平成11年9月20日 東京地裁 H11(ヨ)22125 号パーソナルコンピュータ不正競争仮処分

(コメント)
1,本件は、いわゆる断行の仮処分事件であり、現状維持を求める仮処分に比べて影響力がきわめて強いので、民事保全法上、原則として必要的に審尋が開かれる(いわゆる、デッド・コピーのような事例であれば、1回で決定ということもありうるが、本件はスケルトンという点での共通性はあるが、類似の形態とは言い難いとの意見も強い事例である)。                                                    
したがって、申立後1ヶ月内、あるいは、1回の審尋のみで決定が出されるということはまずない。
2.特に、決定文の中で、「一般に、企業が、他人の権利を侵害する可能性のある商品を製造、販売するに当たっては、自己の行為の正当性について、あらかじめ、法的な観点から検討を行い、仮に法的紛争に至ったときには、正当性を示す根拠、ないし資料を、すみやかに提示するよう準備すべきである」との説示部分の与える影響は極めて大きいというべきであろう。巷の書物からの情報によれば、債務者側では事前に法的観点からの検討はしていたということであるが、いずれにせよ、保全処分の申立を受けた場合には、第1回審尋に向けての高度な専門的判断と準備が求められる。                                                       
                                       


 
〔決定文〕(最高裁のHPからの転写のため、写真なし。参考写真を掲載します。)
左上 右上 左下
侵害対象品 銀色に変更した新型 I−mac

 (日経ビジネスより)

                    Iーmac                        e−one(形状はそのまま)

     

(アップルとソーテックのパンフレットより)
 
平成一一年(ヨ)第二二一二五号不正競争仮処分事件
決    定
債権者        アップルコンピュータ株式会社
右代表者代表取締役  原田永幸
債権者        アップルコンピュータ・インク
右代表者      フレッド・D・アンダーソン
債務者       株式会社ソーテツク
右代表者代表取締役  大邊創一
 (代理人は省略されている)
 当裁判所は、債権者らの申立てを相当と認め、次のとおり決定する。


主    文
 債権者らが共同して債務者のために、本決定送達後七日以内に金一億円の担保を立てることを条件として、債務者は、別紙債務者商品目録記載の物件を製造し、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、又は輸入してはならない。


理由の要旨
一 事案の概要
 債権者らは、別紙債権者ら商品目録記載のパーソナルコンピュータ(以下「債権者商品」という。)を製造販売している。
 債務者は、別紙債務者商品目録記載のパーソナルコンピュータ(以下「債務者商品」という。)を製造販売している。
 本件は、債権者らが、債権者商品の形態(色彩、素材を含む。以下同様とする。)が債権者らの商品表示として需要者の間に広く認識されているものであり、債務者商品の形態はこれと類似し、債権者商品との混同のおそれがある旨主張して、債務者に対し、不正競争防止法三条一項、二条一項一号に基づき、債務者商品の製造、販売等の差止めを求める申立てをした事案である。
二 債権者らの主張
 別紙「申立ての理由書」のとおりである。
三 当裁判所の判断
 当裁判所は、疎明資料に基づき「申立ての理由書」記載の事実を認めることができ、その申立ては理由があるものと解する。敷衍すると以下のとおりである。
1 周知商品表示性について
 商品の形態は、必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、商品の形態が他の商品と識別し得る独特の特徴を有し、かつ、商品の形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間であっても商品形態について強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、商品の形態が商品表示として需要者の間で広く認識されることがあり得る。
 疎明資料によれば、債権者商品の形態の特徴として、「申立ての理由書」第三、一「iMacの形態の特徴」1のとおりの事実が一応認められる。主要な点のみ掲記すると、@全体に曲線を多く用いた丸みを帯びた形態が選択されていること、A外装に、半透明の白色と半透明の青色のツートンカラーのプラスティック素材が使用されていること、B上面及び側面が穏やかな三角形状で、背面に向けて絞られた形態、上面及び側面の半透明青色の部分が連続的な意匠が選択されていること、C上面に半透明白色の持ち手があることを挙げることができる。以上の点を総合すると、債権者商品は、パーソナルコンピュータとしては、従前、類似の形態を有する商品がなく、形態上、極めて独創性の高い商品ということができる。
 そして、債権者商品について、その形態に重点を置いた強力な宣伝がされたこと、債権者商品は、その形態の独自性に高い評価が集まり、マスコミにも注目され、販売実績も上がり、いわゆるヒット商品になっていることが一応認められる。
 以上によれば、債権者商品の形態は、債権者らの商品表示として需要者の間に広く認識されている(周知商品表示性を獲得している)ものというべきである。
 この点につき、債務者は、@パーソナルコンピュータのような機能的商品では、機能上必然的な形態が多い、A債権者商品のブルーベリーの色は、平成一一年一月になって五色の新製品が同時に発売されたうちの一色に過ぎない、などとして、周知商品表示性を争う。しかし、@については、債権者商品の前記のような独創的な形態は機能上必然的な形態とは到底いうことができない。Aについては、疎明資料によれば、iMacは、ボンダイブルーと呼ぶ初期型モデルが平成一〇年八月に発売され、その後平成一一年一月に債権者商品を含む五色の現行型が発売されたが、初期型モデルも現行型モデルも極めて独創性のある形態を有することに変わりがなく、そして、初期型モデルの発売の際はもちろん、現行型の発売に際しても、強力な宣伝がされ、マスコミの注目を集め、販売実績も上がったことが一応認められるから、前記の結論を左右しない。
2 類似性について
 疎明資料によれば、債権者商品と債務者商品の形態の類似性については、「申立ての理由書」第三、四「e―Oneの形態とiMacの形態の類似性及び混同のおそれ」1、2記載のとおりの事実が一応認められる。主要な点のみ掲記すると、債権者商品及び債務者商品とも、@一体型のコンピュータにおいて、全体に曲線を多く用いた丸みを帯びたデザインであり、外装に、半透明の白色と半透明の青色のツートンカラーのプラスティック素材が使用されている。A正面視方向の形状は、角がやや丸みを帯びた四角形であり、中央の表示画面を囲む支持部分の左右及び下部が半透明の白色である。表示画面の下方のコンパクトディスク・ドライブのトレイ前面が半透明の白色で、トレイ出し入れ用ボタンが半透明の青色である。下部の両端に内蔵されたスピーカーが半透明の青色である。B上面視方向の形状は、ほぼ台形に近い緩やかな三角形である。上面の前側は、正面の表示画面支持部分上部から連続するカバーに覆われ、半月形を示している。半月形の中央部には、債権者商品、債務者商品のそれぞれの標章が付されている(なお、債務者商品の標章は地の青色と同一色が選択され目立たない。)。半月形カバー以外の後ろ半分が、側面と連続的に半透明の青色のカバーに覆われており、内部の熱を外部に放出するための穴が、横向きの曲線状の数本の帯に沿って並んでいる。上部に、本体を持ち運びするための半透明白色の持ち手が取り付けられている。C側面視方向の形状は、上辺が後方に緩やかに下がった台形に近い三角形である。ほぼ三分の二は、半透明の青色であり、その他の部分は、半透明の白色である。カバーを透して見える内部には基板が立てられた形で配置されている。D背面視方向の形状は、正面の四辺から背面に向けてそれぞれ緩やかな曲面を描いて絞られている。多くが半透明の青色で覆われ、一部半透明の白色がある。それぞれ側面と連続性を有している。Eキーボードは、本体と同じ半透明の白色と半透明の青色のツートンカラーである。キーは、半透明の黒色である。マウスも、本体と同じ半透明の白色と半透明の青色のツートンカラーである。キーボード及びマウスを本体に接続するためのケーブルは、銀色の芯線を透明な皮膜で包んだものである。F電源ケーブルは、鮮やかな複数色の芯線を透明な皮膜で包んだものである。
 以上のとおり、債務者商品と債権者商品は、いずれも、青色と白色のツートンカラーの半透明の外装部材で覆われた全体的に丸味を帯びた一体型のパーソナルコンピュータであり、曲線を多用したデザイン構成、色彩の選択、素材の選択において共通するのみならず、細部の形状においても多くの共通点を有することに照らすならば、少なくとも類似の外観を備えたものと解すべきであって、両者は類似しているというべきである。
 この点につき、債務者は相違点を挙げて類似性を争うが、債権者商品の形態と債務者商品の形態の相違点を十分考慮しても、前記結論を左右しない。
3 混同のおそれについて
 前記2のとおり、債務者商品の形態が債権者商品の形態と類似していることに照らせば、需要者が、両者を誤認混同したり、少なくとも債務者商品を製造販売する債務者が債権者らと何らかの資本関係、提携関係等を有するのではないかと誤認混同するおそれがあると認められる。
 この点につき、債務者は、@両商品には、ロゴ、マークが付されていること、Aパーソナルコンピュータという商品の特性、販売方法等を挙げて、混同のおそれを争うが、前記の類似性を考慮すれば、何ら前記結論を左右しない。
四 結論
1 審理に関して付言する。
 当裁判所は、争いに係る事実及び法律関係に関して、債務者からの意見を聴くために、審尋期日を指定した。債務者は、右期日に答弁書、準備書面及び疎明資料を提出しなかった。また、当裁判所は、口頭による意見を求めたが、債務者は、債務者商品を製造、販売することができる正当性に関する理由を説明しなかった。そこで、当裁判所は、審尋期日を打ち切った(審尋のための続行期日を指定しなかった。)。
 ただし、当裁判所は、債務者に対して、防御を尽くすため、期限を付して、主張、立証資料の提出の機会を与えた。これに応じて、債務者から別紙二「答弁書」が提出されたが、右答弁書を検討しても、なお、前記の認定、判断を左右するには至らない。
 一般に、企業が、他人の権利を侵害する可能性のある商品を製造、販売するに当たっては、自己の行為の正当性について、あらかじめ、法的な観点からの検討を行い、仮に法的紛争に至ったときには、正当性を示す根拠ないし資料を、すみやかに提示することができるよう準備をすべきであるといえる。しかるに、本件においては、前記のとおり、審尋期日において、債務者から、そのような事実上及び法律上の説明は一切されなかった。そこで、当裁判所は、迅速な救済を図る民事保全の趣旨に照らして、前記のような審理をした。
2 債権者は、本件申立書において「債務者商品について、執行官保管を命ずる。」裁判を申し立てている。
 右の点に関しては、現時点での判断を留保する。今後、執行官保管を命ずる必要性があるか否かの点につき、数か月間の実情を踏まえて審理した上、遅くとも平成一一年一二月一五日までに、決定する所存である。
3 以上のとおり、債権者らの申立ては理由があるので主文のとおり決定する。
 
