〔7−1 不正競争防止法関係 
ドメインネームの使用禁止を認めたわが国最初の裁判例(ジャックス事件・富山地判H12.12.6)〕



新審判決紹介130・131


論点
1,ドメインネームの使用は、不正競争防止法2条1項1号(2号)等の「商品等表示」の使用に当たるか。
2,周知商品等表示とドメインネームとの表示の類似性の有無
3,営業等との混同には広義の混同を含むか
4,裁判上の請求とその実効性(仲裁制度との関係も含めて)
(富山地方裁判所平成10年(ワ)第323号、同12年12月6日判決、最高裁判所ホームページの知的財産権判決速報、判例タイムズN0.1047,297P、特許ニュースNo.10474〔平成13年1月19日〕)


1,事実の概要
1−1 当事者
 原告X=割賦購入あっせん等を主たる事業とする株式会社
 被告Y=簡易組立トイレの販売及びリース等を事業とする有限会社

1−2 事案の概要
 Xは、「JACCS」という営業表示を有し、平成10年7月時点では全国に124の支社・支店・営業所を擁する東証一部上場会社である。なお、Xは、「JACCS」を若干図案化して横書きした商標、そのままローマ字で横書きした商標、あるいはカタカナ文字で横書きした商標について、役務の区分及び指定役務を、「36類 債務の保証、金銭債権の取得及び譲渡、クレジットカード利用者に代わってする支払代金の精算、資金の貸付、割賦販売利用者に代わってする支払代金の精算、生命保険契約の締結の媒介、損害保険契約の締結の代理、集金代行」、「35類 広告用具の貸与、タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与」、「38類 電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」、「42 電子計算機のプログラム設計・作成または保守、電子計算機の貸与」として、商標登録を受けている。
 Yは、インターネット上で「http://www.jaccs.co.jp」というドメイン名(以下「本件ドメイン名」という。)を使用し、かつ、開設するホームページにおいて「JACCS」の表示を用いて営業活動をしていた(当初は、ホームページの画面に、「ようこそJACCSのホームページへ」というタイトルの下に、「取扱い商品」、「デジタルツーカー携帯電話」及び「NIPPON KAISYO,INC.」のリンク先が表示されており、そのリンク先の画面において、被告の扱う簡易組立トイレや携帯電話の販売広告がされていたが、その後は、そのホームページの画面を、「ようこそJACCSのホームページへ」中の「JACCS」の下に「ジェイエイシーシーエス」とふりがな記載するなどに変更し、口頭弁論終結時には、画面上「JACCS」は記載されない状態となっていた)。
 そこで、Xは、Yによる上記ドメイン名の使用及びホームページ上での「JACCS」の表示の使用は、不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号、2号)に当たるとして、上記ドメイン名の使用の差止め及びホームページ上の営業活動における右表示の使用の差止めを求めたものである。なお、請求の趣旨は後記の判決主文と同旨である。

