12監査第34号
                          平成12年7月7日

請求人 名古屋市千種区若水二丁目3番17号
    (サンマンション千種公園A−208)
    田口龍司始め3名(別紙請求人名簿のとおり。)様
 
 

                愛知県監査委員 加 藤 幸 一

                 同      兵 藤 俊 一

                 同      川 上 万 一 郎

                 同      内 田 康 宏
 

   地方自治法第242条第1項の規定に基づく住民監査請求について
   (通知)
 平成12年5月24日付けで請求人らから提出のありました地方自治法(昭和
22年法律第67号。以下「法」という。)第242条第1項の規定に基づく往
民監査請求(豊田西高校旅費支出事案。以下「本件住民監査請求」という。)に
係る監査の結果は、別添のとおりです。

別添 本件住民監査請求に係る監査の結果

1 本件住民監査請求の趣旨
  本件住民監査請求については、請求人らから提出された平成12年5月24
 日付けの措置請求書及び事実証明書並びに同年6月5日に実施した証拠提出・
 陳述の期日において請求人らが行った陳述及び同期日に提出された事実証明書
 を総合して、次のとおりの主張と解した。
  平成11年8月21日から25日までの4泊5日の日程で愛知県立豊田西高
 等学校(以下「豊田西高校」という。)職員16名は、第3学年生徒258名
 を引率して、岐阜県大野郡荘川村(以下「荘川村」という。)において学習合
 宿を行った。
  公文書公開請求により入手した引率者の放費請求書によると、全日程参加し
 た職員は10名であり、平成11年8月21日から23日までの3日間参加し
 た職員は3名、8月23日から25日までの3日間参加した職員は3名である
 ことが判明した。また、8月22日に日帰りで校長、教頭2名及び教諭1名の
 併せて4名が合宿先へ出張していることが明らかになった。
  校長始め4名に対する旅行命合は、平成11年7月30日になされ、用務は
 全員「学習合宿視察」となっているが、豊田西高校では平成9年から荘川村の
 ホテルで第3学年の夏季学習合宿を実施しており、同ホテルでの実施は咋年で
 3年目になる。どうして4名もの職員が視察に行かなけれぱならないのか、そ
 の理由が明らかではない。
  県外出張については、出張後速やかに復命する義務があるにもかかわらず、
 当該出張の10日後に、出張した教頭2名及び教諭1名の連名による復命書が
 提出されており、しかも、復命書には「学習合宿連絡及び指導」という記載し
 かなく、具体的にどのような連絡、指導をしたのかが明らかではない。校長に
 あっては復命書すら作成しておらず、当該出張についての報告義務を怠ってい
 る。連絡事項については電話、ファックスでも用は済むと考えられ、4名もの
 職員が出張する必要はない。校長始め4名の職員が合宿先に到着し、出発する
 までのわずかな時間に有効な指導があったとは考えられない。
  「野外活動の指導とこれに関する事故防止について」(昭和44年4月25
 日付け愛知県教育長通知)によれぱ、本件学習合宿における適正な引率教員数
 は13名となるが、実際に引率に徒事した職員数は16名で、これだけでも基
 準より多いのに、更に校長始め4名が合宿の指導に参加することは不当である。
  次に校長始め4名の職員が勤務する豊田西高校から学習合宿を行っている荘
 川村までは貸切りバスを利用しても片道3時間半もかかり、公共交通機関を利
 用して行くとすれぱ更に長い時間がかかるものと思われる。仮に現地での正当
 な用務があったとすれぱ、とても公共交通機関を利用して往復したとは考えら
 れない。自家用車1台に乗れる4名という人数、管理職3名と教諭1名という
 人数構成から見て、教諭の運転する自家用車に管理職3名が同乗して行ったと
 考えられる。自家用車で出張する場合は、事前に自家用車使用承認簿に必要事
 項を記入し、校長の承認を受けなけれぱならないことになっているが、その手
 続はとられていない。同乗者については運賃は支給されず、日当のみが支給さ
 れることとなっているが、公共交通機関を利用した額が支払われている。
  よって、豊田西高校において企画、実行された乎成11年度学習合宿期間中
 に、校長、教頭2名及び教諭1名が日帰りで合宿先の荘川村まで学習合宿連絡
 及ぴ指導の名目で出張したことは、その目的、往復の時間及び人数の多さを考
 えると不必要な出張であるので、上記4名の職員に当該旅費を愛知県に返還す
 ることを求める。
  仮に、当該出張が必要な出張であったとしても、現地までの往復の所要時間
 及び人数を考え併せると、自家用車1台に4名が同乗して現地まで往復してい
 ると考えられ、職員等の旅費に関する条例(昭和29年愛知県条例第1号。以
 下「旅費条例」という。)に基づいた正当な旅費との差額の返還を求める。

