野上 純与(『神奈川新聞』2001年3/21『提言箱』掲載)
昨年の6回に及ぶ地震予知連絡会の議論から、神奈川県西部地震、東海巨大地震、南海巨大地震の発生が2年以内に切迫していると予測できる。 南関東地域、東海地域に現れている地震活動の静穏化、昨年6月以来の三宅島火山の火山活動、新島・神津島周辺におけるマグニチュード6クラスの群発地震の発生は、神奈川県西部地震の短期的前兆、東海巨大地震の中期的前兆である可能性が極めて高い。 そして昨年10月、東海巨大地震の震源域に含まれる御前崎地方に現れた隆起の地殻変動は、東海地域の地震活動が静穏期から活動期へ移行しつつあることを示している。 東海巨大地震と歴史的に二元地震を形成する南海巨大地震も、すでに静穏期から活動期へ移行したことが、鳥取県西部地震の発生で確認された。 これらの地震がもたらすおもな震災は、地盤災害、自動車災害、津波災害であり、とくに東海巨大地震の震災は原子力災害を伴う可能性があることを特徴とする。 地震災害としては、緑地を破壊して開発した山地、丘陵、台地の斜面崩壊、河川流域の低地や海岸の埋め立て地での液状化地盤の流動、地割れや地滑りによる道路・建造物の破壊、などがある。 自動車災害としては、運動機能の不全による自動車の衝突事故と、それによる火災の発生などがあり、自動車火災が道路火災から沿道地域火災へと拡大する可能性もある。 最も懸念されるのは、東海巨大地震の震源域にある静岡県浜岡町の浜岡原子力発電所の海水系配管を含む冷却機能不全による核暴走や炉心溶融であり、それに伴う放射性物質の環境への拡散であろう。 神奈川県西部地震、東海巨大地震、南海巨大地震の防災の取り組みは、地震発生の直前になってからでは遅い。 今年を防災強化の年として取り組み、原発震災を含む人災を防止して、震災を自然災害にとどめる事前の防災努力を強化することが急務である。
日本の原子力発電所の分布 図中の円は、瀬尾健氏による予測で、 浜岡3号炉が炉心溶融を起こした場合の風下の長期的避難領域。 Aはチェルノブイリ事故で旧ソ連が設定した基準、 Bは白ロシア共和国が設定した基準による。