  平成一一年九月二〇日
東京地方裁判所民事第二九部
 
    裁 判 長 裁 判 官     飯 村 敏 明
 
 
          裁 判 官     沖 中 康 人
 
 
          裁 判 官     石 村  智
            

(当事者の主張=判例タイムス・判例時報より)
(別紙1)申立の理由書
第一 当事者
 債権者アップルコンピュータ株式会社(以下「債権者日本アップル」という。)は、パーソナルコンピュータ、コンピュータ関連機器のハードウエア及びソフトウエアの販売等を目的とする株式会社である。債権者アップルコンピュータ・インク(Apple Computer, Inc.)(以下「債権者米国アップル」という。)は、パーソナルコンピュータの製造及び販売等を目的としてアメリカ合衆国カリフォルニア州法を設立準拠法とする法人である(以下両者を併せて、「債権者ら」という。)。
 なお、債権者日本アップルは、債権者米国アップルの100パーセント子会社であり、その主たる業務は、債権者米国アップルが設計・開発・製造・販売及び輸出するパーソナルコンピュータの同社からの輸入、日本国内における販売である。
 債務者株式会社ソーテツク(同社の宣伝広告などにおける表示は、「ソーテック」。)は、コンピュータ及びそれらの附属機器並びに周辺機器の製造、販売、修理、メンテナンス及び輸出入業などを目的とする株式会社である(以下「債務者」という。)。
第二 本件の概要
 債権者らは、「iMac」(アイマック)と称するパーソナルコンピュータ(以下「iMac」という。)を製造し、日本を含む全世界において販売しているが、iMacの形態(形態には色彩素材等を含む。以下同じ。)は、商品の出所表示の機能を有しており、かかる商品表示としての形態は、パソコンユーザーのみならず広く世間一般において周知となっている。 ところが債務者は、iMacの形態と酷似する外観を有し、iMacと混同を生じさせるおそれのある、「e-One」(イーワン)と称する別紙債務者商品目録記載のパーソナルコンピュータ(以下「e-One」という。)を製造し、本年7月にその販売を開始した。
 本件は、債権者らが、債務者に対し、不正競争防止法第2条1項1号、第3条に基づき、e-Oneの製造・販売の禁止等を命ずる仮処分命令を申し立てるものである。
第三 被保全権利
一 iMacの形態の特徴
1 iMacの形態は、別紙債権者ら商品目録「形態」欄記載のとおりである。その特徴を列挙すると、以下のとおりである(甲20)(後に周知商品表示性の項で詳述するが、iMacは平成10年8月に「ボンダイ・ブルー」と呼ぶ半透明の青緑色と半透明の白色のツートンカラーの初期型が発売された。その後平成11年1月に、「ブルーベリー」と呼ぶ半透明の青色を含む5色(残る4色は、いずれも半透明の、「ストロベリー」(ピンク)、「タンジェリン」(オレンジ)、「ライム」(緑)、「グレープ」(紫))と半透明の白色のツートンカラーの現行型が発売されて、現在に至っている。初期型と現行型の形態は色を除きほぼ同一であり、その特徴も同一であるので、以下には初期型と現行型全色をあわせたiMacをシリーズとしてとらえ、その「シリーズとしてのiMac」の特徴を説明する。以下では、初期型の青緑、及び現行型の5色の計6色を、「基調色」と呼ぶ。)。
 まず、全体的な印象として、以下のような特徴がある。
@iMacは、パーソナルコンピュータの本体部分とブラウン管表示画面が一体となった、いわゆる一体型パソコンであり、全体として曲線を多く用いた丸みを帯びた点に特徴を有するデザインを採用している。このように曲線を多く用いたパソコンは、iMac以外にそれほど例を見ない。
A外装の素材には、プラスティックが用いられている。外装の色は、半透明の基調色と半透明の白色の2色の組み合わせであるが、2色のどちらも、外部から内部をうっすらと見通すことができる半透明の素材が選択されている。この半透明のプラスティックを用いたパーソナルコンピュータはiMacが初めてであり、iMacの形態を極めて強く特徴づけている点のひとつとなっている。
 次に、iMacの各個所を分析的に見ると、以下のような特徴がある。
B正面から眺めると、角の取れた四角形であり、中央に表示画面があるが、それを取り囲む支持部分の色は半透明の白色である。表示画面の下方にコンパクトディスク・ドライブを内蔵している。そのトレイ前面の色は半透明の白色であるが、トレイを出し入れするためのボタンは半透明の基調色である。正面下部の両端にはスピーカーが内蔵されており、そのスピーカーカバーの色は半透明の基調色である。本体正面上部中央には3ミリ程度の縦長の穴が空けられており、その下にはマイクが埋め込まれている
C天面から眺めると、背面部に向かって流れるように絞られた、台形に近い緩やかな三角形となっている。天板正面側は、正面の表示画面支持部分上部と連続性を有する半月型で半透明の白色のカバーに覆われており、それ以外の後ろ半分は側面と連続性を有する半透明の青色のカバーに覆われている。半透明の基調色の部分には、内部の熱を外部に放出するための穴が、横向きの曲線状の数本の帯に沿って並べられており、またその背部側に隣接して、楕円形で半透明の白色の色をした持ち手が配置されている。このように、一体型パソコンの上部に持ち手を配置したデザインも極めて珍しく、iMacの形態の特徴となっている。
D側面から眺めると、その全体的な形態は、天面から眺めた形態とよく似た緩やかな三角形となっている。下辺に沿っておよそ3分の1程は半透明の白色、上部およそ3分の2程は半透明の基調色のカバーで覆われており、半透明の基調色の部分は天面の半透明の基調色部分と連続している。
E右側面下部には、開閉できる蓋の中に、キーボード、マウス、及びその他の周辺機器を接続するためのコネクタが配置されており、その蓋にはコードをすっきりと束ねて通すための穴が開けられている。
F背面から眺めると、背面部が絞られており、正面の4辺から背面に向けてそれぞれ緩やかな曲面を描いている。色は、側面から眺めた場合と同様、下部およそ3分の1程は半透明の白色、上部およそ3分の2程は半透明の基調色のカバーで覆われており、それぞれ側面と連続性を有している。下部半透明の白色部分の中央には、基調色のリンゴマークが付されている。
G半透明の基調色を透かして見ることのできる内部は、単に部品を詰め込んだだけではなく、透かして見通せることを意識して基盤等が整然と配置されている。基板をブラウン管の横に立てる形で配置することは、e-Oneを除く他の一体型パソコンにおいては見ることのできない特徴である。
H本体内部には、半透明の外装を通して見られる全体のデザインをすっきりとした美しいものとするために、側面部分から背面をとおって反対側の側面にかけて、目隠しの金属板が設置されている。
I下部には本体から引き出すことのできる足(スタンド)が内蔵されており、これを立てることによって、正面の表示画面の角度を変えることができる。
Jキーボードは本体と同じ半透明の白色と半透明の基調色のツートンカラーで、キーは半透明の黒である。
Kマウスも本体と同じ半透明の白色と半透明の基調色のツートンカラーである。
Lキーボード及びマウスを本体に接続するためのケーブルは、銀色の芯線を透明な皮膜で包んだものであり、内部の輝く金属色が近未来的な印象を与えるアクセントとなっている。
M背面向かって左寄りには3センチほどの窪みが設けられており、その窪みの奥には電源ケーブルの差込口が配置されている。背面に接続する電源ケーブルは、赤と青の導線1本ずつと、黄色と緑の縞模様のアース線1本の合計3本のカラフルな芯線を、半透明の青の皮膜でくるんだものであり、本体とのデザインの連続性を保っている。
2 右に列挙したiMacの形態的特徴は、iMac発売以前のパーソナルコンピュータにはない、全く新しいiMac独自の特徴であり、iMacの登場はまさにパーソナルコンピュータのデザイン革命とでもいうべき出来事であった。そして、iMacの上記形態的特徴は、次項で詳述するとおり債権者の商品であることを示す表示として周知商品表示性を獲得している。その形態の主要な特徴を要約すれば、「目に鮮やかな半透明のツートンカラーで、かつ丸みを帯びた極めてユニークな意匠的特徴を有するパーソナルコンピュータ」であると言える。
二 iMacの形態の周知商品表示性
1「商品の形態」の周知商品表示該当性の判断手法
 債権者は、前項に主張したiMacの「形態」が、不正競争防止法第2条1項1号にいう「商品表示として需要者の間に広く認識されているもの」(以下「周知商品表示」という。)に該当すると主張するものであるが、商品の形態がどのような場合に周知商品表示に該当するかについては、一般に、「商品の形態は、本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等のために選択されるものであり、商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、特定の商品形態が同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、右商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間でも強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、結果として、商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り、かつ、商品表示としての形態が需要者の間で周知になることがあるべきというべきである。そして、このような場合には、右商品形態が、当該商品の技術的機能に由来する必然的、不可避的なものでない限り、不正競争防止法2条1項1号に規定する『他人の商品表示として需要者の間に広く認識されているもの』に該当するものといえる。」と解されている(東京地方裁判所平成11年6月29日判決参照。)。
 すなわち、商品の形態が、
 @同種の商品と識別しうる独自の特徴を有していること及び
 A長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間でも強力な宣伝などが伴って使用されたこと
が要件であり、それによって、周知商品表示性を獲得するのである。
 そして、以下に主張するように、前項に記載したiMacの特徴的な形態は、明らかに周知商品表示に該当するものである。
2 iMacの商品形態が独自の特徴を有していること(右要件@)
 iMacは前記一記載のとおりの特徴を有するが、これらの特徴は、iMacが発売される以前の他のパーソナルコンピュータには一切見ることのできなかった新規かつ独自の特徴である。
 これらのiMacの特徴がiMacに独自であることは、次項において引用されている新聞記事が、上記のような特徴を持ったiMacの登場を驚きをもって歓迎し、そのデザインの斬新さを絶賛していることからも明らかである。
3 iMacの形態が強力な宣伝などを伴って継続的に使用されたこと(右要件A)
 以下に見るように、iMacが、債権者らにより強力に宣伝され、またその結果マスコミなどに大きく取り上げられる中で、iMacの形態は債権者らにより継続的に使用された。
@iMacの初期型の発表・発売開始時の反響の大きさ
 iMacの初期型は、債権者米国アップルによって平成10年5月に発表され、同年8月15日に債権者米国アップルによって米国で、また同年8月29日には債権者日本アップルによって日本で、それぞれ販売が開始された。
 右発表直後からその革命的なデザインとコンセプトゆえにiMacに対する業界の注目度は高かった。米国においては発売開始前から約15万台の注文がなされ、日本においても、日本における発売開始前にかかわらず、関係業界紙のみならずいわゆる全国紙にまで(日本経済新聞平成10年8月20日朝刊、朝日新聞同日朝刊、毎日新聞同日朝刊、東京新聞同日朝刊、日刊工業新聞同日朝刊、読売新聞同月21日朝刊等)、iMacの近日発売開始が大きく報じられた。
 もちろん、発売開始直後にも、各紙(日本経済新聞平成10年8月30日朝刊、産経新聞同日朝刊、東京新聞同日朝刊、読売新聞同年9月1日夕刊等)において、大きく取り上げられている。これらの新聞記事においては、
 「本体は半透明の斬新なデザイン」
 「従来のパソコンと違った丸みを帯びた個性的なデザイン」
 「新製品は本体だけでなくマウス、キー、ケーブルまですべてが半透明になっているのが最大の特徴」
 「パソコン本体とディスプレイを一体化すると同時に、丸みを持った青と白のスケルトン(半透明)ボディーを採用した斬新なデザイン」
 「半透明なカバーを使ったスケルトンボディーで、いかにもアップルらしい斬新なデザイン」等、ほぼ全ての記事に、iMacのデザインの斬新さに対するコメントが載せられている。文字制限の厳格な新聞記事においてこれだけ多くの言葉が奢られていることは、iMacの商品形態が他のパーソナルコンピュータに比べていかに特徴的で、斬新であるかを示すものであるが、このように大きく報道されることによって、iMacの形態はパソコンユーザーのみならず広く世間一般に知れ渡ることとなった。
AiMac初期型の販売台数の伸び
 iMacは発売開始直後から大人気を博して大きな売上を記録した。そして、
 「アップル『iMac』出足好調」
 「いま注目異色パソコン『iMac』」
 「iMac入荷待ち」
 「iMac1ケ月で販売4万台突破」
 などと、入手が困難になるほど好評を博した旨が各紙に大きく報じられた。
 それらの記事においても、
 「青と白の半透明のボディーのパソコンらしからぬデザイン」
 「売り物のデザインは青い半透明プラスティックを遣った本体が大きなおにぎりを思わせる大胆な形。」「四角く無表情で裏側は配線でごちゃごちゃという従来のパソコンのイメージを覆すスタイルに、思わず『かわいい』と興味を示す女性も多いという。」
など、ほぼ必ずiMacの形態が言及されたことにより、iMacの形態はますます世の中に知れ渡ることとなり、債権者らの商品表示として周知性を獲得していった。
BiMac現行型(5色)の販売開始とそれに対する反響
 このように大人気を博したiMacの初期型はボンダイ・ブルーと呼ぶ半透明の青緑と半透明の白色のツートンカラーの製品で希望小売価格は17万8千円であったが、初期型の成功によってコスト削減が可能となり、平成11年1月に米国で債権者米国アップルにより、1月29日に日本で債権者日本アップルにより、基本性能を向上させるとともに、ブルーベリーと呼ぶ半透明の青色を含む前記5色(残る4色はいずれも半透明の、ピンク、オレンジ、緑、紫)と半透明の白色のツートンカラーの5タイプのカラーバリエーションを加え、15万8千円に希望小売価格を下げた現行型が発売された。
 初期型が好評であったのに加え、初期型の発売から5ケ月後という短い期間にカラーバリエーションを充実させ、かつ基本性能を向上させて価格を引き下げた新製品が発売されたことから、その反響は大きく、発売開始前後を問わず、全国紙5紙、業界紙等の新聞にも大きく報道された。
 そして、それらの記事においても、
 「白と半透明の青を組み合わせたしゃれたデザインで爆発的な人気」
 「しゃれたデザインで大ヒットしたアップルコンピューターの机上型パソコン」
等、iMacの商品形態の独自性、及びそれが爆発的な人気を博していることが記載されている。
 そして、これらの多数の新聞記事の記載は、特にこれらのほとんどがiMacの外観の写真を掲載していることともあいまって、iMacの商品形態を、全国的に、パソコンユーザーのみならず一般消費者に対しても知らしめることとなった。iMacの形態の周知性は、強度のものであって、「著名」に極めて近いと評価しても過言ではない。
C雑誌への掲載
 iMacは、新聞紙のみならず、雑誌にも大きく取り上げられた。
 各種コンピュータ関連雑誌には、iMac又は債権者らを特集した記事を掲載するものが続出し、また一般的なパーソナルコンピュータの販売状況を報じる記事においても、その多くにおいてiMacの販売の好調さは特記されている。
 しかし、ここで注目すべきは、iMacの形態の独自性とその好調な売れ行きが、右のような業界雑誌のみならず、一般的なビジネス情報誌においても大きく取り上げられていることである。iMacは、一般的なトレンド商品関連報道においても、非常に注目される存在として扱われている。
