二千年 七十句

 

球根の根はによろによろと寝正月

御雑煮を流し込みたる骨のひび

ひよつとこの口にてとめる息久し

とりあへずそのかほをせり福笑ひ

薬缶にて命注げり枯芝生

巡礼や累々とカンガルーの父

点滴の液の丸みや日脚伸ぶ

相談者泣きをるラジオ日脚伸ぶ

暖冬の彼女と歩く順路かな

恋猫を操る星の異変かな

蛇行する列車の箱や寒の入り

穴々に無窮カノンの涌き出づる

薄氷に日の当たるまで手紙書く

青木の実より家の裏始まれり

ガムテープ鋏で切りて落椿

引越の助手席にをり鳥曇

春の夜のサウンドトラックに科白

始まりと終はりなき日や雛祭

春昼や土手の角度に蔑めり

中年やこれまで食つた桜餅

葉桜や闇ならしむるぬるきもの

白鳥型廃船あたりまで漕げり

日の丸の余白はためく春の昼

行く春や盗賊なべて伊達男

春光や礼服で読むスポーツ紙

海市立つ無言電話の無言かな

これあげるみんなあげるわ夏帽子

梅雨寒や色とりどりの試し書き

安静は蟇の始まり蟇となる

かほ隠すための黒髪さみだるる

伝染の笑ひ翡翠まつしぐら

夏の日の地雷に負ける戦車かな

梅雨闇に練馬の犬は増えにけり

左手と右手を使ふ磁力かな

露地ものの赤血球の巡るなり

刻々と拡がる畑の西瓜番

鼻唄や冷せし馬の乾く頃

アイロンの折り目正しき夏至の夜

白玉の穢れを拭ふ舌長し

おそろしき牛乳の白さみだるる

桜桃の種を吐くとき力士の手

裏返る地球のかたち金魚玉

ハンガーをぐにやりと曲げて夏衣

テイチクのテイのあたりを馬走る

黄道に二子山部屋ありて重し

東大の時計正しき夕薄暑

サージェントペパーズロンリーハーツクラブバンド右から左から

緑陰やYOKO ONOにはO多し

夏の夜の0ひとつある電話かな

籐椅子のかずエマニエル夫人かな

青銅のひと青銅の馬冷す

夢の世の黒電話鳴る星祭

濃き酒はぎらりと澄めり夏の月

炎帝や右往大臣左往大臣

靴紐のしきりにほどけ草の花

二軒目を出て同じ月まう一軒

ハードルをつぎつぎ倒す人でした

転轍機しづかに濡るる後の月

おほかたは液体である秋思かな

長き夜を二階のひとの揺らしをり

いちにちの終はりの五分秋深し

ソナチネの指のもつれも秋のこゑ

水着濡れ海豚の艶となりにけり

猫走り猫の音追ふ神の留守

にんげんの倍の数あるブーツかな

冬蝿を払ひて昼のプレゼント

マーガリンほどの固さの小春かな

寒鯉の影定まれる水の底

パルコある坂を昇りて冬に出る

時雨るるや肺呼吸する半魚人

 

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