２００９　秋
遠藤治

風に揺れ貴人に似たる糸瓜かな
蟻に似た葡萄を持つてをんな来る
放たれてまづ考へる囮かな
奉納の相撲大樹に囲まれて
均整を心がけたる案山子かな
麦飯にとろろかければ決壊す
自転車の籠に落蝉生きてをり
たくさんの牛を並べて秋祭
干瓢のまはしに似たる秋彼岸
晴れの日を集めて秋の日と呼べり
お台場に渡るくらゐの秋の航
秋の日の真水に沈む犀のゐて
旅慣れた人ひとりゐて紅葉かな
饅頭で暖をとりたる紅葉かな
金庫から這ひ出してくる秋の蜘蛛
時に鳴る廃墟の秋の電話かな
鳥居から始まる秋の登山口
狐狸祀る薄暗がりの石榴かな

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