隷船(NW)/グレゴリイ・カーン/早川書房/A6(文庫判)/1975年09月
メテラーゼの邪神(NW)/グレゴリイ・カーン/早川書房/A6(文庫判)/1976年06月
渦動破壊者(NW)/E・E・スミス/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1977年08月
インフェルノ,SF地獄篇(NW)/L・ニーヴン&J・パーネル/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1978年05月
リングワールド(NW)/ラリイ・ニーヴン/早川書房/B6/1978年06月
惑星メラーの魔薬(NW)/グレゴリイ・カーン/早川書房/A6(文庫判)/1978年08月
無常の月(SW)/ラリイ・ニーヴン/早川書房/A6(文庫判)/1979年01月
ジャーレンの秘宝(NW)/グレゴリイ・カーン/早川書房/A6(文庫判)/1979年04月
ムーンスター・オデッセイ(NW)/デイヴィッド・ジェロルド/サンリオ/A6(文庫判)/1979年05月
太陽系辺境空域(SW)/ラリイ・ニーヴン/早川書房/A6(文庫判)/1979年06月
地球からの贈り物(NW)/ラリイ・ニーヴン/早川書房/A6(文庫判)/1979年09月
楽園の崩壊(NW)/ジョーン・D・ヴィンジ/サンリオ/A6(文庫判)/1979年10月
一千億の針(NW)/ハル・クレメント/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1979年11月
中性子星(SW)/ラリイ・ニーヴン/早川書房/A6(文庫判)/1980年07月
十億年の宴(E)/ブライアン・オールディス/東京創元社/東京創元新社/B6/1980年10月
アーヴァタール〔上〕(NW)/ポール・アンダースン/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1981年02月
アーヴァタール〔下〕(NW)/ポール・アンダースン/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1981年02月
リングワールドふたたび(NW)/ラリイ・ニーヴン/早川書房/B6/1981年07月
窒素固定世界(NW)/ハル・クレメント/東京創元社/東京創元新社/B6/1981年11月
プダヴの世界(NW)/ラリイ・ニーヴン/早川書房/A6(文庫判)/1983年02月
アシモフ博士の世界(SW)/アイザック・アシモフ/早川書房/B6/1983年02月
未来からのホットライン(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1983年04月
H・A・R・L・I・E(NW)/デイヴィッド・ジェロルド/サンリオ/A6(文庫判)/1983年05月
天国への門(NW)/ポール・プロイス/早川書房/A6(文庫判)/1983年10月
科学INSF(E)/ピーター・ニコルズ〔編〕/東京書籍/A4/1984年04月
SFの書き方(E)/アメリカSF作家協会/講談社/B40(新書判)/1984年08月
地獄への門(NW)/ポール・プロイス/早川書房/A6(文庫判)/1984年09月
窒素固定世界(NW)/ハル・クレメント/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1984年09月
断絶への航海(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/早川書房/A6(文庫判)/1984年11月
リングワールド(NW)/ラリイ・ニーヴン/早川書房/A6(文庫判)/1985年06月
シティ5からの脱出(SW)/バリントン・J・ベイリー/早川書房/A6(文庫判)/1985年09月
造物主の掟(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1985年09月
ゼロ・ストーン〔1〕(NW)/アンドレ・ノートン/早川書房/A6(文庫判)/1986年01月
スター・ゲイト(NW)/アンドレ・ノートン/早川書房/A6(文庫判)/1986年05月
破局のシンメトリー(NW)/ポール・プロイス/早川書房/A6(文庫判)/1986年05月
ナイトワールド(NW)/デイヴィッド・ビショフ/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1986年09月
インテグラル・ツリー(NW)/ラリイ・ニーヴン/早川書房/A6(文庫判)/1986年11月
ゼロ・ストーン〔2〕未踏星域をこえて(NW)/アンドレ・ノートン/早川書房/A6(文庫判)/1987年01月
プロテウス・オペレーション〔上〕(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/早川書房/A6(文庫判)/1987年10月
プロテウス・オペレーション〔下〕(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/早川書房/A6(文庫判)/1987年10月