1−3 ドメインネームとは
 本判決には、当事者間に争いのない事実として、「ドメイン名」についての説明がなされている。その部分を以下に引用するが、現在では一部異なった取り扱いがなされている点もあり、また、用語に習熟していない読者もおられると思われるので、〔カッコ書き〕部分で補足する。
 「ドメイン名について
 ドメイン名とは、インターネットに接続しているコンピューターを〔相互に〕認識する方法であり、IPアドレスという32ビットで構成された数字列を利用しやすいようにアルファベット文字で表現したものである。インターネット利用者は、ドメイン名を入力することによって、特定のホームページ等に到達することができる。
 〔IPアドレスは、例えば、「202.12.30.144」(これは、後記JPNICの公表されているIPアドレスである)というような数字が並んだ4組の数字列からなっているが、これでは不便なので、URL(Uniform Resource Locations:インターネット上のオブジェクトの場所を示すもので、普通はマイクロソフトのInternet ExplorerなどのWWWブラウザ〈World Wide Web Browser〉などでホームページにアクセスするために、相手のコンテンツのあるサーバーを指定する「アドレス」と記載された空欄部分である)に「http://www.nic.ad.jp」と入力するだけで、ドメインネームに対応するIPアドレスがネットワーク上で特定され通信が行われるようにしている。したがって、仮に、Internet Explorerを利用してプロバイダのMSNのホームページの上記アドレス(URL)の部分に出ている「http://www.msn.co.jp/home.htm」を空白にして「202.12.30.144」の数字を入力すれば、それだけでJPNICにアクセスできる。もっとも、今日では、ヤフー等の多数の検索エンジンも存在するので、アクセスは、ドメインネームのうちの「JPNIC」の部分等を入力するだけでリンクできるように便利になっている。〕
 ドメイン名については、各国のネットワークインフォメーションセンターが一元的に割り当てを管理しており、国際的な一意性を保障するために先願主義の原則が採用されている。日本においては、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(以下「JPNIC」という。)がドメイン名の割り当てを管理しており、一般の企業に割り当てられるcoドメインについては、申請者が法人登録していること、申請ドメイン名が既存のドメイン名と一致しないこと及び原則として一組織一ドメイン〔後記参〕であることの条件を満たす場合に割り当てられ、〔原則として〕完全な先願主義が行われている。この場合、ドメイン名と企業の商号との一致は要求されておらず、ドメイン名については申請者がそれぞれ自由に決定して申請し、JPNICが右基準を満たせばほとんどそのまま割り当てている。
 〔ドメインネームとIPアドレスの割り当てに関する管理体制(現在移行期間中とのことであるが)としてICANN(Internet Corporetin for Assigned Names and Numbers)という非公益営利法人があり、そのもとに、ドメインの管理についてはNSI(.comや.orgのTLD〈Top Level Domain〉を登録・管理する主体)やJPNIC(.jpを登録・管理)等がある。〕
 また、ドメイン名で用いることのできるのはA〜Zとa〜zの英字と0〜9の数字及び-(ハイフン)のみという制約がある。
 〔2000年秋から、日本語.comも認められるようになっており、さらに、2001年2月からは、日本でも汎用JPドメイン名(例えば、「小松.JP」)が複数登録可能となり、ドメインネームの移転も認められることとなるとのことである。〕
 ドメイン名は、例えば、「http://www.abc.co.jp」のように表記され、この場合、「jp」の部分が第一レベルドメインであり、右例では日本を意味し〔これはISO3166〈国コードを定めたもの〉を適用することとしたルールに従っていることによる〕、「co」の部分が第二レベルドメインであり、登録者の組織属性を示しており、右例では一般企業を意味し、「abc」の部分が第三レベルドメインであり、「http://www.」の部分は通信手段〔「http:」はアクセス方法、「www」はホスト名といわれている〕を示している(なお、本件では、第三レベルドメインをドメイン名と呼ぶ場合もある。)。               」

1−4 争点
 1 本件ドメイン名の使用が、不正競争防止法2条1項1号及び2号の「商品等表示」の「使用」に当たるか否か。
 2 同法2条1項2号のその他の要件に該当するか否か。
  (一) 原告の営業表示の著名性
  (二) 本件ドメイン名と原告の営業表示との同一又は類似性
 3 同法2条1項1号のその他の要件に該当するか否か。
 4 本件ドメイン名の使用差止めの適否、本件請求は権利濫用か否か。
 5 ホームページ上の「JACCS」の表示の使用差止めの適否
 
1−5 Xの主張(商標に関する部分は直接に争点とはなっていないので以下では省略)
1−5−1 本件ドメイン名の使用の差止め
 (1) Xは、「JACCS」の表示を、全国ネットのテレビコマーシャルで流したり、新聞において広告すること等により、その表示は、Xの営業表示として、全国的にかつ本来の需要者を超えて知られるようになっており、周知かつ著名となっている。
 (2) 不正競争防止法2条1項1号及び2号の「商品等表示」とは、商品の出所又は営業の表示の主体を示す表示を指すところ、ドメイン名は、本来的には、特定のコンピューターのアドレスを表すものではあるが、ドメイン名は無作為の文字集合ではなく、その登録者によって意図的に選択されたものであり、通常その者の名称等を反映したものであることはインターネット利用者にはよく知られたことであるから、事実上、登録者やその商品・役務を識別する機能も有している。
 そして、Yは、Xに対し、本件ドメイン名を法外な値段で譲渡又は賃貸し金銭的利益を獲得する目的で本件ドメイン名を取得したものであること(実際にYは、Xに対し面談等を求め、執拗に書面を出している。)、Yは自らの営業に資するために、本件ドメイン名を利用しホームページを開設していると推測されること、及び本件訴訟提起前において、Yは、本件ドメイン名のもと、ホームページにおいてYが販売する商品(携帯電話、簡易トイレ等)の宣伝をしており、現在においてもYのホームページのリンク先においては、靴等の宣伝がされていること等の諸点に鑑みれば、Yが本件ドメイン名のもとでホームページを開設していることは、本件ドメイン名を「商品等表示」として、「使用」していると解することができる。
 (3) 本件ドメイン名は、Xの営業表示「JACCS」を小文字にしたにすぎず、Xの営業表示と同一又は類似である。
 (4) 前記のとおり、ドメイン名は、特定のコンピューターのアドレスを表す機能を有するにとどまらないこと、「営業」とは、単に特定の商品やサービスの宣伝にとどまらず、企業自体の宣伝も含むところ、本件ドメイン名のもとでホームページにおいて「JACCS」と表示されていれば、インターネットの利用者はこれをX又はX関連企業が行っているものと誤認すること、及び実際に右ホームページにおけるリンク先では特定の商品等の宣伝がなされていることからすれば、Yが本件ドメイン名を使用し右ホームページを開設していることが、Xの営業と混同を生じさせると認められる。

