第18章 守る者、狙う者 − 新生ヴァレリア王国 首都ハイム/城下町の教会 − デニムが国王になる決意をしたその時、デネブはあの教会を再び訪れていた。 「は〜い、ランス、お元気〜 元気なわけないか。^^;」 椅子に座ったまま、聖騎士はボンヤリと窓の外の雪を見ているようだった。 「う〜んとね、これ飲んでちょうだい。 ウォーレンじいにも飲ませた薬よ。 よく効くんだから。 寝ててもレポート書けるぐらいに元気出るわよ♪」 「……って、動けないんだったわね。 仕方ないわねぇ… いい? ブチューっと行くわよ、ブチューっと。」 そう言うとデネブは、持ってきたビンの中の液体を、グビグビ飲み始めた。 ビンが空っぽになると、帽子を取って、その唇を聖騎士の唇に重ねた。 「ああ…… う……」 聖騎士は少しうめき声をあげたが、デネブのなすがまま、その液体を注ぎ込まれた。 熱いくちづけが、しばらく続いていたその時。 廊下の方から、何かが割れる音と、「きゃあ〜」という悲鳴が聴こえてきた。 (あら、あの娘に見られちゃったかしら?) デネブは唇をそっと離し、扉の方を見たが、扉は閉じられたままだ。 「早く元気になってね… チュッ♪」 そう聖騎士につぶやくと、デネブは廊下に向かった。 廊下に面した1つの部屋の扉が開け放たれ、そこに割れた水差しが落ちていた。 そして、尻餅をつく格好で倒れている少女。 (あら、やっぱり、ランスの娘じゃないの) 「どうしたの?」 デネブは声をかけながら近づいた。 少女、クレアはお尻をさすりながら、「大丈夫です。」と答え、立ち上がった。 「……ちょっと、荷物袋が棚から落ちそうになってたので、直そうとしたら、 急に患者さんが手をつかんできたので、ビックリしちゃって。」 デネブが部屋の中を覗いてみると、ベッドの上に包帯だらけの男が一人… そこから、奇妙な唸り声が聞こえてきた。 唸り声に混じって、カラカラに干からびた声も聞こえてくる。 「………デ… ………ム、……らず…… …殺し……… やる……」 それはよく聞くと、物騒な言葉だったのだが、クレアは気付いていないようだった。 (この人… 解放軍にいた名もない兵士……のはずが、とんでもないこと やっちゃったっていう、あの人じゃないの。) デネブは、聖騎士のいる部屋の、扉の方を少し振り向いた。 クレアは割れた水差しを片付け始めている。 (ふ〜ん、命をかけて守る人と、命をかけて狙う人かぁ… 人生って不思議なものよねぇ… うふふ…… どんな結果が出るのか… ラシュじい追っかける前に、ちょっとだけ見ていくかぁ。) 「頑張ってね〜♪」 そう一言、クレアに声をかけると、デネブは教会の外へ向かった。 その後姿を見送っていたクレアは、しっかり「はい」と答えていた。 娘の献身的な看護の甲斐あって、包帯だらけの男は無事に教会を出て行った… ≪ Next Chapter ≫ |