 これらの事実は、iMacがその商品形態においていかに独自性を有していたかを示すものであると同時に、一般に話題性のある事象を取り上げる雑誌に掲載されたことは、iMac(特にその形態)が広く一般に周知となっていたことを示すものというべきである。
D債権者らによる広告宣伝とその費用
 右のように、iMacの形態は周知商品表示性を獲得するに至ったのであるが、それは、単にマスコミによる報道が繰り返されることにより自然発生的に獲得されたものではもちろんなく、その背景には、債権者らによる強力かつ独創的な宣伝活動があった。
 債権者日本アップルは、iMacの販売にあたり、平成10年8月の発売開始から平成11年7月までの間に、約20億円をかけてテレビコマーシャルを継続的に行った。その他、テレビ以外の一般広告に約13億円、マーケティング等に約4億円をiMacのためだけに投下した。白い背景にiMacの形態を印象的に映し出したもの、男性俳優がiMacの長所を語りかけるものなど、敢えて債権者の社名を出さず、iMacそれ自体の商品としての「魅力」を印象づけるその手法は、「Think different」というキャッチフレーズとともに、記憶に新しいところである。
 これらの効果的かつ十分な宣伝活動によって、債権者らは、その努力により、iMacの商品形態の周知性を高めることに成功したのである。
4 販売台数
 iMacの販売台数は驚異的な数字を示した。iMacの平成10年8月の販売開始から平成11年7月現在までの販売台数の合計は約25万台となっており、1パーソナルコンピュータとしては例外的に多い販売台数であるということができる。実際、あるデータによれば、発売直後から現在に至るまで、iMacは一貫して我が国で販売されているパーソナルコンピュータ全機種中最高の販売台数を記録し続けている。
5 iMacの形態に対する評価
@平成10年ヒット商品番付
 iMacは、各種団体が選定した平成10年のヒット商品番付において、パーソナルコンピュータとしては極めて例外的に、関脇ないし小結という非常に高い順位にランク付けられている。そして、iMacは、「丸型で透明な本体部分のかわいらしさが受け、アップル・コンピュータ起死回生のヒット作となるなど、従来の形式を打破する商品」
などと評されている。すなわち、これらランキングは、iMacの形態が債権者らの商品表示として周知性を獲得していると一般に評価されていることを示す。
A各賞の受賞
 iMacはその優れたデザインから、米国において
 1999 Industrial Design Excellence Awards 金賞
 Time誌 The Best of Design
 Newsweek誌 One of The Best Designs of 1998
 USA Today紙 Best Designed Product of The Year
 Popular Science紙 Best of What’s New
等を受賞した。
 もちろん日本においても、
 98年度グッドデザイン賞 家庭用メディア部門(財団法人日本産業デザイン振興会) 今年のヒット商品 2位(日経トレンディ/日経ホーム出版)
 雑貨オブ・ザ・イヤー 特別賞(雑貨カタログ/主婦の友社)
 98年日経優秀製品・サービス賞 最優秀賞 日経産業新聞賞(日本経済新聞/日本経済新聞社)
 Best of World PC EXPO賞 (日経BP社)
 スーパーグッズ・オブ・ザ・イヤー コミュニケーションツール部門金賞(モノマガジン/ワールドフォトプレス)
 98年DIMEトレンド商品大賞 ニューアイデア商品部門(DIME/小学館)
等の各賞を受賞した。これら受賞は、iMacがその形態・デザインにおいて際立って優れた製品であって、かつその商品形態が極めて周知であると評価されていることを如実に示すものである。
6 周知商品表示性のまとめ
 以上を総合すると、iMacの商品形態は、前記一記載のような形態において、同種の商品と識別し得る独自の特徴を有していたものということができ(前記要件@)、かつ債権者らが多額の費用を投じた宣伝広告に加えて数多くの新聞や雑誌に頻繁に取り上げられ、その形態が写真付きで紹介された(前記要件A)ことによって、商品形態の独自性が際立ったヒット商品としての評価が全国的に定着し、結果として、全国のパーソナルコンピュータ関係業者、パーソナルコンピュータ需要者のみならず、広く一般消費者の問において、債権者らの商品としての出所表示機能を獲得するに至り、債権者らの周知商品表示となったものである。
三 債務者の不正競争行為
 しかるに、債務者は、平成11年7月19日に、iMacの形態と酷似する前記e-Oneの販売を発表し、翌7月20日には小売店の店頭及び同社のインターネットホームページを通じて、消費者への販売を開始した。
四 e-Oneの形態とiMacの形態の類似性及び混同のおそれ
1 e-OneとiMacの形態は、次に述べるように酷似している。
@パーソナルコンピュータには、タワー型、横置型、ノート型、一体型等の種類があるが、e-Oneは、iMacと同じ一体型のコンピュータである。しかも、全体に曲線を多く用いた丸みを帯びたデザインとなっている点が共通している。
Ae-Oneの外装には、iMacと同じプラスティックが採用されている(パーソナルコンピュータの素材には金属が使用されることもある。)。外装の色としては、半透明の白色と、半透明の青色のツートンカラーが採用されているが、この白色と青色の組み合わせは、債権者ら商品目録記載の「ブルーベリー」のiMacにおける白色と青色の組み合わせとほぼ完全に同一である。しかも、この白色と青色は、iMacと同様に半透明の素材が選択されている。
 既に述べたとおり、この白色及び青色の半透明の素材はiMacの形態を極めて印象強く特徴づけるものであるが、e-Oneでは敢えてほぼ同一の素材及び色が採用されているため、一見して全く区別が付かないほど極めて類似した印象を、見る者に与える。
2 右に見たとおり、e-OneとiMacの形態は、全体として酷似しており、「ツートンカラーの半透明のカバーにくるまれた丸みを帯びたデザイン」というほぼ同一の印象を見る者に与えるのであるが、各部分を子細に分析し比較して見ても、以下のように極めて多くの共通点ないし類似点を有している。
@e-Oneを正面から眺めると、角が取れた四角形に見えるが、これはiMacと共通している。中央には表示画面があるが、大きさ15インチのブラウン管である点は全く同一である。それを取り囲む支持部分の色は、上部がe-Oneの場合半透明の青色であるのに対し、iMacの場合半透明の白色である点はわずかに異なるものの、左右及び下部が半透明の白色である点は共通である。表示画面の下方にコンパクトディスク・ドライブが内蔵されている点も同一であり、そのトレイ前面の色が半透明の白色で、トレイを出し入れするためのボタンが半透明の青色である点も全く同一である。正面下部の両端には、e-OneもiMacも同じようにスピーカーが内蔵されているが、その周りの色が半透明の青色となっている点も共通している。右側のスピーカーの左側に、丸い電源ボタンとマイク・スピーカージャックが配置されている点も、共通点として挙げることができる。
A天面から眺めると、e-OneもiMacも、台形に近い緩やかな三角形に見える。天部正面側は、色は相違するものの、正面の表示画面支持部分上部から連続するカバーに覆われており、しかもその形が半月形である点は同一である。なお、iMacの半月形の中央部には、債権者らの商品のシンボルマークである「リンゴマーク」が付されているが、e-Oneでもほぼ同じような位置に商品名から取ったと思われる「e」というマークが付されている。それ以外の後ろ半分が、側面と連続的に半透明の青色のカバーに覆われている点も同一である。半透明青色の部分には、内部の熱を外部に放出するための穴が、横向きの曲線状の数本の帯に沿って並べられている点も共通している。
 上部には、形状は異なるものの、本体を持ち運びするための持ち手が取り付けられている点も共通点である。(なお、本体上部に持ち手を付けた一体型パソコンはiMacが最初と思われるが、その他には、e-Oneを除きほとんど例を見ないものである。)
B側面から眺めると、後ろの辺の長さが若干異なるが、上辺が後ろ向きに下がった台形に近い三角形である点は共通である。色は、ほぼ3分の2を半透明の青色が占めており、その他の部分は、e-Oneでは上方、iMacでは下方という点は異なるものの、半透明の白色であるという点が共通する。右側面下部に、開閉できる蓋の中に、キーボード、マウス、及びその他の周辺機器を接続するためのコネクタが配置されている点も共通する。
C背面から眺めると、背面部が絞られており、正面の4辺から背面に向けてそれぞれ緩やかな曲面を描いているという共通点をよく見て取ることができる。色は、全体が半透明の青色で覆われ、一部半透明の白色がアクセント的に入り、それぞれ側面と連続性を有している点で共通する。背面部中央には、e-Oneでは債務者の社名である「SOTEC」のロゴが、iMacでは「リンゴマーク」が、それぞれ付されている点が共通している。
D下部には本体から引き出すことのできる足(スタンド)が内蔵されている点も共通点のひとつである。
E本体に附属するキーボードは、各色が配されている部分の上下関係は逆転しているものの、本体と同じ半透明の白色と半透明の青色のツートンカラーである点が共通である。キーは、ほぼ同一の色である半透明の黒色が採用されている。マウスについても、形状は異なるものの、本体と同じ半透明の白色と半透明の青色とツートンカラーで構成されている点が共通する。キーボード及びマウスを本体に接続するためのケーブルが、銀色の芯線を透明な皮膜で包んだものである点も共通点である。
Fe-Oneに用いられている背面に接続する電源ケーブルは、鮮やかな複数色の芯線を透明な皮膜でくるんだものであり、iMacに用いられているものと全く同一である。
3 以上述べたとおり、e-Oneの形態は、全体的に比較しても分析的に比較しても、iMacの形態に酷似している。報道の例を見ても、e-Oneに対しては、ほぼ一致して、「iMacに極めて類似している」との評価が下されている。例えば、
@「iMacそっくりさん、日本製も発売」
A「ソーテック、iMacに似たデザインの一体型PC」
B「外観はアップルコンピュータの『iMac(アイマック)』に似ており、同機種の人気にあやかりたいとの意向が感じられる」
C「しまった、iMacに似てしまった?」
4 このように、e-Oneの形態は、iMacの形態と酷似しているのであるが、これは、前項に論じたとおり、債務者が、e-Oneの形態として、原告の商品表示として極めて高度の周知性を獲得したiMacの形態を敢えて模倣することによって、債権者らが多額の費用と労力を投入して獲得したiMacの周知商品表示に「ただ乗り」し、自らはさしたる費用も労力も投ぜずして需要者の耳目をe-Oneに引きつけ、販売台数を伸ばすことにより、もって不当に利益を得ようとしたものに他ならない。この債務者の不正競争行為の結果、市場においては、e-Oneの紹介記事の中で、
@「ソーテックから発売された『e-One』は、アップルコンピュータのiMacによく似たディスプレイ一体型パソコンだ。……ちょっと見ただけではiMacと見分けがつかないほどだ。」
A「写真を見て見間違える人がいるかも知れないが、これは『iMac』の新製品ではない」B「7月19日の『e-One』の発売会。応援に駆けつけたインテルの伝田信行社長は『リンゴのマークの人も(買いに)来るのでは』とあいさつ。」
などと評価されていることに端的に現れているように、パーソナルコンピュータのユーザー及び潜在的ユーザーがe-Oneの宣伝広告や現物を見た場合に、これをiMacであると誤認するおそれを生ぜしめており、需要者の間において混同を惹起している。特に、iMacは、パーソナルコンピュータを初めて購入する初心者をそのターゲットのひとつとして措定しているが、このような初心者にとってみれば、例えばオペレーティング・システム(パーソナルコンピュータを動作させるための基本ソフトのこと。)の相違(iMacはMacOS8.6を使用しているのに対し、e-Oneはこれと異なるMS-Windows98を使用している。)や機能拡張のための端子の多寡等、iMacとe-Oneの機能的相違点にほとんどこだわらず(あるいは理解せず)、商品形態を一瞥するのみで、「簡単に使えるかっこいい、かわいいパソコン」として、iMacとe-Oneを誤認混同するおそれは十分に高いと言うべきである。
 また、需要者が前述したオペレーティング・システムの相違や機能的相違点に留意したとしてもなお、e-Oneが債権者らからのデザイン使用許諾を受けて製造・販売されているのではないかという意味で誤認混同、あるいはe-Oneの製造元と債権者らとの間に何らかの資本関係ないし提携関係があるのではないかという意味での誤認混同が需要者に生ずる蓋然性が高いのは明らかである。
 このように、債権者らの周知商品表示を不法に使用した商品を製造し販売する債務者の行為は、不正競争防止法第2条1項1号に該当し、極めて悪質な不正競争行為として、すみやかに差し止められなければならない。
五 被保全権利のまとめ
 よって、債権者らは、債権者らの周知商品表示であるiMacの形態に酷似する形態のe-Oneを製造、販売、輸出入している債務者に対し、不正競争防止法第2条1項1号、第3条に基づき、e-Oneの製造、譲渡、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのための展示、及び輸出入の差し止めを求める権利を有する。
第四 保全の必要性
 債権者らは、「マッキントッシュ」(略称「マック」)として知られるパーソナルコンピュータシリーズの開発者であり、かつ製造者であるが、1990年代に入り、マイクロソフト社のオペレーティング・システムを使用したいわゆる「ウインドウズ」陣営に押されて、経営危機が取り沙汰されるようになっていた。
 そのような状況の下、最高経営責任者の交代と創業者の復活など経営陣の変動を経て、債権者らは、一目でアップル製とわかる個性的な製品の開発に総力を挙げて取り組んだ。そして、その中心を占める製品が、iMacであった。債権者らが昨年8月に、iMacを発表し発売したところ、幸いにして非常に好意的に市場に受け入れられ、本年8月までに全世界では累計約200万台、日本でも累計25万台が販売される大ヒット商品となった。このiMacが牽引役となって、債権者らの業績も回復し、米国のパーソナルコンピュータ市場における債権者製品の市場占有率は、iMacの発売前である昨年6月現在のニパーセントから、本年1月には6.6パーセントまで回復し、また我が国の店頭売りデスクトップコンピュータ市場における市場占有率も、昨年6月の4.5パーセントから本年1月には13パーセントとなった。
 しかしながら、1年1日、又は「ドッグイヤー(犬を基準とした時間)」で時が流れると評されるほど、技術革新が極端に速く業績の浮き沈みの激しいパーソナルコンピュータ業界においては、債権者らの業績が回復してきたといっても油断は許されず、またいつ瞬時の内に業績が下方に向かうかもわからない。
 ここで、債権者らの周知商品表示を不法に使用した債務者によるe-Oneの製造販売行為を放置すれば、債権者が多額の費用と人的資源を投入して獲得したiMacの有する周知商品表示性が損耗ないし希釈化され、また需要者の間に誤認混同が惹き起こされることにより、iMacの販売台数が減少せしめられるところになりかねない。
 市場においては、債務者のe-Oneは、iMacによく似たパソコンとして注目を集め、発売開始直後にもかかわらず、まさに飛ぶような売れ行きとの評価を受けているようであるが、このようなe-Oneの製造販売行為によって債権者らが回復不可能かつ莫大な損害を受けることは必須である。そのため、e-One発売開始間もない今をもって、債務者の右不正競争行為を差し止める必要性は極めて高い。
第五 まとめ
 よって、債権者らは、債務者に対し、不正競争防止法第2条1項1号、第3条に基づき、申立の趣旨記載の仮処分命令を発せられたく、貴庁に対し本申立に及ぶ。

