ROKIA TRAORE Live at "Tribute to the Love Generation"


マリの若手女性歌手ロキア・トラオレ(1973年生まれ)の初来日公演を見てきた。その感想を簡単に綴ってみたい。(会場:10/4 代官山ポレポレ、10/7 東京台場TLG)


現在、数え切れないほど行われているコンサートのうちには、CDで聴き馴染んだ音を追体験する機会に過ぎないものも多い一方で、ひとりのミュージシャンがレコードとライブで異なるパフォーマンスを見せるということは、割とよくあることだと思うのだが、今回のロキア・トラオレ公演ほど、こちらの予想をみごとに裏切るものは少ないのではないだろうか。

西アフリカのマリ共和国から彗星のごとく登場したロキア・トラオレは、97年のデビュー作『ムネイサ』と今年発表した第2作『ワニータ』という素晴らしい作品を通じて、ヨーロッパ、そして日本でも着実にファン層を広げてきている。アンボス・ムンドス第6号のディスク・レビューでは、この2作を比較して、表面的な差異はわずかながら内面的な違いは大きいと感じたあたりのことを書いたのだが、このことを裏返すと、彼女の音楽的スタイルはこれからもさほど変化しないのではないかとも思ったのだ。アミ・コイタやクンバ・シディベのような、天与の豊かな声量を駆使し力強く歌いあげるグリオたちとは異なって、彼女の歌い方にはシンガーソングライターのような優しさがあり、それは時にはボサノバさえ想起させるものである。そしてそれは彼女自身が苦心することで生まれたスタイルである分だけ、そのスタイルから離れた音楽作りは困難にも思えたのだ。このことは、別に彼女の限界点を指摘するというのではなく、彼女がこれまで培ってきた音楽をとことん深めていって欲しいという願望を表したものである。

札幌、東京台場での公演に先駆けて、10月4日に急遽行われることが決定したミニ・ライブの様子を見に、代官山のワールド・ミュージック・カフェ「ポレポレ」へと出向いた。ここでは、ンゴニとギタ(半分に割ったひょうたんを伏せた形のパーカッション)、それにロキア自身のつま弾くギターのみの伴奏で、「MOUSO NIYALEN」など4曲を披露した。そしてそれらは、先に綴った印象を再確認させるものだった。まるで絵筆にのせた絵の具を一筆一筆、丹念に置いていくように、ことばのひとつひとつを丁寧に扱う歌い方。たまたま最前列に座ったため、彼女と視線を合わせる形で聞き入ったせいもあろうが、彼女の歌と真正面に対峙することとなり、その歌は、私を彼女へと強く結びつける空間へと誘っていったのだった。

同時に、彼女の歌の力強さも印象的だった。先のレビューでは、『ワニータ』で彼女の歌が力強くなったとも書いたのだが、今回はそれ以上に力強い歌い振りなのだ。また演奏の点では、ギタが出色ものだった。拳を真上から振り下ろしたときは、キックの音色となる一方で、両手の指を駆使したときには、多彩かつ繊細な表現が可能となることが驚きであった。

わずか4曲ながら、この日の彼女の歌は私を十分に満足させるものだったと言える。そして彼女の歌は、大きな会場で生で聴くよりも、一人静かに耳を傾けるのに相応しくも感じたので、7日のTLG公演には行かないつもりだった(仕事が忙しかったという理由もあったのだが)。それでも、いろいろな方から誘いを受けて結局出かけて行った。

ややアクセスしにくい場所と聞いていたが、19時頃たどり着くと場内はすでに着飾った客で込み合っていることにひとまず安心。19時半の定刻通りに登場したメンバーは6人で、ロキア(ギター)の他に、ンゴニ(大と小、2人)、バラフォン、ギタ、コーラス。ンゴニ奏者のうちの一人はトーキング・ドラムも演奏した他、ロキアを含めて、カリニャン、シェケレ、などの小物類も演奏した。

さて、彼女の歌なのだが、それは『ワニータ』よりも、4日のミニ・ライブの時よりも、遥かに力強いものだった。実は彼女はノドの調子が余りよくなく、実力を出し切っていないという話も聞かされたが、そんなこと微塵も感じさせないばかりか、彼女もやはりマリに生まれた歌い手だけのことはあるなと感心させられた。

そしてさらに予想外だったのは、ダンサブルで力強い演奏の多かったことだ。冒頭からして、各人がパーカッションを手にリズミカルな演奏を聴かせ、観客たちを一気に引き込もうとしていた。今回は歌に専念するものと思っていたロキアも、曲ごとに楽器を持ち替え、パーカッションを手にしたときにはそれを器用に操る。そればかりか、多様なスタイルのダンスも披露するのだった。ラストの曲では延々と踊りまくり、客にはスタンディングを促して煽り続ける。おしゃれな客層だったためか、ロキアがいくら誘ってもほとんど誰も立ち上がらなかったことは、彼女とっては可愛そうなことだったが、前日も同じような状況だったらしい。

CDで馴染んだ楽曲とは対極に位置するようなアップ・テンポな曲が多い中、途中何曲かしっとり歌い上げる曲を挟み込むことで、実にバラエティー豊かな構成のステージになっていたことも指摘しておきたい。これは、ここ数年場数を踏んでステージ慣れした結果というよりも、それ以前から彼女に備わっている卓越した才能と幅広い音楽性をそのまま披露したものなのだろうと思う。

彼女の激しいダンス、果たしていつ終わることかと考えながら見つめていると、それはやがて昨年バマコの市街地の広場で目にした、胸をはだけて踊っていたおてんばな娘たちの記憶と二重写しになってきた。親が上流階級に属し、海外生活の豊富な彼女も、やはりマリの豊かな音楽環境の中で育った人間なのだ。そんな光景を思い浮かべながら、実はロキア・トラオレは、私が考えているよりも遥かに凄い存在なのではないだろうかという思いが頭の中で膨らんできたのだった。


『ワニータ(WANITA)』(オルターポップ AFPCD-5251)


(2000/10/10)


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