ドメイン名(「mp3.co.jp」)平成13年改正不正競争防止法差止請求権不存在確認請求事件
日本知的財産仲裁センターのドメイン名紛争処理パネルの移転認容裁定に対し
改正不正競争防止法2条1項12号並びに同項1号及び2号の不正競争行為の成立を否定し
ドメイン名登録者の同法3条1項に基づく使用差止請求権不存在確認請求を容認した裁判例
 
論 点 
1.改正不正競争防止法2条1項12号の「不正の利益を得る目的」の意味
2.改正不正競争防止法2条1項12号の「他人に損害を加える目的」の意味
3.原告ドメイン名(「mp3.co.jp」)と被告表示(「mp3.com」)の類否
4.原告ドメイン名の使用の法2条1項1号又は2号の不正競争行為該当性
(東京地裁[民事第29部]平成14年7月15日判決[平成13(ワ)12318]、最高裁ホームページ:知的財産権判決速報)
 
1.判決主文
 「 被告は,原告に対し,ドメイン名「MP3.CO.JP」について,不正競争防止  法3条1項に基づく使用差止請求権を有しないことを確認する。」
 
2.事案の概要
2−1 当事者
(1)原告は,パソコン周辺機器の開発,輸入及び販売並びに音響製品の販売等を目的とする有限会社である。
(2)被告(エムピー3・ドット・コム・インコーポレイテッド)は,MP3形式によって圧縮処理をした音声データをインターネットを通じて配信するサービスを業とする会社であり,平成10年3月,アメリカ合衆国において設立された。
 
2−2 事実関係
(1)本件は,ドメイン名「mp3.co.jp」の登録者である原告が,不正競争防止法(以下,「法」という。)3条1項に基づく原告のドメイン名「mp3.co.jp」の使用差止請求権を有すると主張する被告に対し,被告の当該使用差止請求権は存在しないことの確認を求めた事案である。
(2)すなわち被告は,「mp3.com」の営業表示(以下「被告表示」という。)及び標章を用いて上記音楽配信サービス業を行っている。また,被告は,「http://www.mp3.com」というアドレスにおいてウェブサイトを開設している(以下,このウェブサイトを「被告サイト」という。)。
(3)他方原告は,社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(以下「JPNIC」という。)に,平成11年7月16日付けでドメイン名「mp3.co.jp」(以下「原告ドメイン名」という。)を登録し,同年12月7日,接続の承認を受けた。原告は,原告ドメイン名の登録をした後,「http://www.mp3.co.jp」というアドレスにおいて,ウェブサイトを開設している(以下,このウェブサイトを「原告サイト」という。)。
(4)被告は,平成13年3月5日,日本知的財産仲裁センター(以下,「仲裁センター」という。)に対し,原告を相手方として,原告ドメイン名を被告へ移転登録することを求める紛争処理の申立てをした(仲裁センタ−紛争処理パネル事件番号:JP2001 −0005)。これに対して,仲裁センター紛争処理パネルは,同年5月29日,@原告ドメイン名は被告営業表示及び商標と混同を引き起こすほどに類似し,A原告が,原告ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず,B原告ドメイン名が不正の目的で登録又は使用されていると判断して,原告ドメイン名を被告に移転すべき旨の裁定をした。
(5)裁定の内容を敷衍すれば、下記のとおりである(以下ゴチック体は裁定文からの引用である。)。
  @ 裁定主文
   ドメイン名「MP3 .CO .JP 」の登録を申立人に移転せよ。
  A 争点及び事実認定
 JPドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」という。)4条aの充足性
(2) 申立人の表示と登録者ドメイン名との類似の有無等
1) 1998年11月10日エ−アイ出版株式会社発行の書籍「デジタル新世代MP3 」には、1998年7月2日にサンディエゴ大学において、MP3 サミットが開催されたこと、300人を越える参加者は、主としてアメリカ各地からの参加者、一部の欧州人、僅かの東洋人のゲストから構成されていたこと、当時、「mp3 .com 」は、1日7万ヒットを誇る超人気サイトであったこと、世界中のMP3 情報は「mp3 .com 」を中心に発信されたこと、「mp3 .com 」には、ハ−ドウェア・ニュ−ス・MP3 ア−ティスト情報などの最新ニュ−スが日々アップデ−トされていること、「mp3 .com 」は、1997年11月に立ち上げたものであって、その大きな特徴は、インタ−ネットで多くの音楽情報を収集し、素早い情報発信を行うことにあること、このサミットにおいて「mp3 .com 」の日本語版を立ち上げることが決まったことなどが記載されている(甲第3号証)。1999年8月26日付日経産業新聞には、日本経済新聞社のインタ−ネットサ−ビス「NIKKEI NET」が実施している「読者が選ぶ人気ホ−ムペ−ジランキング」の7月分の結果によると、話題のMP3 形式で音楽デ−タを配信している米MP3 ・ドット・コムは、「音質が良い」「MP3 についてのあらゆる情報が集まる」と支持を集めたことが記載され、また、そのランキングは、第6位であって、その紹介として、「EMP3 .com (www .mp3 .com /)米MP3 ・ドット・コム。MP3 のポ−タルサイト。MP3 形式を使用した世界中の音楽を楽しめる。音質にも高い評価」と記載されている(甲第4号証の〔記事1〕)。1999年12月21日付日経産業新聞には、1999年の米ネット業界の変遷をまとめた記事が掲載されているが、その中に、「CMPS音楽業界も今年、ネットによって大いに揺さぶられた。「MP3」と呼ばれる圧縮技術を用い、ネット経由で取り込んだ音楽を再生できる携帯端末が発売されてから音楽のネット配信に一気に火が付いたからだ。今夏にはMP3 ・ドット・コムやミュ−ジックメ−カ−・ドット・コムといった、ネット音楽配信会社のIPO が相次いだ。MP3 は違法コピ−を防止できないため、音楽業界は反発。この問題を解決する新配信システムを開発したりリキッド・オ−ディオも今年の新規公開銘柄だ。」との記載がある(甲第4号証の〔記事2〕)。日本から「MP3 .com 」のウェブサイトにアクセスした回数は、1999年2月から2000年8月まで合計8,902万6,032回(1か月平均468万5,580回)であった。また、世界各国から「MP3 .com 」のウェブサイトにアクセスした回数は、1999年2月から同年7月まで合計1億8,639万5,611回であった。そのうち、日本からのアクセスの回数は1,757万5,419回であった(甲第5号証)。申立人は、1999年に広告宣伝費用として約58万ドル(日本円にして約6,700万円)の支出をしており、また、その広告媒体は、雑誌、インタ−ネットサイトなど合計27個になっている(甲第6号証)。
2) 申立人は、オ−ストラリア、ベネルクス、中国、ヨ−ロッパ共同体、フランス、香港、日本、マレ−シア、モロッコ、ニュ−ジ−ランド、フィリピン、シンガポ−ル、韓国、スイス、台湾、チュニジアなどにおいて、1999年4月から2000年12月にかけて、商標「MP3 .COM 」「MP3 .COOM 」「MY .MP3 .COM 」「MP3RADIO .COM 」についてそれぞれ商標登録出願をし、そのうち数件は登録されている(甲第7号証)。そのうち、日本においては、1999年11月16日に商標「MP3RADIO .COM 」について、2000年12月8日に商標「MY .MP3 .COM 」についてそれぞれ商標登録出願がされている。
3) 申立人は、1998年には新聞61回、雑誌に21回、1999年には新聞に585回、雑誌に272回、2000年には、4月中旬の段階で新聞に210 回、雑誌に74回それぞれ取り上げられた(甲第8号証)。
以上認定の事実によれば、申立人は、「MP3.com,Incorporated」の商号を用いて通信ネットワ−クを利用した音楽配信サ−ビス等の業務を営むものであること、申立人の米国におけるドメイン名「mp3 .com 」のウェブサイトには、日本を含む世界各国から多数のアクセスがあること、申立人は、世界各国において、商標「MP3 .COM 」の商標登録出願をし、その中には既に登録されたものもあること、日本の新聞においても、「MP3 .com 」がホ−ムペ−ジランキングの上位にあることが紹介されたこと、申立人は、米国の新聞や雑誌などに多数回にわたって紹介されたことなどに照らし、「mp3 .com 」は、現に、申立人及びそのサ−ビス等を表示するものとして、日本においても、「mp3 .com 」のインタ−ネット利用者の間で著名になっているものと認められる。したがって、「mp3 」及び「mp3 .com 」の表示は、高い顧客吸引力を取得しており、申立人において、これを継続して使用する正当な利益を有しているものということができる。この点に関して、登録者は、「mp3 .com 」の表示は申立人を表示するものとして著名ではないと主張する。確かに、「MP3 」の用語は、本来、申立人も認めるとおり、音声情報圧縮の国際規格を意味するものであるが、このような用語であっても、その表示が使用をされた結果、その表示に接する者が何人かを表示するものとして認識することができるものもあり得るところ、前記申立人の申立人サイトの使用の事実に照らすと、「mp3 .com 」が通信ネットワ−クに関連して使用されるときには、「mp3 」は申立人を表示するものと認識されるものと認められる。ところで、登録者ドメイン名は、「MP3 .CO .JP 」というものであるところ、「mp3 」の部分が主体を識別する部分であり、また、トップレベルドメインである「.JP 」が国別コ−ドとしてホストが属する国、すなわち、日本を示すものであり、更に、セカンドレベルドメインである「.CO 」が組織の種別コ−ドとしてホストの属する組織、すなわち、企業を示すものであること、申立人表示である「mp3 .com 」の「mp3 」が主体を識別する部分であり、また、トップレベルドメインである「com 」が属性を示すものであることは、インタ−ネットの利用者にとっては周知の事実である。そうすると、登録者ドメイン名の要部は「MP3 」であるのに対して、申立人サイトの要部は「mp3 」であるといわなければならない。そして、両者は、英文字が大文字と小文字の違いがあるだけであって、外観、称呼及び観念において類似しており、全体的にみても混同を引き起こすほどに類似していることは明らかである。この点に関して、登録者は、「mp3 .co .jp 」と「mp3 .com 」とは、主体を識別する部分があくまでも「MP3 」単体である以上、単に同じ国際規格の名称を使用しているにすぎないから、誤認混同はあり得ない旨主張している。しかしながら、「MP3 」が本来国際規格を意味するものであっても、前述のとおり、申立人サイトの使用の事実に照らすと、「mp3 .com 」が通信ネットワ−クに関連して使用されるときには、「mp3 」は申立人を表示するものと認識されるものと認められるところである。更に、登録者は、「mp3 .co .jp 」と「mp3 .com 」とは誤認混同するという申立人の主張はこじつけにすぎないとか、登録者は登録者が計画していたMP3関連事業について登録者ドメイン名の下で認知されているとか、混同の事例は1件だけであるなどと主張している。しかし、登録者が認めているように登録者ドメイン名サイトが構築されていないからであって、もしも通信ネットワ−クに関連して登録者ドメイン名サイトが構築されれば、両者の類似性に照らし、出所の混同のおそれがあることは明らかであると解される。・・・
(3) 登録者ドメイン名の使用状況申立人が平成13年2月15日に登録者ドメイン名のサイトを訪れたところ、「COMMING SOON 」の表示を示すサイトが見られるようになった(甲第10号証)。そして、申立人は、同月20日に登録者の代表者Aに電話連絡して、実費を弁償するので登録者ドメイン名を譲渡して欲しい旨申し入れたところ、Aは、どのようなことがあってもドメイン名を譲渡するつもりはない旨述べるとともに、登録者ドメイン名のサイトを日本における申立人の「mp3 .com 」サイトとして申立人と共に事業を行うことだけが唯一考えられることである旨返答した(甲第11号証)。登録者ドメイン名サイトの表示が上記のとおりであるにとどまっていること、前記のとおり登録者が現に自ら返信ネットワ−クを利用した音楽配信サ−ビス等の業務を行っていないこと、Aの申立人に対する返答が上記のとおりであることなどを併せ考えると、登録者が登録者ドメイン名を保持している目的は、申立人の「mp3.com」サイトとして、当該サイトが持つ顧客吸引力を利用しようとする意図を有するものと推認される。そうすると、登録者は、登録者ドメイン名を自らの業務に利用するためではなく、申立人の顧客吸引力を利用し、又はそれによって何らかの利益を得るために登録者ドメイン名を使用しているものといわざるを得ない。・・・。以上によれば、登録者は、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないものというほかはない。
(4) 登録者ドメイン名の登録又は使用の目的
以上認定した事実関係によれば、登録者ドメイン名は、不正の目的で登録又は使用されているものといわざるを得ない。
6 結論
 以上の認定判断に照らし、本紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「MP3 .CO .JP 」が申立人の営業表示及び商標と混同を引き起こすほどに類似し、また、登録者が、登録者ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、更に、登録者ドメイン名が不正の目的で登録又は使用されているものと裁定する。よって、処理方針4 条i .に従って、ドメイン名「MP3 .CO .JP 」の登録を申立人に移転を命ずるものとして、主文のとおり裁定する。
 
