知的財産法実務研究会

 三国志V事件・ときめきメモリアル事件にみるゲームソフトの保護
           (2つの事件は矛盾するか)

    H13.6.18 弁護士 小松 陽一郎

〔コンピュータ用シュミレーションゲーム「三国志V」=「三国志演義」から得た思想、感情をもとに登場人物を分析しその能力を6つの要素に分け、1〜100までの範囲で、各登場人物ごとにその能力を数値で設定してあり、さらに、ユーザーがデータ登録用プログラムを用いて新武将等を作りだし、能力値(パラメーター)を新たに設定できる〕

1,東京地判H7・7・14判時1538・202(原告敗訴)
 A 原告の著作物=@メインプログラム
          Aデータ登録用プログラム
          Bチェックルーチンプログラム
(著作権法2条1項10号の2=電子計算機を機能させて一つの結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの)

 B 争点(約500名の既成君主・既成武将は争点の対象外)
  ・新君主(8名)・新武将(60名) ⇒ 登録用ファイル「NBDATA」に書き込める
                                ↑
                         データ登録用プログラム内蔵
                                ‖
   メモリに書き込める能力値を1〜100の範囲にするチェックルーチンプログラムを含む

ex.甲の能力=資力・武力・知力・政治力等6つの能力について、各能力を1〜100にユーザーで設定可能
(100以上には設定できない)

・ 被告プログラム(100以上の能力値を設定できる)で、新武将等を登録し、100を超える能力値を設定しても、@、A、Bのプログラムは改変されない(当事者間で争いなし)。
・被告は、「Aデータ登録用プログラム」に代わる別個の「データ登録用プログラム(被告プログラム)」を提供した。それには「Bチェックルーチンプログラム」は含まれていない。
・原告の主張=100を超える能力値を与えてプレイすると原告の予定外の展開となるから同一性保持権を侵害する改変行為(なお、「NBDATA」ファイルに100を超える能力値を書き込むことは同一性保持権の侵害になるとは主張していない)。
・被告の主張=「NBDATA」は著作物ではない。被告プログラムはユーザーが「NBDATA」に能力値を書き込めるようにしたもの。また、設定能力値の限界等の欠点を補うものであるから著20条2項3号(より効果的に利用するための改変は同一性保持権の侵害にならない)で許される。

 C 裁判所の判断
   ・ストーリーやデータはプログラムの著作物ではない。
   ・能力値自体はデータであり、100までに制限するのは仕様又はアイデアに過ぎない。

 D 評価
・判例時報のコメントでは、当然の結論としている(泉克幸・知財管理46・8・1249も同旨。吉田大輔「シミュレーションゲームプログラム事件」著作権研究23・189も同旨。但し、同一性保持権の内面的表現形式についての検討の必要性を指摘)。
・田村善之「概説」P361は、能力値というデータはそれだけでは著作物に該当するとは言えないが、一連のプログラムの指令群の中に組み合わされてゲームが実行されるのであるからデータ部分も立派に著作物の一部である(同旨・吉田正夫「プログラムにおけるファイルの性格と創作性」著作権研究20・199は、IBFファイルの書式について、プログラムの指令の部分とデータファイルの部分を結合著作物とみるより一体と見るべきとしている。また、松田政行・判例評論446・64は、チェックルーチンの切除は同一性保持権の侵害となりうるとしている)。但し、20条1(2)項3号の適用を認める。
・パラメータをプログラムとは別個独立のデータに過ぎないとするのは、そのデータを使用してコンピュータを使用するときの機能的役割を無視しているのではないか。指令に影響する→一体的に見る→プログラムに包含されると言える→同一性保持権の内面的表現形式を改変するか、という問題にならないか(小松)。

2,東京高判H11・3・18判時1684 ・112(控訴人〔原告〕敗訴)
A 映画の著作物性は否定=三国志Vレベルでは、「静止画像が圧倒的に多」かった。最近の3Dのようなゲームソフトの映像(中古ソフト事件でも同じ)とは異なる(泉・前掲は、映画の著作物としてとらえた場合、著作者の意に反する変更に当たる可能性が高いとしているが、実際のゲームの画面からすると、本件ではそもそも「映画の著作物」とは言えないのではないか…)。

B ・「NBDATA」にデータが入力されたときは、「NBDATA」の書式は、その中の数値(パラメータ)をメインプログラムに渡す役割を果たし、右プログラムの一部となって動作するから、書式中の数値もプログラムに取り込まれ、これに包含されて動作内容を規定するから、改変に当たる場合もある。
  ・次に、「NBDATA」自身はプログラムの著作物ではない。
  ・100を超える能力値が入力された「NBDATA」を使用してメインプログラムを作動されることが同一性保持権の侵害に当たるか否かは、本件はシミュレーションゲームに関するものであるが、ユーザーが自由に作動させることによりゲーム展開が千変万化するので、本件著作物の表現がいかなる範囲まで包含するか不明。ゲームバランスといってもその具体的内容が不明。

