「手をとりあって」 Let Us Cling Together 《第1章 僕にその手を汚せというのか》 |
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オベロ海に浮かぶヴァレリア島……。 古来より海洋貿易の中継地として栄えたこの島では、その覇権を巡り、民族間で紛争が絶えなかった。 そうした永い戦いに終止符を打った男がいた。 後に覇王と呼ばれるドルガルアである。 多民族からなるこの地を統一したドルガルア王は多民族間の婚姻を奨励し、国教を一つとすることで こうした対立を取り除こうとした。 その統治は半世紀に渡り、ヴァレリアは栄えた。 しかし、紛争の火種が消えたわけではなかった……。 王の死後、司祭ブランタは支配者階級の大半を占めるバクラム人を扇動し、王都ハイムの独立を宣言。 さらに北の大国・ローディス教国と密約を結び、その庇護のもと、バクラム・ヴァレリア国を建国した。 司祭ブランタは島全体を手に入れることを主張したが、ローディスから派遣された暗黒騎士団団長の ランスロット・タルタロスは戦力の損失を恐れ拒否。 ブランタも渋々それを受け入れ、進軍は停止した。 島の南半分に残された二つの民族主義陣営のうち、人口の7割を占めるガルガスタン系民族主義勢力は 指導者・バルバトス枢機卿のもと、島の南半分を手にするためウォルスタ系住民に宣戦を布告。 民族の根絶を目的とした虐殺を展開した。 一方、ウォルスタ人はロンウェー公爵を旗頭として抗戦したが、戦力の差によりわずか半年で敗北した。 バルバトス枢機卿はガルガスタン王国の建国と内乱の集結を宣言したが、ウォルスタ人に対する弾圧は、 なおも執拗に続いた。 残されたウォルスタ人の多くは抵抗を続けたが、指導者・ロンウェー公爵が捕囚の身となってからは それも次第に下火となり、ガルガスタンの用意した猫の額ほどの広さの自治区に足を運ぶ者が増加した。 こうしてヴァレリアの内乱は鎮静化した。 しかし、それが、つかの間の静寂であることを知らぬ者はいなかった……。 |