  (6)そこで登録者(本訴原告)は、裁定の実施を免れるため、申立人(本訴被告)は、登録者の本件ドメイン名の使用を差し止める実体的根拠を有しないことの確認を求める訴訟を東京地裁に提起した。
 
2−3 本訴の争点
 (1)改正不正競争防止法2条1項12号の該当性
   ア 原告の図利加害目的の有無
イ 原告ドメイン名(「mp3.CO.JP」)と被告表示(「mp3.com」) の類否
  (2)改正不正競争防止法2条1項1号あるいは2号の該当性
   ア 商品等表示性
   イ 被告表示の周知・著名性
ウ 原告ドメイン名と被告表示の類否・混同惹起の有無
エ 原告ドメイン名の普通名称性(12条1項1号) 
 
2−4.本訴における当事者の主張
(1)ア−1 12号該当性(図利加害目的)に関する被告(裁定申立人)の主な主張
     原告(登録者)は,以下の理由から,「不正の利益を得る目的」又は「被告に損害を加える目的」を有しているといえる。
  a 原告が原告ドメイン名を全く利用していないこと
    原告サイトは実質的なウェブサイトということはできず,原告は,平成11年7月16日の登録日以降,2年半以上が経過しているにもかかわらず,原告ドメイン名を利用している実績がない。
  b 原告が,被告の顧客吸引力等を利用する意図を有すること
 被告は,平成13年2月ころ,原告に対し,原告ドメイン名の譲渡を申し入れたが,原告は原告ドメイン名を譲渡する意思はなく,日本における被告サイトとして,被告との共同事業を始めることしか検討しないと回答した。・・・・被告サイトは,インターネットを介して良質な音楽を提供する最も著名なサイトの一つとして認識され,少なくともMP3に関係する者にとっては誰もが知っている存在であった。
     これに対して,原告は原告ドメイン名を実質的には全く利用していない。  
     原告は,日本版被告サイトの共同運営を被告に迫るという,被告の利益を害する目的をもって原告ドメイン名を保有・使用しているというべきである。
  c 原告サイトが不正確な情報を掲示し,被告の名誉を毀損していること
 現在,原告サイトには「ただいまmp3.com社と係争中です。」と表示されているが,その表示主体が誰であるのかは不明確であり,ページの隅には,合資会社ジー・エヌ・エヌ(以下,「GNN」という。)のロゴが記載され,このロゴはGNNのホームページとリンクしている。また「メイルの送付先」として,「info@gnn.co.jp」と記載され,原告の名前は全く表示されていない。したがって,原告サイトを閲覧した者は,GNNと被告との間で何らかの紛争が生じていると考えることは明らかである。このような不正確な情報を,被告表示と類似するドメイン名の原告サイトで表示することは,被告の名誉を著しく傷つけるものである。
  d JPNICの規則に違反していること
 原告サイトには,原告の表示はなく,GNNの表示だけが存在しており,しかも,原告サイトと全く同一内容の表示がGNNが開設しているウェブサイト中の「GNN INFORMATION」という項目にリンクされていることなどから,原告ドメイン名を実質的に利用しているのはGNNであるといえる。すなわち,原告は,GNNが原告ドメイン名と「gnn.co.jp」という二つのドメイン名を持つための隠れ蓑にすぎないといえる。JPNICの「属性型(組織種別型)・地域型JPドメイン名登録等に関する規則」第9条第1項は,1組織1ドメインの原則を規定しており,そのためGNNは「co.jp」のドメイン名を二つ保有することはできないにもかかわらず,原告の名義を借りて,「gnn.co.jp」と「mp3.co.jp」という二つのドメイン名を取得した。
 なお,JPNICの上記規則は,ドメイン名の登録資格を正規に登記された法人としているが,原告は,「co.jp」ドメイン名を不正に取得するため,ゼネラル商事株式会社(「以下「ゼネラル商事」という。)の名義を借りて原告ドメイン名を保有していた時期もある。
    このように,原告は,JPNICの上記規則を無視し,不正に原告ドメイン名を取得し,利用しているのであって,原告による原告ドメイン名の保有は保護に値しない。
 
(1)ア−2 12号該当性(図利加害目的)に関する原告の主な反論
  a 原告が原告ドメイン名を取得するに至った経緯
   (a) Aは,早稲田大学で人工知能等の研究を行っていたが,インターネット関連の事業を行う会社の設立を準備していた。Aは,平成9年8月ころ,MP3という音楽情報圧縮規格が個人間で手軽に音楽ファイルをやりとりするための手段として注目されるであろうと予想し,新たに設立する会社のドメイン名を「mp3.co.jp」としようと考えたが,JPNICの運用指針により,「co.jp」ドメイン名は正規に登記された法人しか取得できなかったため,友人のBに依頼して,同人が代表取締役を務めるゼネラル商事に「mp3.co.jp」のドメイン名を取得してもらうこととし,ゼネラル商事は,平成10年3月18日,JPNIC に対して「mp3.co.jp」のドメイン名につき登録申請を行い,同月26日,同ドメイン名の登録がされた。
   (b) Aは,新会社の主力商品として開発中であった「ボイスメモ&電話帳機能付の超小型携帯型MP3プレイヤー」に関する情報等を,「mp3.co.jp」をドメイン名とするウェブサイトに掲載し,広く仮予約の募集等を行うとともに,平成10年6月に原告(代表者は姉のCが就任した。)を設立して,ドメイン名「mp3.co.jp」を原告のドメイン名とするための作業に取りかかった。当時,JPNICはドメイン名を任意に移転させることを認めていなかったため,ゼネラル商事が「mp3.co.jp」のドメイン名の登録抹消申請を行い,同時に原告が「mp3.co.jp」のドメイン名の登録申請を行うという方法を採った。ゼネラル商事のドメイン名登録抹消申請は受理されて同年10月31日に登録が抹消されたが,当時JPNICは,ドメイン名登録抹消後当該ドメイン名について6か月間の「一時凍結期間」を設け,この期間中はドメイン名登録をしないこととしていたため,原告の「mp3.co.jp」のドメイン名登録申請は,却下された。
  (c) 原告は,平成11年4月5日に,再度,「mp3.co.jp」のドメイン名の登録申請を行い,有限会社ジーニアスも同様の登録申請を行っていたので,原告と有限会社ジーニアスは抽選により登録者を定めることとし,同年7月15日に行われた抽選の結果,原告が「mp3.co.jp」の登録者に選ばれた。このようにして,原告が,同月16日付で原告ドメイン名の登録者としてJPNICのドメイン名登録名簿に登録されるに至ったのである。
    なお,原告は,この当時,被告が将来日本に進出するということは予測していなかったし,まして被告が原告ドメイン名でサイトを開設しようとすることは夢にも思っていなかった。
  b 原告ドメイン名の使用状況
     原告は,原告サイトにおいて,開発中の「ボイスメモ&電話帳機能付の超小型携帯型MP3プレイヤー」に関する情報等を掲載していたが,結局,その生産及び販売計画を中止せざるを得なくなった。その後,原告は,平成12年12月ころから未だメジャー・デビューしていないアーティストの楽曲を原告サイトで積極的にプロモートするサービスを始めるべく準備を進め,システムの構築を行ってきたが,原告のサーバがクラッキングされ,その後ほどなくして被告からの原告ドメイン名の譲渡要請があったり,被告から仲裁センターへの裁定の申立てがあったりしたため,上記システムは既にできあがっているにもかかわらず,慎重を期すために,現在アップロードを控えている状態である。
  c 図利加害目的の不存在
   以上のように,原告の設立を準備していたAは,被告が設立された平成10年3月にはゼネラル商事に依頼して原告ドメイン名のドメイン名登録申請をし,原告は,平成11年7月には,原告ドメイン名を取得している。また,原告は,原告ドメイン名に関連して,被告に対し何らの金銭的要求をしたことはないし,原告サイトにおいて,被告が金銭的給付を提示してでも原告ドメイン名を買い取らなければならないと判断されるような,いかがわしいコンテンツを掲載したこともない。それどころか,被告から原告ドメイン名の譲渡の申入れを受けた際も,Aは,被告に対して,「販売目的で同ドメイン名を登録していない」とこれを断り,原告と被告で協力して原告サイト上で事業展開を図るのであれば,検討に値する旨を明確に述べている。したがって,原告は,原告ドメイン名を登録し,使用するに当たり,「不正の利益を得る目的」も「被告に損害を加える目的」もなかったことは明らかである。
 
