新審判決紹介116
 
              21世紀知的財産権研究会
            (略称 IPRI、旧知的所有権研究会)
 

〔映画の著作権〕
 論点 1.映画の著作権とは、
 論点 2.テレビゲーム用ソフト映画の著作権に該当するか
 論点 3.テレビゲーム用ソフトの中古品の販売は適法か
    (東京地裁平成10年(ワ)第2256号、同11年5月27日
     判決、判時1679号3頁
     大阪地裁平成10年(ワ)第6979号、9774号事件
     インターネット
 
 
1.はじめに、
 本件は、テレビゲーム用ソフトの中古品販売は適法かについて、東京地裁と大阪地裁とが異なる判断をしたことについて、新聞誌上を賑した事件についての判決紹介である。
2.東京地裁の事件
2−1 Yは、コンピーターソフトの企画、開発、製造・販売を業とする株式会社であり、本件各ゲームソフトの著作権を有している。
 A Xはゲームソフト等の玩具の販売等を業とする株式会社であり、本件各ゲームソフトは家庭用テレビゲーム機「プレイステーション」用のソフトであり、CD−ROMに収録されている。
 「プレイステーション」は、本体とこれに接続されるコントローラーより構成され、使用時には、本体をAVケーブルによりテレビ受信機と接続し、本体内にゲームソフトの収録されたCD−ROMを装填している。
 プレイヤーがコントローラ上に設けたボタン等を操作すると、これに従って、CD−ROMに収録されたプログラムに基づき、影像データ及び音声データが出力され、テレビ受像機の画面(CRTディスプレイ)上に影像が表示されるとともに、スピーカーから音声が発される。
 このように影像、音声の内容は、コントローラーの操作によって、決定されるため、同一のゲームソフトを使用しても、プレイヤーによるコントローラーの具体的な操作に応じて、画面上に表示される具体的な影像やスピーカーから発せられる音声の内容は、各回のプレイごと異なる。
B XはYを発売元として適法に販売され、小売店を介して需要者により購入された本件各ゲームソフトについてこれを購入者から買い入れた上、中古品として販売している。
2−2 判決
 1  著作権法における「映画の著作物」の意義
  ア 著作権法は、「映画の著作物」(10条1項7号)に関して、明確な定義規定を置いていない。著作権法2条3項には「この法律にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。」とされ、右のような著作物が「映画の著作物」に含まれることが規定されているが、ここでは「映画」の語が所与の概念として位置付けられているほか、具体的に何が右著作物に該当するかも条文上明確にされていない。したがって、著作権法という「映画の著作物」がどのようなものを指すかは、「映画の著作物」に関する同法の各規定を総合的に考察して決するほかないというべきである。
    著作権法上、「映画の著作物」については、著作者の範囲(16条)、著作権の帰属(29条)及び著作権の保護期間(54条)に関する規定が置かれているほか、その利用に関する権利として上映権及び頒布権(26条)が規定されている。
    すなわち、映画の著作物については、著作物一般につい
て認められている権利である複製権(21条)、公衆送信権等(23条)、翻訳権・翻案権等(27条)及び二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条)に加えて、特有の権利として上映権及び頒布権(26条)が認められている。このうち、上映権は、映画の著作物を公衆に提示する形態で利用する権利であり、上演権、演奏権など他の著作物において認められている無形的な著作物の利用に関する権利に対応するものである。
  イ 頒布権は、複製物の譲渡又は貸与に関する権利として映画の著作物のみについて認められているものであり、公衆への譲渡又は貸与のみならず、公衆への提示(上映)を目的として複製物の譲渡又は貸与を行うことも、これに含まれるものとされている(2条1項19号)。 
    著作権法が映画の著作物のみに右のような頒布権を認めた趣旨につき考察するに、右規定は、ベルヌ条約のブラッセル改正規定が映画の著作物について頒布権を認めていたことから、条約上の義務履行として設けられたものであるが、実質的には、劇場用映画における次のような特殊性を考慮したことによるものである。
    すなわち、劇場用映画は、オリジナル・フィルムを基にして複製されたプリント・フィルムを映画館において上映し、映し出される視聴覚的表現を一度に多数の観客に鑑賞させるという形態で利用されるものである。それ故に、劇場用映画においては、個々の複製物が、右のような上映による多額の収益(入場料収入)を生み出すという意味で、高い経済的価値を有することになり、また、他の著作物のように多数の複製物が需要者たる公衆に直接販売されるという流通形態をとらず、少数の複製物が専ら映画製作会社・映画配給会社と映画館経営者との間での取引によって流通することになる。実際、映画製作には巨額の資金が必要であり、映画製作会社・映画配給会社は、プリント・フィルムを映画館経営者に貸し渡しにとどめ、上映期間が終わったら貸し渡したプリント・フィルムを返却させたり、映画製作会社・映画配給会社の指示の下に別の映画館に引き継がせるなどの方法を通じてプリント・フィルムの流通をコントロールするという、いわゆる配給制度を通じて、興行収益を見越して上映の地域的な範囲・順序や期間などを戦略的に決定することで、投下した資金の回収を行ってきたという社会的な実態が存在した。著作権法は、劇場用映画の右のような利用形態、個々の複製物が持つ経済的価値及びその流通形態の特殊性を考慮し、映画製作者が劇場用映画の製作に投下した資本の回収を図る利益を保護する上で、複製物の流通全般をコントロールし得る地位を保障することが適当であり、かつ、これを映画製作会社・映画配給会社と映画館経営者の間の債権契約のみに委ねることでは不十分であって、著作権者に排他性のある物権的な権利を付与することが相当であり、他方、右流通実態からすれば、右のような権利を認めたとしても、商品の流通を不当に阻害することにはならないとの立法政策的な判断から、映画の著作物のみについて、前記のような内容の頒布権を認めたものというべきであり、それ以外には映画の著作物のみに頒布権を認めるべき実質的根拠を見出すことはできない。
    右のとおり、頒布権は、劇場用映画フィルムの配給制度という社会的な取引の実態と映画プリントの経済的価値に着目して、その行き先を指定する権利として認められたものであるが、映画の著作物に関する著作権法の他の規定、すなわち著作者の範囲(16条)、著作権の帰属(29条)及び著作権の保護期間(54条)に関する規定も、また、権利の集中化と保護期間の明確化により、劇場用映画の利用について専ら映画製作者が右のような配給制度を通じて権利行使する上で、円滑な権利処理が行われることを企図して設けられたものということができる。
  ウ ところで、「映画の著作物」たり得るためには、著作権法の定める著作物としての基本的要件を満たすこと、すなわち「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の分野に属するもの」(2条1項1号)であることを要する。
    劇場用映画が著作物性の要件を満たすのは、カメラ・ワークの工夫、モンタージュあるいはカット等の手法、フィルム編集などの知的な活動を通じて、その構図等において創作的工夫に係る影像を作成し、これを選択して一定の順序で組み合わせ、音声をシンクロナイズすることによって、映面フィルムが作成され、これを上映することによって一定の思想又は感情の表現としての連続した影像及びこれに伴う音声がもたらされるためである。
    そして、右映画フィルムの複製物たるプリント・フィルムを上映することによって、オリジナル・フィルムにおけるのと同一の画面が同一の順序で音声と共にもたらされることから、複数のプリント・フィルムを多数の映画館において上映することを通じて、それぞれの映画館における観客は、時間的・空間的な隔たりを超えて同一の思想・感情の表現としての同一の視聴覚的効果を享受することができることになる。
  エ 右のとおり、劇場用映画においては、思想・感情の創作的表現は、フィルム編集等の行為を通じて一定の内容の影像を選択し、これを一定の順序で組み合わせることにより行われるものであり、複製物たるプリント・フィルムを上映することにより常に同一内容の連続影像がもたらされることで、広範な地域における多数の映画館での上映を通じて膨大な数の観客に対して、同一の思想・感情の表現を伝達することが可能となっている。すなわち、複製物たるプリント・フィルムにより同一内容の連続影像が常に再現可能であることが、劇場用映画フィルムの配給制度の前提となっているものということができる。そして、前記のとおり、「映画の著作物」に関する著作権法の規定が、いずれも、劇場用映画の利用について映画製作者による配給制度を通じての円滑な権利行使を可能とすることを企図して設けられたものであることを併せ考えると、著作権法は、多数の映画館での上映を通じて多数の観客に対して思想・感情の表現としての同一の視聴覚的効果を与えることが可能であるという、劇場用映画の特徴を備えた著作物を、「映画の著作物」として想定しているものと解するのが相当である。
    そうすると、著作権法上の「映画の著作物」といい得るためには、A当該著作物が、一定の内容の影像を選択し、これを一定の順序で組み合わせることにより思想・感情を表現するものであって、B当該著作物物ないしその複製物を用いることにより、同一の連続影像が常に再現される(常に同一内容の影像が同一の順序によりもたらされる)ものであることを、要するというベきである。
 2 本件各ゲームソフトの「映画の著作物」該当性
