■□■□■ 建築設計偽造事件の国家責任(解法者)■□■□■


 大問題になった耐震設計偽造問題の国家責任の法的側面につきまして、法律の専門家である解法者さまが、解説してくださいました。
 重大な問題です。
 みんな勉強しましょう。
(オロモルフ)


◆◆◆建築設計偽造事件の国家責任(1)  投稿者: 解法者  投稿日:12月27日(火)20時39分18秒 ◆◆◆

 これまで、地方公共団体が行ってきた建築確認を平成10年に建築基準法を改正して民間でもできるようにした(建築基準法第6条の2参照)。
 この旗振り役となったのが、当時の小川忠男局長である。

 それでは、今回の建築設計偽造に伴う責任を国家が負担するのであろうか。
 まず、指定確認検査機関は特定行政庁建築主事の公的代行機関である<という者がいるので、それについて検討する。<代行>であれば、直ちに今回の建築設計偽造に伴う責任を国家が負担するからである。

 建築基準法第6条の2は、「国土交通大臣又は都道府県知事が指定した者の確認を受け、国土交通省令で定めるところにより確認済証の交付を受けたときは、当該確認(注ー建築確認)は前条第1項の規定による確認と、当該確認済証は同項の確認済証とみなす」と規定している。
 したがって、民間の建築確認機関は地方公共団体などの特定行政庁(以下特定行政庁という)の公的代行機関ではなく独立した検査機関であることになる。条文には<代行>の文言はなく、代行(下請)とは読み取れない。行政行為には<代理>という概念があるが、本条は「代理」の文言もない。
 そもそも「行政行為」に<代行>の概念はない。
 この見解は、明らかに誤りである。

 なお、民間の建築確認機関が独立した検査機関であっても責任を負う可能性があることは以下に記すとおりである。


◆◆◆ 建築設計偽造事件の国家責任(2)  投稿者: 解法者  投稿日:12月27日(火)20時37分10秒 ◆◆◆

 それでは、今回の民間の建築確認機関の建築確認偽造を看過したことについて、国家の行政責任により国家賠償義務が発生するだろうか。
 国家の国家賠償義務が発生するためには、次の要件が必要となる(国家賠償法第1条参照)。
1.公務員の行為であること
2.公権力の行使(不行使の場合も含まれる)であること
3.職務を行うについて行われたこと
4.公務員に故意または過失があること
5.違法な加害行為が存在すること
6.損害が発生したこと
 まず、2.について論じる。「公権力」とは、公務員の命令・強制を伴う行政作用のみならず、非権力的な行政活動であっても公益的な行政作用を含むと考えられている(広義説―判例もこれを採る)。
 「公務員の命令・強制を伴う行政作用」とは、行政行為、強制執行、即時強制などの命令・強制を伴う行政作用をいう。
 「非権力的な行政活動であっても公益的な行政作用」とは、行政指導、国公立学校での教育活動などの公的事実行為をいう。
 建築確認行為は、行政行為であるから「公権力の行使」である。「行政行為」とは、行政庁が行政目的を実現するため法律によって認められた権限に基づいて、一方的に国民の権利義務その他の地位を具体的に決定する行為をいうが、建築確認行為は建築主の建築に関する義務を決定するものであるから、公権力の行使であることは疑いを容れない。
 次に1.であるが、これが民間によって行われる場合には、公務員が行うものではなく、また代理行為ではないから、国家賠償法第1条に該当しない。