(1)イ−1 12号該当性(類否)に関する被告の主な反論
  a 原告ドメイン名と被告表示とは,主体を識別する部分である「mp3」の部分が   同一である。
    すなわち,一般に,ドメイン名は,主体を識別する部分とその主体の属性を示す部分から構成される。原告ドメイン名においては,「mp3」の部分が主体を識別する部分であり,トップレベルドメインである「.jp」の部分が国別コードとしてホストの属する国を示すものであり,セカンドレベルドメインである「.co」の部分が組織の種別コードとしてホストの属する組織を示すものである。他方,被告表示においては,「mp3」の部分が主体を識別する部分であり,トップレベルドメインである「com」の部分が属性を示す部分である。
    以上のとおり,原告ドメイン名と被告表示とは,主体を識別する部分である「mp3」の部分が同一である。
  b また,原告ドメイン名と被告表示のそれぞれの全体を比較してみても,両者は類似している。
    すなわち,被告表示は「エムピースリードットコム」と称呼されるのに対し,原告ドメイン名は「エムピースリードットコォドットジェイピー」と称呼され,両者は呼称において類似する。次に,「com」と「co」は外観において類似しているのみならず,「co」が企業を表示する属性である点で,法人である被告と組織の観念においても同一である。さらに,「.com」を企業名の一部として使用する場合は,利用者は当該企業をコンピュータ又は通信ネットワーク関連の業者であると連想する蓋然性が高いところ,原告ドメイン名もコンピュータ又は通信ネットワーク関連の観念を有しているから,原告ドメイン名と被告表示とは観念においても同一である。さらに,原告ドメイン名と被告表示とは,「mp3.co」までが同一である。
  c 類似性の判断においては,単純に二つの表示を比較するだけでなく,対象となるサービス,商品の市場及びその顧客の観点からも検討する必要がある。このような観点からすると,近年多くの企業が海外に進出し,各国毎にドメインネームを取得して活動しているという状況においては,原告ドメイン名のトップレベルドメインである「.jp」は日本を意味するものであるから,原告ドメイン名は,被告の日本版サイトと誤認混同される可能性が著しく高いものといえる。 
  d 確かに,「MP3」は,音声圧縮の国際規格を意味する普通名詞であるが,その表示が使用された結果,その表示に接する者が何人かを表示するものとして認識することもあり得るのであり,被告は,被告表示を使用したMP3情報を通信ネットワークを介して配信する業者として世界最大規模であり,先駆者的存在であることを考えると,被告表示がインターネット上及び通信ネットワークに関連して使用されるときには,「MP3」は被告を表示するものと認識されているというべきである。
 
(1)イ−2 12号該当性(類否)に関する原告の主な反論
  a 原告ドメイン名のうち,「.co.jp」の部分は,当該ドメイン名がJPNIC管理のものでかつ登録者が会社であることを示すにすぎず,多くのドメイン名に共通するものであり,商品等の出所表示機能はないから,原告ドメイン名の要部は,第3レベルドメインである「mp3」である。したがって,本件ドメイン名と被告表示が同一又は類似であるかどうかの判断は,原告ドメイン名の要部である「mp3」と被告表示「mp3.com」とを比較して行うべきである。そして,「mp3」と「mp3.com」とが類似しているというためには,「mp3」に営業表示としての識別力があることが不可欠であるところ,以下の理由から「mp3」は被告の営業表示としての識別力を有していないことは明らかである。
  b すなわち,(ア)「mp3」とは,音声情報圧縮の国際規格の普通名詞であり,かつ,同規格について被告は何らの権利を有するものではない。(イ) 被告は,「mp3」規格に関連した営業を行っており,被告の営業内容との関係では「mp3」という文字列はありふれたものでしかない。(ウ)「mp3」規格に関連する営業を行っている者の中には,「mp3」という文字列を含む営業表示を行っているものが少なくない。また,ドメイン名に「mp3」という文字列を使用しているサイトは少なくなく,第3レベルドメインを「mp3」とするドメイン名のほとんどは被告以外の者が取得し,使用している。 (エ) 被告が提供するサービスの名称は,「JapanMP3.com」,「MYMP3.com」,「MP3.comメッセンジャー」等,常に「MP3.com」という文字列プラスアルファからなり,「MP3」という文字列と「.com」以外の文字列からなるものはない。
 
(2)ア−1 1号2号該当性(商品等表示性)に関する被告の主張
    ウェブサイトにおけるドメイン名は,インターネットというコンピュータネットワーク上の自己の位置を示すものであり,そのウェブサイトにおけるサービスの出所を示すものである。したがって,ドメイン名それ自体が対応するウェブサイトにおけるサービスの出所を示す表示であり,法2条1項1号及び2号の「商品等表示」に該当する。なお,仮に,原告は,現時点では原告サイトにおいて商品,サービスを提供しておらず,また,原告の商品,サービスを示す表示を掲載していないとしても,以前は原告サイトにおいて商品の販売サービスを提供しており,原告ドメイン名を商品等表示として利用していたといえること,今後も,原告サイトにおいて,商品,サービスの提供を開始し,又は原告の商品,サービスを示す表示を掲載することは容易であることを考慮すると,原告ドメイン名は原告の商品等表示に当たると解すべきである。
(2)ア−2 1号2号該当性(商品等表示性)に関する原告の認否
   被告の主張を争う。
 
(2)イ−1 1号2号該当性(被告表示の周知・著名性)に関する被告の主張
    被告は,通信ネットワークにおいて,無数のアーティスト及びインディペンデントレーベルに関する音楽をMP3ミュージックという形式で提供・販売する事業を開始し,普及させた先駆者的な存在であり,現在も通信ネットワークにおける音楽配信サービス業界の中心的な役割を担っている。原告ドメイン名が登録された平成11年7月16日以前である平成10年11月10日に発行された書籍(乙3)において,被告は,「世界中のMP3情報は被告を中心に発信されているといっても過言ではない。」と紹介されている。また,日本経済新聞社の「読者が選ぶ人気ホームページランキング」の平成11年7月分の集計結果において,被告は日本における人気ホームページ第6位として紹介されている(乙4)。
    原告が原告ドメイン名を登録した直前の平成11年6月における被告サイトへの日本からの閲覧者は延べ約460万人,同年11月には延べ約950万人であり,現在データ入手済みの国からの同年6月の全閲覧者は延べ約4200万人を超えている(乙5)。被告は,新聞,雑誌,街頭等の広範囲において宣伝広告活動を展開しており,例えばメディア関係の宣伝広告費用として,平成11年下四半期から平成12年下四半期までの間で,合計約4億6000万円を費やしている。
    被告は,平成11年4月から平成12年12月にかけて,世界各国において,「MP3.COM」,「MP3.COOM」,「MY.MP3.COM」,「MP3RADIO.COM」についてそれぞれ商標登録出願をしており,一部は既に登録されている。日本においては,平成11年11月16日に「MP3RADIO.COM」について,平成12年12月8日に「MY.MP3.COM」についてそれぞれ商標登録出願した。被告表示は,主要紙及び雑誌記事において英語の媒体に限定しても平成10年3月から平成12年4月までの間に世界各国で合計約1000回以上も掲載されている(乙8)。被告は,日本経済新聞の検索サービスにおいて,平成10年7月から同年12月までの間について,「mp3.com」を検索してみたところ,22件の記事が検索できた。
    したがって,被告表示は,被告の営業表示として周知性を有し,著名である。
(2)イ−2 1号2号該当性(被告表示の周知・著名性)に関する原告の認否・反論
   被告の主張を争う。
 被告が日本語サイトを開設したのは平成13年2月,日本国内の大手レコード会社ビーインググループと提携して,日本語サイトを正式にスタートさせたのは同年4月10日であって,それまでは,被告の会長であるD氏も「これまで日本からのアクセスは全体のほんの一握りにすぎなかった。英語という壁がMP3.comを日本で認知させない原因だった」と認めているとおり,少なくとも日本国内ではマイナーな存在であった。原告は,ニフティサーブが提供する新聞記事横断検索を利用して,平成10年1月1日から平成11年12月31日までの間の国内の主要な新聞等の記事のうち,「mp3.com」という文字列がタイトル又は本文に含まれるものを検索したが,何ら記事は検出されなかった。被告が検索した記事(乙15)にはいずれも「mp3」という文字列は含まれるが,「mp3.com」という文字列は含まれていない。
 