  ア 本件各ゲームソフトは家庭用テレビゲーム機「プレイステーション」用のゲームソフトであるところ、これらは、プレイステーション本体にゲームソフトの収録されているCD−ROMを装填し、プレイヤーがコントローラ上に設けられたボタン等を操作することによってCD−ROMに収録されたプログラムに基づき影像データ及び音声データが出力され、ゲーム機本体とAVケーブルで接続されたテレビ受像機の画面(CRTディスプレイ)上に影像が表示されるとともに、スピーカーから音声が発されるというものであり、表示される影像の内容及びその順序はコントローラの操作により決定されるため、同一のゲームソフトを使用しても、プレイヤーによるコントローラの具体的な操作に応じて、画面上に表示される影像の内容や順序は、各回のプレイごとに異なるものとなる。そうすると、本件各ゲームソフトにおいては、プレイヤーの操作に従って画面上に連続して表われる影像をもって直ちにゲーム著作者の思想・感情の表現ということができないのみならず、画面上に表示される具体的な影像の内容及び表示される順序が一定のものとして固定されているということもできないのであって、これらの点において、「映画の著作物」たり得るための前記の各要件を満たさない。すなわち、本件各ゲームソフトにおいては、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表わされた著作者の思想又は感情の表現が存在せず、また、右表現が物に固定されているということもできないから、著作権法2条3項にいう「映画の著作物」に該当しないものと解される。そして、右判断は、次のイウに述べる点からも、首肯できるものである。
イ すなわち、本件ゲームソフトにおいては、CD−ROMにより提供されているのは、一定の内容・順序に従ってあらかじめ配列された連続影像ではなく、一種の素材としての多様な影像の集合であり、プレイヤーの操作により、影像が選択され、表示の順序が決定されて、初めて、画面に表示される具体的な連続影像が定まるのである。そこでは、プレイヤーによる影像の選択・配列の可能性は無限ではなく、CD−ROMに収録されている影像の範囲内において行われるものであり、プレイヤーがゲーム機の操作を通じて画面上に表示される影像を変化させることのできる範囲にも一定の限界があるが(その範囲はゲームソフトによって異なり、一般的にいえば、碁、将棋、麻雀などのボードゲームやシュミレーションゲームの分野においてはプレイヤーの意思により影像を変化させることのできる範囲が大きく、これに対して、アクションゲーム、シューティングゲーム等の分野においては、その範囲は小さい。)、いずれにしてもゲーム全体としての一連の連続影像はプレイヤーの操作を待って初めて決定されるものであり、それ以前に、ゲーム著作者自身の編集行為ないしそれに準ずる選択・配列行為により思想・感情の表現としての最終的な連続影像が一義的に決定されているものではない。なるはど、素材としての断片的な影像であってもそれが思想・感情の創作的表現として著作物たり得る場合もあり得ようが、それは、いうなれば劇場用映画の一場面のスチール写真が著作物たり得るのと同様であり、劇場用映画において冒頭のタイトル部分から最後のエンドマークに至るまでの一連の連続した影像全部が著作者により選択・配列され、一定の思想・感情の表現として観客に提示されるのとは、質的に全く異なるものというべきである。
ウ  本件各ゲームソフトを含め、およそゲームソフトは、劇場用映画のようにあらかじめ決定された一定内容の連続影像と音声的効果を視聴者が所与のものとして一方的に受働的に受け取ることに終始するものではなく、プレイヤーがゲーム機の操作を通じて画面上に表示される影像を自ら選択し、その順序を決定することにより、連続影像と音声的効果を能動的に変化させていくことを本質的な特徴とするものであって、このような能動的な利用方法のため、プレイヤー個々人がそれぞれのゲーム機を操作して個別の画面上にそれぞれ異なった影像を表示するという形態で利用されるものであり、多数人が同一の影像を一度に鑑賞するという利用形態には本質的になじまないものである。現に、ゲームソフトは、多数の複製物を需要者たる公衆に直接販売し、その譲渡の対価を得ることで投下資本を回収するという取引形態がとられているものであって、劇場用映画のように一度の上映を多数の観客に鑑賞させて入場料収入により投下資本を回収することを前提とした、特有の複製物の取引形態は存在しない。また、ゲームソフトの個々の複製物が、劇場用映画の複製物であるプリント・フィルムのように、上映による多額の収益を生み出すという意味で高い経済的価値を有するということもない。
エ 右のとおり、本件各ゲームソフトは、画面上に表示される連続影像が一定の内容及び順序によるものとしてあらかじめ定められているものではないから、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」(著作権法2条3項)に該当するということはできない。したがって、本件各ゲームソフトが著作権法にいう「映画の著作物」に該当するということはできないから、これらが「映画の著作物」に該当することを前提として、これらについて頒布権を有る旨をいうYの主張は失当である。
3.大阪地裁の件
3−1 X外5名はいずれも、ゲームソフトの開発、製造及び販売を目的とする株式会社であり、X外5名は本件ゲームソフト製造し、これらをCD−ROMに収録し、販売している。そして、X外5名はそれぞれのゲームソフトの著作権者である。
  Yは、ゲームソフト中古販売のフランチャイズの運営、育成を業とする株式会社であり、新品のゲームソフトのほか、いったん一般消費者に譲渡され、遊技に供されたゲームソフトを買い入れて中古品として一般公衆に販売するという営業形態のフランチャイズチェーンの運営と育成を行っているZはYのフランチャイジーであり、ゲームソフトのちゅうこ販売を営んでいる。
3−2 判決
3−2−1 映画の著作権について
1 著作権法には、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(2条1項1号)と定義するとともに、「映画の著作物」を著作物の例示として挙げている(10条1項7号)。「映画の著作物」について、著作権法には、著件者の範囲(16条)、著作権の帰属(29条)及び著作権の保護期間(54条)に関する特別が置かれているほか、その利用に関する権利として、他の著作物一般には認められていない上映権及び頒布権(26条)を著作権者が専有する旨の規定が置かれている。また、著作権法は、「映画」の概念の定義については、明示的な規定は置いていないが、「映画の著作物」には、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。」としている(2条3項)。
  右のとおり、著作権法上の「映画の著作物」には、劇場用映画のような本来的な意味の映画以外のものも含まれるが、著作権法の規定に照らすと、映画の著作物として著作権法上の保護を受けるためには、次の要件を満たす必要があると解される。
 ア 映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること(表現方法の要件)
 イ 物に固定されていること(存在形式の要件)
 ウ 著作物であること(内容の要件)
  Yらは、本件各ゲームソフトが映画の著作物であることを争うが、主として右要件のうちのアとイを争うものである。
2 「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」について
 ア 前記のとおり、著作権法は「映画」を所与の概念とし、その定義規定を置いていないところ、映画の一般的な意味(例えば、岩波書店「広辞苑」第5版では「長いフィルム上に連続して撮影した多数の静止画を、映写機で急速に(1秒間15こま以上、普通は24こま)順次投影し、眼の残像現象を利用して動きのある画像として見せるもの」としている。)や、本来的な意味の映画であることが明らかな劇場用映画の表現方法のほか、著作権法か映画の著作物の「上映」について、「著作物を映写幕その他の物に映写することをいい、これに伴って映画の著作物において固定されている音を再生することを含むものとする。」と定義していること(2条1項18号)を考え併せると、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」ているとは、右に述べた「映画」と同様の視覚的又は視聴覚的効果を生じさせるもの、すなわち、多数の静止画像を映写幕、ブラウン管、液晶画面その他の物に急速に連続して順序投影して、眼の残像現象を利用して、「映画」と類似した、動きのある影像として見せるという視覚的効果、又は右に加えて影像に音声をシンクロナイズさせるという視聴覚的効果をもって表現されている表現物をいうものと解するのか相当である。
 イ Yらは、映画の著作物に該当するためには、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法」により「思想又は感情」が表現されていなければならないところ、「映画の著作物」により表現される「思想又は感情」とは、「一本の映画全体を貫く思想又は感情」をいい、当該著作物全体を貫く思想又は感情を視聴者に伝達しない連続影像は映画の著作物とはいえないのであり、ゲームソフトはプレイごとに出現する連続影像が異なるから、右のような意味での連続影像を有さず、映画の著作物には当たらない旨主張する。
   なるほど、「映画の著作物」に該当するためには、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法」により「思想又は感情」が表現されていなければならないが、「映画の著作物」といえるための表現方法の要件としての「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」ていることというのは、その規定の文言から見て、「映画の効果」としてその視覚的又は視聴覚的側面を捉えたものと解するのが自然であり、「映画の著作物」たり得るための表現方法の要件としては、Yらの主張のような意味での連続影像を有しなければならないと解すべき根拠はない。「思想又は感情」が一本の映画全体を貫く思想又は感情をいうとのYらの所論は、表現方法の要件というよりは、むしろ、著作物性の要件に関わる問題というべきであるから、後記4で検討する。