1−5−2 Yのホームページ上における「JACCS」の表示の使用差止め
  Yは、ホームページ上において、「JACCS」と同一又は類似の表示を使用し、Yの販売する携帯電話等の商品の宣伝を行っていた。また、Yは、後に、「JACCS」の表示の下に「ジェイエイシーシーエス」と記載した表示を使用するようになったが、この表示も、「JACCS」と同一又は類似することに変わりはない。
 現在のYのホームページには「JACCS」の表示は使用されていないが、今後Yがホームページにおいて再度「JACCS」の表示を使用する可能性があり、その場合には、Xの営業上の利益が侵害されるおそれがある。

1−6 Yの主張
1−6−1 Yの本件ドメイン名の使用について
 (1) ドメイン名は、本来的に、特定のコンピューターのアドレスを表すものであり、インターネット利用者は、これを見てホームページに到達するにすぎない。また、到達した先のホームページでは、たとえcoドメインであっても、営業的な内容もあれば公益的な内容や趣味的な内容もあり、千差万別で、coドメインだからといって営業の表示であるとはいえない。また、到達したホームページにおいて特定の商品・サービスが表示されている場合でも、ドメイン名は表示画面上のごく一部を占めるにすぎないアドレス等欄に小さく表示されているだけで、しかも、この欄は商品・サービス内容が表示されているページ画面とは離れて別構成となっている部分に表示されるにすぎないから、商品・サービス等の出所を示すものとして機能しているとはいえない。
 (2) ドメイン名が、アドレス表示としての機能のみならず、事実上、登録者やその商品・サービスを識別する機能をも有する場合があるとしても、ドメイン名の使用が「商品等表示」の「使用」となるかどうかについては、ドメイン名の使用形態やアクセスされるホームページの表示内容等から総合的に判断すべきである。
 本件においては、Yの現在のホームページには「JACCS」とは別個の識別標識が明瞭に表れており、ドメイン名の識別機能は注目されなくなっているし、右ホームページは、リンク先の他のホームページを表示しているだけであるから、「商品等表示」の「使用」とはならない。

1−6−2 Yのホームページにおける「JACCS」の表示の使用について
 (1) 本件商標とYのホームページ画面の「JACCS」の表示とでは、前者が緑色を基調とするのに対し、後者は赤・黄・青等多くの色を使用していることや、文字のレタリングが大きく異なることから、利用者が受ける印象・記憶は大きく異なる。また、その後の画面には、「ジェイエイシーシーエス」というルビがふられているから、「ジャックス」を連想することは一層あり得ない。
 したがって、Yのホームページにおける表示と本件商標との間に同一性・類似性はない。
 (2) Yのホームページにおいては、「JACCS」の表示の下に、リンク先が示されているだけであるから、Yの商品等表示として使用しているとはいえない。

1−6−3 権利濫用
 ドメイン名の登録については、完全な先願主義が採られており、ドメイン名に用いることのできる文字・記号にも制約があることから、インターネットを利用する企業は、右ルールの中で競ってドメイン名の申請をし、あるいは高額の解決金を支払うことにより示談解決をしている例も少なくない。このような中で、Xが、先願申請の努力をせず、自己の商号が著名であるとか商標登録しているというだけで、Yのドメイン名の使用を制限できるかのような主張をするのは、不当である。
 Yは、ホームページを複数の企業で共同運用しようと考え、約10社の賛同を得、「japan associated cozy cradle society」(企業家支援集団心地よいゆりかご)の略称の「jaccs」をドメイン名として申請し、登録を受けたものである。
 Xは、「jaccscard.co」ドメインを使用してインターネットでの活動を活発に行っており、本件ドメイン名を使用できなくても何ら不都合はない。