(2)ウ−1 1号2号該当性(類否)に関する被告の主張
   類似し,利用者が両者を誤認混同するおそれは大きい。
(2)ウ−2 1号2号該当性(類否)に関する原告の認否
   被告の主張を争う。
 
(2)エ−1 12条の適用除外(普通名称)に関する原告の主張
   「mp3」との語は,音声情報圧縮の国際規格の普通名詞であり,mp3という規格に関連する商品又は営業であるということを記述的に表現するために,商品名やサービス名又はドメイン名などに普通に使用されている。したがって,原告が,そのドメイン名に「mp3」の語を使用することは,不正競争防止法12条1項1号により,そもそも不正競争行為に当たらないというべきである。
(2)エ−2 12条の適用除外(普通名称)に関する被告の認否
   原告の主張を争う。
 
2−5.裁判所の判断
 (1)争点(1)ア(図利加害目的の有無)について
  @ 事実認定(以下ゴチック体は判決文からの引用である。)
 ア 被告及び被告サイトについて
  (ア)被告は,MP3形式による圧縮処理をした音声データをインターネットを通じて配信するサービスを業とする会社であり,平成10年3月,アメリカ合衆国において設立された。被告は,「mp3.com,Inc」の商号及び「mp3.com」のドメイン名を有しており,被告表示を用いて上記音楽配信サービス業を行っている。
  (イ)平成10年11月10日に発行された「デジタル新世代MP3」という題名の書籍において,同年7月にアメリカ合衆国で開催された「MP3サミット」のレポート記事が記載されているが,その中で,「300人を越える参加者が詰めかけた会場は,主としてアメリカ各地よりの参加者と一部の欧州人とごくごくわずかな東洋人のゲストで構成されていた。」,「『mp3.com』主宰のDの挨拶で世界初の『MP3マニア』の集会は始まった。」,「数社のプレゼンテーションの合間に法律問題,そしてインターネット上での代金決済について,アーティストの活動有効性についてなど,さまざまな問題点をパネルディスカッション方式にて行い,活発な論議が交わされた。」,「Dが主宰のmp3.comは,1日7万ヒットを誇る超人気サイト。世界中のMP3情報は彼を中心に発信されていると言っても過言ではない。」,「ここで,jp.mp3.com,つまりmp3.comの日本語版を立ち上げることが決まった。」,「我々の最大の目的はmp3.comを日本語で読めるようにすることである。それに,日本語版独自コンテンツを追記し,『jp.mp3.com』が本書が出版される頃には完成していると思われる。本家『mp3.com』の最新情報を翻訳し,いち早く日本のMP3ファンに届け,また,日本の最新情報も遅れることなく英訳して全世界に発信する。」と記載されている。
    日本から被告サイトを閲覧した者の延べ人数は,平成11年2月には3万5835人,同年3月には134万8570人,同年4月には216万2915人,同年5月には384万2346人,同年6月には461万4607人,同年7月には557万1146人,同年8月には743万6226人,同年9月には816万4457人,同年10月には938万3817人,同年11月には948万2539人,同年12月には725万7943人,平成12年1月には540万4975人,同年2月には275万1714人,同年3月には296万5590人,同年4月には354万5822人,同年5月には339万3268人,同年6月には372万5756人,同年7月には355万1487人,同年8月には437万8019人であった。日本経済新聞が平成11年6月25日から同年7月25日までの間に,「NIKKEI NET」の読者の投票によりホームぺージの人気を調査した結果(有効投票数1129票)によれば,被告サイトは,「音楽が楽しめるホームページ」の項目で第6位の人気であった。ニフティサーブが提供する新聞記事横断検索を利用して,平成10年1月1日から平成11年12月31日までの間の,日本経済新聞を除く国内の主要な新聞等(共同通信,朝日新聞,読売新聞,毎日新聞,産経新聞,北海道新聞,河北新報,東京新聞,中日新聞,神戸新聞,中国新聞,西日本新聞,北國・富山新聞,愛媛新聞,高知新聞,南日本新聞,琉球新報,公明新聞,しんぶん赤旗,日刊スポーツ,スポーツニッポン,日刊工業新聞・流通サービス新聞,日本工業新聞,日本農業新聞,日本食糧新聞等3紙,化学工業日報,日本薬業等5紙,金融専門誌ニッキン,建設通信新聞,織研新聞,日本証券新聞,保険毎日新聞,鉄鋼新聞,日刊建設工業新聞)を対象として,「mp3.com」という文字列がタイトル又は本文に含まれるものを検索した結果は0件であった。
 イ 原告の業務並びに原告が原告ドメイン名を取得するに至った経緯及び原告ドメイ   ン名の使用状況
  (ア) 原告は,パソコン周辺機器の開発,輸入及び販売並びに音響製品の販売等を目的とする有限会社である。原告の目的としては,@インターネットにおける個人,法人向け通信サービス,Aインターネット電話サービス業,Bパソコン周辺機器の開発,輸入,販売,Cコンピューターシステムの保守,管理代行,Dインターネット接続代行業,Eコンピューター・ソフトウェアの開発,販売,F音響製品の販売等が掲げられている。
  (イ) Aは,早稲田大学で人工知能等の研究を行う傍ら,インターネット電話機器の開発,インターネット電話サービスの提供,MP3小型プレイヤーの開発等の業務を事業化しようと考えて,平成10年6月1日,姉を代表者として原告を設立した。Aは,原告設立の準備段階において,近い将来MP3という規格が日本国内で注目されることになると予想したため,原告のドメイン名を「mp3.co.jp」とすることを考えていた。しかし,JPNICの運用指針では,JPNICが管理しているcoドメイン名は正規に登記された法人しか取得できないこととなっていたため,原告の設立準備段階では,原告が上記ドメイン名の登録者となることができず,そのため,知人が代表取締役を務めるゼネラル商事に上記ドメイン名を取得してもらうことにした。そこで,ゼネラル商事は,同年3月18日,JPNIC に対して「mp3.co.jp」のドメイン名につき登録申請を行い,同月26日,ゼネラル商事を登録者として同ドメイン名の登録が行われた。
   (ウ) 原告が平成10年6月11日に設立されると,原告は,「mp3.co.jp」のドメイン名を原告のドメイン名とするための作業に取りかかったが,当時は,JPNICがドメイン名を任意に移転させることを認めていなかったため,ゼネラル商事が「mp3.co.jp」について登録抹消申請を行い,同時に原告が「mp3.co.jp」について登録申請を行うという方法を採ることにした。ゼネラル商事は上記ドメイン名のドメイン名登録抹消申請をし,同年10月31日に上記ドメイン名の登録が抹消された。原告は,直ちに,上記ドメイン名の登録申請をしたが,当時のJPNICは,ドメイン名登録抹消後,当該ドメイン名については,6か月間の「一時凍結期間」を設け,この期間中はどの組織に対してもドメイン名登録をしないこととしていたことから,原告の上記申請は却下された。そこで,原告は,平成11年4月5日に,再度,上記ドメイン名の登録申請を行った。このときは,他の会社1社も登録申請を行っていたため,同会社との間で,抽選により登録者を定めることになり,抽選の結果,原告が「mp3.co.jp」の登録者に選ばれた。このようにして,原告は,同年7月16日付で原告ドメイン名の登録者としてJPNICのドメイン名登録名簿に登録されることになった。
  (エ) 原告は,原告ドメイン名の登録をすると,原告サイトにおいて,開発中の「ボイスメモ&電話帳機能付の超小型携帯型MP3プレイヤー」に関する情報等を掲載したが,その後,上記MP3プレイヤーの生産及び販売計画を中止し,上記記載も削除した。原告サイトには,平成13年2月,「COMMING SOON」との表示がされたが,その後同記載は削除された。現在,原告サイトには,「このサイトはmp3.comとは一切無関係です。MP3に関連する日本国内でのビジネスを展開するために準備中です。mp3.comに関連したご質問には一切お答えできません。ただいまmp3.com社と係争中です。この件につきまして,暖かいご支援のメールやご連絡,どうもありがとうございました。2000年9月下旬よりCODE REDおよびNIMDAワームへの事前対処として,暫時サーバを停止しておりました。弊社顧客のサーバ対策を優先したため,再開が遅れました点,ご了承下さい。2001年1月7日〜13日間,サーバ移設に伴いウェブサービスを停止いたしました。」と記載されている。なお,原告サイトの隅には,GNNのロゴが記載され,このロゴはGNNのホームページとリンクしており,メールの送付先としては,「info@gnn.co.jp」と記載されている。また,原告サイトにおいて,原告の名称は全く表示されていない。
    以上の他に,原告サイトには,何らかの記載が掲載されたことはなく,原告サイトは実質的な利用はされていない状況である。
 ウ 「mp3」を含むドメイン名等について
  「mp3」とはデジタル化された音声情報を圧縮する技術の一つであり,音声情報圧縮の国際規格となっている。「mp3」の語は,原告が設立された平成10年には,一般的な語として普及しており,様々な商品及びサービス等に使用されていた。「mp3」という文字列を第3レベルドメインとしたドメイン名は,原告ドメイン名及び「mp3.com」の他に,「mp3.com.tw」,「mp3.com.cn」,「mp3.com.au」,「mp3.com.ve」,「mp3.co.za」,「mp3.co.uk」,「mp3.co.kr」,「mp3.fr」,「mp3.it」,「mp3.de」,「mp3.ne.jp」,「mp3.jp」,「mp3.ch」など数多く存在するが,いずれも被告以外の者が登録している。
 エ 被告と原告との原告ドメイン名の買い取り交渉について
 被告担当者は,平成13年2月中旬ころ,原告ドメイン名の買い取り交渉をするため,原告サイトに記載されたメールの送付先にメールを送付したところ,同月20日,原告サイトの管理者であったGNNの代表者であるEが被告に,Aの電話番号を記したメールを返送した。そこで,被告担当者は,同日,Aに電話連絡し,原告ドメイン名の譲り受けのための申出をした。その際,被告の担当者は,Aに対して,原告ドメイン名をその登録費用相当額で被告に譲渡するよう要請したところ,Aは,登録費用相当額では原告ドメイン名を譲渡することはできず,日本における被告サイトとして,原告と被告がともに事業を始めることしか検討できない旨回答した。被告は,Aの上記回答を受けて,交渉の余地はないものと判断し,同年3月5日,仲裁センターに対し,原告を相手方として,原告ドメイン名を被告へ移転登録するよう求める紛争処理の申立てをした。
 