  確かに、劇場用映画においては、カメラワークの工夫、モンタージュやカット等の手法、フィルム編集等の知的な活動を通じて、その構図等において創作的工夫に係る影像を作成し、これを選択して一定の順序で組み合わせ、音声をシンクロナイズすることによって映画フィルムが作成され、これを上映することによって一定の思想又は感情の表現としての連続影像がもたらされるものであり、それ故、映画フィルムの複製物たる複数のプリント・フィルムを多数の映画館において上映することによって、多数の観客に対して、時間的・空間的な隔たりを超えて同一の思想・感情の表現としての同一の視聴覚的効果を与えることが可能である。これに対して、ゲームソフトは、プレイごとにディスプレイ上に具体的に出現する連続影像が異なってくるという違いがある。しかし、後記二の2でも示すとおり、著作権法にいう「映画の著作物」は、本来的な意味での映画である劇場用映画ないし劇場用映画の特質を備えるものに限られるわけではないのであって、劇場用映画に特有な右のような特徴に限定して「映画の著作物」の表現形式上の要件を解釈する必要はない。
 ウ 現在我が国で製造、販売されているゲームソフトにも、影像や音声の面での表現内容には種々のものがあるから、当該ゲームソフトが右にいう「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」た著作物に該当するか否かは、個別具体的に判断すべきものと考えられる。
  そこで、これを本件各ゲームソフトについて検討するに、証拠(検甲1ないし6)によれば、本件各ゲームソフトは、それぞれ、全体が連続的な動画画像からなり、CG(コンピュータ・グラフィックス)を駆使するなどして、動画の影像もリアルな連続的な動きをもったものであり、影像にシンクロナイズされた効果音や背景音楽とも相まって臨場感を高めるなどの工夫がされており、一般の劇場用あるいはテレビ放映用のアニメーション映画に準じるような視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されているといって差し支えない程度のものであることか認められる。したがって、本件各ゲームソフトは、いずれも、著作権法2条3項にいう「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」ているものというのに十分である。
3 固定牲について
 ア 著作権法は、映画の著作物についてのみ、「物に固定されていること」を要件としている。これは、ベルヌ条約2条Bの「もっとも、文学的及び美術的著作物の全体又はその一若しくは二以上の種類について、それらの著作物が物に固定されていない限り保護されないことを定める機能は、同盟国の立法に留保される。」との規定に対応するものと考えられる。
  そこで、右の固定性の要件の意義について検討すると、現行著作権法の制定に先立って、昭和37年から昭和41年にかけて著作権制度の改正について審議した著作権制度審議会において、映画の著作物について担当した第四小委員会は、主にテレビの生放送番組の取扱いを念頭に置いて映画の著作物の固定牲の要件について検討し、昭和40年5月、映画的著作物をその効果、すなわち、影像の連続を感得せしめることによって著作物として機能するという効果のみで捉えることは、現段階では問題が多いと考えられるとした上で、「映画的著作物および映画に類似する方法で得た著作物とは、影像または影像および音の固定物であって、それを用いることによって影像の連続が平面的に再現され得るものと考えることとした。」旨の最終報告を発表し、右の報告の趣旨に沿って映画の著作物に固定牲の要件を必要とする著作権法案が作成され、これが現行著作権法として成立していること、ベルヌ条約のストックホルム改正会議において、放送用映画の取扱いとともに、映画の著作物について固定牲の要件を要求するか否かについての議論があり、結局、前記のとおり、著作物一般について、固定牲を要求するか否かは各国の立法に委ねることにされたこと、我か国著作権法において、著作物一般については固定性を要件とせず、映画の著作物についてのみ固定性を要件としていることなどを併せ考えれば、著作権法上の映画の著作物の要件としての固定性は、これを映画の著作物としての性質に関わるものと見るのは相当でなく、むしろ、単に放送用映画の生放送番組の取扱いとの関係で、これを映画の著作物に含ましめないための要件として設けられたものであると考えるべきである。そうすると、右固定性の要件は、生成と同時に消滅していく連続影像を映画の著作物から排除するために機能するものにすぎず、その存在、帰属等が明らかとなる形で何らかの媒体に固定されているものであれば、右固定性の要件を充足すると解するのが相当である。
イ Yらは、「物に固定されている」とは、著作物が何らかの方法により物と結びつくことにより、同一性を保ちながら存続し、かつ、著作物すなわち特定の表現(映画の著作物でいえば連続影像群)を再現することが可能な状態をいうと主張する。しかし、ベルヌ条約上は、映画の著作物について固定性を保護の必要条件とはせず、物に固定されていない映画の著作物を保護することは立法的に採用可能であること、前記のとおり、立法過程における審議においては、固定牲の要件はもっぱら生放送番組の取扱いとの関連で議論されたものであること、その他、現行著作権法が特にYらの主張するような意味内容を映画の著作物の固定性の要件に担わせてると解すべき根拠も見当たらないことからすれば、Yらの主張は採用することはできない。
ウ そこで、右の固定性の点を本件各ゲームソフトについてみるに、前記第二の二3の事実によれば、本件各ゲームソフトは、CD−ROM中に収録されたプログラムに基づいて抽出された影像についてのデータが、ディスプレイ上の指定された位置に順次表示されることによって、全体として連続した影像となって表現されるものであり、そのデータはいずれもCD−ROM中に記憶されているものであるから、右に述べたところの固定性の要件に欠けるところはない。
エ テレビゲームは、同一のゲームソフトを使用しても、プレイヤーによるコントローラの具体的操作に応じて、画面上に表示される影像の内容や順序は、各回のプレイごとに異なるものとなるから、画面上に表示される具体的な影像の内容及び表示される順序が一定のものとして固定されているわけではない。しかし、これらの影像及びそれに伴う音声の変化は、当該ゲームソフトのプログラムによってあらかじめ設定された範囲のものであるから、常に同一の影像及び音声が連続して現われないことをもって、物に固定されていないということはできない。劇場用映画のように、映画フィルムを再生すれば常に同一の連続影像が再現されるのでなければ、「物に固定されている」とはいえないと解すべきものではない。
4 著作物牲について
 本件各ゲームソフトは、それぞれ前記第二の二ウのような内容であるが、証拠(検甲1ないし6)によってその具体的内容を検討するに、いずれも著作者の知的精神的創作活動の所産が具体的に表現されたものと認めるに十分であるから、これらの著作物牲を肯定することができる。本件各ゲームソフトは、前示のとおり、プレイヤーの各回のプレイごとに具体的に画面に表示される連続影像が異なるものであるが、そもそもテレビゲームは、各プレイごとのプレイヤーの操作によって、具体的に出現する連続影像が同一にならないことを前提として、それ故にこそゲームをプレイできるという性格のものであって、ゲームソフトの著作者は、右のようなプレイヤーの操作による影像の変化の範囲をあらかじめ織り込んだ上で、ゲームのテーマやストーリを設定し、様々な視覚的ないし視聴覚的効果を駆使して、統一的な作品としてのゲームを製作するものである(本件各ゲームソフトについても同様である。甲43)。したがって、本件各ゲームソフトを含むゲームソフトは、ゲームソフト自体が著作者の統一的な思想・感情が創作的に表現されたものというべきであり、プレイヤーの操作によって画面上に表示される具体的な影像の内容や順序が異なるといったことは、ゲームソフトに「映画の著作物」としての著作物牲を肯定することの妨げにはならないものというべきである。本件各ゲームソフトは、各回のプレイによって現出する連続影像が、Yらが映画の著作物の要件として主張する「一本の映画全体を貫く思想又は感情を視聴者に伝達する連続影像」に相当すると認めるに足るものである。
 また、ゲームソフトの右のような性質からすれば、ゲームソフトは、プレイヤーのプレイを待たずに完成した著作物というべきことが明らかであるから、未編集の映画フィルムと同視して論じることも相当ではない。
5 証拠(甲36、37)によれば、最近、インタラクティプ(双方向的)映画と呼ばれる、あらかじめ決まった一連の動画影像ではなく、観客の反応に応じて画面上の動き、表情、筋書き等が変化するという形で、複数用意された影像が選択されてストーリ展開が変化するという形式の劇場用映画が試験的にではあるが現れていることが認められる。右のように、現行著作権法の制定時に観念されていた劇場における映画の上映、あるいは、放送媒体による一方的な送信形態による映画の公衆送信などとは異なる表現形式の著作物が既に出現しているのであり、これらを映画の著作物の概念から除外する合理的な根拠ないし必要性があるとも考えられない。
 したがって、右のような映画の著作物の現状に照らせば、ゲームソフト等のインタラクティプな表現形式を取る著作物について、「映画の著作物」から排除すべき合理的な理由はないというべきである。 
6 以上によれば、本件各ゲームソフトは、著作権法上の「映画の著作物」に該当するものというべきである。
 
