二千三年 六十句
半分は寒さからなる叔気かな
交流と直流のある冬の恋
山眠らせぬほどの愛を囁け
襟足につむじ渦巻く冬銀河
確かなる寝言の後の夜半の冬
飛んでけと言へば飛び行く母の風邪
妹を率ゐて進む霜柱
鬼を食ふ夜の深みの焚火かな
節分の夜の隅々の蠢けり
豆を撒く思ひの外の間取かな
立春の弓なりさらに大八洲
靴下のあらき編目や猫の恋
副題のあまりに長き春の宵
宅配のピザほどもある春の穴
心地よき春昼といふ子音かな
春菊の菊でありしを見てしまふ
不随意な春雨のある春灯
進化する春のマスクのはづかしき
春昼や影より来たるモノレール
春の灯の等間隔に延びる河
象牙より分厚き白や白木蓮
みな電話かけつつ渡る春の道
姑娘の言葉あやしき三鬼の忌
川面ごとしづかに滑る花の屑
旗竿に金の玉ある虚子忌かな
先生は教室ごとにさみだるる
さみだれや磁石の色のウルトラマン
毎日が亀の万年みどりの夜
背の高きOL我に夏を告ぐ
橋脚に蠣殻夏の海近し
少年に困難多し夏の浜
水遊びやがて火遊び島ぐるみ
側溝に素麺の赤流れけり
蝮ゐる山しづかなる授業かな
病室の隅に病気の洗面器
縁側のまちまちに反る端居かな
四天王協力しあふ端居かな
OLと植木に当たる西日かな
香水の香もあらたなる打刻かな
木馬など止まりてじつと花火待つ
犬印鞄製作所に晩夏
行く夏や東口には聖橋
鉄亜鈴のやうなものにて剥がす夏
流星が浅きところを行きにけり
竹筒に桔梗を挿して恋深し
再生の三角右を向く九月
勝つてゐる間に増える鰯雲
境内を直角に折れ秋暑し
しづかなる日陰を構へ秋の駅
急行を待つ間の釣瓶落しかな
月光を柿の木坂の貫けり
己が身でなきごと舐める秋の猫
一筆の二十一金きりぎりす
恋人と小学生と小鳥来る
長き夜を砂丘のやうに横たはる
四つ足で狸の走る夜長かな
身の丈のマフラーを編み燃え尽きる
八手にも麒麟の耳のありにけり
昆虫の混ざつてゐたる神送り
枯野より枯野の色のもの舞へり
俳句目次に戻る
トップページに戻る