  A 図利加害目的の有無に関する判断
 「ア「不正の利益を得る目的」又は「他人に損害を加える目的」の趣旨
    ドメイン名は,インターネットにおいて,個々の電子計算機を識別するために割り当てられる番号,記号又は文字の組合せに対応する文字,番号,記号その他の符合又はこれらの結合を指す(法2条7項)。
   ドメイン名登録制度は,原則として,誰でも,先着順で自由に登録することができ,登録に際しては,既存の商標や商品等表示などに関する権利と抵触するか否かの審査はされない。このような制度を通して,多数の者が,広くインターネットを利用して,活動をすることが保証されている。また,ドメイン名は,インターネット上のアドレスであるから,何ら意味を有さない数字や文字等の組合せでも何ら差し支えない。
 しかし,実際には,ドメイン名の多くは,登録者の名称,商品又は役務の名称など何らかの意味を有する文字列等が選択される。すなわち,事業者は,自社商品を広告し,販売等を促進するためにインターネット上のウェブサイトを活用するが,通常,事業者の保有するドメイン名は,当該事業者やその商品等を示す文字列を第3レベルドメインに含んでいることが多い。利用者は,ウェブサイトに掲載された情報に基づいて所望の商品やサービスを選択し,商品を購入し,役務の提供を受けるが,その際,ドメイン名が特定の企業名や商品等の名称を含む場合には,ドメイン名で示された企業名や商品等の名称と,その企業若しくは商品等との間に関連性があると認識する場合が通常である。このようなドメイン名の社会的,経済的機能に照らすと,事業者がその事業をより効果的に進めていく上で,ドメイン名の経済的価値は極めて高く,そのため,自己の企業名や商品等を示す文字列を含み,できるだけ短い文字列を第3レベルドメインとするドメイン名を取得しようとする傾向は顕著である。(弁論の全趣旨)
    ところで,ドメイン名は,個々の電子計算機を識別するために,世界中で唯一のものでなければならないという制約があり,また,前記のとおり,誰でも先着順で,自由に登録されるという制度上の建前が存在するため,第三者が,この制度上の建前を濫用ないし悪用して,不正の利益を得る目的で,又は他人に損害を加える目的で,他人の商品等表示と同一又は類似の文字列を第3レベルドメインとするドメイン名を取得する事態も多く生じている(弁論の全趣旨)。
    以上の観点に照らすならば,不正競争防止法が「不正の利益を得る目的で,又は他人に損害を加える目的で,他人の特定商品等表示・・・と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得・・・する行為」を不正競争行為とし,図利又は加害目的という主観的な要件を設けた上で,その行為を禁止したのは,@誰でも原則として先着順で自由に登録ができるというドメイン名登録制度の簡易迅速性及び便利性という本来の長所を生かす要請,A企業が自由にドメイン名を取得して,広範な活動をすることを保証すべき要請,Bドメイン名の取得又は利用態様が濫用にわたる特殊な事情が存在した場合には,その取得又は使用等を禁止すべき要請等を総合考慮して,ドメイン名の正当な使用等の範囲を画すべきであるとの趣旨からであるということができる。  (*下線は筆者、以下同じ)
    そうすると,同号にいう「不正の利益を得る目的で」とは「公序良俗に反する態様で,自己の利益を不当に図る目的がある場合」と解すべきであり,単に,ドメイン名の取得,使用等の過程で些細な違反があった場合等を含まないものというべきである。また,「他人に損害を加える目的」とは「他人に対して財産上の損害,信用の失墜等の有形無形の損害を加える目的のある場合」と解すべきである。例えば,@自己の保有するドメイン名を不当に高額な値段で転売する目的,A他人の顧客吸引力を不正に利用して事業を行う目的,又は,B当該ドメイン名のウェブサイトに中傷記事や猥褻な情報等を掲載して当該ドメイン名と関連性を推測される企業に損害を加える目的,を有する場合などが想定される。
  イ 「不正の利益を得る目的」の有無について
  (ア) 原告が原告ドメイン名を使用する権利を取得する際,不正の利益を得る目的を有していたか。
    前記(1)で認定したとおり,Aは,原告の設立前に,原告の保有するドメイン名を「mp3.co.jp」にしようと考えたが,会社設立前にはドメイン名を登録することができなかったため,ゼネラル商事との間で,将来設立される原告のために上記ドメイン名を同社名義で登録し,原告が設立されれば原告に同ドメイン名を譲渡することを合意し,同合意に従って,ゼネラル商事は,平成10年3月に上記ドメイン名を登録した。他方,被告が設立されたのは,同じ平成10年3月である。以上の事実に照らせば,Aが原告のために原告ドメイン名の登録を意図した時点はもとより,ゼネラル商事が原告ドメイン名の登録申請をした平成10年3月の時点においても,原告(ただし,この時点では原告は設立されていないから,厳密には,A個人である。)が,将来被告に原告ドメイン名を不当に高額な値段で買い取らせたり,被告表示の顧客吸引力を不正に利用して原告の事業を行おうなどの不正の利益を得る目的を有していなかったことは明らかである。その後,原告が原告ドメイン名の登録申請をした平成11年4月までに,被告は,音楽配信事業を世界的に展開し,平成11年3月において日本から被告サイトを閲覧した者の数は,延べ134万8570人となっていること,平成10年11月10日に発行された「デジタル新世代MP3」という題名の書籍において,被告を紹介する記事が記載されていること,日本経済新聞が平成11年6月25日から同年7月25日までの間に,「NIKKEI NET」の読者の投票によりホームぺージの人気を調査した結果によれば,被告サイトは,「音楽が楽しめるホームページ」の項目で第6位を占めたことが認められ,以上によれば,原告が原告ドメイン名を登録した平成11年7月の時点では,被告の事業は我が国においても,かなり広く知られるようになっていたものと認められる。
 しかし,前示のとおり,原告は,ゼネラル商事に依頼して原告ドメイン名を登録しようとした時点(平成10年3月)においては将来被告に原告ドメイン名を不当に高額な値段で買い取らせたり,被告表示の顧客吸引力を不正に利用して原告の事業を行おうなどの不正の利益を得る目的を有していなかったこと,その後,前記の経過を経て平成11年7月に原告ドメイン名の登録をしたが,同登録は,当初企図したとおりの結果にすぎないことからすれば,前記のとおり,同登録当時においては,被告の事業が広く知られるようになっていたとしても,そのことから,平成11年7月までの間に,事後的に原告に上記のような不正の利益を得る目的が生じたことを認めることはできない。
    したがって,原告が原告ドメイン名を登録した平成11年7月の時点においても,原告が,将来被告に原告ドメイン名を不当に高額な値段で買い取らせたり,被告表示の顧客吸引力を不正に利用して原告の事業を行うなどの不正の利益を得る目的を有していたということはできない。
  (イ) 原告が原告ドメイン名を保有,使用するに当たり,不正の利益を得る目的を有していたか。
   a 前記のとおり,原告が原告ドメイン名を登録した後,被告サイトへの日本からのアクセス数は増加していき,平成11年10月には938万3817人,同年11月には948万2539人となっていること,被告は,平成13年2月,Aに対し,原告ドメイン名を登録費用相当額で被告に譲渡するよう申し込みをしたところ,Aは,登録費用相当額では,原告ドメイン名を譲渡することはできず,日本における被告サイトとして,原告と被告がともに事業を始めることしか検討できない旨回答したこと,原告は,原告サイトを実質的に利用していないことが認められる。
   b まず,被告は,上記の原告ドメイン名の譲渡交渉の経緯から,原告は,日本版被告サイトの共同運営を被告に迫るという不正の利益を得る目的を有していることが推認されると主張する。
     しかし,原告が被告に対して日本版被告サイトの共同運営を希望する旨提案したとしても,被告は,同提案が意向に沿わないと判断すれば,拒絶しさえすれば足りる(拒絶しても被告に何らの不利益があるわけではない。)のであるから,被告サイトの共同運営を提案したからといって,原告が,日本版被告サイトの共同運営を被告に迫るという不正の利益を得る目的を有していたということはできない。
   c 次に,被告は,原告が,被告からの譲渡申し込みを拒絶した経緯に照らすと,原告ドメイン名の譲渡代金として不当に高額な金額を取得しようとの目的を有していたことが推認されると主張する。しかし,被告の上記主張は採用できない。
     すなわち,証拠(甲11ないし15,22,51,乙3ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,mp3形式で圧縮した音楽をmp3再生機によって鑑賞する音楽愛好家の増加やmp3形式で圧縮した音楽のインターネット配信の増大により,mp3に関連する製品又はサービスの市場は拡大してきており,将来もこの傾向が続くものと推測されること,mp3形式で圧縮された音楽はインターネットを通じて流通することが多く,ウェブサイトにおいて,mp3関連の製品の販売又はサービスを提供したり,その広告をしようとする事業者にとって,「mp3」という文字列を含んだドメイン名を取得することは,その事業の遂行に有益であること,特に,ドメイン名は短い方が効果的であることから,上記事業者にとって,第3レベルドメインを「mp3」とするドメイン名の有用性は大きいこと,ドメイン名は世界で唯一のものであり,原告ドメイン名と同一のドメイン名が他に登録されることはないことからすると,原告ドメイン名は,mp3に関連した事業を行う者又は将来同事業を行う可能性のある者にとっては,相当に高い財産的価値を有するものであることが認められる。そして,原告は,パソコン周辺機器の開発,輸入及び販売並びに音響製品の販売等を業とする有限会社であり,その目的の中には,インターネットにおける個人及び法人向け通信サービス,パソコン周辺機器の開発,輸入及び販売,コンピューター・ソフトウェアの開発及び販売並びに音響製品の販売等が含まれていること,原告は,以前に,「ボイスメモ&電話帳機能付の超小型携帯型MP3プレイヤー」の開発をし,同機器に関する情報を原告サイトに掲載していたことから,原告は,現在は原告サイトを実質的には利用していないが,将来,mp3に関連する事業を行い,同事業のために原告サイトを利用する可能性は十分認められることからすれば,原告にとって,原告ドメイン名は登録費用相当額を超える相当に高い財産価値を有するものであるということができる。
     そうすると,原告が,被告から登録費用相当額で原告ドメイン名を譲渡するよう要請されたのに対し,これを拒絶したとしても,原告ドメイン名の財産価値からすれば,むしろ当然のことであり,原告ドメイン名を登録費用相当額で被告に譲渡しなかったとしても,そのことから,原告が,被告から原告ドメイン名の譲渡代金として不当に高額な金額を取得しようとの目的を有していたと認めることはできない。また,原告は,原告サイトにおいて,被告を中傷する記事を掲載するなどして被告が不当な対価を支払ってでも原告ドメイン名を取得することを余儀なくさせている事情もない。その他,本件全証拠によっても,原告が原告ドメイン名を被告に不当に高額な金額で買い取らせたり,被告表示の顧客吸引力を不正に利用して事業を行おうという不正の利益を得る目的を有していることを窺わせる事実は認められない。
   d したがって,原告は,原告ドメイン名を不正の利益を得る目的で保有,使用しているとはいえない。
  (ウ) なお,被告は,原告は,1組織1ドメインの原則を規定しているJPNICの「属性型(組織種別型)・地域型JPドメイン名登録等に関する規則」第9条第1項に違反するので,原告は,原告ドメイン名についての正当な利益を有していない旨主張する。
    しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,前記アで判示したように,法2条1項12号の「不正の利益を得る目的」とは,利益追求の態様が公序良俗に反する場合に限定して解すべきであり,このことに,JPNICが定めるJPドメイン名紛争処理方針4条aが,「登録者が,当該ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していないこと」だけではドメイン名登録の移転又は取消を求める要件としていないことを合わせ考えれば,仮に,被告が指摘する上記の各事実があったとしても,原告が「不正の利益を得る目的」を有すると解することは到底できない。
    したがって,被告の上記主張を考慮しても,原告が「不正の利益を得る目的」を有するとはいえない。
  (エ) したがって,原告は,「不正の利益を得る目的」で原告ドメイン名を取得,保有,使用したということはできない。
 
