詰中将棋第16図解説


解説
 詰手数2769手!詰中将棋の最長手数は、伊藤宗看の中将棋作物の第五十番(作意未解明だが2080手台と言われている) であるようだが、その目安となる手数をも大幅に上回り新記録ということになりそうだ。
 本作の構成は、馬鋸+竪行(成銀) の上下運動である。竪行(成銀) の上下運動の部分は、普通詰将棋の河原泰之氏作 「SWING II」の飛車横追いを竪行(成銀)の縦追いに応用したものである。中将棋では鯨鯢が使用できる分、この 部分に関してはシンプルに表現できた。が、なんと言っても本局の特徴は、8六と8七を起点とした上下対称の2種類の 馬鋸を交互に繰り返していくところである。「く」の字型に往復されるこの馬鋸の軌跡は、詰中将棋、 普通詰将棋を通しても前例がないようだ。

 手順の要点を整理すると、7筋から3筋までの玉方の駒を順次はがす。この際に、
3一鯨鯢を剥がすには3十一竪行(成銀)を剥がさなくてはいけない。
3十一竪行(成銀)を剥がすには4一飛車を剥がさなくてはいけない。
4一飛車を剥がすには4十飛鹿を剥がさなくてはいけない。
4十飛鹿を剥がすには5二飛車を剥がさなくてはいけない。
5二飛車を剥がすには5九竪行(成銀)を剥がさなくてはいけない。
5九竪行(成銀)を剥がすには6四鯨鯢を剥がさなくてはいけない。
6四鯨鯢を剥がすには6八竪行を剥がさなくてはいけない。
6八竪行を剥がすには7四竪行を剥がさなくてはいけない。
7四竪行を剥がすには8八麒麟を剥がさなくてはいけない。
という因果関係があり、剥がす駒の順序が決まってくるのである。駒を剥がすには、剥がす駒の元へ馬鋸で龍馬(成角) を接近させ、1サイクル動かすために毎回、竪行(成銀)の縦追いを行うのである。
さて、3一鯨鯢を剥がすことで、 2457手目の4十二龍馬(成角)を玉方は同とと応じるしかなくなり、同龍馬によって、龍馬(成角)を龍馬(生)に すりかえることに成功する。
この龍馬(生)で更に馬鋸を続け、7五龍馬として次に成って角鷹を作るぞと迫る。
ここで、玉方は手を変え、9七金飛車と応じ収束に入る。収束は、序盤からの変化で何度も登場し、既に見えている が、主役駒が捌けるので気持ちがよいと思う。尚、本局は最終2手以外は非限定はありません。

創作期間は、発想から完成まで半年くらいか。竪行(成銀)の縦追いの部分から作り、上辺のみの馬鋸で700手台の図を 最初に作るのには1ヶ月とかからなかった。その後、下辺にも馬鋸が入り上辺の馬鋸と自在に切り替えられることに 気付いたとき、かなりの長手数になりそうだと実感した。そのときは、剥がす駒は鯨鯢と白駒の2種類を上辺と下辺に 交互に置いただけのシンプルな図で1600手台となっていた。その後、剥がす駒を増やして効率的に並べる作業に時間 がかかった。剥がす駒を鯨鯢、白駒以外のものを置くとき、どうしても交換の為の駒(本局では、1二飛牛、 1五ちょろ角など)を置かなくてはならない。 即ち鯨鯢、白駒なら馬鋸でそのまま取れるが、例えば4一飛車を取るときは4二ちょろ角 同飛車 同馬とワンクッション おかないと取れない。こうした交換の為の駒は他と干渉させないように置き方をうまくやらないと余詰が生じてしまう。 そうしたところが最も苦労した点である。

作品名「摩天楼」は、竪行(成銀)の縦追いを超高層ビルのエレベーターに見立てたことと、2769手という長手数自体をも 表している。しかし、この摩天楼は決してこの高さが限界というわけではないのだ。まだまだ新たな摩天楼が 出現することは充分可能と私は見ている。これで終わりではなく、これは新たなスタートラインと認識している。