徒然エッセイ

(1)弁と辯と瓣と辨と辮

 ベンベンベンベンベンと、三味線ではなくて漢字の話です。
 タイトルの五つの漢字は全て”べん”と読みます(フォントがつぶれて区別がつかない場合はフォントのサイズを大きくして下さい)。”弁”の漢字は普通に使われていて、弁護士や弁理士、花弁、弁髪などの単語にも使われています。ところがこの四つの単語にはもともと違う”べん”という漢字が使われていました。辯護士、辨理士、花瓣、辮髪です。
 ずいぶん以前に和本で”単騎要略製作辨”[文化十年(1814)村井昌弘著]という書物を買った。五巻一冊で甲冑の制作方法を記した書物です。
 わたしは、この”辨”という漢字を弁護士の”辯”だと思い込み、弁ずると言う意味で”甲冑製作著述”というように捉えていた。恥ずかしい話だけれど、私はこの”辨”が処理を意味し、本のタイトルが”甲冑製作法”を意味するということに最近まで気がつかなかった。

 辯−>言葉で物事を分かつ(処理する)、弁ずる、弁護士、弁士
 瓣−>瓜の二つに割れた中身、花弁、バルブの弁
 辨−>論理で物事を分かつ(処理する)、弁理士、弁官
 辮−>分かれている物を編むこと、弁髪

 この四つの”べん”は漢字の成立が同系で、二つに分ける、分かれたもの、分かれたものをつなげる、から来ている。

 弁−>かんむりの意味

 ”弁”という漢字は人が冠をかぶる形から来ている。

 現在は、”辯瓣辨辮”が全て”弁”というもともと成立の違う漢字で統合されている。もともと違う意味の漢字を一種類にすることの是非は難しい問題だけど、状況によってはややこしい問題になる。漢字は表意文字だからあまり文字数を減らすと伝わりにくくなるような気がするけど。みなさんどう思います?
 弁と辯と瓣と辨と辮。ああ、ややこしい。ちなみに”辧”という文字と”辛”+”方”+”辛”もありますが”辨”の異体字なんで両方とも同じ意味です。