  ウ 「他人に損害を加える目的」の有無について
  (ア) 原告が原告ドメイン名を登録して以来,原告サイトにおいて掲載した情報は,前記(1)に認定したとおりであり,被告を中傷する内容の情報やいかがわしい情報を掲載したことはない。さらに,本件全証拠によっても,原告が,原告サイトに被告を中傷する内容の情報等を掲載するという方法以外の何らかの方法により被告に損害を加える目的を有しているというべき事情は認められない。
     したがって,原告が,「他人に損害を加える目的」で,原告ドメイン名を使用する権利を取得し若しくは保有し,又はそのドメイン名を使用したと認めることはできない。
  (イ) この点について,被告は,原告サイトでは,現在,「ただいまmp3.com社と係争中です。」との表示がされていること,その表示主体が誰であるのかは不明確であること,原告サイトの隅には,GNNのロゴが記載され,このロゴはGNNのホームページとリンクしていること,原告サイトではメールの送付先として,「info@gnn.co.jp」としか記載されておらず,原告の名称が表示されていないことから,原告サイトを閲覧した者に対して,被告とGNNとの間で何らかの紛争が生じているとの誤解を生じさせ,これにより被告の名誉は著しく傷つけられる旨主張する。そして,前記(1)イ(エ)で認定したように,原告サイトにおける記載について,被告が主張する上記の各事実が認められる。
    しかし,被告の上記の主張は,以下のとおり,理由がない。すなわち,前記(1)イ(エ)で認定したように,原告は,原告サイトに「このサイトはmp3.comとは一切無関係です。MP3に関連する日本国内でのビジネスを展開するために準備中です。mp3.comに関連したご質問には一切お答えできません。ただいまmp3.com社と係争中です。この件につきまして,暖かいご支援のメールやご連絡,どうもありがとうございました。2000年9月下旬よりCODE REDおよびNIMDAワームへの事前対処として,暫時サーバを停止しておりました。弊社顧客のサーバ対策を優先したため,再開が遅れました点,ご了承下さい。2001年1月7日〜13日間,サーバ移設に伴いウェブサービスを停止いたしました。」との文章を掲載したが,弁論の全趣旨によれば,その趣旨は,原告と被告との間で本件紛争が生じ,その紛争の中で,被告から,原告サイトが被告及び被告サイトと誤認混同されること及び原告が原告サイトを使用していなかったことを指摘されたことから,原告サイトが被告及び被告サイトとは全く関係がないこと並びに原告サイトが閉じられていたことの経緯を明らかにするためのものと推測される。そして,原告サイトの上記表示のうち「ただいまmp3.com社と係争中です。」との部分は,その前にある「このサイトはmp3.comとは一切無関係です。」との部分と合わせて見れば,原告サイト開設者と被告とが係争中であることを端的に記載した文章であることは明かであるところ,たとえ,原告サイトの開設者の表示がなく,原告サイトの隅にGNNのロゴが記載され,このロゴはGNNのホームページとリンクし,さらに原告サイトにはメールの送付先として,「info@gnn.co.jp」と記載されているとしても,そのことから,原告サイトの閲覧者が原告サイトとGNNとが何らかの関係があると認識することはあっても,原告サイトの開設者がGNNであると認識するとは考えられず,このことに上記記載が原告サイトに掲載された経緯を総合すれば,原告が,原告サイトの閲覧者に対して,GNNと被告とが係争しているものと誤解させることを目的として故意に係争主体を不明確にしたと認めることはできない。
    したがって,原告サイトの上記記載から,原告に,原告サイトの閲覧者に,GNNと被告との間に紛争が生じていると誤解させることにより,被告の名誉を傷つけようとの目的があったということはできず,被告の上記主張は理由がない。
 エ 以上によれば,原告は,「不正の利益を得る目的で,又は他人に損害を加える目的」で,原告ドメイン名を取得,保有,使用したということはできない。
  B 原告ドメイン名の商品等表示性についての判断
  前記のとおり,ドメイン名は,インターネット上のアドレスにすぎないのであるから,ウェブサイトにおいて商品の販売や役務の提供をしても,当然には,そのウェブサイトのドメイン名を法2条1項1号,2号の「商品等表示」として使用したということはできない。他方,ドメイン名は,通常,当該ドメイン名を登録し,ウェブサイトを開設する者の商品等表示と同一の文字列を含む文字列を第3レベルドメインとすることが多く,当該ウェブサイトを閲覧する者としても,ドメイン名と当該ドメイン名の登録者とを結び付けて認識する場合も多いものと推測される。そして,ウェブサイトにおいて,ドメイン名の全部又は一部を表示して,商品の販売や役務の提供についての情報を掲載しているなどの場合には,ドメイン名は当該ウェブサイトにおいて表示されている商品や役務の出所を識別する機能を有することもあるといえ,このような場合には,ドメイン名を法2条1項1号,2号の「商品等表示」として使用していると解すべき場合もあり得る。
 そこで,原告サイトに掲載された情報の内容について検討するに,前記認定のとおり,原告は,原告サイトにおいて,「ボイスメモ&電話帳機能付の超小型携帯型MP3プレイヤー」に関する情報等を掲載したことがあるが,本件証拠上,その際に,原告ドメイン名を示す文字列を原告サイト上に掲載したと認めることはできず,その後は,原告サイトにおいて,商品の販売や役務の提供についての情報は一切掲載されていない。
 したがって,原告ドメイン名が法2条1項1号,2号の「商品等表示」として使用されたということはできない。
 
  C  結 論
  以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告が法2条1項1号,2号,12号所定の各不正競争行為を行っていたと認めることはできず,また,その経緯に照らして各不正競争行為を行うおそれもないから,これを前提とする被告の法3条1項に基づく差止請求権の存在を認めることはできない。
 
3.研 究
3−1 本件判決の意義
  本件判決は、実体法的観点より審理した結果、移転認容の仲裁センターの裁定結果を覆した始めての判決であると共に、不正競争防止法の平成13年改正法(平成13年6月29日公布、同年12月25日施行、以下「改正不競法」という。)によって創設されたドメイン名に係る不正行為(改正2条1項12号)の適用が問題になり、その主観的構成要件である「図利加害目的」の意味について始めて判示したものであり、ドメイン名に係る不正行為に関する先例となるべきものである。
 
