二千一年 七十句

 

晴天に電波みなぎる淑気かな

おそろしき挿絵のアリス日脚伸ぶ

べたべたとねばねばとある寒の花

入り口に近くて寒き出口かな

点々と盛り塩ほどに雪残る

大阪のジェット機重き冬旱

電線の終はる電信柱かな

武蔵野の赤土のあか馬歩む

石となるかなしみ多き遅日かな

石膏のおつぱい黒し鳥曇

発語する春のひらがなふつふつと

本妻といふまでもなき朧かな

法脈は節くれ立てり花の昼

磨かれし黒き車や金鳳華

上海となるまで水のぬるみけり

あをあをと瞳に窒素ゆきわたる

西向きに乳房を並べ青き踏む

自動車といふ人とゐる暮春かな

犬掻きの手足短き夏来る

よのはてはしやがあるのあをなつきたる

注連縄をしづかに濡らし薬降る

あなたにもはじめは消せる梅雨の闇

梅雨闇や攀ぢ登りたるかに道楽

四合瓶逆さに握る五月闇

梅雨寒やシナントロプスしなだるる

玉虫も玉虫色と言はれけり

長編に青き紐あり六月尽

夏帯をきりりと締めて麒麟かな

勾配や夏に買ふから夏帽子

ゆつくりと浮名を流す金魚かな

髪洗ふ脳に回路のできるまで

水および闇の深さを盗みけり

四次元と神隠しある夏の庭

夏痩せの及ばぬ場所に埋もれり

梅干の種の毛穴を舐めつくす

短夜やおまへくノ一だつたのか

犬・少女・雲を夏野に配置する

二箇所から蛇の出てゐる真昼かな

ひとつめの水着の跡は恋のあと

家族みな向日葵となる水平線

空中のもつれてゐたる野分かな

たましひの前も後ろも野分かな

皇帝の最初の和音秋の恋

稲妻の人差指を握りけり

衛星の名は居待月譜をめくる

天高き悲鳴係の休暇かな

腕のかず次第にふえて秋の歌

転々と天下の秋の捕逸かな

邯鄲の山くろぐろと暮れにけり

秋の夜の辞書の箱には辞書の箱

無呼吸で泳ぐ三途の川しづか

一のつく酒なめらかに夜長かな

長き夜の身のほど知らぬ除光液

惑溺や無花果らしき輸入ジャム

静脈の多き人なり藤袴

痛いほど空気の澄んで子規忌かな

ダーリンに電気の残る夜食かな

縁談の大き写真や秋灯

長き夜の身なり正しき日記かな

現るる悦び青き衣被

回転と似たる辛抱小鳥来る

告白のための高きに登りけり

結界もたなびいてゐる秋の暮

自転車も秋の灯しのひとつかな

犬となる夜のいきもの秋深し

抱擁は寒しナイロンの%ほど

冬の夜の石で受けたる電波かな

しんしんと神の留守なる誕生日

安全の水たひらかにかいつぶり

鎌鼬好みのふくらはぎ並ぶ

 

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