3−2−2 頒布権について
1 著作権法は、「頒布」の意義を、「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあっては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。」(2条1項19号)と定義するともに、映画の著作物について、著作権者が頒布権を専有する旨を定めており(26条1項)、映画の著作物の中で頒布権を認めるものとそうでないものとの区別をしていない。したがって、争点1で判断したとおり、本件各ゲームソフトが映画の著作物に該当する以上は、著作権者である原告らは本件各ゲームソソフトについて頒布権を有することになる。
2ア Yらは、映画の著作物にのみ頒布権という例外的取扱いか認められたのは、映画の著作物の特殊性、とりわけその配給制度の保護要請が認められた結果であって、これにベルヌ条約の履行義務の実現が重なったものであり、配給制度を前提とする劇場用映画としての特質を有しない表現物は「頒布権のある映画の著作物」には含まれない旨主張する。
 イ 頒布権は、複製物の流通をコントロールできる権利であり、現行著作権法では映画の著作物にのみ認められているものである。そこで、著作権法が映画の著作物について頒布権を認めた趣旨につき検討するに、昭和45年に成立した現行著作権法の立法経緯について、次の事実が認められる(甲17)。
 旧著作権法(明治32年法律第39号)は、映画著作権の内容として領布権の規定を置いていなかったが、ベルヌ条約のプラッセル改正規定(1948年)では、映画の著作物について頒布権を認めていたことから、条約上の履行義務として、著作権法の改正に当たって映画の著作物に領布権を認める必要があった。前記著作権制度審議会の審議の過程では、映画の著作物の定義につき、@表現方法における視覚的又は視聴覚的効果が劇場用映画と同種のものを映画の著作物に含めるという考え方、A製作目的や利用方法が劇場用映画と異質のものは映画の著作物から排除するという考え方の二通りが存在した。同審議会の昭和41年4月の答申ではAの立場を採用し、放送のための技術的手段として放送事業者により作成されるものは含まないものとされており、同年10月に公表された文部省文化局試案の「著作権及び隣接権に関する法律草案」では、右答申の趣旨に沿って、劇場用映画とは異なる放送用映画については「映画の著作物」から排除する趣旨で、「映画の著作物」は「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ物に固定されている著作物を含み、もっぱら放送のための技術的手段として放送事業者によって作成されたものを含まないものとする」と規定されていた。ところが、1967年(昭和42年)に開催されたベルヌ条約のストックホルム改正会議における議論を踏まえて、放送事業者によって製作されたフィルム、ビデオテープ等も映画の著作物として保護され得るように変更され、放送用映画の排除に関する規定部分が削除された形で現行著作権2条3項の規定に改められて著作権法案として国会に提出され、これがそのまま成立するに至った。
ウ 一方、著作権法が映画の著作物について頒布権を導入した当時、社会的事実として、劇場用映画について、映画製作会社や映画配給会社は、映画館経営者に対してプリント・フィルムを貸し渡すにとどめ、上映期間が終了した際には返却させ、あるいは指定する映画館へ引き継がせるといった形態の配給制度が慣行として存在しており、映画の著作物に他の著作物一般には認められていない頒布権が導入されたのは、右のような配給制度の下で取り引きされている劇場用映画のプリント・フィルムについては、流通に大きな影響力を与える頒布権を認めても、取引上の混乱が少ないと考えられたためであると一般に認識されている。
エ しかし、前記認定の現行著作権法の制定の経緯から明らかなとおり、著作権法は、配給制度とは直接の関係がないと考えられる放送用映画についても映画の著作物に含まれることを予定して成立したものであり、前記の著作権制度審議会においても、配給制度とは直接関連性を有しないと考えられるビデオテープについても頒布権が及ぶものとして議論されていること、また、頒布権の前提となる「頒布」の概念について、著作権法は、配給制度を前提とするものと考えられる「公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与すること」のみならず、「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」をも含む概念として定義している(2条1項19号)ことなどからすれば、現行著作権法の解釈として、「頒布権のある映画の著作物」の概念を、配給制度という慣行の存在する劇場用映画のみ、あるいは劇場用映画の特質を備えるもののみに限定して解釈することは相当でないといわざるを得ない。
3 劇場用映画について配給制度の慣行が存在するという社会的事実を前提とした上で、著作権法が映画の著作物について頒布権を認めたという事情が存在することは、前記のとおりである。劇場用映画は、オリジナル・フィルムを基にして複製されたプリント・フィルムを映画館において上映し、一度に多数の観客に鑑賞させるという形態で利用されるものであり、個々の複製物が上映による多額の収益を生み出すという意味で高い経済的価値を有し、その流通形態も、多数の複製物が需要者たる公衆に直接販売されるという流通形態をとらず、前記のような配給制度という特殊な流通形態の慣行が行われてきたものである。
  このような配給制度の存在という社会的事実を前提として、著作権法が映画の著作物のみに頒布権を認めた背景には、映画の著作物は、製作に多大な費用、時間及び労力を要する反面、一度視聴されてしまえば視聴者に満足感を与え、同一人が繰り返し視聴することが比較的少ないという特性が考慮されているものと考えられる。すなわち、右のような性質を有する映画の著作物について、投下資本の回収の多様な機会を与えるたあに、上映権及び頒布権を特に認めて、著作権者が対価を徴収できる制度を構築したものと考えられる。
  現行著作権法の制定当時、テレビゲームは存在していなかったから、映画の著作物にゲームソフトのようなものが入ってくることは、予想されていなかったものである。しかし、制定時以後の技術の進歩、メディアの発展や社会情勢の変化等に対応して、映画の著作物として保護すべき著作物として新しい形態のメディアが現われることも当然のことであるから、立法当初予定されていなかった種類の著作物であるからといって、これを排除すべきものではなく、制度の立法趣旨を踏まえて、著作権法上の映画の著作物としての保護を与えるに適したものか否かを、形式的な要件とともに実質的な側面からも判断すべきである。
  テレビゲームのゲームソフトは、プロデューサー、ディレクター、キャラクター・デザイン担当者、影像担当者、サウンド担当者、プログラマー、シナリオライター等多数の者が組織的に製作に関与し、多額の費用と時間をかけて製作される場合も多く、この点では劇場用映画に類似するものであり、右のような傾向は、ゲーム機の高性能化とも相まって最近では一層顕著になってきており、ゲームの内容も影像・音楽の技術的な進歩による視聴覚的表現方法の向上が著しく、映画との差が小さくなってきている(甲32)。証拠(甲12)によれば、本件各ゲームソフトについてみても、その製作に多大な費用(本件各ゲームソフトの宣伝広告費を除いた平均製作費は約9億5000万円程度に達する。)、時間及び労力を要したものであることが認められる。また、その反面、ゲームソフトは、視聴者(需要者)に短時間(劇場用映画と比較すればその差はあるが)で満足感を与えるものである点も、劇場用映画と大きく異ならず、殊に人気ゲームソフトでは、新作発表後2ないし3か月で中古品販売数量が新品飯売数量を上回ることも少なくないというデータがあることが認められる(甲12)。そうすると、ゲームソフトについて、その投下資本の回収の多様な機会を与えることには合理性があり、これに対して頒布権を認めることも、劇場用映画と比較すればあながち不合理であるともいえず、少なくとも、映画の著作物に頒布権を認めた立法趣旨に照らして、頒布権のある映画の著作物として保護を受けるに値する実質的な理由がないとはいえない。
