13監査第2号
平成13年5月16日

請求人
名古屋市千種区若水二丁目3番17号(サンマンション千種公園A−208)田口龍司様

                愛知県監査委員  加藤幸一

                   同     兵藤俊一

                   同     川上万一郎

                   同     内田康宏

地方自治法第242条第1項の規定に基づく住民監査請求について(通知)
 
 平成13年4月6日付けで請求人から提出のありました地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)第242条第1項の規定に基づく住民監査請求(以下「本件住民監査請求」という。)に係る監査の結果は、別添のとおりです。

別添 本件住民監査請求に係る監査の結果

1 本件住民監査請求の趣旨
 本件住民監査請求については、請求人から提出された平成13年4月6目付けの措置請求書及び事実証明書並びに同月25日に実施した証拠提出・陳述の期目において請求人が行った陳述等を総合して、次のとおりの主張と解した。
 愛知県立豊田西高等学校(以下「豊田西高校」という。)校長は平成13年1月20日に実施された大学入試センター試験(以下「センター試験」という。)を受験する生徒の指導のため、1月16日及ぴ17日に21人の教員に対し、試験会場となる愛知工業大学及び東海学園大学への出張を命じた。当該出張に係る復命書が同月22日に校長に提出され、旅費は2月16日に教員に支払われている。同様に、愛知県立一宮高等学校(以下「一宮高校」という。)校長は1月10日に19人の教員に対し、試験会場である名古屋女子大学及ぴ名古屋工業大学への出張を命じ、当該出張に係る復命書が同月20日に校長に提出された。当該出張に係る旅費は2月8目に同校事務職員から請求され、教員に支払われている。大学受験というものは、生徒個人が卒業後の進路のひとつとして選択するものであり、生徒一人一人が大学を受験する際にもその取扱いが公欠扱いであることからも明らかなように、学校行事、あるいはそれに準ずるものではない。そうしたものに対して、教員が大挙して試験会場に押しかけて、出欠や健康状態を確認したり、注意を与えたりするということは、高校の教員が職務として行うべきものではない。また、1月21日にもセンター試験が実施されており、両校においては1月20日と同じ用務で教員がセンター試験会場に行っているが、この日は出張ではない。同じ用務を行いながら、ある日には出張で、ある日には個人的にという使い分けが許されるはずがない。1月20日の用務も公務とは言えない。仮に1月20日の出張に公務性があったとしても、20人前後の教員が出張する必要性があったのか疑問がある。豊田西高校と一宮高校で、他校に比べて異常に多い教員を出張させなければならない理由はない。また、1月20日当日、両校では多くの3年生の担任、副担任、進路指導の教員が試験会場に出張しているため、高校に登校した生徒には正規の授業が行われておらず、これら生徒の授業を受ける権利を奪っている点からも当該出張は適当ではない。よって、当該出張は公務と言えず、これらに関する旅行命令は校長の裁量権を逸脱したものであるので、両校校長及び出張した教員に旅費の返還を求める。

2 監査の実施
 本件住民監査請求は、法第242条の要件に適合していると判断したので、次のとおり監査を実施した。
(1)監査対象事項
  平成13年1月20日のセンター試験受験指導のために行われた出張(以下「本件出  張」という。)に係る放費支出行為
 (2)監査対象機関
     豊田西高校及ぴ一宮高校

3 認定した事実
 監査の結果、認定した事実は次のとおりである。
(1)センター試験の概要について
 センター試験は、大学入学志願者の高等学校の段階における基礎的な学習の達成度を判定することを主たる目的とするものであり、国公私立の各大学が、それぞれの判断と創意工夫に基づき適切に利用することにより、大学教育を受けるにふさわしい能力・適性等を多面的に判定することに資するために実施されるものである。センター試験は全国一斉に行われており、平成13年度センター試験(平成13年4月大学入学志願者を対象とした試験)は平成13年1月20日の土曜日及ぴ21日の日曜日の2日間にわたり実施された。現在、このセンター試験を利用する大学は非常に多数となっており、平成13年度センター試験については、すべての国公立大学(国立大学95大学、公立大学72大学)と、私立大学の約56%に当たる266大学が利用している。したがって、大学進学を目指す受験生の多くはこのセンター試験を受験する必要がある。
 志願者の試験会場は大学入試センターが志願者数の分布状況等を勘案して指定することとなっている。高等学校卒業見込み者については、原則として在学する学校が所在する地区の試験会場とされているが、志願者数によっては一つの高校に対して複数の試験会場が指定される場合や、在学する学校から離れた試験会場を指定される場合もある。

(2)平成13年1月20日に実施されたセンター試験の受験者数及ぴ出張教員数について 豊田西高校においては3年生の在籍生徒数394人(休学者を除く。)のうち389人(約98.7%)が1月20日のセンター試験を受験しており、同様に一宮高校においては3年生の在籍生徒数317人のうち307人(約96.8%)が同試験を受験している。大学入試センターから指定された試験会場は、豊田西高校については男子が愛知工業大学、女子が東海学園大学であり、一宮高校については男子が名古屋工業大学、女子が名古屋女子大学であった。出張した教員は、両校とも校長、教頭のほか、第3学年の担当教員であった(豊田酉高校では、このほか進路指導担当教員が出張していた。)。なお、それぞれの会場における両校の受験した生徒数及ぴ受験指導のために出張した教員数は次表のとおりである。