別紙二 答弁書
第一 申立の趣旨に対する答弁
 債権者らの申立を却下するとの裁判を求める。
第二 求釈明の申立
一 申立書3頁記載の「半製品」とは何か。
二 申立書9頁「iMacの形態の特徴」以下によれば、債権者らは、シリーズとしてのiMac(以下単に「iMac」という。)の形態の特徴及び周知商品表示性を主張していると思われ、また、同36頁「e-oneとiMacの形態の類似性及び混同のおそれ」以下でも、iMacと債務者商品(以下「e-one」という。)との形態の類似性及び混同可能性を主張していると思われる。しかしながら、債権者ら商品目録においては、iMac(ブルーベリー)を掲げ、その形態としてもブルーベリー色のiMac(以下「ブルーベリー」という。)を記述しており、さらに、同37頁の記載によれば、e-oneとブルーベリーとの形態の類似性及び混同可能性を主張しており、主張として不特定ないし相互に矛盾しているので、この点を明確にするよう求める。
三 債権者らは、iMacの形態の特徴として、@全体的印象(申立書9頁「iMacの形態の特徴」以下)、A分析的特徴(同10頁以下)及びB分析的特徴の要約(同15頁)の3つを主張しており、そのいずれを、iMacの形態の周知商品表示性を基礎づける特徴として主張しているかが不明確であり、債務者としては、十分な防御を尽くすことができないので、この点を明らかにするよう求める。
第三 債務者の反論の概要
 債務者の反論の概要は以下のとおりである。
一 e-oneの形態は債務者独自のものであること
1 パソコン業界における債務者の立場等
(1)債務者は、昭和59年(1984年)の創立以来、一体型パソコンに限らないパーソナルコンピュータの自社ブランド製品及びOEM(相手先ブランドによる製造品)製品の製造及び販売を行ってきたメーカーであり、とりわけ、一体型パソコンについては、一貫して、プラスチックの素材を外装に使用した製品を開発・製造・販売してきた。OEMによるコンピュータの供給先としては、大手コンピュータ会社(仏BULL社、エプソン株式会社、日本電気株式会社、米国ユニシス社、米国ゲートウェイ社等)や米国政府機関が挙げられる。
 平成5年からは、国内向けに自社ブランドによるパソコンの販売を開始し、短い期間に確固たるユーザー層を確保した。特に、平成10年に発売したマイクロPCステーションのシリーズは、ユーザーから「マイピー」と呼ばれるほどの人気を獲得している。
 加えて、債務者は、平成11年6月の「パソコン・ショップでの購入予定者が選んだメーカ候補」という調査において、債権者らを上回る人気を獲得しており、また、他にも同様の調査結果がある。
 ちなみに、債務者は、「ソーテック」の周知性をさらに高めるべく現在も努力を続けており、平均すれば毎月3億円以上の宣伝費を費やしているが、とりわけ、e-one発売後の平成11年7月及び8月は合計で7億5000万円以上の宣伝費を投じている。
 このような歴史・伝統及び人気・信用を有する債務者が、あえてe-oneとiMacを類似させて、出所を混同させ、iMacの人気に便乗して不正に利益を得る必要は全くない。そのような不正競争を行えば、かえって、これまで築いてきた確固たる信用が喪失してしまうであろう。
 さらに、債務者の創業者及び代表取締役社長兼事実上のオーナーである大邊創一(以下「大邊社長」という。)は、債務者会社の設立以前からパーソナルコンピュータ(かつてはマイコンと呼ばれた製品)の開発・販売に20年以上にわたり携ってきている人物で、同業界の会社首脳とも多数の親交があり、また、信用ある会社をOEM供給先としている関係からも、出所を混同させることによって不当な利益を挙げるような事業に手を染めるはずもなく、債権者らによる本仮処分及び本訴の申し立ては、債務者にとっても大邊社長にとっても真に心外な出来事であった。。
(2)また、後述のとおり、債務者は、創立以来、スケルトン(半透明のプラスチック、ケーブルなど)の市場性に着目し、商品発表会などで繰り返し公開してきたのであり、債権者らよりも早くパソコンの外装にスケルトンを用いるというアイディアを着想し、実現してきたのである。
(3)さらに、債務者は、港を擁する横浜に本店を持ち、横浜を象徴する色である青をそのコーポレートカラーとしている。
2 e-oneの形態は、債務者独自のものであること
 e-oneの形態は、債務者が、iMacの発表以前より、独自に企画し、外部のデザイナーに依頼して、独自に完成させたデザインである。当該デザイナーは、テザインにあたり、乗用車(ベンツのAクラス)のイメージなどを参考としたというが、完成したデザインは、乗用車の形態と直接の類似性を持ったデザインではなく、まして、iMacのデザインは参考にさえもしていない。したがって、e-oneが、断じてiMacを類似したものではないことは明らかである。
二 被保全権利が存在しないこと
1 iMacの形態は周知商品表示でないこと
(1)そもそもパソコンのような機能的製品には、その機能を実現するために必然的な部品構成が存在する。即ち、主要な構成部品である表示装置(ブラウン管)などは見やすい位置に配置されるべきであり、商品の見た目は自ずと普遍性を帯びる。したがって、パソコンのデザインには無限の可能性があるわけではなく、需要者のニーズに応えて、なるべく安く、なるべく使いやすい一体型パソコンを開発しようとすれば、いずれの製品も普遍的な形態となり、ある程度は似ざるを得ないのである。即ち、パソコンの形態選択においては、競争上及び機能上の制約が必然的に伴うのである。このことは、テレビ、カメラ、車及び洗濯機等の他の機能的製品の形態が、いずれも普遍的形態を選択していることからも明らかである(なお、これらの製品の需要者はロゴやマーク等で商品の出所を識別している。)。したがって、パソコンの形態や周知商品表示として保護されるための要件は、事業者間の公正な競争を確保するという不正競争防止法の目的(同法1条)を害さないという観点から、厳格に解する必要がある。
 さらに、商品の形態は本来的には出所表示機能を有しないものであることをも加味して考えると、パソコンの形態が、債権者らの主張する2つの要件(@同種の商品と識別しうる独自の形態を有していること及びA長期間継続的に使用されるか、又は、短期間でも強力な宣伝などがともなって使用されたこと)を充たした場合、それだけで、周知商品表示性を獲得すると解することは妥当ではない(債権者らの引用する東京地方裁判所平成11年6月29日の判例は非機能的製品である洋服に関するものであり、機能的製品であるパソコンにそのまま妥当するものではない。)。
 また、仮に、一般論として、右@Aの要件を充たした商品の形態が周知商品表示性を獲得するとしても、具体的な事実認定に際しては、競争上及び機能上の制約を十分考慮し、事業者間の公正な競争を確保するという観点から、iMacの形態が周知商品表示となるか否か、そのいかなる形態部分が周知商品表示を構成するかについて、たとえ仮処分であっても、慎重な検討を要するのである。
(2)さらに、第四項で詳述するとおり、債権者らの主張するiMacの形態の分析的特徴の中には、新規でないもの又は独自でないものが多数含まれており、また、新規かつ独自といえる特徴は見当たらない。
(3)また、iMacの形態が周知商品表示となるためには、iMacの形態が新規かつ独自の特徴を持つものであることに加えて、右形態が、一般的な需要者がiMacを購入する際の重要な選択の基準となっていることが必要である。
 しかしながら、iMacのようなパソコンの場合、需要者は、OS(オペレーションシステム。コンピュータの基本的ソフトウエアであり、そのコンピュータ上で、例えばある仕事をする場合、かかる仕事を担当するアプリケーションソフトウエアは、このOSの機能に依存している。OSが異なる場合、アプリケーションソフトウエアに互換性がない場合がほとんどであり、多くの場合、そのアプリケーションソフトウエアにより作成されるデータについても、その形式等を異にする互換性のないものとなる。いわば、ビデオのベータとVHSの違いのようなものである。)、機能及び使いやすさ等を重要な選択の基準としているのであり、iMacの形態を重要な選択の基準としている訳ではないから、右形態は周知商品表示ではない(いわんや著名商品表示に近いとは到底言えない。以下同じ。なお、需要者の選択の基準については、後記4(2)で再言する。)。これは、日経マーケットアクセスが実施した「パソコン購入時に重視する項目」と題するアンケートによれば、パソコン購入時に重視する項目の上位10位が、@価格が安い、AOSやソフトがインストールされている、Bウインドウズ95が使える、C処理速度が速い、Dインターネットがすぐに使える、Eハードディスクが大容量、F高速モデムが最初からついてくる、G拡張性が高い、Hメーカの企業イメージが良い、I周りに利用者が多いであり、デザインが入っていないことからも明らかである。
 さらに、iMacには、モニターの下の中央部に「iMac」というロゴがあり、天面中央部には、債権者らの商品であることを示すリンゴマークがある(iMacというロゴとリンゴマークはiMacのテレビCMでもしきりに強調されている。また、iMacというロゴとリンゴマークの形が持つインパクトの大きさは甲第9号証の7、3丁表にも記載されている。)。このように、形態の持つ出所表示力をはるかに越えたロゴとマークという強力な商品表示が存在する以上、右形態には出所表示機能はなく、したがって、周知商品表示ではない。
2 ブルーベリーの形態は周知商品表示でないこと
 ブルーベリーは、1999年1月になって発売されたiMacの新型であり(発売当初からそれまでは、ボンダイブルーと呼ばれる濃い青緑色の1種類のみが広告・販売されていた。)、かつ同時に発売された5色ある現行型iMacの1色に過ぎない。したがって、仮に、iMacの形態が周知商品表示であるとしても、ブルーベリーの形態は周知商品表示ではない。なぜなら、仮に、iMacの形態が強力な宣伝などを伴って継続的に使用されたとしても、その宣伝及び使用は全て5色のiMacを対象としているから、その宣伝及び使用の効果のごくわずかしかブルーベリーの形態の宣伝効果として寄与するものはないからである。実際、債権者らは、5色の現行型を円形に並べた上、それを画面上で回転させるというテレビ広告を行うなど、各色彩の個性を強調しないような広告を行っており、これらの広告を見た視聴者も、カラフルという概括的なイメージ以上に、ブルーベリーという特定の色のiMacの存在を認識することはほとんどないと考えられる。
 なお、前記1の主張は全てブルーベリーにも妥当することを念のため付言しておく。
3 e-oneの形態とiMacの形態とが類似していないこと(e-oneの形態はiMacの形態を模倣していないこと)
(1)以下のとおり、e-oneの形態とiMacの形態との間には出所表示機能の観点からみて顕著な差異がある(詳細は第四項を参照)。
@iMacの形態は側面から見ても背後から見ても涙型であるのに対し(立体で言えば円錐型)、e-oneは、従来のパソコンの延長線上にある箱型である(あえていえば、台形を重ねただけである。)。
AiMacの外装の配色は、あえていえば、基調色と白色のツートンであるのに対し(厳密には2種類の白色が使用されているので、ツートンではない。)、e-oneの外装の配色は、青色を全体に配色しており、白色をアクセントとして用いているにすぎない。
BiMacには、目に触れやすい部分に、iMacのロゴとリンゴマークが付されているのに対し、e-oneには、目に触れやすい部分に、e-oneのロゴとeマークが付されている。なお、現在、e-oneというロゴは商標登録済みである。