4 昭和59年に貸レコード業等をはじめとする著作物の複製物のレンタル業の発展に対応するため、著作権法の改正により、著作権者に貸与権を認める旨の規定(26条の2)が設けられた際に、映画の著作物については頒布権があることから貸与権の規定の適用を除外されたが、当時、既に貸ビデオも存在したから、立法者は、ビデオソフトも映画の著作物に入り、映画の著作物の頒布権によって規制できると考えていたことが明らかである。したがって、現行著作権法は、配給制度によらず、多数の複製物が公衆に販売されるようなものも映画の著作物に含まれることを前提としていると解さざるを得ない。その点からみても、ゲームソフトが頒布権のある映画の著作物に含まれると解することに不都合はない。
5 以上のとおりであるから、本件各ゲームソフトが「頒布権のある」映画の著作物に該当しないとのYらの主張は採用できない。
3−2−3 消尽について
1 Yらは、映画の著作物の頒布権は、いったん適法に複製された複製物が適法に譲渡された後は、当該複製物には及ばないものと解すべきであると主張する。
  しかし、もともと、映画の著作物に頒布権が認められた背景には、前記とおり、劇場用映画についての配給制度という取引慣行かあったという面があり、その趣旨からいっても、右頒布権は第一譲渡後も消尽しない権利として一般に解されてきたものであるところ、著作権法の規定からみても、劇場用映画に限らず、映画の著作物の頒布権が第一譲渡によって消尽するとの解釈は採り得ない。
 ア 著作権法は、著作物一般については、頒布権を認めず、著作権を侵害する行為によって作成された物を情を知って頒布する行為を著作権侵害とみなす旨の規定(113条1項2号)を設けている。そして、映画の著作物についてのみ、他の著作物一般には認められていない頒布権を認め(26条1項)、著作権を侵害する行為によって作成された物であるか否かを問わず、映画の著作物をその複製物により頒布する権利を著作権者に専有させている。また、ここにいう「頒布」とは、「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあっては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含む」(2条1項19号)ものとし、頒布権の消尽については何ら規定するところがない。これらの著作権法の規定からすれば、映画の著作物の頒布権が第一譲渡行為に限定されたものであると解することはできず、また、第一譲渡後に頒布権が消尽するとする根拠もない。
 イ 著作権法は、前記のとおり、「頒布」には譲渡と貸与の双方を含むものとしており、映画の著作物について、譲渡と貸与とを区別することなく、著作権者に頒布権を認めているものであるから、第一譲渡後に頒布権が消尽すると解するかどうかに関して、譲渡と貸与とを区別して考えることは、解釈上は困難であるといわざるを得ない。一方、前記のとおり、昭和59年の著作権法の改正により、著作物一般について著作権者が貸与権を専有する旨の規定(26条の2)が設けられたが、右貸与権については、これが認められた趣旨からいって、複製物が適法に譲渡された後にあっても行使できることが当然の前提とされているものと解される。そして、著作権法26条の2の規定は、貸与権の対象となる著作物から映画の著作物を明示的に除外している。右のように、貸与権の規定において映画の著作物が除外されたのは、映画の著作物には貸与を含む頒布権が認められており、改めて貸与権を定める必要がなかったことによることは明らかであって、このことは、貸与権を含む映画の著作物の頒布権が第一譲渡によって消尽しない権利であるとの理解を、当然の前提にしたものというべきである。
 ウ さらに、平成11年の著作権法の改正により、著作物一般について、著作権者に「その著作物をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する」譲渡権を認める規定(同年法律第77号による改正後の著作権法26条の2)が新設されたが、右規定においては、対象となる著作物から映画の著作物を除外するとともに、この譲渡権は、譲渡権を有する者により譲渡された複製物等には及ばないことが明定され、譲渡権が第一譲渡によって消尽することを明らかにしている。右譲渡権の規定は、1996年(平成8年)12月に採択されたWIPO著作権条約が著作物一般に頒布権を認めていることから、我が国の著作権法においても著作物一般に頒布権を認める必要があるとの判断から設けられたものである。右改正においては、この譲渡権は、第一譲渡によって消尽するものとする一方で、映画の著作物については譲渡権の規定の適用を除外し、かつ、映画の著作物の頒布権を定めた著作権法26条の規定は特に変更していないことからすれば、右改正に当たって、映画の著作物については消尽しない頒布権を維持するものとされたことが明らかである。
2 ベルヌ条約は、前記のとおり、映画の著作物について頒布権を認めているが、頒布権を第一譲渡後も消尽しないものとするか否かは、同条約の定めるところではなく、同盟国の立法に委ねられたものであり、かつ、同盟国が条約に定められた範囲内で法律又は解釈によって著作権を強化することを否定するものではない。
 また、WIPO著作権条約は、前記のとおり、著作物一般について頒布権を認めているが、他方、頒布権が消尽する条件を締約国が定める自由を認めており(6条B)、消尽については各国の立法に委ねている。
 そのほか、各国の立法例をみると、Yらが主張するように、確かに多くの国では、映画の著作物を含めて著作件物一般について、頒布権を認める場合には、第一譲渡ないし公衆への最初の提供によって消尽するとの法制を採っており(ただし、消尽について明文の規定を置くのが一般である。)、我が国のように映画の著作物について消尽しない頒布権を認めているのは例外に属するが、これは立法政策の問題といわざるを得えず、我が国の著作権法の解釈を諸外国の立法例に適合するようにしなければならないわけではない。
 したがって、これらの条約や諸外国の立法例を根拠に、我が国の著作権の定める映画の著作物の頒布権が、第一譲渡によって消尽するとか、上映目的でない提供には頒布権が及ばないと解することはできない。
3 Yらは、特許権の消尽理論が著作権にも妥当すると主張するが、特許製品が譲渡された場合と異なり、著作物の複製物が譲渡された場合には、たとえそれが著作権者の許諾を得て複製されたものであっても、その利用態様によっては、公衆送信権や貸与権などの著作権の支分権を侵害することがあることは明らかであるなど、特許権と著作権とではただちに同列に論じられないのみならず、前記のとおり、映画の著作物に関する限りは、著作権法の規定上、第一譲渡で消尽しない頒布権が認められているものと解さざるを得ないから、Yらの主張は採用できない。
4 本件各ゲームソフトを含むゲームソフトは、一般的に上映を目的として譲渡されるわけではなく、劇場用映画のように配給制度という流通形態をとるわけでもなく、多数の複製物が一般消費者に販売されるものである。このようなものについて、映画の著作物に該当するとの理由で、適法に複製された複製物がいったん流通に置かれ、一般消費者に譲渡された後にも、著作権者が消尽しない頒布権を行使して流通をコントロールする立場に立つことは、商品の自由な流通を阻害し、権利者に過大な保護を与えるように見えなくもない。しかし、争点2の判断で示したように、映画の著作物と認められるゲームソフトについて、頒布権を認めて投下資本の回収の機会を保障することにも合理牲がないわけではなく、著作権法の規定上は消尽しない頒布権があると解さざるを得ない映画の著作物のうちから、ゲームソフトについて第一譲渡後の消尽を認めることは、解釈上十分な根拠がなく、採用することができない。
 