2 監査の実施
  本件住民監査請求は、法第242条の要件に適合していると判断したので、
 次のとおり、監査を実施した。
 (1) 監査対象事項
   平成11年8月22日に行われた校長、教頭2名及び教諭1名の荘川村出
  張(以下「本件出張」という。)に係る旅費支出行為
 (2)監査対象機関
  豊田西高校
  なお、監査のため必要があるので、平成11年度豊田西高校PTA会長等
 に対し、関係人調査を実施した。

3 認定した事実
 監査の結果、認定した事実は、次のとおりである。
(1) 豊田西高校における乎成11年度第3学年学習合宿の概要について
     豊田西高校における平成11年度第3学年学習合宿は、生徒及び保護者の
  要望を踏まえ、長時間継続して学習する習慣を身に付けるとともに学習意欲
  を高めること等を目的として、平成11年8月21日から25日までの4泊
  5日の日程で、荘川村内のホテルで実施された。
   参加人数は、豊田西高校第3学年生徒のうち学習合宿への参加を希望した
  256名で、参加率は、65、3パーセントである。
   自学自習の形式で1日10時間学習を4泊5日行うことを内容とし、豊田
  西高校職員16名が、引率にあたった。
(2) 本件出張の概要について
      ア 本件出張は、校長等管理職による学習合宿の実地状況の視察を、PTA
   が行う学習合宿激励事業と合同する形で行ったものである。
  イ PTAが行う学習合宿激励事業の参加者は、PTA会長始め役員12名
   である。
  ウ 教諭は総務主任として、豊田西高校においてPTA等渉外用務を担当し
   ている。
  工 本件出張は、学校側4名、PTA側12名の総勢16名の移動を円滑に
   行うために、PTA関係者から借用したマイクロバスを使用して行われた。
  オ 本件出張の往路は、午前8時30分頃豊田西高校を出発、豊田インター
   チェンジから東名高速道路、名神高速道路、東海北陸自動車道白鳥インタ
   ーチェンジを経て、国道156号を通り、午前11時頃合宿先に到着した。
  カ 合宿先に到着後、校長及び教頭は、進路指導主事及び学年主任との打合
   せ、引率教員への督励・指導、生徒への激励、学習室その他施設の視察、
   ホテル支配人との懇談等学習合宿の実地状況の視察を行い、教諭は、PT
   A役員を誘導して、学習室等の見学を行った。
  キ 本件出張の復路は、午後4時頃合宿先を出発し、往路と同じ経路をたど
   り、午後6時40分頃豊田西高校に到着した。
  ク 往復の高速道路料金は7,700円であった。
(3)本件出張に係る旋賓の支出等について
  ア 旅費条例第3条第1項の規定により旅費が支給されるためには、同条例
   第4条第1項の規定により任命権者又はその委任を受けた者の発する旅行
   命令によって旅行が行われなければならないが、県立学校の職員へ旅行命
   令を行う権限は、愛知県立学校管理規則(昭和32年愛知県教育委員会規
   則第9号)第16条の規定により、当該県立学校の校長に委任されている。
  イ 本件出張に係る旅行命令は、用務を学習合宿視察、用務先を荘川村、旅
   行期間を平成11年8月22日として、同年7月30日に発せられた。
  ウ 本件出張に係る旅費は、校長始め4名から委任を受けた豊田西高校の事
   務職員から平成11年8月9日に請求され、同月16日、豊田西高校の資
   金前渡員を経由して校長始め4名に支払われていた。
  工 本件出張に係る旅費支出額は、豊田市から荘川村まで、公共交通機関を
   利用したものとして計算された運賃8,872円に日当を加算した額で、
   その額は、校長及び教頭は各11,472円、教諭は11,072円であ
   り、合計45,488円である。
  オ 本件出張には、マイクロバスが使用されたが、燃料代等の経費としてマ
   イクロバスの所有者に20,000円が、謝礼として運転者に10,00
   0円が支払われていた。
  カ 往復の高速道路料金7,700円とマイクロバス借用に係る費用30,
   000円の合計額37,700円は、校長始め4名が、受領した旅費から
   支払った。
  キ 校長始め4名に支出された運賃額は1名あたり8,872円で、4名の
   合計額は35,488円である。
  ク PTA会長等PTA側参加者に係る旅費は、県費とは別のPTA会計か
   ら支出された。
       PTA側参加者に対しては、運賃は支給されず、日当のみが支給されて
   いた。
 (4)「野外活動の指導とこれに関する事故防止について」(昭和44年4月2
   5日付け愛知県教育長通知)は、登山等の野外活動における安全管理を図る
   等のため、引率指導にあたる教員数についての基準を定めている。この基準
   が本件学習合宿に適用されるとすれぱ、適正な引率教員数は14名から18
   名となる。