3−2 ドメイン名とは
(1)ドメイン名とは、インターネット上で、これに接続された個々のコンピュータを特定識別するための記号等である。すなわち、インターネットにおいては、接続されている世界中の各コンピュータをそれぞれ識別するために、固有のIPアドレスという数字と記号の羅列(例えば、「149.133.126.11」など)が割り当てられているが、ホームページを閲覧するに際して、いちいちこのような数字等の羅列を入力するのは使い勝手が悪いため、これを扱い易いアルファベットを中心とした文字列等(例えば「j-phone.co.jp」)に置換せしめて、その対応関係をデータベースとしてネットワーク上のコンピュータ(DNS Domain Name Server)に登録し、コンピュータの使用者が、この置換された扱い易い文字列を入力すれば、自動的にIPアドレスに変換して目的のコンピュータに接続できる仕組みがとられている(ドメイン名システム)。この文字列がドメイン名と言われるものである。
(2)そして、改正不競法2条7項には、新たにドメイン名の定義規定が置かれ、そこでは「この法律において「ドメイン名」とは、インターネットにおいて、個々の電子計算機を識別するために割り当てられる番号、記号又は文字の組み合わせに対応する文字、番号、記号その他の符号又はこれらの結合をいう。」と規定されているが、これは上記のような意味である。
 
3−3 ドメイン名に関する紛争処理
(1)昨今、インターネットの普及に伴って、ドメイン名のもつ事業上の価値が高まる一方で、ドメイン名の取得(登録)に関する手続的限界から、ドメイン名の保有、使用を巡る紛争が多く発生している。その紛争解決のための裁判外紛争処理機関として、一般(もしくは分野別)トップレベルドメイン(gTLD)の付されたドメイン名などに関しては、世界的にドメイン名を管理する非営利組織であるICANN(the Internet Corporation for Assibned Names and Numbers )が制定した自主規範である「統一紛争処理方針」(「UDRP(Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy [1999年10月制定]」)に基づき、ICANNから指定されたWIPOの仲裁センター等の組織が紛争処理機関として承認され、そこで裁定手続が行われて来ており、また、我が国のカントリーコードである「jp」をトップレベルドメインとするドメイン名の場合には、jpドメインについてICANNからその登録管理を委託されているJPNIC(社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター)の指定する紛争処理機関である日本知的財産仲裁センター(旧工業所有権仲裁センター)において、JPNICがUDRPを我が国の実情に合うようにローカライズして採択した自主規範であるJPドメイン名紛争処理方針」(JPDRP[2000年7月制定])に準拠して裁定手続が行われている。本件裁定もこの手続によるものである。
(2)また、これと並行して従来、裁判手続においては、ドメイン名の不正登録、使用等に関する直接の規定が存在しなかったため、不競法2条1項1号ないし2号の不正競争行為の成否という観点から審理判断されてきた。また商標法の適用も考えられるところである。しかし今般の不競法の改正により、ドメイン名の不正登録、使用等に関する規定が設けられたため、今後は本判決に見られるように、上記1号、2号に加えて2条1項12号の不正競争行為の成否という観点からも審理判断されることとなる。
(3)ところで、ドメイン名に関する紛争における訴訟の形態としては、周知・著名商品等表示を有する者から、これに類似するドメイン名を使用する者に対して、その使用の差し止めや損害賠償を請求するもの(注1)と、日本知的財産仲裁センターにおける移転認容裁定を不服とする登録者が、裁定の実施を妨げるために東京地裁等へ出訴する形態に大別される。裁定は自主規範に基づいてなされるいわゆる裁判外紛争処理手続であって、訴訟手続とは関係しないものであり、訴訟手続が裁定の上訴的な手続になっているわけではない。しかしながら、裁定通知後10日以内に出訴したことを証する書面を仲裁センターに提出すれば、裁定の実施を訴訟での決着を見るまで見送ることとしており(JPDRP4条k項)、訴訟において登録者のドメイン名の使用権を否定する内容の確定判決等の出され、当事者からその判決その他の文書が仲裁センターに提出されれば裁定内容は実施されるが、それ以外は実施が見送られたままとなる。そのため、事実上、出訴は、移転や取消裁定を取り消す(その効力を封じる)意味をもつことになる。そして、かかる出訴の場合については、申立人を被告として、登録者(原告)にドメイン名の使用権があることの確認訴訟(注2)か、申立人は登録者に対して不競法に基づく差止め請求権が存在しないことの確認訴訟の形態(本訴)がとられることが多い。前者の場合の審理内容は、JPドメイン名紛争処理方針4条aに規定する移転・取消裁定を下すに必要な条件((@)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること、(A)登録者が、当該ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していないこと、(B)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること)をすべて充足しているかの認定判断となり、後者の場合では、不競法2条1項1号、2号及び12号の成否ということになる。
 
3−4 改正不競法2条1項12号(ドメイン名の不正使用)
(1)ドメイン名は、先願主義に基づいて実社会での商品等表示の使用状況や商標権の保持とは関係なく、その希望する文字列と同一のものが既に登録されていない限り、登録が認められるため、周知・著名表示に類似した文字列を含むドメイン名を高額で売りつけるなどの不正目的で登録を行い、またフリーライド的にこれを使用し、あるいはその結果として周知・著名表示を汚染せしめ(ポリューション)、その保有者の信用を低下させるなどする者が存在するところ、かかる他者の商品等表示に類似したドメイン名の取得や保有、使用に対処するために不競法2条1項12号が創設された。そして同号は、2条1項1号、2号と共にJPDRPという自主規範に基づいてなされる仲裁センターの裁定手続を、実体法的に支える裁判規範の役割も担うこととなる。
(2)ところで12号は、「不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を与える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為」と規定し、かかる行為が不正競争行為であるとする。12号で「不正の利益を得る目的」又は「他人に損害を与える目的で」つまり「図利・加害目的」という主観的要件が規定されたのは、保護対象に周知・著名性を要求していないこと、及び行為態様に使用行為のみならず、取得、保有行為まで含むこととされたため、不正競争行為の成立範囲が拡大し過ぎることを抑止する意味がある。高額に買い取らせる目的や、当該ドメイン名で閲覧できるページ上に猥褻画像を表示するなどして、他人の特定商品等表示を汚染せしめる目的などは、まさに図利加害目的の典型例と目される。
(3)また、2条1項1号に規定する「商品等表示」より概念的に狭い「特定商品等表示」を保護の対象としたのは、包装容器や包装などはドメイン名とは関連性がなく、列挙することに意味がないことと考えられ、また「営業」ではなく「役務」としたのは各国の立法例を参考に国際的な調和を図ったことによる。
(4)さらに、ドメイン名を使用していなくても、ドメイン名の登録を受けて使用する権利を取得し、又は保有するだけでも規制し得ることにしたのは、登録者が自ら使用せずに高額買い取りを要求する事案などに適切に対応するためであり(商品等表示として使用していない場合には2条1項1号、2号での規制はできない。)、権利を取得(登録)だけではなく、保有について規定したのは、権利取得時には主観的要件を満たさず、その後に図利加害目的を有するようになった場合には、保有を規制しないことには実効的な対処ができないからである。なお、「使用」とはウェブサイトの開設等の目的で用いることを指す。
(5)12号の不正競争行為が成立する場合には、3条及び4条、5条に基づいて差止め請求と損害賠償請求が可能となり、差止めの内容は使用の禁止を求めることと、ドメイン名の登録抹消手続を執ることを求めることも可能であろう。しかしながら、移転請求は条文上の手当がなく、困難であると解される。損害賠償請求の場合、損害額の算定の容易化のために、通常使用料相当額の賠償請求ができることとされた。
 
3−5 本件裁定の検討
3−5−1 類否判断
(1) 裁定の準拠規範は「JPドメイン名紛争処理方針」であり、その4条a項所定の(@)〜(B)をすべて充足するかどうかが問題となるところ、本裁定は、登録ドメイン名と申立人表示との類似性を規定する(@)の充足性の点につき、原告ドメイン名と被告表示の類否判断を行うに際し、トップレベルドメイン(「.jp」及び「.com」)と、セカンドレベルドメイン(「.co」)については、国や組織の属性を表すものであって、サードレベルドメインが主体を識別する部分であるから、その部分、つまり「mp3」の部分が要部であって、これを対比すべきであるとの判断のもと、両者とも要部が外観、称呼、観念とも類似すると判断する(なお、同一ではなく類似と判断しているのは、登録ドメイン名は小文字であると認定されておりながら、裁定主文の表記はアルファベットの大文字(「MP3.CO.JP」)となっており、大文字であるドメイン名と、小文字である申立人表示との対比となっていることに因る。もっとも、裁定手続におけるこのドメイン名の大文字と小文字の関係は実際のところ良く分からない。因みに、ドメイン名に用いられるアルファベットは、大文字と小文字の区別はなく、同一文字とみなされるものではある。)。
(2)しかしながら、インターネットにある程度馴染んだ者においては、一文字違えば大違いであり、正に機械的正確さが求められるドメイン名の特質を理解しており、ドメイン名の類否判断に、実社会の、いわばアバウトな類否基準を一律に当て嵌めることの当否は一考を要するであろうと思われる。特に、本件では「MP3」は、データの圧縮国際規格の名称であってこれを想起するものであることから、音楽等の配信を行う者においては何人もドメイン名に組み込みたいと希望するであろうことが予測され、多くの類似ドメイン名が存在するであろうことが推測されるようなものにおいては、当該部分のみを要部として、トップレベルやセカンドレベルドメインの相違をまったく捨象してしてしまうことは些か違和感がある。申立人自身も、データの圧縮国際規格である「MP3」技術の一利用者に過ぎず、同技術自体の開発者等ではないのであるから、被告がその企業努力によって今日においては周知著名性を獲得し得たにせよ、これによって、「MP3」という名称をドメイン名において独占せしめることを許容するのは相当とは言えない。そして、認定された事実関係からは、実際に申立人が使用して著名となったサイトに用いられている表示は「mp3.com」という、纏まりのある一体のものであるから、本件においては、その表示の全体としてドメイン名との類否を検討すべきではないかと思われる。
(3)この点については、周知著名表示保有者から不競法2条1項1号若しくは2号に基づいて、ドメイン名の使用差止めを請求するタイプの訴訟の裁判例があるが(注1のjaccs事件、j−phone事件)、これらは、サードレベルドメイン単体が実社会において周知著名であった事案であり、トップレベルドメインまでを含んだドメイン全体でにおいて周知著名性を獲得していたものではない。また、裁決によって移転を命じられた登録者がその使用権の確認を求めるタイプの訴訟の裁判例(注2)にしても、サードレベルドメインに用いられる表示が造語であり、それ単体が実社会において周知著名であった事案であり、本件とは同様に解し得ないと思われる。
 
