■□■□■ 日露戦役時の電文用暗号(オロモルフ)■□■□■

(1)まえがき

 日露戦争時に、海底ケーブルなどを用いた有線電信が、軍と大本営や軍どうしを連絡するのに用いられました。
 この有線電信は、日本人のみによって運営されましたから、秘密が漏れる心配は少なかったのですが、それでも万一のことを考えて、暗号(符牒のようなもの)が使われました。
 この暗号の一覧表がどこかにないか探しているのですが、いまのところ見つかっていません。
 以下に、これまでに判明したことのみ、記してみます。


(2)有名な例

 下に、日本海海戦時の有名な暗号電文と原文を示します。たぶん防衛省に保存されていた資料です。
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 暗号電文は――
「(アテヨイカヌ)ミユトノケイホウニセツシ(ノレツヲハイ)タダチニ(ヨシス)コレヲ(ワケフウメル)セントスホンジツテンキセイロウナレドモナミタカシ」

 翻訳文(原文)は――
『敵艦隊見ユトノ警報ニ接シ聯合艦隊ハ直ニ出動之ヲ撃沈滅セントス本日天気晴朗ナレ共波高シ』

 原文の後半は天才参謀・秋山眞之が部下の案に付け加えたものとされ、大本営への多大な情報を含むとともに、文学でもあると賞賛された文章です。
 原文の中央にある撃沈滅は口調の関係で一般には撃滅とされています。


(3)分析

 これについて、長田順行『暗号』(ダイヤモンド社)など、いくつかの書物に分析が出ています。

 暗号電文の暗号の箇所と翻訳文のその箇所を比べると、次のようになります。

アテヨイカヌ←→敵艦隊
ノレツヲハイ←→聯合艦隊ハ
ヨシス   ←→出動
ワケフウメル←→撃沈滅

 暗号箇所は三音または六音ですので、すべて三音として分解すると、規則性が明瞭になります。

アテヨ ←→ 敵(テキ)
イカヌ ←→ 艦隊(カンタイ)
ノレツ ←→ 聯合艦隊(レンゴウカンタイ)
ヲハイ ←→ は(ハ)
ヨシス ←→ 出動(シュツドウ)
ワケフ ←→ 撃沈(ゲキチン)
ウメル ←→ 滅(メツ)

 きわめて分かりやすい規則性があります。
 すなわち、三音よりなる暗号文の中央の音が、原文のあまたの音に等しいのです。

(ちょっと不思議な「撃沈滅」の問題ですが、おそらく、原文は「撃滅」だったが、それを示す暗号文が無いので、「撃沈」と「滅」を合わせたのだろうと思います。で、それを解読すると「撃沈滅」になりますので、それを読んだ人が右側に小さな?を書いたのでしょう。こういう推理を確認するためにもね暗号表を見つけたいのです)


(4)秘匿度数

 前記長田さんが調査したところでは、敵(テキ)を示す暗号電文は数多くあり、分かりにくくしているようです。

アテメ ←→ 敵
アテヨ ←→ 敵
イテク ←→ 敵艦隊
イテツ ←→ 敵弾
イテホ ←→ 敵兵
イテラ ←→ 敵艦
イテワ ←→ 敵船


(5)他の電文の例

 こういった暗号電文と原文はかなりの数残されています。
 そのうちの一つを示しておきます。
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(6)他の例から分かる暗号

 他の例からいくつかを拾ってみます。

ツホク ←→ 砲身(ホウシン)
ユソニ ←→ 損傷(ソンショウ)
コセラ ←→ 生蕃(セイバン)
テホマ ←→ 砲撃(ホウゲキ)
イサヲ ←→ 炸裂(サクレツ)
テスコ ←→ 数カ所(スウカショ)
ワケホ ←→ 検査の上(ケンサ)
ロシヱ ←→ 使用(シヨウ)
ホシヲ ←→ し難し(シガタシ)
フムチ ←→ 無線電信(ムセンデンシン)
シハウ ←→ 柱(ハシラ)
メシク ←→ 司令長官(シレイチョウカン)
テキリ ←→ 旗艦(キカン)
ルソシ ←→ 増加(ゾウカ)
アシサ ←→ 信号兵(シンゴウヘイ)
ラシヘ ←→ 至急(シキュウ)
ヱサミ ←→ 参謀長(サンボウチョウ)


(7)一覧表はどこに?

 このように、いろいろとサンプルはありますが、氷山の一角です。
 この他にも数十の例を見つけておりますが、省略します。

 こういう電文用暗号を全て掲載した一覧表があって、それを元にして電文をつくっていたのは間違いありませんが、この暗号表は、どこにあるのでしょうか?
 小さな辞書くらいの量の暗号が書かれているはずです。
『極秘明治三十七八年海戦史』のどこかに有るとは思うのですが、なかなか探せません。
 陸軍と共通だったのかどうかも知りたいところです。
 どうかご教示ください。



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