4 判断
  以上の事実認定に基づき、以下、請求人らの主張を踏まえ判断する。
(1)目的、往復の時間及び人数の多さを考えると不必要な出張であるとの主張
  について
   本件出張は、校長及ぴ教頭による学習合宿引率教員への督励・指導、生徒
  への激励、施設管理者との連絡調整等の実地状況の視察とPTA担当教諭に
  よるPTAの引率を目的として行われたものである。
   県立学校の校長が旗行命令を行う権限については、学校における運営上の
  必要に応じてどのように行使するか裁量が認められているものと解される。
   豊田西高校の校長は、荘川村での学習合宿が3年目であるとしても、毎年
  度参加生徒、引率教員は変わること、仮に連絡事項は電話やファックスで用
  が済むものとしても、本件出張の主な目的は引率教員への督励・指導等他に
  あること、また、「野外活動の指導とこれに関する事故防止について」が学
  習合宿に適用あるものとしても、本件出張は生徒を引率指導するものではな
  いので引率教員数には含まれないものと判断したことから、旋行命令を行っ
  たものである。
   同校長は、第3学年の3分の2の生徒が参加し、4泊5日にわたって行わ
  れる学習合宿について、引率教員への督励・指導等の実地状況の視察を行う
  ことが公務上必要と判断したものであり、また、人数についても、目的、役
  割分担等を総合的に勘案し、管理職3名の出張が必要と判断したものである
  が、これらの判断は、校長として許容される裁量を逸脱するものとは認めら
  れない。
   また、学校の諸活動は、保護者との緊密な連携の下、その理解と協力を得
  て初めて円滑に実施されることから、同校長は、保護者の関心・要望が強い
  学習合宿の視察をPTAの激励事業と合同で行い、PTA担当教諭がPTA
  の引率を行うことが公務上必要と判断したものであり、この判断についても
  校長として許容される裁量の範囲内のものと認められる。
(2)旅費条例に基づいた正当な旅費との差額の返還を求めるとの主張について
   本件出張については、「旅費は、最も経済的な通常の経路及び方法により
  旅行した場合の旅費により計算する」と規定している旅費条例第7条の規定
  に基づき、豊田市から荘川村まで、公共交通機関を利用したものとして計算
  された額の旅費が支給されているか、実際には、本件出張には、マイクロバ
  スが使用され、マイクロバス使用に係る経費が、校長始め4名の旅費から支
  払われている。
   旅費は実費弁債の一種であるが、事務の簡素化等の観点から、旅費の計算
  方法は定額制を基本としていると解される。
   旅費条例第7条は、旅費の計算方法を規定したもので、そこで示された経
  路、方法は、旅費を計算する上での経路、方法であり、具体的な出張におい
  て、そのよるべき経路、方法を指定したものではない。与えられた定額の範
  囲内において、いかに旅費を使用するかは、原則として、旅行者の自由意思
  に任されているものと解される。
   したがって、校長始め4名が、マイクロバスを借用し旅行したとしても、
  公共交通機関を利用したものとして計算された額を支給することは、旅費条
     例に抵触するものではないと解される。
(3)結論
   以上述べたとおり、本件住民監査請求に係る請求人らの主張は、いずれも
  理由がないので、本件住民監査請求を棄却する。

別紙 請求人名簿

名古屋市千種区若水二丁目3番17号(サンマンション千種公園A一208)
 田 口 龍 司

岡崎市羽根町字鰻池97番地2
 渡 邉 研 治

名古屋市名東区平和が丘二丁目169番地(アーバンドエル平和が丘102号)
 國 枝 利 満  


県学労のページへ戻る