(3) 本件出張の用務内容について
 1月20日に出張した両校の教員が試験会場で従事した用務の内容は概ね次のとおりであった。
 豊田西高校の教員は午前8時30分に、一宮高校の教員は午前8時に、それぞれの試験会場に集合した。その後、生徒の集合を待って点呼等を行い、校長あるいは教頭などから激励や受験に対する諸注意を与えた。
 午前9時30分までに会場へ入室するように、各担当教員が生徒を誘導し、入室完了を確認した後、他会場の教員と連絡を取り合うとともに学校への連絡等を行った。午前10時の試験開始を確認すると各教員は再度集合し、当日の状況の確認などをした上で、現地を出発し、豊田西高校の教員は午前11時頃に、一宮高校の教員は午後0時30分頃に学校へ帰着した。

(4) 本件出張に係る放費の支出について
 県立学校の職員へ旅行命令を行う権限は、愛知県立学校管理規則(昭和32年愛知県教育委員会規則第9号)第16条の規定により、当該県立学校の校長に委任されている(なお、校長、教頭を除く教員の県内放行に関しては、「教頭及ぴ事務長の専決事項について」(平成11年3月19日付け教育長通知)により、教頭の専決事項とされている。)。
 本件出張については、豊田西高校においては用務内容をセンター試験受験生徒の指導、激励として、平成13年1月16日及び17日に22人の教員に対して旅行命令がなされており、一宮高校においては用務内容をセンター試験受験指導として、1月10日に19人の教員に対して旅行命令がなされていた。
 本件出張に係る旅費は両校において所定の手続きを経た上で、2月16日に支払われており、支出された旅費額は、豊田西高校においては22人分30,520円、一宮高校においては19人分32,320円であった。

(5) 平成13年1月20目に登校した3年生の生徒への対応について
 センター試験を受験しなかった3年生のうち、当日登校した生徒は豊田西高校、一宮高校ともそれぞれ4人であり、両校とも通常の授業が実施できないため、教員の指導、監督のもとに図書館で個々の進路希望に合わせた課題の学習を行わせていた。

(6) 平成13年1月21日の対応についてセンター試験は1月21日にも実施され、豊田西高校においては両会場合わせて20人の教員が、一宮高校においては両会場合わせて15人の教員がセンター試験会場へ赴き、受験生に対する指導に当たっている。指導に当たった教員は校長又は教頭及び3年生担当教員であったが、同日の受験指導については両校とも校長の出張命令はなく、職員が自主的に指導に当たったものであり、県費による旅費支出はなかった。
 なお、受験指導に当たった教員に対しては、両校とも職員等の旅費に関する条例(昭和29年愛知県条例第1号)に基づく旅費と同額の金銭がPTA会計から支払われていた。

4 判断
 以上の認定事実に基づき、以下、請求人の主張を踏まえ判断する。

(1)本件出張は公務と言えず、校長の裁量権を逸脱したものであるとの主張について校長が旅行命令の権限を行使するに当たっては、当該旅行の目的、態様、重要性や他の校務への影響など学校運営上の諸般の事情を考慮して行使されるべきものであり、旅行命令の権限をどのように行使するかについては校長の裁量に委ねられていると認められる。
 豊田西高校、一宮高校両校の生徒は、ほぼ全員が大学への進学を望んでおり、保護者においても、その意識は同様であり、学校の行う進学指導に対する期待は極めて高いものがある。こうした状況を踏まえ、両校校長は、3年生の大半が受験し、かつ、進学という目標の中で非常に大きな意味を持つセンター試験の位置付けを勘案した上で、受験する生徒の指導、激励のために教員を出張させることが必要であると判断したものであり、この判断が校長に与えられた裁量を逸脱したものとは認められない。
 また、出張した教員の人数についても、試験会場が2つに分割されていることなどを前提として、センター試験を受験する両校の生徒数や各会場での用務内容、役割分担を勘案しつつ必要な人数を決定したものであり、この決定についても校長の裁量の範囲内のものと認められる。なお、請求人は公欠扱いである生徒に対して、教員が職務として受験指導に行くことは不当であるとも主張しているが、公欠とは生徒が当該学校の教育活動の一環とみなしうる活動に参加するために学校に登校できない場合に、欠席としては取り扱わないというものである。両校ともセンタ一試験受験を学校教育活動の一環とみなしうるものとして取り扱っているが故に公欠としているのであるから、センター試験受験指導のために教員が職務として出張することに問題は見当たらない。

(2) 1月21日との対応の違いから、本件出張用務も公務とは言えないとの主張について
 前記3(6)で認定したとおり、両校校長は1月21日については出張命令を出しておらず、両校の教員は自主的に受験指導に当たっているが、1月21日の取扱いが出張でないからといって、本件出張を違法、不当とする理由とはならないものである。
 両校校長が1月21日に出張を命じなかったのは、当日が週休日であり、仮に教員に出張を命じた場合には当該教員の週休日の振替えを行う必要があるが、進路指導等の業務が重なる時期に3年生を担当する教員の週休日の振替えを行うことは学校運営上困難であることから、出張命令を出すことは適切ではないとの判断をしたことによるものと認められる。

(3)登校してきた生徒の授業を受ける権利を奪っているとの主張について
 平成13年1月20日に登校した両校の3年生の生徒はそれぞれ4人であり、通常の授業が実施できないことから、教員の指導監督のもとに図書館で個々の進路希望に合わせた課題の学習を行わせており、請求人が主張するような授業を受ける権利を奪っているとは認められず、請求人の主張は理由がない。

(4)結論
 以上述べたとおり、本件住民監査請求に係る請求人の主張は、いずれも理由がないと認められるので、本件住民監査請求を棄却する。


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