 以上の顕著な相違点に加えて、e-oneには、目に触れやすい部分に、パソコンの主要構成部品であるCPUの出所を示すインテルマークとOSの出所を示すウインドウズマークが付されていることをも加味して考えれば、e-oneの形態とブルーベリーの形態との間には出所表示機能の観点からみて類似性が全くないことは明白である(詳細は第四項を参照)。(2)(1)さらに、前記のとおり、e-oneの形態は、iMacの発表以前に、ベンツのAクラスの形態などを参考として独自にデザインされたものであり、デザイナーにおいて、iMacの形態を参考にしたという事実は存在しないのであるから、e-oneとiMacの形態が類似する理由はない。なお、e-oneのデザインは現在意匠登録申請中である。
 (2)また、前記のとおり、債務者は、昭和59年の創立以来、パソコンの開発・製造を行っており、確固たるユーザーを確保している。そして、債務者は、現在、パソコンメーカとして、債権者らを上回る人気を獲得しているのであり、このような歴史・伝統及び人気・信用を有する債務者が、あえてe-oneとiMacを類似させて、出所を混同させ、iMacの人気に便乗して不正に利益を得る必要はない。そのような不正競争を行えば、かえって、これまで営々と築いてきた確固たる信用が喪失してしまうであろう。
4 e-oneとiMacとの間には混同可能性が生じないこと
(1)(1)前記のとおり、e-oneの形態とiMacの形態とは類似していないから、e-oneとiMacとの間には混同可能性(特に断らない限り、商品の混同可能性のみならず、出所の混同可能性及び広義の混同可能性を含む。以下同じ。なお、iMacの形態が著名商品表示でないことは債権者らも認めるところであるが、平成5年の不正競争防止法改正により、著名商品表示と周知商品表示は区別されたのであるから、周知商品表示につき広義の混同を同法第2条第1項1号の「混同」に含めて解釈することは許されない。)は生じない。
 (2)仮に、類似しているとしても、その程度は低いから、e-oneには、e-oneというロゴとeマークが、iMacには、iMacというロゴとリンゴマークという強力な商品表示があることからすれば、混同可能性は生じない(加えて、e-oneには、ウインドウズマークとインテルマークが入っている。)。
 (3)さらに、仮に、e-oneとiMacが酷似しているとしても、後記(2)に述べるとおり、一般的なパソコンという商品の特性(OSの相違の持つ意味、商品毎に機能が異なること及び価格等)及びiMacの特性並びにiMac及びe-oneの販売方法等から、混同可能性は生じない。また、何よりも、e-oneの発売後1ケ月以上経過した今日までの間、e-oneを購入した消費者から、e-oneとiMacを混同したというクレームが1件もないことから、e-oneとiMacとの間に混同可能性がないことは明らかである(原告からも第3者からの混同したとの趣旨のクレームがあったことを示す証拠は提出されていない。)。さらに、ロゴとマークの存在及び出所表示力並びにパソコンという商品の特性(後記(2)で述べる。)等を考慮すると、普通人の取引上の客観的注意を標準とすれば、混同可能性が生じないことは明らかである。
(2)(1)まず、パソコンはソフトがなければただの箱であるところ、OSが異なればその操作方法及びアプリケーションソフトも異なり、債権者ら製のパソコンのOSはMacOS(正確にはMacOS8.6)であるのに対し、債権者ら製以外のパソコンのOSはウインドウズであることは、周知の事実であり、たとえパソコンの初心者であっても当然認識している。そして、前記のとおり、OSの違いは選択の基準として決定的に重要であるから、OSを異にするe-oneとiMacとが混同される可能性はない(少なくとも、パソコンを使用したことのある需要者であれば、OSの違い及びその持つ意味の重要性を理解しているから、OSを異にするe-oneとiMacとを混同することはありえない)。
 また、パソコンは、製品毎にそれぞれ機能が異なることもまた周知の事実であり、たとえパソコンの初心者であっても当然認識している。主要な点を挙げれば、CPUの処理速度、メモリ及びハードディスクの容量、外部記憶装置としてフロッピーディスク及びCD-ROMを使用することができるか否か、CD-ROMを標準装備しているか否か及びその処理速度、高速モデムを標準装備しているか否か及びその処理速度、どの程度の拡張性を有しているか等である。そして、これらの点が、パソコン選択の重要な基準となっていることは既述のとおりである。
 さらに、後記第四項で詳述するとおり、e-oneのOSはウインドウズ98であるが、iMacのOSはMacOSであることに加えて、e-oneはiMacと異なり、
 @フロッピーディスクが装備されていること
 Ae-oneはビデオ入力が可能であること
 Be-oneは一体型パソコンでありながら、PCカードを有しており、拡張性が高いこと、等の点において、iMacより格段に優れており、さらに、
 Ce-oneのメモリはiMacのメモリの2倍であること
の点等、需要者がパソコン選択において重視する機能において顕著な差異がある。
 以上のことから、普通人の取引上の客観的注意を標準とすれば、混同可能性が生じないことは明らかである。
 (2)なお、e-oneの販売方法は、PC専門店による販売が7割で、ダイレクト販売が3割であるが、PC専門店による販売の場合、需要者は現物を間近で観察することができること、店員がいること等からすれば、混同可能性が生じないことは明らかである。また、ダイレクト販売の場合、需要者は、e-oneのカタログ等を十分調査・検討の上、e-oneの機能及び形態等を十分理解した上で購入するのであるから、この場合も、iMacとe-oneとの混同可能性が生じないことは明らかである。
 (3)また、ウインドウズマシンの競争は極めて厳しいところ、債務者は社運を掛けてe-oneを開発し、e-oneを親しみやすいパソコンとして売り出すために、e-oneの製作製表と同時に多大の宣伝広告活動を行っている。即ち、債務者はe-oneの発表とほぼ同時に各新聞の全面広告で、ウインドウズマシンの主要な構成要素であるインテルプロセッサ(CPU)とウインドウズの供給会社の日本法人の社長等に出演してもらい、大手パソコンメーカの広告戦略にはなかった斬新かつ革命的な手法を用いて、顧客に対してアピールを行っている。また、債務者は、e-oneの発表後、テレビCMを中心として、各種のメディアに対し、発表から約1ケ月間の間に、総額6億3800万円もの投資を行っている(朝日新聞、日経新聞及び読売新聞などの全国紙に全面広告を出し、主要パソコン雑誌及び一般雑誌にも広告を出している。)。したがって、e-oneの形態は商品ないし出所を示すものとして周知のものであるから、e-oneとiMacの混同可能性はない(なお、平成11年中は、同程度の費用を投下して、宣伝広告を行う予定である。)。また、その宣伝において、e-oneとiMacを混同させるような表現を用いたことは一切ない。
(3)(1)さらに、たとえパソコンを初めて購入する初心者であったとしても、OSの違いや機能拡張のための端子の多寡等、e-oneとiMacとの機能的相違点にはほとんどこだわらず(あるいは理解せず)、商品形態を一瞥するのみで、e-oneとiMacを混同してe-oneを購入することは到底考えられない。即ち、パソコンの価格は通常10万円を超えるものであるから、初心者がパソコンを購入しようとする場合、必ず、知人、友人や家族に相談するはずである。仮に相談できる知人がいない初心者であったとしても、ショップの店員に相談するはずである。さらに、パソコンは相当の重量があることを加味すれば、パソコンを購入する場合、少額かつ軽量の商品のように、商品形態を一瞥したのみで、直ちに手にとってレジに持っていくことはなく、ショップの店員に声を掛けるというステップが必ずあることは明らかである。したがって、仮に百歩譲って、e-oneとiMacを混同せずにショップにおもむいた需要者が存在したとしても、店員とのやりとりの中で、その混同可能性は解消されることは明白である。
 (2)さらに、商品形態を一瞥するのみで、「簡単に使えるかっこいい、かわいいパソコン」としてe-oneを購入するユーザーがいるとすれば、そのユーザーは、まさに、「簡単に使えるかっこいい、パソコン」を購入するのであって、e-oneとiMacを混同して購入する訳ではない。
 また、デザイン性のみに着眼してパソコンのような高額な機能性商品を購入するような人種(超新人類)のデザイン性(かわいらしさ)に対するこだわりは通常人の理解をはるかに超えるのである。したがって、仮に、このような超新人類が、iMacのテレビCM等の宣伝をみて、「このかわいいパソコンがほしい」と考え、ショップにおもむいてe-oneを一瞥したならば、e-oneがiMacではないことは瞬時に分かるはずである。なぜなら、全体的印象として、iMacは「かわいい」が、e-oneは「かわいくない」からである。さらに、個別的に見ても、例えば、iMacのかわいらしさをひきたてるものとして極めてデザイン性の高い(「かわいらしい」)リンゴマークがあるが、e-oneにはリンゴマークはなく、「かわいくない」eマークがあるだけである。
 (3)加えて、そもそも、前記(1)のとおり、混同可能性は、普通人の取引上の客観的注意を標準とすべきであるが、超新人類が普通人とは言えないことは勿論、ショップの店員に声を掛けることなく、商品形態を一瞥するのみで、ロゴとマークに何らの注意を払わず、パソコンのような高額商品を購入することは、通常払うべき客観的注意を払っているとはいえないことは明らかである。
 (4)なお、債権者らないしiMacのブランドは、デザイン性のみでパソコンを購入する超新人類に対しては、そもそも顧客吸引力を持たないから、広義の混同可能性を問題とする余地はないことを念のため付言しておく(繰り返しになるが、このような超新人類は債権者らなしいiMacのブランドカを購入の選択の基準としているのではなく、「かわいい」かどうかが選択の基準なのである。)。
(4)(1)さらに、e-oneとiMacとの間に混同可能性を認めてしまうと、以下のような弊害が生じる。
 (2)意匠権に対する保護とバランスを失すること
 債権者らがiMacのいかなる形態が周知商品表示であると主張しているかは明確ではないが、その特徴の捉え方如何によっては、当該形態に対して、審査を経て独占権が付与される意匠権よりも大きな保護を与えてしまう危険がある。この点については、求釈明に対する回答をまってさらに詳細な反論を行う予定である。
 (3)独占の弊害があること
 以下に述べるとおり、債権者らの申立が認容されるならば、市場における競争は著しく阻害され、かえって、不正競争防止法の目的である事業者間の公正な競争を確保すること(同法1条)ができなくなる(なお、この点についてはさらに主張を追加する予定である。)。
(1)前記のとおり、パソコンの形態は機能的理由のみならず、自由競争を維持するという観点から、ある程度似ざるを得ない側面がある。即ち、(前記のとおり明確ではないが)債権者らの主張するように、iMacの形態の周知商品表示性を基礎づける特徴が、@半透明のプラスチックでツートンカラーの外装で、A丸みを帯びたパソコンのように極めて抽象的に把握された場合、債権者ら以外の業者は、右特徴を備えたパソコンを製造・販売することができなくなり、かわいいパソコンを求める需要者は、債権者らの製品しか選択できなくなってしまう。結局デザイン性の高いパソコンの価格は、債権者らの意のままとなる。
