原発の震災対策急務

野上 純与(『神奈川新聞』1998年9/23『提言箱』掲載)


 今年(1998年)は、関東大震災から75年目にあたる。
 その関東大震災の発生は、1905年に今村明恒が統計学的手法を用いて予知していた。しかし、その予知は活用されることなく、悲惨な関東大震災を招いた。

 現在、プレートテクニクスの理論により、プレートの活動としての地震の発生を中・長期的に予知することが可能となり、いま発生期にある地震として、神奈川県西部地震東海巨大地震が指摘されている。
 これらの地震の災害を自然災害にとどめ、人災を防止することが防災の基本である。
 とりわけ、東海巨大地震の震源域にある浜岡原子力発電所の防災対策は急務である。

 その東海巨大地震の震源域は、駿河トラフに沿う南北120キロ、東西50キロの範囲で、石橋克彦神戸大学教授の説によれば、マグニチュード7〜7.5クラスの地震が連発する多重震源からなるとされており、そこにある浜岡原子力発電所の基盤は、河原を斜めに重ねるように押しつけられた、海底堆積物からなる軟岩とされている。
 ともに剛構造の浜岡原子力発電所が破壊されやすい条件といえよう。

 また、東海巨大地震の地動の加速度が700ガル以上とされるのに対し、浜岡原子力発電所の原子炉が耐え得る地動の加速度は600ガル以下である。
 海水系配管を含む配管構造の末端部やコンピューターシステムの破壊が原子炉の冷却系に機能不全をもたらした場合、核暴走や炉心溶融を招き、放射性物質が環境へ放出されるおそれがある。

 大昔、富士・箱根・熱海火山の噴火による火山灰が偏西風で運ばれ、関東地方南部に降り積もり、関東ロームと呼ばれる赤土の地層を形成したように、放射性物質が関東地方南部を覆い、チェルノブイリ事故以上の災害を招く可能性もあろう。
 東海巨大地震の震災を決して「原発震災」にしてはならない。


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