2 判 決
2−1 判決主文
 1 Yは、そのホームページによる営業活動に、「JACCS」の表示を使用してはならない。
 2 Yは、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター平成10年5月26日受付の登録ドメイン名「http://www.jaccs.co.jp」を使用してはならない。

2−2 判決理由
2−2−1 本件ドメイン名の使用が不正競争防止法二条一項一号及び二号の「商品等表示」の「使用」に当たるか否か、について
 1 ドメイン名は、特定のホームページ等に到達するためコンピューターに入力する記号であり、登録申請者は、アルファベットや数字といった限られた範囲内の記号を選択して申請し、既に同一のドメイン名が存在しない限り、登録申請者のドメイン名として登録されるものであり、ドメイン名が、登録者の名称等登録者と結びつく何らかの意味のある文字列であることは予定されていない。
 しかしながら、ドメイン名が、常に登録者と結びつきのない無意味な文字列である訳ではなく、むしろ、登録者は、ドメイン名で使える文字を組み合せて、可能な限り、自己の名称等を示す文字列や登録者と結びつきのある言葉を示す文字列をドメイン名として登録している場合が多い。そして、インターネットを利用する者においても、ドメイン名に使用できる文字列が限定されていることやドメイン名の登録につき先願制が採られていることなどから、ドメイン名が必ずしも登録者の名称等を示しているとは限らないことを認識しながらも、ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合などには、当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考えるのが一般である。
 そして、このように、ドメイン名がその登録者を識別する機能を有する場合があることからすれば、ドメイン名の登録者がその開設するホームページにおいて商品の販売や役務の提供をするときには、ドメイン名が、当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能をも具備する場合があると解するのが相当であり、ドメイン名の使用が商品や役務の出所を識別する機能を有するか否か、すなわち不正競争防止法2条1項1号、2号所定の「商品等表示」の「使用」に当たるか否かは、当該ドメイン名の文字列が有する意味(一般のインターネット利用者が通常そこから読みとるであろう意味)と当該ドメイン名により到達するホームページの表示内容を総合して判断するのが相当である。
 2 そこで、本件で、Yによる本件ドメイン名の使用が「商品等表示」の「使用」に当たるか否かを検討するに、Yは、本件ドメイン名の登録を受けた後、そのホームページ画には、「ようこそJACCSのホームページへ」というタイトルの下に、「取扱い商品」、「デジタルツーカー携帯電話」及び「NIPPON KAISYO,INC.」のリンク先が表示されており、右リンク先の画面において、簡易組立トイレや携帯電話の販売広告がされていた。右ホームページの表示内容(リンク先も含む。)は、携帯電話等の商品の販売宣伝をするものであり、右ホームページの画面には大きく「JACCS」と表示されていて、ホームページの開設主体であることを示しており、ドメイン名も「jaccs」で、「JACCS」のアルファベットが小文字になっているにすぎないことからすれば、この場合の本件ドメイン名は、右ホームページ中の「JACCS」の表示と共に、ホームページ中に表示された商品の販売宣伝の出所を識別する機能を有しており、「商品等表示」の「使用」と認めるのが相当である。

2−2−2 不正競争防止法2条1項2号のその他の要件該当性、について
 1 Xの営業表示の著名性
 Xは、割賦購入あっせん等を主たる事業とする株式会社であり、平成10年7月1日時点で、全国に124の支社・支店・営業所を有していた。かつての商号は「北日本信用販売株式会社」であったが、昭和51年4月、「株式会社ジャックス」に商号変更したものである。「ジャックス」は、「JAPAN CONSUMERS CREDIT SERVICE」からとったもので、英文では「JACCS CO.,LTD.」と表記することとした。同じころ、本件商標を社名変更案内に表示したのを初めとして、現在に至るまで、Xの発行するクレジットカード、新聞広告・パンフレット・テレビコマーシャル及びX従業員の名刺等には必ず本件商標を表示してきた。また、Xの発行するクレジットカードには「JACCS CARD」と表示されている。Xは、昭和51年11月に東京証券取引所二部市場へ上場し、昭和53年9月には、同一部市場に指定替えとなった。また、同じころから現在に至るまで、全国ネットのテレビコマーシャルを放映し、一般消費者に対し、その営業の宣伝を行ってきた。右テレビコマーシャルにおいては、最後に、本件商標が表示されるとともに、「ジャックス」又は「ジャックスカード」という音声が流れるものであった。そして、本件商標は、「J」、「A」、「C」、「C」、「S」を図案化したものであるが、「JACCS」というアルファベットを示すものであることは一見してわかるものであり、これを「ジャックス」と称呼することも、一般消費者に認識されていた。
 以上の事実によれば、遅くとも、Yが本件ドメイン名を使用した平成10年までには、「JACCS」という表示は、Xの営業表示として著名となっていたものと認められる。