◆◆◆ 建築設計偽造事件の国家責任(3)  投稿者: 解法者  投稿日:12月27日(火)20時35分37秒 ◆◆◆

 先のとおり、建築確認行為は公権力の行使だとすると、これを民間に委ねるについてこれを監督・指導する権限がある場合には、「公務員の命令・強制を伴う行政作用」であるといえ、行政行為に該当する。
 地方公共団体には民間の建築確認書を取消す権限があるかどうかであるが、建築基準法第6条の3項には「民間の検査機関が建築確認済証を交付したときは特定行政庁にその旨の報告をしなければならない」ことになっており、同条4項では「報告を受けた特定行政庁は当該建築物の計画が建築基準関係規定に適合しないと認めたときは、建築主および建築確認済証を交付した民間検査機関にその旨を通知しなければならず、その場合においては当該建築確認済証は効力を失う」と規定されている。
 こうしたことから、今回の民間の検査機関の誤った建築確認済証を交付行為は公権力の行使による行政行為である。したがって、これに対する特定行政庁の責任は免れない可能性がある。

 これについては、次の判決および判例がある。条文をそのまま忠実に解釈した当たり前のことを述べたにすぎず、取り立てて論評するまでもない。
 http://homepage2.nifty.com/kekkanzenkokunet/6-3-2=yokohamachiH171130.htm
http://courtdomino2.courts.go.jp/judge.nsf/0/733456c3dc19eb224925702f002d26e4?OpenDocument


◆◆◆ 建築設計偽造事件の国家責任(4)  投稿者: 解法者  投稿日:12月27日(火)20時34分33秒 ◆◆◆

 ここで、先の要件の「公務員の故意又は過失」が問題となる。
 このことは特定行政庁の<過失>を論じる場合の問題であるが、その前に民間の確認機関が<建築確認申請の瑕疵>を見抜けなかったかどうかを検討したい。これを見抜けなかったことに<過失>がなければ、特定行政庁の<過失>もないことになるからである。
 そこで、民間の確認機関の<過失>を考えてみることにする。
 民間の建築確認機関としては、建築設計士の建築基準法の要件に満たない建築確認申請が例え初めから民間の建築確認機関を欺いて建築確認証を取得する意図があったとしても、これを見抜なかったことには<過失>がある。
 つまり、法によって建築確認機関として認定されたからには、建築設計士の建築基準法の要件に満たない建築確認申請を阻止する法的義務があり、これを看過することはいかなる理由があっても許されないからである。


◆◆◆ 建築設計偽造事件の国家責任(5)  投稿者: 解法者  投稿日:12月27日(火)20時29分4秒 ◆◆◆

 次に、特定行政庁の<過失>について検討したい。
 民間の検査機関の過失が認められても、国家責任が生じるためには、特定行政庁が民間の検査機関がなした<建築確認>の検証を看過していたという<過失>が認定されなければならない。
 これを考えるに当たっては次のことが考慮されよう。
 今回の建築設計の審査行為の不適切についても民間ばかりか地方公共団体にも多く見られることから、これを民間の審査機関特有の問題と考えるべきであるかということである、このことは、果たして確認に際して<過失>がありえたかの判断について、重要な争点となる。
 これについては、特定行政庁のこれまでの通常の民間の検査機関の建築確認作業の検証方法も問題となる。つまり厳密な検証作業が要請されているかということである。
 厳密な検証作業が要求されているならば、当然検証期間が長くなって、建築が遅延する。ここのところとの兼ね合いの問題も当然争点となる。
 さらには、膨大な建築確認行為が行われていっているなかで、果たして特定行政庁の全件検証が可能かの問題がある。
 後述する((9)参照)ように特定行政庁の検証行為は民間の建築確認機関の建築確認行為の<補完>に過ぎないと考えられ、前記の判断を特定行政庁に課すのは妥当でなく、よって、特定行政庁の検証の不行使には<過失はない>と考える。


