2010 春
遠藤治

立春と口に出したる少女かな
宙を切る春の舳先のぐんぐんと
しばらくは種物となり夢を見る
徒歩ならば春昼叫ぶなら未来
嘴のつぶやいてゐる春の鴨
どの木々もよぢれをほどく春の池
空せまき坂の花街涅槃西風
花街の果て縄飛びの日永かな
小肥りのあにいもうとや桃の花
中庭を結界として初ざくら
春なれや坂の途中の池しづか
救心の看板のある春の坂
朧夜のトマトの酒の無色かな
飛花としてあらゆるものの舞ひにけり
地を這へる藤に集める花の色
行春の水底に置く我等の影
花と呼ぶ異形の揺れてゐたるかな

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