チェスプロブレム名作のページ


私が独断で選んだチェスプロブレムの名作を紹介します。(※注意)このページの作品は私の作品ではありません。また、ナイトはSでなくNで表記しています。


名作紹介1(2022年10月1日)

Andre Caresmel Themes-64 1963, 1st prize #2
1963年に発表されたフランスのAndre Caresmel という方の作品。

a) diagram
b) after the key


名作紹介1 a)の手順解説
まず、黒の手番としてどんな手段があるかセットプレイを探ってみよう。
1..exd6 2.exd6#
1..Nf6 2.exf6#
1..Nd5 2.Qf5#
1..other 2.Qc4#
ほう、黒の全着手に対して、明確な詰みがあるではないか。ということは、上記の詰形を担保した形で待ちの一手を指せばよいのか? そう考えて、Kd8かKc7かと考えてみる。
ところが、
1.Kd8? Nc6+!
1.Kc7? Nd5+!
いずれも逆王手で逃れているではないか?また、Qf3、Bg7、Rf7、Nb7、Ne8、Nf7、Nf5も有力だが
1.Qf3?(次にQf7#狙い) Nf6!
1.Bg7? exd6!
1.Rf7? exd6!
1.Nb7?(次にNd8#狙い) Nc6!
1.Ne8?(次にNc7#狙い) Nd5!
1.Nf7?(次にNd8#狙い) Nc6!(・・因みにh6の黒ポーンはこの後のNg5で詰む順を消している)
これらは何れも黒は唯一の手段で逃れている。Nf5の場合は
1.Nf5?(次にNd4#狙い) Nc2 又は Nc6 のいずれかで逃れる。

正解は、Qb7!!。 ちょっと待って、それだと先程のセットプレイの順が全て成立しなくなるのではないか?ところが・・・
1..exd6 2.Qf7#
1..Nf6 2.Re76#
1..Nd5 2.Qd7#
1..other 2.Qd3#
詰んでいる。先程の白の最終手が全て違う着手に変化している!
本局の狙いを整理すると、
@白の一手目キームーブの有力な紛れ筋が8個もあり、唯一の逃れ手順が存在する。
Aキームーブに対する黒の可能な着手はキームーブを指す前(セットプレイ)と指した後で全く同じものだけが存在する。
B白の最終手がセットプレイに対する手と全て異なる(チェンジメイト)
こんな構成の作品はその他に例があるのだろうか? 簡単に作れるものではないだろう。
※尚、黒a6ポーンがないと、1.Nb5 で如何なる黒の応手に対しても次にNc7かNd4が受からない。
※また、黒h5ポーンがないと、1.Qc4+ Nd5 2.Qg4# の余詰が成立する。

名作紹介1 b)の手順解説
更に驚くべきことは、a)の白の初手を指した局面そのものがまた別の作品になっていることだ。
a)の白の初手は、所謂ツークツワンクで直接詰みを狙っていない待ちの一手である。 普通の詰将棋の場合、初手を指した局面が別の作品になっているなんてあり得ない。 何故なら普通の詰将棋では、必ず王手をしなければいけないので、王手放置の反則局面となってしまうからである。
b)の正解手順は、初手Qe4!。なんと最初の形に戻ってしまったではないか!
1..exd6 2.exd6#
1..Nf6 2.exf6#
1..Nd5 2.Qf5#
1..other 2.Qc4#
最初の形のセットプレイの手順がそのまま本手順になってしまう。 そして、最初の形の本手順がセットプレイ手順に入れ替わってしまう。 このように、本局の場合、永遠に白の手番だとするとQb7とQe4を繰り返すことになる。 このような構成を永続モバイル(perpetuum mobile)と呼ぶそうだ。

本局は、全着手チェンジメイト永続モバイルを実現し、1963年の創作コンクールで最優秀作となった。
この作品が2手メイト中の最高傑作であるのかは不明だ。しかし、私が今迄見た中では最も素晴らしい作品だと思っている。

名作紹介2(2023年01月1日)

Wolfgang Pauly Chemnitzer Tageblatt 1927 #3
1927年に発表されたルーマニア人のWolfgang Pauly という方の作品。名作紹介1の3手バージョンと言ったところ。

a) diagram
b) after the key


名作紹介2 a)の手順解説
黒のセットプレイでは、ポーンを動かすしかない。 その場合、
1..e2 2.Ne4 d1Q/R/B/N 3.Ng3#
従って、白はルークを動かして手待ちをするが、
1.Rc1? e2 2.Nb1 はステイルメイトで失敗。
1.Rb1? e2 2.Nd1 exd1Qで失敗。
正解は、
1.Ra1!! e2 2.Nb1! Nc2/Nd3/Nf3/Ng2 3.Nd2#
初手、Ra1と最遠移動が絶妙手。これに次のNb1がルークの横効きを遮り黒のナイトを動かせるようにしてステイルメイトを回避する。 チェスプロブレムの世界では「インドの主題」と呼ばれる。 詰将棋ではこれと似た感覚の手筋で味方の駒を遮ることで打歩詰を回避する「ブルータス手筋」と呼ばれるものがある。
2手目と3手目の白の着手は、セットプレイでは、C3にいたナイトが、Ne4→Ng3と動くが、 本手順ではNb1→Nd2と全く異なる動きを見せる。即ちチェンジメイトとなる。

名作紹介2 b)の手順解説
先程のセットプレイと本手順がそっくり入れ替わる。
セットプレイ
1... e2 2.Nb1 Nc2/Nd3/Nf3/Ng2 3.Nd2#
本手順
1.Rd1! e2 2.Ne4 d1Q/R/B/N 3.Ng3#
これは、白の手番が続く限り、Ra1とRd1を永久に繰り返す、永続モバイルとなる。 簡潔な配置で、インドの主題、チェンジメイト、永続モバイルを表現した3手メイトの傑作である。