 2 本件ドメイン名とXの営業表示との同一又は類似性
 本件ドメイン名は、「http://www.jaccs.co.jp」であるが、前記のとおり、「http://www.」の部分は通信手段を示し、「co.jp」は、当該ドメインがJPNIC管理のものでかつ登録者が会社であることを示すにすぎず、多くのドメイン名に共通のものであり、商品又は役務の出所を表示する機能はなく要部とはいえず、本件ドメイン名とXの営業表示が同一又は類似であるかどうかの判断は、要部である第三レベルドメインである「jaccs」を対象として行うべきである。
 そこで、「JACCS」と「jaccs」とを対比すると、アルファベットが大文字か小文字かの違いがあるほかは、同一である。そして、実際上、小文字のアルファベットで構成されているドメイン名がほとんどであることに照らせば、大文字か小文字かの外観の違いは重要ではないというべきである。
 したがって、Xの営業表示と本件ドメイン名は類似する。
 以上より、本件における、Yの本件ドメイン名の使用は、不正競争防止法2条1項2号の不正競争行為に該当する。

2−2−3 本件ドメイン名の使用差止めの適否、本件請求は権利濫用か否か、について
 (1) Yは、平成10年7月中旬ころ、X代表者及びXの取締役らに対し、Yが本件ドメイン名を登録した旨及び「御社が将来的に損失を被る恐れ有りとお考えの節は、譲渡又はレンタルそのものに応じる形もあろうかと思います。」などと記載した書面を送付したほか、Xが本件訴訟を提起した平成10年11月27日までの間に、「ドメインの重大性にお気付きの役員もおられることを思い、端株を持つ者として心強くも感じられます。」などと記載した書面や、「御社にとりましては、ネット上は不自然でみっともない形になっておる」、「このままの状態を放置すれば、世間の物笑いの種とも成りかねません。」などと記載した書面を送付しており、Xに対し、本件ドメイン名の対価として金銭を要求していたものと認められる。
 (2) Yは、約10社の賛同を得て企業家支援集団を結成し、これを「japan associated cozy cradle society」と名付け、その略称として本件ドメイン名を登録した旨主張しているが、「cozy cradle」(ここちよい揺りかご)と他の単語との結びつきはあまりに唐突であって、右名称自体が不自然である上、Yの開設した当初のホームページの内容では、右名称の企業家支援集団が当該ホームページを開設している趣旨は全く表れておらず、むしろ、「JACCS」のみが強調されたかたちになっている。また、Yが、ホームページの内容を変更して「JACCS」の表示の下に「ジェイエイシーシーエス」のふりがなを記載したり、「JACCS」が右名称の企業家支援集団の略称を表すことを記載したのは、本件訴訟提起後であることが認められる。このようなことからすれば、Yによる本件ドメイン名の登録は、偶然ではなく、Xの営業表示である「JACCS」と同一であることを認識しつつ行われたと認められる。そして、本件ドメイン名の登録後間もなく、Xに対し、本件ドメイン名に関して金銭を要求していることからすれば、Yは、当初より、Xから金銭を取得する目的で本件ドメイン名を登録したものと推認せざるを得ない。
 (3) 本件における右のような事情及びYが本件ドメイン名の使用が不正競争行為に当たることを争っていることに照らせば、Yは、本件ドメイン名の使用を今後も継続するおそれがあるというべきであり、Xの営業表示と混同されたり、Xの営業表示の価値が毀損される可能性があり、したがって、Xの営業上の利益が侵害されるおそれがあると認められる。
 よって、Yによる本件ドメイン名の使用を差し止めるべきである。
 (4) 権利濫用について
 Yは、完全な先願主義が採られているドメイン名の登録について先願申請の努力をしなかったXが、自己の営業表示の著名性等を理由に、先願登録したYの本件ドメイン名の使用を差し止めるのは権利の濫用である旨主張する。
 この点、前記のとおり、JPNIC管理のcoドメインについては完全な先願主義が採られているが、そのことと、本件ドメイン名の使用が不正競争防止法に触れ裁判所により差し止められるか否かとは別個の問題であり、JPNICにおいても、ドメイン名の使用の差止めを命ずる確定判決等の提出があればドメイン名の登録を取り消すことができるとしていること(「ドメイン名登録等に関する規則」30条(3))をも考慮すると、ドメイン名の登録が先願主義であることをもって、ドメイン名の使用の差止め請求を阻止することはできないというべきである。そして、Xが先願申請の努力をしていないという点についても、本件におけるYのドメイン名の登録・使用をめぐる事情に照らせば、右の点は権利濫用と評価される事情とは言えない。
 また、Yは、Xは「jaccscard.co」ドメインを使用してインターネットでの活動をしており、本件ドメイン名を使用できなくても不都合はない旨主張するが、本件で、XがYに対し本件ドメイン名の使用の差止めを求めるのは、Xが本件ドメイン名を使用できないことを理由とするものではなく、Yによる本件ドメイン名の使用がXに対する不正競争行為に当たること(Xの「JACCS」という営業表示の価値の毀損等)を理由とするものであるから、Xが「jaccscard.co」ドメインを登録・使用しているからといって、本件ドメイン名の使用差止めを求める必要性がないということにはならない。(権利の濫用の主張を否定)