3−5−2  権利・正当利益の欠如要件(A)不正の目的で登録または使用要件(B)
(1)次に裁定は、上記(A)の要件の充足性を吟味し、登録者が、当該ドメイン名を本格稼働させておらず、むしろ他者に使用させているようなことも見受けられること、及び、申立人からのドメイン名の譲渡申し入れに対して、申立人には受け入れ難いと思われる共同事業化の条件のみを提示して、これが入れられない場合には譲渡しないと返答した点をから、登録者のドメイン名の保持目的は、申立人表示の有する顧客吸引力を利用ことにあるとし、上記2要件を充足すると判断している。
(2)しかし、上記2要件は、それぞれ別個のものであるから、峻別して吟味されるべきものと解される。
(3)結局、裁定手続においては、4条aの3要件はすべて充足すると判断され、申立人への移転請求を認容している。
 
3−6 本判決の検討
3−6−1  本判決の筋立て
(1)上記裁定を不服とした登録者は、申立人に実体法上の差止め請求権は存在しないことの確認を求めて東京地裁に提訴し、判決は登録者(原告)の主張を入れて、申立人(被告)には、不競法に基づく差止め請求権は存在しない旨を判示した。
(2)そして、判決では改正不競法2条1項12号の成否については、主観的要件の存在が認められないからその余の要件を検討するまでもなく12号の不正競争行為は認められず、また、同項1号及ぶ2号については、原告が商品等表示に使用したと認めることができないと認定したものである。
 
3−6−2 12号の主観的要件についての判示
(1)本訴では、改正不競法2条1項12号の成否が主として問題とされており、判決は、同号が創設されるに至った立法事実を摘示し、主観的要件をも規定した同号の立法趣旨を、@誰でも原則として先着順で自由に登録ができるというドメイン名登録制度の簡易迅速性及び便利性という本来の長所を生かす要請,A企業が自由にドメイン名を取得して,広範な活動をすることを保証すべき要請,Bドメイン名の取得又は利用態様が濫用にわたる特殊な事情が存在した場合には,その取得又は使用等を禁止すべき要請等を総合考慮して,ドメイン名の正当な使用等の範囲を画すべきであるとの趣旨と述べ、かかる理解を前提に「不正の利益を得る目的で」とは、「公序良俗に違反する態様で、自己の利益を不当に図る目的がある場合」と解したうえで、ドメイン名の取得(登録)や使用時点において、些細な登録規則等の違反(被告は原告がすでに別のドメイン名を保有する別会社にさらにドメイン名を使用させる目的で本件ドメイン名の登録を得て保有しているとし、これは1組織1ドメイン名を規定する登録規則9条1項違反する旨を指摘する。)があったとしても、これをもって「不正の利益を得る目的」があったとすることはできないとした。
(2)そして、判決はドメイン名の取得(登録)時点と、その後の保有、使用段階に分けて「公序良俗に違反する態様で、自己の利益を不当に図る目的があったと言えるかどうかを審理し、原告にはいずれの時点においてもその存在を認めることはできないと結論づけた。
(3)本判決の認定上のポイントは、原告が企業法人化する前であって未だ「co.jp」ドメインの登録資格を有さないことから、資格を有する他社に依頼する形ではあるが最初に原告が「mp3」という文字列を用いたドメイン名の将来性に着目し、そのドメイン名を(他社名義で)取得した時点(平成10年3月)は、被告が米国で設立された時期(平成10年3月設立)であって、少なくとも我が国おいては被告は周知でも著名でもなかったから、原告がその顧客吸引力を利用したり、その時点においてこれを将来高額で買い取らせようなどと言う意図を有することは考えられないという点である。
そして、それを前提として、原告が自己名義のものとして再度登録を試みた平成11年7月(本件登録)時点においても、所期の計画の継続としてなされたものであることから、同時点において既に被告が米国等では音楽配信ビジネスにおいて著名になっていたとしても、同時点において原告に「不正の利益を得る目的」があったとすることはできないとした。
(4)そして、判決ではさらに、原告がmp3技術関連機器の設計開発等を手がけ、その事業内容とすることからしても、「mp3」を第3レベルドメインとするドメイン名の持つ有用性及び財産的価値は高く、被告からの登録費用程度での譲渡申し入れを拒否したことは当然のことであり、その他不当に高額の金額取得を画策したという事実も認められないとした。
(5)さらに、判決は、12号の他の主観的要件である「他人に損害を加える目的」は、前記立法趣旨から「他人に対して財産上の損害,信用の失墜等の有形無形の損害を加える目的のある場合」と解すべきであるとし、本件では原告が被告を中傷するなどの情報を原告サイトに掲載したということもないから、「他人に損害を加える目的」も認められないとした。
(6)かかる立法趣旨からの主観的要件の解釈は相当であると思われる。もっとも、「不正の利益を得る目的」を公序良俗に違反する態様でなされた場合に限定したことは、「公序良俗」のもつ語感からして、少し窮屈な感じがしないでもないが、その内容は個々の事案によって弾力的に解釈されればよいので、特段問題はないと考える。また、判断結果も、認定事実を基にすれば、原告代表者のAが(他人名義で)、本ドメイン名の最初の登録を行った平成10年3月時点頃以降の経過をみても、被告に対する関係で悪質性は伺えず、図利加害目的の存在は認めるに足りないと解されるので、相当であると解される。
 
3−6−3 類否判断
  本判決は、主観的要件の欠如のみで12号の不正競争行為の成立を否定しているので、ドメイン名と被告表示との類否判断は行っていない。しかしながら、「mp3」は平成10年頃には音声圧縮技術の国際規格の名称として一般化していたと認定し、また、これをサードレベルドメインとしたドメイン名は、本件当事者以外の者により、10件以上存在することを認定しているところからすると、裁定のごとく「mp3」の部分を要部として類否判断することには躊躇があったのではないかと感じられる。
 
3−7 裁定手続と訴訟手続 
  本判決は、事実上裁定を覆したものであるが、結論を左右したのは、原告(登録者)側の最初の登録時点前後からの事実経過が、被告が周知著名性を獲得していった経過との関連でよく議論がなされなかったことによるものと思われる。これは、裁定手続が申立から最大55日で裁定通知・公表までを行わなければならず、登録者は裁定申立書の送付を受けてから僅か20日以内に答弁書を提出しなければならない(手続規則5条a項)という、超タイトなスケジュールで審理・裁定がなされることと無縁ではなかろう(訴訟手続で提訴から判決言渡しまでを55日で行うようなものである。)。裁定申立前に周到な準備が可能である申立人側と比較して、登録者側においては20日という短期間ではなかなか意を尽くした反論防御は困難であろうと推測される。本訴では、提訴から判決までの約1年1か月の間に、登録者(原告)側において事実関係を詳細に主張するなど、十分な反論防御が展開できたのではないかと思われる。
 
3−8 結 語 
  今後、ネットビジネスは益々加速度的に進化発展していくものと思われ、その際、ドメイン名の持つ経済的価値はさらに高まっていくことが予測される。そうした中で、ネット社会の自由な気風を守りつつ、実社会の競争秩序(知的財産権秩序)とどのように折り合いを付けて行くかが、より重要な課題になって来る。ネット上で競争力をつけた事業者が、他の悪意のないネット利用者を排除・駆逐することはネット社会には相応しくない。ドメイン名がネット上の住所表記の如きものである以上、ドメイン名の移転や取消裁定は、ネット上における当該住所からの立ち退き命令と言い得る処分であるから、ドメイン名紛争解決手続の運用に際しては、慎重な配慮が望まれるところであり、本判決は、事実経過を詳細に検討し、12号の規定によって新たに示された価値基準に立脚してネット上の先住者を保護したという意味でドメイン名に関する重要な先例として位置づけられるものである。                   以上               
                        (担当弁護士 伊 原 友 己)
 
 
注1 著名商品等表示を有する者が不競法2条1項2号に基づいてドメイン名の使用の差  し止め等を求めた裁判例
 @ 富山地裁平成12年12月6日「jaccs」事件第1審判決(判時1734-3)
 A 東京地裁(46部)平成13年4月24日「j-phone」事件判決(判タ1066-290)
 B 名古屋高裁金沢支部平成13年9月10日「jaccs」事件控訴審判決
 C 東京高裁(6部)平成13年10月25日「j-phone」事件判決
 
注2 移転裁定の実施見送りを求めて登録者が使用権確認等を求めた裁判例
 @ 東京地裁(46部)平成13年11月29日「SONYBANK」事件判決
 A 東京地裁(47部)平成14年4月26日「goo」事件判決
 B 東京地裁(46部)平成14年5月30日「IYBANK」事件判決
 
 
【参考文献】
 岡村久道「ドメイン名紛争の法的解決(上)(下)」(NBL706-14 、707-54)
 土肥一史、平成12年12月6日富山地裁判決評釈(法律のひろば2001-5)
 松尾、佐藤編著「ドメインネーム紛争」(平成13年 弘文堂)
 小野、山上「不正競争の法律相談(改訂版)」331頁 小野著Q57「ドメインネーム」
                           (平成14年 青林書院)
 経済産業省知的財産政策室編著「逐条解説 不正競争防止法」(平成14年 有斐閣)