◆◆◆ 建築設計偽造事件の国家責任(6)  投稿者: 解法者  投稿日:12月27日(火)20時27分8秒 ◆◆◆

 建築設計事務所から民間の建築確認機関に建築基準法の要件に満たない申請がなされ、民間の建築確認機関がこれを看過し、建築確認証が交付され、建築主が欠陥建物を建築し、損害を蒙った。
 この損害は先の国家賠償法で国家が負担するのであろうか。また、国家と偽造を行った建築設計士あるいはこれに加担した建築主、建設会社との関係はどうなるのであろうか。
 損害が認められるためには、原因と結果との間に<相当因果関係>がなければならない。本件でいえば、特定行政庁が民間の確認機関の<建築確認証>の交付について検証(再検査)が行われなかったことと崩壊の危険のある建物購入者の損害との間に<相当因果関係>の存在が必要である。
 民間の確認機関に申請された<偽造設計による建築確認申請>を見抜けなかったため、建築確認証が交付され、崩壊の危険のある違法な建築が行われ建物購入者が居住できなくなった損害との間には<相当因果関係>があるかが、まず問題となる。民間の確認機関の行為と建物購入者の損害との間に<相当因果関係>がなければ、さらに民間の確認証を検証する特定行政庁について<相当因果関係>がないことになるからである。


◆◆◆ 建築設計偽造事件の国家責任(7)  投稿者: 解法者  投稿日:12月27日(火)20時21分26秒 ◆◆◆

 ここで、「相当因果関係」とは何かを考えてみることにしたい。
 行為と結果の間の損害を賠償するについて、2つの考え方がある。
1.完全賠償主義 ドイツで採られているもので、行為の結果、損害が発生すれば、その全てを賠償させようとするものである。
2.相対賠償主義 日本で採られているもので、行為の結果、損害が発生が発生しても、その間に<相当因果関係>がなければ、賠償させないと
 いうものである。
 どちらの制度が妥当であるかは、その国の事情があり、判断できない。
なお、この制度は、本来債務不履行関係の損害をどう考えるかについてのものであるが、不法行為にも妥当する。
 相対賠償主義における<相当因果関係>とは、当該行為(本件の場合の債務不履行では、建築基準法に違反する建物を建築した建築主とその建物の購入者―購入者と民間の建築確認機関は契約関係にないから債務不履行の問題〔相当因果関係〕は発生しない―民間の建築確認機関と契約関係にあるのは建築主で、その間には債務不履行の問題が生じる。
 不法行為では、購入者と民間の建築確認機関との間にも<相当因果関係>の問題が生じる)によって現実に生じた損害のうち、通常生じるであろうと認められる損害をいい、<予見可能性がない特別な損害>は除く、と考えられている。


◆◆◆ 建築設計偽造事件の国家責任(8)  投稿者: 解法者  投稿日:12月27日(火)20時20分23秒 ◆◆◆

 これを本件の場合に当てはめてみると、民間の建築確認機関が設計士の建築基準法の要件に満たない建築確認申請を看過し、建築確認証を交付した結果、建物が建築され、購入者が居住できないという損害(所有権の完全なる行使の阻害)を受けたのである。民間の建築確認機関としては、建築設計士の建築基準法の要件に満たない建築確認申請が例え初めから民間の建築確認機関を欺いて建築確認証を取得する意図があったとしても、これを見抜けなかった結果、建築確認証が交付され、これに基づいて建物が建築され、購入者が損害を蒙ったのであり、民間の建築確認機関の行為と購入者の損害の間には、通常考えられる(通常生じるであろうと認められる)損害が認められるから、<相当因果関係>があり、民間の建築確認機関は購入者の受けた損害(建物購入費、引越費用、精神的損害〔慰謝料〕など)の賠償をしなければならない。