C 評価
・1審のように、各プログラムとデータとをばらばらには見ないで、一体的に見ようとした点で、進化がある。
   ただ、同一性保持権として認められているストーリー性(内面的表現形式)の特定性に難点があったと言えようか。また、ユーザーによるデータの入力行為との関係は未解決(ネオジオ事件〔大阪地判H9・7・17判タ973・203、大阪高判H10・12・21知的裁集30・4・981〕では、改造コントローラーにより連射機能を付加しても、プログラム自体には何らの変更が加えられないとして同一性保持権の侵害を否定した)。
・確かに、膨大な数の君主・武将が登場でき、三国志ゲームとしてそのストーリー性を特定することは困難か。

〔コンピュータ用シュミレーションゲーム「ときめきメモリアル」=プレイヤーが高校生となって,設定された登場人物の中からあこがれの女生徒を選択し,卒業式の当日,この女生徒から愛の告白を受ける(ハッピーエンディング)ことを目指して,3年間の勉学等を通してあこがれの女生徒から愛の告白を受けるのにふさわしい能力を備えるための努力を積み重ねるという内容の恋愛シミュレーションゲームであり、プレイヤーの能力値として複数パラメータの初期値が設定されている。そして,プレイヤーが到達したパラメータの数値いかんにより女生徒から愛の告白を受けることができるか否かが決定される〕

1,大阪地判H9・11・27判タ965・253(同一性保持権侵害について原告敗訴)
 A 三国志Vとのゲームの類似性
  ・能力値の設定機能は同種
・ときメモ事件では、ゲームを一時中断用するときの本件メモリーカードを使用してプログラムを実行すると、殆どプレイせずとも特定の女生徒に合った高い能力値を備えることができる
  ex. 高校入学時の初期値は、体調100・文系40・理系40・芸術40・運動40・雑学32・容姿40・根性5・ストレス0なのに、5日後には、「藤崎詩織」に合ったステータスとして、ストレス0以外は全て999になる。

B 裁判所の判断(キャラクターのアイコンについて複製権侵害を認めた点は省略する)
 ・ 本件メモリーカードによりパラメータの数値についてのデータを入力しても、プログラム自体が書き換えられるわけではなく、正常にゲームできるから、メモリーカードのデータは、ゲームソフトのプログラムの許容する範囲内であり、ゲーム展開にどのように影響するかも不明であるからストーリーの改変とは認められない
・ハッピーエンディング直前のデータをメモリーカードから読み込むこともプレーヤー自身の選択に委ねられている
 ・なお、映画の著作物に準ずる著作物性は認めている。

C 評価
  三国志V事件の東京高裁判決と似ているか

2,大阪高判H11・4・27判時1700・129(同一性保持権侵害について原告勝訴)
A プレーヤーによって作り出される蓄積されるセーブデータは、プログラムとは別個独立に截然と区別されて存在する単なる数値ではなく、制作者が初期設定の数値によって表した主人公の人物像(能力値)を変化させ、それに応じたゲーム展開を表現するための密接不可分な要素であり、数値の加減は本件ゲームソフトの本質的構成部分となっているので、これを改変し無力化することは、表現内容の変容をもたらし、同一性保持権を侵害する。
B 本件ゲームソフトにおいては、女性とのキャラクターとともに、主人公(プレーヤー)の人物像も物語の展開上重要な構成要素である。 

3,最判H13・2・13判時17400・78(上告受理後、上告棄却)
A  本件ゲームソフトの影像は,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるものである。
B  本件メモリーカードの使用は,本件ゲームソフトを改変し,被上告人の有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。
   けだし,本件ゲームソフトにおけるパラメータは,それによって主人公の人物像を表現するものであり,その変化に応じてストーリーが展開されるものであるところ,本件メモリーカードの使用によって,本件ゲームソフトにおいて設定されたパラメータによって表現される主人公の人物像が改変されるとともに,その結果,本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらすことになるからである。
C  本件メモリーカードは,その使用によって,本件ゲームソフトについて同一性保持権を侵害するものであるところ,上告人は,専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入,販売し,多数の者が現実に本件メモリーカードを購入したものである。そうである以上,上告人は,現実に本件メモリーカードを使用する者がいることを予期してこれを流通に置いたものということができ,他方,前記事実によれば,本件メモリーカードを購入した者が現実にこれを使用したものと推認することができる。そうすると,本件メモリーカードの使用により本件ゲームソフトの同一性保持権が侵害されたものということができ,上告人の前記行為がなければ,本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害が生じることはなかったのである。したがって,専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入,販売し,他人の使用を意図して流通に置いた上告人は,他人の使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして,被上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。

D 議論
・この最高裁判決によって、三国志V事件も、あるいはネオジオ事件も同一性保持権の侵害となるか。
・改変の結果がゲームソフトのストーリーの範囲内かどうかはどのように判断できるか。
・プレーヤーには私的使用のための複製が著作権の制限として認められている(30条)が、著作者人格権に影響を及ぼしてはならないとされている(50条)。したがって、改変は許されないこととなろう。それで良いか。
・工業所有権法における間接侵害と独立説・従属説との関係はどうなるか。etc