リングワールドふたたび(NW)/ラリイ・ニーヴン/早川書房/A6(文庫判)/1988年04月
サターン・デッドヒート〔1〕(NW)/グラント・キャリン/早川書房/A6(文庫判)/1988年05月
スモーク・リング(NW)/ラリイ・ニーヴン/早川書房/A6(文庫判)/1988年09月
ドラゴン・レンズマン(NW)/デイヴィッド・カイル/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1989年04月
終局のエニグマ〔上〕(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1989年05月
終局のエニグマ〔下〕(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1989年05月
サターン・デッドヒート〔2〕ヘキシーの星のライオン〔上〕(NW)/グラント・キャリン/早川書房/A6(文庫判)/1990年03月
サターン・デッドヒート〔2〕ヘキシーの星のライオン〔下〕(NW)/グラント・キャリン/早川書房/A6(文庫判)/1990年03月
アンタレスの夜明け(NW)/マイクル・マッコーラム/早川書房/A6(文庫判)/1990年08月
アンタレス突破(NW)/マイクル・マッコーラム/早川書房/A6(文庫判)/1990年10月
ミラー・メイズ〔上〕(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/東京創元社/東京創元新社/46(四六判)/1991年10月
ミラー・メイズ〔下〕(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/東京創元社/東京創元新社/46(四六判)/1991年10月
レッドシフト・ランデヴー(NW)/ジョン・E・スティス/早川書房/A6(文庫判)/1991年11月
リゲルのレンズマン(NW)/デイヴィット・カイル/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1992年09月
スターバースト(NW)/ジェフリー・A・カーヴァー/早川書房/A6(文庫判)/1993年07月
スターストリーム(NW)/ジェフリー・A・カーヴァー/早川書房/A6(文庫判)/1993年08月
マンハッタン強奪〔上〕(NW)/ジョン・E・スティス/早川書房/A6(文庫判)/1994年04月
マンハッタン強奪〔下〕(NW)/ジョン・E・スティス/早川書房/A6(文庫判)/1994年04月
マルチプレックス・マン〔上〕(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1995年02月
マルチプレックス・マン〔下〕(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1995年02月
神の鉄槌(NW)/アーサー・C・クラーク/早川書房/46(四六判)/1995年12月
時間泥棒(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1995年12月
ミラー・メイズ〔上〕(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1996年06月
ミラー・メイズ〔下〕(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1996年06月
重力の影(NW)/ジョン・クレイマー/早川書房/A6(文庫判)/1996年08月
リングワールドの玉座(NW)/ラリイ・ニーヴン/早川書房/46(四六判)/1998年04月
神の鉄槌(NW)/アーサー・C・クラーク/早川書房/A6(文庫判)/1998年06月
造物主の選択(NW)/ジェイムズ・P・ホーガン/東京創元社/東京創元新社/A6(文庫判)/1999年01月


<<柴野拓美名義編集等>>
日本SF・原点への招待〔1〕(DW)/石川喬司&柴野拓美〔編〕/講談社/B6/1977年05月
日本SF・原点への招待〔2〕(DW)/石川喬司&柴野拓美〔編〕/講談社/B6/1977年05月
日本SF・原点への招待〔3〕(DW)/石川喬司&柴野拓美〔編〕/講談社/B6/1977年05月
破局のおすすめ(DW)/柴野拓美〔編〕/河出書房/河出書房新社/A6(文庫判)/1987年12月
無限のささやき(DW)/柴野拓美〔編〕/河出書房/河出書房新社/A6(文庫判)/1987年12月
SF次元へのパスポート(E)/SFメディア研究会〔編〕/柴野拓美〔監〕/住宅新報社/B40(新書判)/1978年10月
宇宙塵傑作選〔1〕(DW)/柴野拓美〔編〕/出版芸術社/46(四六判)/1997年11月
宇宙塵傑作選〔2〕(DW)/柴野拓美〔編〕/出版芸術社/46(四六判)/1997年12月



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