(2)さらに、債権者ら製のパソコンのOSは全てMacOSであるから、ウインドウズマシンで、@半透明のプラスチックでツートンカラーの外装で、A丸みを帯びたパソコンを求める需要者の需要は満たされなくなる。
二 保全の必要性がないこと
 以下に述べるとおり、@e-oneの製造・販売により、iMac(ないしブルーベリー)の販売機会は喪失していないこと、Ae-oneの販売以前からiMacの販売台数は減少傾向にあること、B債権者らの製品であるiBook及びG4が発売されたこと、C仮に混同可能性があるとしても、その程度は極めて小さいこと等からすれば、債務者がe-oneの製造・販売を継続しても、債権者らが著しい損害を被るとは到底いえないから、保全の必要性がないことは明らかである。
1 e-oneの製造・販売により、iMac(ないしブルーベリー)の販売機会は喪失していないこと
 債権者らは、e-oneの製造・販売とiMacの販売機会が喪失したこととの具体的関連性を何ら主張・立証していないが、e-oneの購買動機とは、高性能の機能とそれなりのデザイン製を兼ね備えていること、革命的といってよいほど低価格であることに加えて、OSとしてウインドウズ98を搭載していることであるから、e-oneが製造・販売されたことにより、iMacの販売機会が喪失したという事実は存在しない。
 即ち、e-oneの主たる購入者層は、ウインドウズマシンで、低価格かつ高性能であり、それなりのデザイン性のあるパソコンを求めている者である。したがって、e-oneの購入者層は、デザイン性をある程度犠牲にしても、ウインドウズマシンの利便性(データの交換が容易にできる等)を求めているのであるかち、iMacの購入者層であるところの、従来からのマックファンやウインドウズマシンの利便性を犠牲にしてもデザイン性を求める者とは全く重ならない。よって、e-oneが製造・販売されることによって、iMacの販売機会が喪失することはないのである。また、前記のとおり、ウインドウズとMacOSとの間には互換性がないのであるから、e-oneとiMacとの間には、パソコン市場における棲み分けができているのである。さらに、仮に、iMacの販売台数が、初期型の発売当初よりも落ちているのであれば、その原因は、後記2及び3で述べるとおり、iMacの購入者層が既に1台iMacを購入してしまったことやiBook及びG4が発売されたことである。
2 e-oneの販売以前からiMacの販売台数は減少傾向にあること
 ある雑誌のアンケートによれば、iMacを購入した時期は、iMacの初期型(ボンダイブルー)の発売時である平成10年8月が最も多く、その後e-oneの発売前である平成11年1月までの間、減少傾向にある。したがって、仮にe-oneとiMacとが混同される可能性があるとしても、現時点において、e-oneが製造・販売されていることによるiMacの販売機会の喪失は、少なくとも著しいものではない。
3 (iMacと同じ需要者を対象とする)iBook及びG4が最近発表・発売されたこと
 最近、債権者らはiBook及びG4の発売を、大々的な宣伝とともにそれぞれ発表し、現に発売している。
 iBook及びG4はともに一般消費者向けのパソコンであり、iMacと需要者を共通としているから、これからiMacを購入しようと考える需要者の多くはiBookとG4に流れるはずである。したがって、仮に、e-oneとiMacとが混同されるおそれがあるとしても、そのことにより債権者らが被る打撃は著しいものではなく、本件仮処分を認める必要は全くない。
4 仮に混同可能性があったとしても、その程度は極めて小さいこと
 前記のとおり、仮に、iMacとe-oneを混同する可能性があったとしても、その可能性はほとんどゼロであるから、債務者の販売機会を喪失させるだけではなく、e-oneを求める需要者の利益を犠牲にしてまで、本件仮処分の申立を認める必要はない。
5 保全命令が発せられた場合の債務者の被る打撃は甚大であること
 e-oneの売り上げは、現時点において、債務者の売り上げの約3分の1を占めており、販売の大きな柱であるから、この製造・販売が差し止められるとすれば、債務者の経営危機を招き、100名を超える債務者の従業員(及びその家族)が路頭に迷うことは必至である。このように、万が一保全命令が発せられた場合の債務者の被る打撃は甚大であることからすれば、本件仮処分の申立は断じて認められるべきではないのである。
第四 債権者らの主張に対する認否
 債権者らの主張に対する認否
一、訴状「第一、当事者」について
1 第一段及び第二段はいずれも不知。
2 第三段は認める。
二、「第二 本件の概要」について
1 第一段は、iMac(アイマック)と称するパーソナルコンピュータ(以下「iMac」という。)の形態が出所表示の機能を有しており、その商品表示としての形態がパソコンユーザのみならず広く世間一般において周知となっている、との点をいずれも否認し(理由は後述のとおり)、その余の点は不知である。
2 第二段は、債務者がe-one(イーワン)と称する訴状別紙債務者商品目録記載のパーソナルコンピュータ(以下「e-one」という。)を製造し、本年7月にその販売を開始したとの点を認め、e-oneの外観がiMacとの形態と酷似していて、iMacと混同を生じさせるおそれがある、との点を否認する(理由は後述のとおり)。
3 第三段は争う。
三、「第三 被保全権利」について
1 「第一項 iMacの形態の特徴」
(1)1の第一段は不知。
(2)同第二段中@について、iMacが一体型パソコンであることは認めるが、一体型パソコンは従前より珍しいものではなく、iMacの特徴といえるものではない。また、債権者らは「全体として曲線を多く用いた丸みを帯びた」点を特徴としてあげるが、曲線を用い丸みを帯びたパソコンは債権者らの商品に限られるものではない。あえて、その曲線や丸みのうちの特徴的な点を挙げるとすれば、その全体的になめらかな卵形ないし涙形というべき円錐形をしている点であろうが、これもデザインとしては新規と言える形ではない。
(3)同Aについて、iMacの構造に関する記述は概ね認めるが、外装の素材にプラスチックを用いたことも、外装の素材にプラスチックを用いたコンピュータが巷に数多く存在することからすれば殊更iMacの特徴といえるものではない。債権者らは、iMacの外装の色が半透明の基調色と半透明の白色の2色の組み合わせというが、特に天面から前面のディスプレー部周辺を覆う形で使用されているプラスチック部品には強い縦線模様が刻まれていて、他の白色部分と区別された強い印象を与えている。なお、債権者らは、iMacに半透明のプラスチックが用いられている点を、パーソナルコンピュータで初めてであるとして、形態上の極めて強い特徴として挙げるが、半透明のプラスチックを用いたパーソナルコンピュータ製品は、iMacが初めてではない。すなわち、債務者においても、iMacの発売より10数年遡る1984年当時既に半透明のプラスチックを用いたPHC-16と呼ばれるコンピュータを日本及び米国市場における発表、販促活動を行った実績があり、その後も半透明のプラスチックを用いたパーソナルコンピュータのコンセプトモデルを商品発表会等において引き続き発表してきており、債務者こそそうした意味で真に先進的で独自性ある製品を創り出すことのできる会社なのである。
 その後、ここ4、5年、家庭電化製品をはじめとした電気製品のスケルトンブームとなり、スケルトン製品は家電業界では既に1ジャンルとして定着した。家庭用ゲーム機業界においても、任天堂が1997年にはスケルトンの本体ケースを有していて配線基板等が透けて見える携帯用ゲーム機(ゲームボーイ)を発売し話題となっており、従って、iMacの発売が開始された1998年8月には半透明のプラスチックを用いたパーソナルコンピュータ製品が相次いで発表されるであろうことは時間の問題とも言える状況となっていた。
 従って、全体的な印象において債権者らが挙げるiMacの特徴には、いずれもiMacの独自性、識別可能性を有する特徴と言えるものは見当たらない。
(4)同Bについて、第1文はiMacの構造に関する記述は概ね認めるが、角のとれた四角形というのは、一体型のコンピュータはいずれも正面から眺めた場合のシルエットは基本的に四角形であって、その角はR(曲率)の違いはあるものの、ある程度丸めてあるのが普通である。
 また、債権者らは、表示画面(ディスプレー)を取り囲む指示部分を単に白色と言うが、天面から前面のモニター周辺を覆う白色のプラスチック部品には強い縦線模様が刻まれていてiMacに強い印象を与えていることは前述のとおりである。
 第2文ないし第5文はiMacの構造に関する記述は概ね認めるが、表示画面の下方にコンパクトディスク・ドライブがあること、その色彩の構成、正面下部の両端に位置するスピーカーやマイクの埋め込み位置など、いずれも多くの市場で販売されているコンピュータに採用されており殊更iMacの特徴というべきものではない(それらの証拠は追って提出する)。
(5)同Cについて、iMacの構造に関する記述は概ね認めるが、背面部の形は台形ないし緩やかな三角形というより、前述のとおり全体としての涙形の一部というべき円錐形である。 天面の前部(正面側)は、前面のモニター周辺を覆う白色のプラスチック部品が、そこに強く刻まれた縦線模様と共に連続性を持って上に伸ばされたもので、その平面的な形状はかまぼこ形である。天面の後側には大きな白色部品でできた楕円形の持ち手があり、天面から眺めた場合に大きなアクセントとなっている。上部には他に放熱孔があるが、これも細い穴3列から構成された太い模様で3列、白色の持ち手を中心とした同心円上に孤を描くが如く並べられている。
(6)同Dについて、iMacの構造に関する記述は概ね認めるが、側面部の形は(5)の天面から眺めた場合と同じく、緩やかな三角形というより涙形の円錐形の一部としての曲線を描いている。
(7)同Eについて、iMacの構造に関する記述は概ね認めるが、これも殊更iMacの特徴というべきものではない。
(8)同Fについて、背面部の涙形の円錐形を描いていることは前述のとおり。それ以外のiMacの構造に関する記述は概ね認める。
(9)同Gについて、債権者は、コンピュータの内部構造は通常単に部品を詰め込んだものというが、パーソナルコンピュータでは古いテレビなどとは異なり基板等が整然と配置されているのが普通である。基盤がブラウン管の横に立てて配置されているという点は、債権者らがe-oneを除く他の一体型パソコンとしてどのパソコンを想定したのか不明であるが、少なくとも多くのパソコン用ディスプレーでは基板がブラウン管横に縦に配置されていることは珍しくない。いずれにしても内部にわずかに見える基板が出所ないし形態の識別可能性に影響することはない。
(10)同Hで、iMacの内側に見える側面から背面まで連続した金属板について、債権者らはデザイン上の配慮からの目隠しの金属板と主張するが、この金属板はその位置と材質から、不要電磁輻射対策のシールド(電気的遮蔽)のための金属板であることは明らかである。電気的遮蔽のためにはiMacの後ろ側全体かつ一番外側にかかるアースされた金属板を設置することが必要であり、そうしないと米国その他の国で設けられている電磁波規制に合致せず、その販売ができない事態ともなりかねない。iMacを製造・販売していると主張する債権者がなぜそうしたことを知らないのか、あるいはこれを知りつつデザイン上の目隠しと強弁するものか、その真意は計りかねる。
(11)同IないしKは、iMacの構造に関する記述として概ね認めるが、いずれも形態的な特徴となりうるものではない。