 
4.若干の著作権法の規定
第2条1項1号
  著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 
第2条1項18号
上映  著作物を映写幕その他の物に映写することをいい、これに伴って映画の著作物において固定されている音を再生することを含むものとする。
 
第2条1項19号
   頒布  有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあっては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与するをことを含むものとする。
 
第2条3項
この法律にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。
 
第10条1項7号
   映画の著作物
 
第16条
   映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において、翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。
 
第21条
   著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
 
第23条
   著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
 2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
 
第26条
   著作者は、その映画の著作物を公に上演し、又はその複製物により頒布する権利を専有する。
 
第26条の2
   著作者は、その著作物(映画の著作物を除く、)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあっては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利を専有する。
 
第27条                    
   著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その翻案する権利を専有する。
 
第28条
   二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。
 
第29条
映画の著作物(第15条第1項、次項又は第3項の規定の適用を受けるものを除く、)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。
 
第54条
 映画の著作物の著作権は、その著作物の公表後50年(その著作物がその創作後50年以内に公表されなかったときは、その創作後50年)を経過するまでの間、存続する。
4.研究
4−1 東京地裁は中古販売をしているものが原告となり、ゲームソフトの著作権者が被告という差止請求権不存在確認請求事件であり、大阪地裁は、著作権侵害行為差止請求事件である。
4−2チ 東京地裁は、現行著作権法は映画の著作物に関し、明確な規定を置いていないが、第2条3項には上記の通り規定するのみであるので、各規定を総合して決するほかはないとした。
   ツ そして、映画の著作物については、著作物一般の複製権、公衆送信権等、翻訳権、翻案権等及び二次的著作物の利用に関する原著作者の権利の外に、特有の権利として上映権及び頒布権が認められていること
   テ そして、映画の著作権のみ頒布権を認めた趣旨を検討し、
    ~ ベルヌ条約のブラッセル改正規定が頒布権を認めていたことから、条約上の義務履行として設けられたものであるが、
     実質的には劇場用映画の特殊性を考慮したものであるとした(116、3頁右側10〜15行目)
   ト そして、映画の著作権たり得るためには、2条1項1号の要件を満たすのは、「カメラ・ワークの工夫、モンタージュあるいはカット等の手法、フィルム編集などの知的な活動を通じて、その構図等において創作的工夫に係る影像を作成し、これを選択して一定の順序で組み合わせ、音声をシンクロナイズすることによって、映画フィルムが作成され、これを上映することによって一定の思想又は感情の表現としての連続した影像及びこれに伴う音声がもたらされるためである。」と判断した。
ナ そこで、結論として、映画の著作物の要件として
~ 当該著作物が一定の内容の影像を選択し、これを一定の順序で組合わせることにより思想・感情を表現するものであること
 当該著作物ないしその複製物を用いることにより、同一の連続影像が常に再現される(常に同一内容の影像が同一の順序によりもたらされる)ものであることを要するとした。
ニ ところが、本件各ゲームソフトは「表示される影像の内容及びその順序はコントローラの操作により決定されるため、同一のゲームソフトを使用しても、プレイヤーによるコントローラの具体的な操作に応じて、画面上に表示される影像の内容や順序は、各回のプレイヤーごとに異なるものとなる」(116、5頁右側19〜25行目)従って、本件各ゲームソフトは「画面上に表示される具体的な影像の内容及び表示される順序が一定のものとして固定されているということもできないのであ」るから、著作権法2条3項にいう「映画の著作権」に該当しない。
ヌ 従って、これを前提として頒布権を有するということはできないとした。
4−3 大阪地裁は、東京地裁とは異なり、「映画の著作物は、本来的な意味である劇場用映画ないし劇場用映画の特質を備えるものに限られるものではないとし」「現在わが国で製造・販売されているゲームソフトにも、影像が音声の面での表現内容は種々のものがあるから、当該ゲームソフトが右にいう著作物に該当するか否かは個別具体的に判断すべきであるとして、116の通り、具体的に認定して本件各ゲームソフトは映画の著作物であるとした。
4−4 そこで、東京地裁は、本件各ゲームソフトが映画の著作物でないとしたので、その余の判断をしなかったが、大阪地裁は映画の著作物であるとしたので、次いで著作権法2条1項19号の頒布の意義と同26条の頒布権について明らかにし、且つ、頒布権の消尽についても明らかにし、結論として、「本件各ゲームソフトはいずれも映画の著作物に該当し著作権者であるXらは本件各ゲームソフトについてそれぞれ頒布権を有し、しかも、右頒布権は複製物がいったん公衆に譲渡された後も消尽しないものというべきであるから、本件各ゲームソフトの中古ソフトを公衆に販売するYらの行為は、Xらの頒布権を侵害する」と判断した。
之を要約すると、以下の通りである。