2−2−4 ホームページ上の「JACCS」の表示の使用差止めの適否、について
 1 Xの営業表示「JACCS」は著名であり、右営業表示と、ホームページに表れた「JACCS」の表示とは同一であると認められる。なお、Yは、Yのホームページ上の表示と本件商標とを対比して種々主張しているが、対比すべきはXの「JACCS」という営業表示(本件商標の字体や色に限定されない。)であるから、右主張は採用できない。
 そして、ホームページ上の営業活動に「JACCS」の表示を使用することが「商品等表示」の「使用」に当たることは明らかであるから、Yが右ホームページ上で「JACCS」の表示を使用した行為は、不正競争防止法2条1項2号の不正競争行為に該当する。
 2 Yが、ホームページにおける営業活動に「JACCS」の表示を再び使用するおそれもあるから、Xの営業上の利益が侵害されるおそれがあると認められる。
 したがって、Yがホームページによる営業活動に「JACCS」の表示を使用することを差し止めるべきである。

3 研究
3−1 ドメインネーム紛争の背景
3−1−1 インターネットの普及
  郵政省の通信白書平成12年版によれば、世界のインターネット利用人口は、2000年2月現在で約2億7,550万人であり、わが国は、米国(1999年7月の推計値1億630万人)に次いで、1999年末の推計値2,706万人(前年対比60%増)とされている(NUA社資料による)。但し、その普及率は、2000年2月時点で、アイスランドの45%を筆頭に北欧の普及率が著しいが、米国は39.4%、日本は第13位の21.4%にすぎない。
  しかしながら、わが国で現在急速に利用拡大している携帯電話端末単体でのWEB又は電子メールの利用者が平成11年末で571万人、また4年後(2005年)のインターネット利用者は7,670万人に達するとの推計もなされている。そして、インターネット関連ビジネスの市場規模は、平成11年には6兆3,958億円、2005年には31兆2,500億円に、さらに、インターネットコマース最終消費財の市場規模も、平成11年には3,500億円のところ、2005年には7兆1,289億円になると予想されている。
  このように、e-コマースといわれるインターネットを利用したビジネスが急速に拡大する中で、インターネットに接続するコンピュータを相互に認識するためのドメインネーム(その定義や機能については既に「1−3」で説明した)に関連するトラブルも急激に増大しているのである。