(12)同Lで、iMacの構造に関する記述は概ね認める。ただし、銀色の芯線は、コンピュータに接続するケーブルのうちデジタル信号が流れるものは元々芯線の周りをアルミないし錫でシールド(電気的遮蔽)した構造がとられているのが普通で、したがって、かかるケーブルの皮膜が透明であれば、その内部が金属色が輝くのも当然のことである。そうした皮膜が透明なケーブル類はめずらしいものではなく、近年のスケルトンブームから透明な皮膜を持つケーブル類を使用した家電やオーディオ機器はもちろん、コンピューターの周辺機器等に採用される例も益々増加しており、そうした透明な皮膜が用いられるケーブル類は内部に輝く金属色を持つのがむしろ普通である。それを称して近未来的な印象とは言い過ぎである。
(13)同Mについて、iMacの構造に関する記述は概ね認める。ただし、電源ケーブルがカラフルな芯線で構成されているのは、それら芯線について国際安全規格(IEC)の定める色規格があることによるのであり、市場で販売する電源ケーブルでは透明な皮膜に限らず同一の配色がなされている。また、iMacに添付されているこの電源ケーブルは、債権者らが製造したものでも、債権者らがiMacのために特注したものでもなく、韓国I-SHENG社が世界中で販売している普及品である。なぜ、そうした部品について独自ないし特徴的という主張を行うのかこれも債権者らの意図を疑問に思わざるを得ない。
(14)同2で、第1文は不知、第2文・第3文を争う。第三、「債務者の反論の概要」で前述したとおり、iMacの形態は周知商品表示ではない。また、周知商品表示における形態はその具体的な形態において識別性を有する部分(ないし部分の集合)であるところ、iMacの主な特徴が「目に鮮やかな半透明のツートンカラーで、かつ丸みを帯びた極めてユニークな意匠的特徴を有するパーソナルコンピュータ」と要約できるものでも、そうした範囲が識別性を有するという訳でもない。
2 「第二項 iMacの形態の周知商品表示性」について
 債権者らは、債権者らの行った宣伝、これに対する新聞・雑誌記事等のマスコミ等の反応、売上台数、広告宣伝費用、各種団体のヒット商品番付・各賞の受賞等を挙げて、それら全てが商品形態における識別性の獲得に結び付けられたという。しかし、パーソナルコンピュータという製品は形態の独自性のみで評価されるような性質の商品ではなく、iMacに対する反応も、iMacの従前の債権者ら製品の価格設定に対比した場合の廉価性、それにより生まれた普及可能性や大衆性を前提としての好意的な報道であって、かならずしも形態を強調して取り上げたものではなく、コストパフォーマンスや取扱・操作の容易性に着目した積極的評価がほとんどであった。また、iMacに対するマスコミや各賞における評価も、デザインに着目したものばかりではなく、iMacの商品としての売れ行きと、債権者らの経営危機からの脱出に貢献した経済効果等に着目してのものであって、そうした評価が全て形態の独自性を評価したものでも、また同種商品の識別性の獲得に貢献するものでもなかった。債務者は、債権者らの挙げる各点についてその評価や受賞の趣旨も含めて調査中であり、資料収集が出来次第順次具体的な反論を行う予定である。
3 「第三項 債務者の不正競争行為」について
 同項の本文の記載を概ね認めるが、e-oneがiMacの形態と酷似するとの点、債務者らの販売等が不正競争行為に該当するとの主張を争う。なお、債務者は、e-oneを含めた債務者の製品の流通を、各地域限定されたコンピュータ製品専門店における販売とテレビ、新聞、雑誌、交通広告等のメディアを中心とした媒体での広告を前提にした債務者からの直販(通信販売)に限定しており、インターネットのホームページを通じた販売はその通信販売の一部にすぎない。
(1)同1第一段のe-oneの形態とiMacの形態が酷似しているとの主張を争う(理由は以下に述べるとおり)。
(2)同1@は、e-oneとiMacがいずれも一体型であることは認めるが、一体型のコンピュータは、ミニコン、ワークステーションやパーソナルコンピュータの歴史において昔から存在しているもので、形態の特徴として特筆すべき点でも、形態の独自性の獲得に貢献する点でもない。全体に曲線を多く用いた丸みを帯びたデザインが共通という言い方も、かように抽象化して同様の評価を与えたいとの債権者らの意図はともかく、e-oneは以下にのべるとおり全体に曲線を多様したといえるような形態ではなく、また実際のe-oneにある曲線部分はiMacに使われている曲線や丸みと共通ないし類似している訳ではない(部位もR(曲率)も異なる)。
(3)同Aは、e-oneの外装に素材としてプラスチックが採用されている点は認めるが、それ自体ありふれたもので形態の特徴として特筆すべきものではない。また、e-oneの外装の色を半透明の白色と半透明の青色のツートンカラーと言うが、e-oneの半透明の白色の部分は青色部分との面積比でiMacとはかなり異なり、むしろ青色のコンピュータに白い部品によるアクセントが加えられた形態というべきものである。
 半透明の青色が債権者らのブルーベリーと同一と主張するが、e-oneの青色に白のアクセントという配色は港を擁する横浜に本店を持つ債務者のコーポレートカラーである青を主体に、搭載するOSであるウインドウズのイメージカラーといえる青と白の組み合わせを採用したものである。副次的には、日本の市場が色物製品として青を好む傾向にあり、1990年代が青系統の時代と呼ばれて評価されていたことも、青色を採用した理由のひとつであった。かかる色の採用について、iMacのブルーベリーに影響を受けたことも、またこれに似せようとした事実もない。そもそもe-oneのブルーとiMacのブルーベリーは同じ色調ではない(この点は、債権者らの主張するiMacの形態の特定を待って更に主張する。)。半透明のいわゆるスケルトンと呼ばれる素材を外装に採用したのも、繰り返し述べたとおり、債権者が、半透明のケースを持つパーソナルコンピュータを最初に企画し販売してきたメーカーとして、市場での特に家電製品等を中心としたスケルトンブームを睨み、市場性を判断して採用したものであって、iMacとの類似性を狙ったわけでも、かかるiMacの外観を意識して採用した訳でもなかった。
(4)同2は、第一段のe-oneとiMacの形態が全体として酷似していて、同一の印象を与える、分析し比較した場合に極めて多くの共通点ないし類似点を有しているとの点をいずれも争う。「ツートンカラーの半透明のカバーにくるまれた丸みを帯びたデザイン」というのは、債権者らが債務者商品との類似性を導くために作り出した概念であるが、右が債権者ら商品の出所表示として周知性を有する範囲と一致している訳でもなく、また、債権者ら商品の形態の要約としても不十分な表現であって、かような概念を介して債務者の商品との類似性を論じることには意味がない。
(5)同2@のうち、e-oneを正面から眺めると角がとれた四角形に見えるというが、実際にはほぼ四角形で、各辺にもはっきりとした角があることからもiMacと同一ではない。
 正面の中央にコンピュータのディスプレイ装置があり、そのブラウン管の大きさは15インチであるが、この大きさは、ディスプレイのサイズとして約35%のパーソナルコンピュータに使用されている最もポピュラーなもので、特にウインドウズパソコンにおいて現在最も普通に要求される解像度であるXGA規格(1024×768ドット)の画面を視認性に無理なく表示しようとする場合には最低限の必要であると共に、一体型として机上に置けるためには最大とならざるを得ない必然的な大きさである。実際、e-oneに限らず、債務者の販売するパーソナルコンピュータの約90%は15インチモニターと共に販売されている。
 ディスプレイ周辺の支持部分は、e-oneの場合、ブラウン管に接して幅約7mmほどの黒枠部品があり、その外側が上部が青色の部品、両脇及び下部が白色と切り分けられて構成されており、天面から正面にかけて大きなカーブによるなめらかな連続性を持った白色プラスチック部品で一体化して構成され、しかもその白色プラスチックには強い縦線が密に刻まれているiMacのスマートな印象とはかなり異なる外観となっている。iMacの右白色部品はピカピカのプラスチック然としたなめらかな仕上げがなされていてiMacの嫌みのないキッチュ(俗悪)な雰囲気に貢献しているが、e-oneの場合その白色部分の表面は基本的に半梨地の落ち着いた仕上げであって、この点でもiMacとは異なる印象となっている。
 e-oneのディスプレイの下方にはフロッピーディスクドライブやCDドライブが縦に並べて置かれているが、これは操作性からの必然であり、ボタンが青色という点もe-one自体の他の部分との色彩的な整合性を保っているに過ぎない。正面下部の両端にスピーカーが内蔵されている点も、過去の一体型パーソナルコンピュータに多く見られる配置であり、債権者らはその周りの色が半透明の青色となって共通であると主張するが、実際にはiMacの場合、周りの白色部品の中に楕円形にポカリと浮かんだ青いスピーカーの部分がデザインされているのに対し、e-oneでは、上方から伸びた白色部品で切り分けられて残った三角形の部分で、かつ側面の青色部分と連続性のある部分にスピーカーが配置されている。そのスピーカー部分上部の青色部と白色部の境界線は、e-one本体の上面につけられた白色リングのような部品の傾きと並行に一体感を持つように配慮されたデザインであり、iMacとはスピーカーの位置以上の類似性は何ら認められない。e-oneの電源ボタンの位置やマイク・スピーカージャックが、右利きが多いことを考慮して向かってやや右側にあることも多くの一体型コンピュータに見られる点であり、いずれもそれらの配置が機能上必要である以上、いかなる位置に置くべきと主張するものか、債権者らの見識を疑わざるを得ない。
(6)同Aのうち、天面から眺めた場合、e-oneの形態は台形上に大きな半円を乗せたような形態、iMacはすぼまった全体が一体として涙型の形態となっており、一番後ろの部分における曲線はiMacの方がより小さい円を描いている。しかし、これはちょうど真上からみた形態であって、立体的にみれば、e-oneでは横から見ればかかる形態をしていないのは一目瞭然であって、右に述べた天面から眺めた形はいわば円柱における断面を構成するものにすぎないが、iMacの場合、全体としての卵形ないし涙型の一部であって、斜めや側面から眺めた場合もほぼ同じ様なすぼまり方と曲線が見られる点が大きく異なっている。
 天面上部は、iMacでは、再三述べるとおり、前面のディスプレー支持部から連続した白い縦線の入ったプラスチックが蒲鉾型で、その中央部には債権者らの商標であるリンゴマークが付されている。その後ろの白い持ち手とそれと同心円状の排熱孔が独自の印象を与えていることは前述のとおりである。e-oneの場合は、これと異なり天面の前部は、前面とはデザイン的にも部品的にも一体的には作られていない。上面はほぼ全体が青であって、多少の傾きはあるがほぼ平面で構成されている。機能上必要な排熱孔も、上面中央部から連続して細かく何重にも設けられていて、太く3列を印象的に配置したiMacとは向きも形も全く異なっている。e-oneの場合、こうした排熱孔及びeの文字のエンボス(プラスチックの肉厚を変更して文字を浮き出させる技法)は、ブラウン管に接続された高圧電源ケーブルを外から隠し、ユーザーに不安を与えないための配慮でもある。