 

東京地裁


 

映画の著作物でない。
−同一内容の影像が同 一の順序によりもた
 らされること必要

頒布権なし


 

大阪地裁

 

映画の著作物である。−必要でない。
 

頒布権あり

 








 
 
5.ところで、ビデオゲームについて、以下の先例がある。
 チ ビデオゲーム「パックマン」の影像を映画の著作物に当たるとした(東京地裁59.9.28判決 無体集16巻3号676頁 判時1129号120頁)
   ビデオゲーム「パックマン」が、著作権法上「映画の著作物」に該当するか否かを判断するため、まず、同法の定める「映画の著作物」の解釈について検討する。
  1 著作権法は、著作物の一類型として「映画の著作物」を掲げ(第10条第1項第7号)、この類型の著作物については、他の類型の著作物と異なり、特に、「上映権」及び「頒布権」を認め(第26条)、著作権の帰属(第29条)、保護期間(第54条)等について特則をおいている。そして、この「映画の著作物」には、本来的意味における「映画」のほかに、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」を含むものとされている(第2条第3項)。「パックマン」が本来的意味における映画に該当しないことは明らかであるから、以下、右の定義規定の解釈について、右の特則の立法趣旨等も勘案しながら、本件に必要な範囲で判断を示す。
  2 前記定義規定によれば、本来的意味における映画以外のものが「映画の著作物」に該当するための要件は、次のとおりである。
ア 映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること
イ 物に固定されていること
ウ 著作物であること
  「著作物」については、更に定義規定がある(第2条第1項第1号)から、右ウの要件は、次のとおり言い換えることができる。
ウ' 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであること
 右のうち、アは表現方法の要件、イは存在形式の要件、ウは内容の要件であるということができる。……
 以上認定したとおり、「パックマン」は映画の著作物に該当」する。
 ツ ビデオゲーム「ドラゴンクエストU」の影像を著作物と認めた(東京地裁62.2.24仮処分決定 判時1222号134頁)
主文「債務者○○は、その発行する月刊雑誌「ハイスコア」の昭和62年4月号以降につき、ファミリーコンピュータ用ゲームソフトウエア「ドラゴンクエストU」(著作権者○○、発売日昭和62年1月26日)を実行して表示される映像画面を掲載してはならない。
債務者○○は、前項の影像映画を掲載した前項の雑誌を発売してはならない。」
 テ ビデオゲーム「ディグダク」は映画の著作物に該当するとした−但し、擬制自白の事件である(東京地裁60.3.8判決判タ561号169頁)
 C ビデオ「パックマン」は映画の著作物に該当するとした(東京地裁平成6.1.31判決、判タ867号280頁)
 「映画の著作物と認められるためには、次の三つの要件を充足する必要があり、かつ、その要件を充足しているものであれば、本来的な意味における映画以外のものも映画の著作物として保護されているものと解すべきである。
   ア 映画の効果に顆似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること(表現方法の要件)
   イ 物に固定されていること(存在形式の要件)
ウ 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであること(内容の要件)……
   本件ビデオゲームが右の要件を充足する映画の著作物に該当するかどうかについて判断する。」
 D テレビゲーム「ドンキーコング・ジュニア」は映画の著作物に該当するとした刑事事件の判決がある(大阪地裁堺支部平成2.3.29判決 判時1357号151頁)
   以上の映画の著作物がどうかが判断せられている事件は、すべて頒布権があるかどうかが争われた事件ではなく、著作権本来の複製権を侵害したかどうかの事件であった。
ところが、今回問題となっている事件は、中古ソフトの販売について、ビデオゲームソフトの著作権が頒布権を行使しうるかどうかである。そして、東京地裁は、頒布権がないとの前提に立って、映画の著作権の要件を設定し、@の東京地裁の定義の外に、「同一の連続影像が常に再現される(常に同一内容の影像が同一の順序によりもたらされる)」との要件を付加した。之に対して、大阪地裁は@の判決例の要件をそのまま採用し、映画の著作物であれば、当然、著作権法第26条によって頒布権があると判断した。
 