3−1−2 ドメインネームの登録状況
 ドメインネームのうち、gTLD(generic Top Level Domainの略であり、「.com」のような一般トップレベル〔第1レベル〕ドメインである)の登録管理をしているNSI(米国の民間企業であるNetwork Solutions,Inc)への登録数は、DomainStats.comによれば、平成13年2月16日午前1時52分現在で、世界の総登録数が35,244,448件、うち「.com」は21,285,794件(60%)となっている(因みに、昨年9月始めと比較すると27%アップである)。
  このgTLDは1組織1ドメイン名に限定しておらず、また自由譲渡性も認められているため(したがって、先行登録したドメインネームを売ることもできる。例えば「wallstreet.com」に103万ドル、「linux.com」に500万ドルよりは低い額の値段が付いたと言われている。JPNIC編「3時間でわかるドメイン名とIPアドレス」2.5)、不正な登録者(サイバースクワッター、cyber-sqatter、不法占拠者)等との間での紛争が多発している。
  これに対し、ccTLD(country code Top Leve Domainの略であり、ISO3166のカントリーコード(2文字)によるトップレベルドメインである)については、日本では、「.JP」の登録管理をしているJPNIC(社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター)への登録数は平成13年2月1日現在で238,519件であるが、従来は、先願主義をとり1組織1ドメイン名でかつ譲渡禁止であった関係からあまり紛争はなかったと言われている(1)。ところが、平成13年2月22日(予定)からは、汎用JPドメイン名(いくつでも登録可能で、日本語を使った「〈名前〉.Jp」のような短いドメイン名の登録も可能であり、その移転〈登録名義の変更〉も可能)の登録が認められるようになることから、今後はgTLDと同様に紛争が増大するであろうと懸念されているところである。

3−1−3 ドメインネームの紛争処理機関
  ドメインネームに関する紛争処理機関としては、その代表例としてWIPO Arbitration and Mediation Center(世界知的所有権機関仲裁調停センター)をあげることができる。登録排除の可否に関する判断基準としてはICANNのUDRP(Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy、統一ドメイン名紛争処理方針)があり、@登録者のドメイン名が、申立人の商標と同一か混同を引き起こすほど類似していること、A登録者が、当該ドメイン名についての権利又は正当な利益を有していないこと、B登録者の当該ドメイン名が、不正の目的(in bad faith)で登録、使用されていること、とされている。WIPOのHPによれば、2000年12月末までにgTLDに関する裁定の申立ては1841件であり、処理の終わった1286件中85.5%が移転・取消の結果となっている。
  また、わが国では、工業所有権仲裁センター(経済通産大臣から弁理士法4条2項2号の規定による仲裁機関の指定を受けており、日本弁護士連合会と日本弁理士会との共同運営にかかるものであり、JPNICとの協定によりJPNICが登録しているJPドメイン名登録にかかわる紛争解決のために「JPドメイン名に関する認定紛争処理機関」となっている)がある。その「JPドメイン名紛争処理方針」(JPDRP)では、裁定の判断に当たり、@登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること、A登録者が、当該ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していないこと、B登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること(なお、「不正な目的」について、登録者が、申立人または申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に直接かかった金額〔書面で確認できる金額〕を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与または移転することを主たる目的として、当該ドメイン名を登録または取得しているとき、等の具体的な例を定めている)等UDRPと実質的に同一の処理基準を定めている。
  これら紛争処理機関による解決は極めて短時間でなされ(「JPドメイン名紛争処理手続」〔パネリスト1名の場合〕では、申立てから55日で裁定の通知と公表がなされれる)効果的なシステムであると思われる。ただ、裁定は仲裁とは異なり裁定後の裁判所への出訴も可能であり、また不正目的のある場合に限られるなど、その紛争処理の対象も限定されている、等から、司法的解決の必要性は残されている。