 天面上部全体の青色の平面を横切る形で自動車のウイングのような、あるいはリングのような白色部品が大きな孤を描いて付けられていて、これはコンピュータの向きを替える場合の支えともなりうるものであるが、iMacのような一見して分かるデザインの持ち手とは全く別物である。なお、一体型パーソナルコンピュータを創立当初より手がけている債務者においては、天面に持ち手をつけたコンピュータも従前より発表しており、本体上部に持ち手を付けた一体型パソコンはiMacが最初とする債権者らの推測は誤りである。
(7)同Bは、側面からの眺めが、iMacが立体的に涙型であって天面からの眺めと良く似ているのに対し、e-oneは全体的にほぼ四角形であって、iMacの側面とは全く似ていない。これを台形に近い三角形で共通と強弁する債権者らの視覚を疑わざるを得ない。iMacは上部3分の2が基調色、下部の3分の1が白色でまさに債権者らがツートンと呼ぶ配色であるが、e-oneはほぼ全側面が青色で、側面から見た場合の白色部分は上部に付されたウイングないしリングのような形態を持つ部品と連続性あるライン部分に限られている。右側面下部に開閉できる蓋の中にキーボード、マウス、その他の周辺機器を接続するためのコネクタが配置されている点が共通であるというが、その蓋の形状、構成等、位置を除いて共通性は見られない。かかるコネクタ類への出力部が下部に設けられているのは、e-one中に配置されたコンピュータ主要部品を乗せたマザーボード(基盤)の位置がブラウン管の下に配置されていることによるもので、向かって右側となっているのも右利きのユーザーの操作上の便宜のための機能的な理由である。
(8)同Cで、債権者らは、背面が眺めると背面部が絞られている点で共通と主張するが、その絞られ方は両者大きく異なる。すなわち、e-oneでは、側面から見た場合には前述のとおり四角形でほぼ絞りがなく、したがって、その絞られ方は蒲鉾を立てたような形である。iMacは涙型で上下左右斜めからほぼ均等に絞られていて、そのことはiMacの後ろ側にはe-oneに見られるようなはっきりとした辺(面の折り目)が一切見られないことから明らかである。iMacがツートンであるのに対し、e-oneはほぼ後ろ側全体が青色である点は既に述べたとおり。
 それぞれの背面中央部に付された債権者らのリンゴの商標及び債務者の社名はいかなる意味でも類似性を持っておらず、同じ位置についていることで出所の識別可能性を高めこそすれ、混同のおそれを増加させるというのは全く常識に反する。
(9)同Dで、債権者らは、下部には本体から引き出すことのできる足がついている点を共通点として挙げるが、足の形状はiMacでは薄いシート状のプラスチック、e-oneでは固い整形されたプラスチックであって、外観にも類似性はないし、そもそも足は外観上はほとんど見えず、形態ないし出所の識別可能性とは関係がない。
(10)同Eで、債権者が指摘するキーボードは、白と有色の配置が裏表で逆だというが、組み合わせに意味がある訳ではなく、製品を購入する者がキーボードの裏側を見て間違えるというのも希有の事態であって、形態ないし出所の識別可能性とは関係がない。
 キーの黒色も、カラーを主体としたキーボードにおける配色としては一般的なものであり、また、それが半透明であることもよほど注意深く観察しないと分からないものであって、いずれにしても形態ないし出所の識別可能性とは関係がない。
 マウスは、形状がiMacが丸形で中のボールもツートンカラー、e-oneでは細長い木葉型と大きく異なっており、なによりそれぞれの中心に描かれたSOTECないし債権者らのリンゴマークがそれぞれの出所を明確に物語っている。したがって、何らの混同も類似性もありえない。
 キーボード及びマウスのケーブルがいずれも銀色の芯線を包んだものである点も、前述のとおりケーブルの皮膜を透明にすることで中の防磁上の当然の構造(シールドのためのホイルないし錫メッキ)であって、市場で販売されているマウスやキーボードにもかかる線材が使われており、その形態が出所の識別可能性の機能を持つものでもない。
(11)同Fで、電源ケーブルは前述のとおり、芯線の配色は国際安全規格(IEC)により定められており、そうした鮮やかな芯線というのはケーブルの皮膜を透明にしたことによる当然の構造である。市場で販売されているマウスやキーボードにもかかる線材は多く使われており、その形態が出所の識別可能性の機能を持つものでもない。
(12)同3の、第1文を争う。以上からも分かるとおり、e-oneの形態は、全体的にも分析的にもiMacの形態に酷似はおろか類似してもいない。貴裁判所におかれては、債権者らが出所の識別可能性と何ら関係もない些末な点ばかりを挙げて、酷似だという独自の論理の根拠とせざるを得なかったこと、また、周知商品表示性の段階ではことさら基調色6色のiMacを周知だと主張しながら、不正競争行為の指摘としては、iMacの発売後最初の半年間は存在もせず、1999年1月から5色中の1色として販売を開始したというブルーベリーとe-oneの青色とが類似であることばかり繰り返し述べるに留まっていることに注意して頂きたい。
 債権者らは次に報道の例について指摘する。それぞれの報道の表現にはかかる表現が使用された文脈や背景がある。債務者はそうした点を含め具体的な事実関係を調査中であるが、少なくとも似ているという報道上の表現は法的な概念である類似性となんら関連がない。
(13)同4で、e-oneの形態がiMacの形態と酷似しているとの主張を争う。債権者らは、e-oneの形態としてiMacの形態を模倣することで、iMacの周知商品表示にただ乗りした、自らはさしたる費用も労力も投ぜずして不当な利益を得ようとしたものだと主張する。しかし、e-oneはiMacと関係のない独自の開発過程において企画されデザインされたものであって、iMacの存在はかかる開発費用をいささかも低減するものではなかった。また、前述のとおり、債務者はパーソナルコンピュータの宣伝広告としては破格の費用(1999年7、8月の実績でテレビ(人気ロックグループであるラルク・アン・シエルの新曲をバックグラウンド音楽に使って注目を浴びた)、新聞(ウインドウズのマイクロソフト株式会杜の成毛真社長とインテル株式会社の伝田信行社長と共に債務者代表取締役大邊創一がe-oneを囲んで談笑する様子を大きく掲載した広告を日本経済新聞の全面広告等の形で掲載するなどしてきた。かかる広告も、e-oneがインテル製プロセッサ(iMacを初めとする債権者らの製品の中央制御ユニット(CPU)としてはインテル製は使われていない)を使用したウインドウズOS機であって債権者らのMacOSとは全く互換性がないことを間接的に表現している。)、雑誌、インターネット広告、交通広告等合計6億3800万円)を投じてe-oneの宣伝広告に努めており、「さしたる費用も労力も投ぜず」というのは全く事実に反している。また、仮に債務者がiMacとの混同による不当な利益を得ようとしているなら、何故多額の費用をかけて独自性を強調したこれら広告を行っているというのであろうか。債務者の広告には、債権者らやiMacとの誤認を生ずるような表現、関係を仄めかす表現等は一切用いられてはいないことは当然である。
 更に、債権者らは44頁の初めから更にe-oneの紹介記事を引用しており、これらに対し債務者は前記の引用と同様具体的な事実関係を調査のうえ反論するつもりであるが、現在判明している中でもBのインテル株式会社伝田社長の発言も、e-oneの機能的なスペックの優秀性から、債権者らの製品ユーザも興味を示すであろうという伝田社長の個人的な感想が報道されたもので、決して外観に混同して買いに来ると述べているのでないことは明白である。
 第三「債務者の反論の概要」でも述べたとおり、パソコンは債権者らのiMacで17万8000円ないし15万8000円、e-oneでは12万8000円という高額な商品であり、機能的相違にほとんどこだわらず、MacOSとウインドウズの違いさえ理解せずに、商品形態を一瞥するのみで「簡単に使えるかっこいい、かわいいパソコン」としてiMacとe-oneを誤認混同して購入する消費者が存在するとはとても考えられない。債務者は、前述のとおりe-oneの販売の相当量を通信販売により販売していて、かかる販売形態の場合、顧客に対するサービスとして8日間のクーリングオフ期間を自主的に設け(ご案内のとおり通信販売にはクーリングオフ期間を設ける義務はない)、この期間中いかなる理由による返品にも応ずるポリシーとしているが、こうしたクーリングオフ期間内に(またその期間経過後についても)iMacと混同を理由とした返品や苦情をこれまで一切聞かないのは何故であろうか。かかる一事をもっても債権者らの主張する誤認混同のおそれというのが、現実に起こり得ない杞憂であることは明白である。
 また、債権者らは更に需要者がデザインの使用許諾や資本関係ないし提携関係等の誤認混同を生ずる蓋然性が高いというが、かかる誤認が仮に起こるとすれぱ、それは、e-oneが債権者らとは別の主体により製造・販売されている製品であるとを認識しつつ、その形態がiMacと似ているというだけの情報から、使用許諾等の法律関係があるはずだと需要者が想像したという場合であり、かような複雑な想像を巡らすことのできる需要者が、外観という根拠のみでそうした関係を誤信することなどあるだろうか。いずれにしても、債権者らがウインドウズとは別の、これと互換性のないOSを使用したコンピュータを製造・販売する会社であることは公知の事実であり、そうした会社からの使用許諾を想像したからといってe-oneを購入するいかなる動機となると主張するものであろうか。債権者らの論理は、理解することすらほとんど不可能である。
 以上、いずれの観点からも債務者らのe-oneの製造は債権者らの周知商品表示の不法な使用などではなく、差し止め請求の対象となどなり得ないことは明白である。
5 「第五項 被保全権利のまとめ」について
 同項中の主張はいずれも争う。
四、「第四 保全の必要性」について
 債権者らは保全の必要性において、債権者らがウインドウズ陣営に押されて、経営危機が取り沙汰されたこと、そうした中で、iMacが生まれて業績を持ち直したこと、しかし、技術革新が極端に速いパーソナルコンピュータ業界では、業績回復にも油断は許されず、またいつ瞬時の内に業績が下方に向かうかもわからない、と債権者らの経営不安の可能性を強く主張して保全の必要性を強調する。これら債権者らの経営不安の可能性については、情報がなく不知と言わざるを得ないが、もし何かあれば経営危機に陥りかねないという立場は債務者の場合も同じであるところ、少なくとも本訴の結論が出される以前に債務者の事業を差し止める被保全権利の存在と保全の必要性を基礎づけるだけの疎明資料は全く見あたらない。
 その他保全の必要性がないことは、前述の第三、第二項の「保全の必要性がないこと」、に述べたとおりである。
五、「第五 まとめ」について
 以上から、不正競争防止法第2条1項1号、第3条に基づいた債権者らの仮処分命令申立に理由がないことは明白である。
第五 今後の立証計画等
 債務者は、今後更に、@iMacとe-oneとの意匠的な相違点に関する主張・立証(既に専門家である弁理士に鑑定を依頼済みである。)、A一体型パソコン及びスケルトン製品の歴史についての詳細な主張・立証、Be-oneの開発経緯やこれを購入する消費者・マーケットに関する詳細な主張・立証、C混同可能性が不存在であることに関する主張・.立証など、万全の主張立証を尽くしたいと考えている。それらの主張・立証はいずれも準備が出来次第可及的速やかに提出する予定であるが、たとえば@の点でも、依頼した弁理士からは最低でも1ケ月以上の期間が必要との回答を得ており、裁判所におかれては、かかる事情をご理解下さるよう切に希望するものである。