6.学説
 著作権法が予定した映画の著作権とはどのようなものか。
 チ 立法に関与した加戸守行は映画の著作物とは「伝統的なフィルムによる劇場用映画を念頭においているわけであります。しかし、最近の技術革新に伴って開発されたビデオ・テープ、ビデオ・カセット、ビデオ・ディスクなどの連続影像収録物(ビデオ・ソフト)もその支持物あるいは固定物か光学フィルムが磁気テープディスクの違いに過ぎず、内容的には映画との区別を認める必要はありませんので、映画の著作物としての概念に含ましたということです…、いわんとするところは、市販のビデオ・カセットや放送用テープなど、その内容が劇場用映画やニュース映画などと同様な性格を有するものを映画の著作物と見なすわけでございます。」A とされ、
頒布権について「一般の著作物については貸与権だけで、頒布権を認めていませんけれども、映画の著作物については、映画のフイルムの配給権という形で社会的取引の実態があるということ、それから映画のフィルムの場合には経済的な効用度が高く、1本のフイルムによって多額の収益をあげることができるということで、映画の著作物が化体されたオリジナルコピーともいうべき映画のプリントの物品的価値に着目して、その先行を指定する権利としての頒布権を認めたものであります。」B とせられる。
 そして、更に「現在生じている問題が一般に販売されている市販ソフトとしてのビデオ・カセット等の取扱いでございます…、ビデオ・カセット等において表現されている視聴覚的作品の多くは映画の著作物でありますから、ビデオ・カセット等についても頒布権ありといわざるを得ません…」Cとせられる。
即ち、同氏は大阪地裁と同じように、映画の著作物であるから、頒布権があると解している(但し、ソフト中古品の販売のことは考えていないと考える)。D、E
 ツ 泉克幸は「頒布権の認められる対象は、劇場公開を予定している本来的な映画に限定するというのが現行法の立法趣旨であった」F とせられる。そして、仮りに、劇場用映画ではないが、「映画著作物」の要件を充たすものが存在していた。しかしながら、このことだけをもって、著作物の流通を妨げたり、市場をコントロールすることが可能となる強力な頒布権を安易に認めるべきではない。」Gとせられる。
 そして、更に「ハードメーカーが頒布権等の著作権を根拠に中古販売を禁じたり、中古販売の業者への転売を制限することは著作権法上も不合理な話であるし、当然独禁法23条によって適用除外となるものではない。」H とせられる。
 テ 作花文雄は「…映画の著作物であり、それ故(消尽しない)頒布権が認められるとしても、(…)その権利の行使に当っては、正当な理由がない限り、適正な価格により許諾すべきことが認められるものであり、之に反する権利行使は権利の濫用あるいは、独占禁止法第23条により同法の適用除外を受けない行為であるとみなされることとするなど、実質的な報酬請求権的運用を図ることなどにより、現実的に妥当な解決を導くことが望まれる」とせられる。I 
7.@ そこで、問題は、以下の~の2つの結論だけではなく、泉沢凾ノついても検討すべきである。
  ~ ゲームソフトは映画の著作物でない。従って、頒布権がない(東京地裁)
   映画の著作物であるから、頒布権がある(大阪地裁)
  吹@映画の著作物であるが、頒布権がない。
  早@映画の著作物であるが、その権利行使は権利濫用である。
凵@また、独禁法第23条の適用がないから、不公正な取引方法となる。
ツ ゲームソフトが映画の著作物であるという概念規定によって、通常の著作物が東京地裁の判決が引用するように、複製権等しかなく、従って、本の如き、本のメーカーが本屋に本を販売した以上、本屋がそれを誰に売ろうが、また、我々消費者が、その本を友人等に再販しても、何等問題がないのに、ゲームソフトに限り映画の著作物であるとの評価を受けたが為に、頒布権を有し、消費者が再販することを禁止し、又、消費者から再度購入した小売店の再販売を禁止することは全く実態に沿わないのではなかろうか。従って、大阪地裁も「ゲームソフトについて著作権が消尽しない頒布権を有するとすることについて、立法論としては異論があり得ると思われる」と判断しているのである。然しながら、そもそも、映画の著作物に頒布権を認めたのは、上記の通り劇場用映画を保護する為であったのであるから、その後のゲームソフトについて、これが映画という定義に入るとしても、全く同じ保護をしなければならないのかを検討すべきである。
他方、中古販売業者の普及により、正規商品の販売に影響を及ぼしているのであろう。そして、そのような影響によって、本件紛争が惹起していることは言うまでもない。
然しながら、
~ 古本屋の存在によって、本屋(メーカーおよび小売店等)が影響を受けていることは事実であるが、既に客観的事実としてどうすることが出来ない状態にある。
昭和11年6月15日の改正により(公布23日、法律第77号)著作権者に譲渡権を認めた(第26条の2第1項)。然しながら、その第2項において権利者又は権利者から許諾を受けた者により、適法に公衆に譲渡された場合には、その譲渡権は消尽すると規定されている(ファースト・セール・ドクトリン)。
    貸レコードについては、かつて、問題となったが貸与権を認めることによって解決せられた(26条の2−改正法では26条の3)附則第4条の2は、この貸与権について、書籍又は雑誌を当分の間之を除くと規定せられている。
     ところが、今回の中古ソフトについては、未だ解決していないと見るべきであるかという問題となる。大阪地裁は「ゲームソフトについて、その投下した資本の回収の多様な機会を与えることには合理性があ」る(117.17頁左側5〜7頁)とし、昭和59年に既に貸ビデオが存在していたから、第26条の新設に際し、映画の著作物については貸与権の設定の適用が除外されたことは、映画の著作物の頒布権によって規制できると考えたが為である(117.17頁 17〜23行目)とする。
     然しながら、、果たして、上記の通り簡易に結論し得るであろうか。
     蓋し、既に問題となっていたのは、ビデオカセットの複製権の問題であり、また、貸与権について問題になったのは、貸レコード店からレコードを借りた一般消費者が之を録音して、貸レコード店に返そうすることによって、レコードメーカーまたはレコード小売店の営業を妨害することにあった。然しながら、そこでは、消費者が適法に購入したレコードを小売店が回収し、之を中古レコードとして販売する問題は未だ惹起せられていなかった。
     そして、中古ソフトの販売の問題は、文化庁も裁判の成り行きを見て、その方策を考慮しようとしているのである。
     それは恰も、かつてコンピュータソフトウエアの侵害が問題となったときに、
    @ 著作物であるとして(東京地裁57.12.6判決 無体集14巻3号796頁外)
    A 不正競争防止法で保護しようとし(東京地裁57.9.27判決 無体集14巻3号593頁)
    テ 上記の「パックマン」事件で映画の著作権によって保護しようとし、
    ト 最後に、昭和60年6月14日法律第62号を以って、著作権法第10条に第9号を追加することによって、著作物として保護することを明らかにした。
   問題は、自由競争を原則とする資本主義にあって、中古ソフトの販売を、著作物の流通阻害として考えるか、そのような阻害は合理的と言えるかどうかの社会観によると考えられる。大阪地裁は、上記の通り、合理性があるとし、且つ、第26条の2の新設によって、当然解決済であるとし、東京地裁は映画の著作物の規定は劇場用の映画を前提としているとして、その映画の著作物の要件を限定することによって、結論として、流通
阻害の立場を採用したといわざるを得ない。私は、著作権は特許権と同じように、自由競争に対する例外の一つとしての独占権であり(特許権が絶対的であるのに対して相対権であるが)、従って、凡そ立法がなければ保護せられない性質のものであることを考えれば、立法当時存在しなかったゲームソフトまでについても、その保護を拡大すべきではなく、それは、立法論の問題ではなく、そもそも立法せられていなかった。
   換言すれば、テレビゲームソフトは立法当時存在していなかったのであるから、仮りに、それが映画の著作物に該当するとしても、その後に存在するようになったものにまで、立法は及ばないと言うべきであると考える。それは、一般の民事紛争の解決とは異に考えるべきである。
従って、本件は、映画の著作物であるかどうかの概念規定の問題ではなく、本の販売と同じように自由な転売を認める方が合理的か、頒布権によって制限する方か合理的であるかどうかによる、私は、中古ソフトは本と同じように一般の著作物として保護すれば充分であると考える。
従って、文化庁も裁判の成り行きを見るのではなく、速やかに立法によって解決すべきである。J
 
注A 新版著作権法逐条講義 47頁
 B 同157頁
 C 同158〜159頁
 D 文化庁著作権課長吉田大輔は、中古ソフトの販売について「裁判の動向に委ねることとする、ということとしている」とされ、「この販売については、映画でいえば、頒布権がどこまでかかるかという問題があ」るとせられる(コピーライト461号12頁)
 E 文化庁著作権課岸本織江は、「改正前の著作権においては、
  映画の著作物について頒布権(第26条)が認められていた。これは@映画製作には多額の資本が投下されており、流通をコントロールして効率的に資本を回収する必要があったこと、
  A劇場用映画フィルムの配給権という形の社会取引の実態があること、B著作権者の意図しない上映行為を押さえることが困難であるため、その前段階である頒布行為を押さえる必要があったこと、等の理由により、譲渡のほか貸与も含めた流通をコントロールするために映画の著作物について特別に認められているものである。」とせられる(コピーライト461号48頁)
 F ゲームソフトの譲渡制限と頒布権「知的財産権法の現代的課題」(紋谷還暦511頁)
 G 同510頁
 H 同517頁、尚、公正取引委員会は、平成10年(勧)第1号として、同年1月20日に排除勧告をしている(審決集44巻389号) 
 I 「映画ソフトと著作物権制度」(コピーライト464号43頁、特に52頁)
 J 結論同旨、小倉秀夫「優越的地位ないし頒布権を利用したゲームソフトの中古販売規制の可否」(中山信弘編著「知的財産権研究W」153頁)
尚、中山教授は結論として、「事の本質としては、立法時には考えもつかなかった情況が発生しているため、この問題は事実上の法の欠缺状態にあり、そのような空白の領域をどのように処理したらよいのかという問題である」とせられる(同201頁)
以 上
               (担当弁護士 村 林 隆 一)