◆◆◆ 建築設計偽造事件の国家責任(9)  投稿者: 解法者  投稿日:12月27日(火)20時18分30秒 ◆◆◆

 それでは、民間の建築確認機関の建築確認証の検証を怠った特定行政庁の行為と購入者の受けた損害との間には<相当因果関係>が認められるのであろうか。
 特定行政庁は、民間の建築確認機関の建築確認作業を<信頼>していたと考えられる。それが建築基準法の改正(民間の建築確認機関に特定行政庁が行っていた建築確認行為を委ねること)の骨子なのであり、それなくしては本法制度は成り立たたない。要するに、特定行政庁の検証行為は民間の建築確認機関の建築確認行為の<補完>に過ぎないと考えられるのである。
 したがって、特定行政庁の行為と購入者の受けた損害との間には、通常生じるであろうと認められる損害は発生しないと思われる。したがって、<特別損害>ということになる。
 これが<相当因果関係>として認められるためには<予見可能性>が必要となる。本件の場合、軽微なものではなく、建築基準法の要件を大幅に下回る建築確認申請が民間の建築確認機関に行われ、これを民間の建築確認機関が看過することは、特定行政庁にとっては<予見>できないものであったと考えられる。
 したがって、民間の建築確認機関の建築確認証の検証を怠った特定行政庁の行為と購入者の受けた損害との間には<相当因果関係>が認められず、購入者が「国家賠償法」そのほか民法などによる損害を国家に賠償を求めることはできない。
 なお、これまで特定行政庁が行っていた建築確認行為を民間に委ねることについての違法性は全くないので、この点は争点にもならない。つまり、建築確認行為は行政が行わなくとも民間で可能だということである。


◆◆◆ 建築設計偽造事件の国家責任(10)  投稿者: 解法者  投稿日:12月27日(火)20時16分44秒 ◆◆◆

 今後、この建築確認制度をどうしたらよいのかという立法論を検討したい。
 方針は、次の2つに絞られることになるだろう。
1.特定行政庁に行わせる。
2.民間検査機関に委ねる。
 現在の制度は、一方では特定行政庁に建築確認行為(建築確認の審査から建築確認済書の交付)を認め、さらに民間の検査機関の建築確認作業の検証を担わせるという制度になっている。
 こういう中途半端な制度こそ、民間の検査機関の建築確認を認めた意義を減殺している。 つまり、こうした二重構造では、民間の検査機関を認めた意味がない。
 民間の検査機関に建築確認を委ねるなら全てを委ね。従来どおり特定行政庁に担わせるならば、民間の検査機関を認めない。二者択一が望ましい。
 この意味で、現行制度は立法政策上、極めて遺憾である。
 なぜ、こうなったかは、本件立法における官僚の狡猾な政策があったと考えるべきである。すなわち、特定行政庁が行っていた建築確認行為を民営化するにつき反対が出たことを考慮し、民営化するに当たり特定行政庁に民間の検査機関の建築確認作業の検証を担わせることで反対派をなだめるための方策を採ったと思われる。
 さらに、現行制度は官僚の天下り先を確保するための方針と検査に対する監督との妥協の策だったのである。


◆◆◆ 建築設計偽造事件の国家責任(11)  投稿者: 解法者  投稿日:12月27日(火)20時15分38秒 ◆◆◆

 建築確認手続を民間に委ねる場合の弊害は、次にある。
1.特定行政庁の監督が行き届かなくなる結果、確認行為が甘くなる。
2.確認費用が安価な民間確認機関に建築主などからの確認申請が集中する。

 これを防止するためには、次の制度を導入しなければならない。
1.全件あるいは無作為抽出し、民間確認機関の建築確認証を検証し、違反者には厳罰を科すと共に確認機関の認定を取消す。特定行政庁は監督のみを行う。
2.建築確認申請は特定行政庁が受付け、順番制で民間確認機関に割り振る。なお、この順番は1ヶ月ごとに変える。もちろん、これの秘匿を徹底させ、もらした 公務員は厳罰に処す。
3.建築確認費用を公定化する。1平方メートル当たりいくらと決めればよい。
4.民間確認機関への出資者から建築関係者および不動産関係者を排除する。
5.建築士への費用も公定化する。

 弁護士会が下記に、建築確認手続の問題点を指摘しているが、全く役に立たない。
 具体的改善策が提示されてないからである。
http://homepage2.nifty.com/kekkanzenkokunet/6-2-2=kichohoukokusho(bassui).htm

 特定行政庁に建築確認手続を委ねることにする場合でも、建築確認証には確認官を明記し、違法な確認を行ったときは、過失の場合も含め罰則を科すことが必要だ。
 民間と同じに扱わなくてよいという理由がないからである。


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