2012 秋
遠藤治

颱風の睫の先の速さかな
先頭の動物に乗り秋澄めり
少年の頃から月につながれて
肉球にふれては母の秋思かな
あたらしき有刺鉄線ねこじやらし
秋の日のそつくり渡す余生かな
睫ごとはずす恋慕や星月夜
鰡はねる運河さびしき火星かな
滑らかにひとの片づく十三夜
風呂敷と商売たたむ菊日和
場慣れした男あらはれ鰯雲
調律の耳のかたちの石榴かな
鶏頭花まで忍び寄る森の手足
引力の秋となりゆく自在鉤
灯台の動かしてゐる夜霧かな

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