巷では、「借りたカネは返すな」などという本がベストセラーになっているらしい。 返せない借金は貸した側にもの責任がある、裁判で訴えられたら3千円なら払えますと言え、などと 借金を返さなくてよい方法を伝授しているらしい。新聞広告で本の要点を読んだが、とても金を 出してまで読む気になれない。 何言ってやがるという気持ちである。
借りる者の論理から言えば、金を借りる者は弱者の立場であり、貸した金を返してもらえなかった 場合は、貸した側にも責任があるのだと言う。 だが、金を借りた側の人間は、借りることによって、マンション、ブランド衣料、車などそれなりの 見返りがあるはずだ。 それに、金を借りるという行為自体、収入が多いとか、社会的信用があるとか強い立場の個人や組織 でないと借りることさえできないはずだ。 それなのに、そうした金を返さないとは、とんでもない話である。 私に言わせれば、「借りた金は返すな」は強者の論理以外の何物でもない。
何年か前、某消費者金融が、金を返せない顧客に対して、「目ん玉を売れ」「腎臓を売れ」 「自殺して保険金で金払え」などと脅して大問題になった。何ともおぞましく許せない言動行為である。 この会社は違法な率の金利でお金を貸し付けるなど商売のやり方としても違法であった。 しかし、こうした荒々しい言動や、違法な金利ということを抜きに考えると、単に契約の上でお金を借りた者 と貸した者がいて、貸した者が借りた者にお金を返してくださいと言ったに過ぎない。 貸す者に対する自己責任ばかりをクローズアップして、借りる者の責任を曖昧にすることは危険である。
ともあれ、こうしたことが、個人というレベルならまだマシである。六百何十兆という莫大な借金を抱えた 国家が、同じように借りた金を返さなかったら誰が責任を取るというのだ。現に政府は、インフレ目標を設定 しようとしたり、銀行にペイオフを生保に予定利率の引き下げをさせようとしたり、掟破りの政策を次々打ち 出そうとしている。最も責任の重い企業経営者の立場の人間を守ろうとし、その一方でその下で働く人を リストラするなど日本の社会体質は異常としか思えない。 それならむしろ、借りた金を返せない個人や組織は、臓器を売ってでも返させるような社会の方が健全で あるように思う。(決してお勧めではないが)
現在の日本は、深刻な不況で改革も思うように進んでいない。その根本原因は、消費者が金をけちって 消費に回さなくなったからではない。バブルに浮かれて無謀な借金を重ねた個人や企業がバブル崩壊後、 借金を返さなくなったことが一番大きな原因である。そうして、そのような風潮を助長するようなメディア、 書籍の発行者こそ一番の張本人と言わざる得ない。