2008 夏
遠藤治

蟻穴の土から乾く立夏かな
脛ながき棕櫚の高きに花しづか
はつなつの口唇期なる池の鯉
立夏なほ行き遅れたる椿かな
池々に高低のある立夏かな
薔薇よりも薔薇の名札を目で追へり
行春や陛下の苑は学者の苑
タオル蒸す瓦斯の火あかき五月雨
さみだれや駅から見える囲碁クラブ
円柱の下着広告梅雨ふかし
白南風や二十世紀の脚線美
炎天を水田のごとくやり過ごす
きらきらと人体といふ水泥棒
夏料理攪拌すれば沈殿す
夕立の降りつくすまで降りにけり
ちやうちんにむづかしき字や御祭禮
背の高きなりで夜を待つ浴衣かな
その金魚醜名によりて悠然と
夜といふ片蔭のある星に寝る
呼び交はす毛虫赤塚不二夫逝く

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