3−2 商標法による解決
3−2−1 商標法上の商標の使用
  本件では、不正競争防止法上の商品等表示の使用が問題となったが、商標の使用と対比すると、その出所表示機能・品質保証機能・広告的機能という点では共通するので、同様に考えることができると言えよう。
  ところで、本件では、裁判所は、「Yによる本件ドメイン名の使用が「商品等表示」の「使用」に当たるか否かを検討するに、Yは、本件ドメイン名の登録を受けた後、そのホームページ画には、「ようこそJACCSのホームページへ」というタイトルの下に、「取扱い商品」、「デジタルツーカー携帯電話」及び「NIPPON KAISYO,INC.」のリンク先が表示されており、右リンク先の画面において、簡易組立トイレや携帯電話の販売広告がされていた。右ホームページの表示内容(リンク先も含む。)は、携帯電話等の商品の販売宣伝をするものであり、右ホームページの画面には大きく「JACCS」と表示されていて、ホームページの開設主体であることを示しており、ドメイン名も「jaccs」で、「JACCS」のアルファベットが小文字になっているにすぎないことからすれば、この場合の本件ドメイン名は、右ホームページ中の「JACCS」の表示と共に、ホームページ中に表示された商品の販売宣伝の出所を識別する機能を有しており、「商品等表示」の「使用」と認めるのが相当である。」と判示しており、Yのホームページ(あるいは最初のトップページ以外のディープリンク先のサイトも含むとすればウエブページというべきか。(2))上でのドメインネームの表示がなされていることを重要な要素としてとらえている。
  インターネットのURL(アドレス)の表示部分を除外して、サイト上の商品や役務自体の広告表示と、そのリンク先であろうがそのページと一体化した一連のサイト上のドメインネームと同一の表示は出所表示機能等を有するから、商標法2条3項7号にいう「商品又は役務の広告」に該当することは当然であろう。
  これに対し、仮に当該ページ画面本体にはドメインネームと同一の表示がなく、URLの部分にのみ本来的なドメインネームが表示されている場合には、どのように解すべきであろうか。本来、アドレス(のみ)の部分は住所あるいは電話番号のような役割を果たすだけのものであるとすれば、その部分に広告としての機能を考えることに無理はないか、ということが問題となる。
  この点、(社)日本国際工業所有権保護協会の「インターネットドメインネームに関する各国事情調査」によれば、「『XYZ』が商標登録されている場合に、インターネットのドメイン名としての『http://www.XYZ.com』の使用は、当該登録商標の使用となるか。」との質問に対し、イギリス特許庁の回答は、「その他」として、「英国内のインターネット上の販売に関して商品・サービスを提供する過程で使用された場合は使用となる」との意見を、欧州特許庁も、「その他」として、「URLとしての使用自体は、使用を構成しない。しかし、ドメイン名は、特定のウエブサイトの識別名にとどまらず、独自性を示さなければならないビジネス業務の“識別子”として等、多種多様に使用される可能性がある」との意見を述べている(3)。
  ここで問題となる商標の使用とは、「商品又はサービスの広告」に該当するか否かであるから、商品やサービスの提供がなされていることが前提となる。そして、商品等自体が写真等で表示され販売目的であることが判別する場合には、仮に画面本体にドメインネームと同一の表示があるとすれば、URLのドメインネームの部分もその画面本体の表示と要部において同一性を有するのであるから、識別子としてその強弱は別にしても出所表示機能を発揮することは肯定されよう。また、仮に画面本体部分にドメインネームと同一の表示がないとすれば、一般的にはURLの部分が出所表示機能を有することになると考えられる(4)。
  但し、具体的な使用態様に影響されるので、例えば、画面本体上に明らかにドメインネームと異なるトレードマークやサービスマークが大きく表示されている場合には、それらがいわば打ち消し表示となり、URLのドメインネームは出所表示機能を有さないこととなろう。かかる意味で、ドメインネームの使用が商標の使用と言えるかどうかは、そのインターネットにおける取引の実情を考慮して総合的に判断されるべきである。

3−2−2 商標・役務の類否
  登録商標とドメインネームとの関係では、まず、商標の類否が問題となる。登録商標の「JACCS」(若干図案化した文字のものも含む)、「ジャックス」と「http://www.jaccs.co.jp」を比較した場合、商標の類否判断は、称呼・観念・外観の3要素で原則的に判断されるところ(5)、「http://www.jaccs.co.jp」の表示のうち「http://www」の部分は通信手段であって汎用性があり、また「co.jp」の第1・第2レベルドメインの部分も一般的であり識別力はないので、その要部は第3レベルドメインの「jaccs」にある。したがって、両者が商標としての類似性を有することには問題がなかろう(6)。
  次に、商標権の効力は、その商品(役務)と類似の範囲にしか及ばない(商標法25条・37条)。したがって、登録商標と商品(役務)の類似しない商品等の広告としてドメインネームが使用されている場合には、商標権に基づく差止請求等は認められず、ここに一つの限界がある。本件では、Xが有している商標は、その役務の区分及び指定役務が、「36類 債務の保証、金銭債権の取得及び譲渡、クレジットカード利用者に代わってする支払代金の精算、資金の貸付、割賦販売利用者に代わってする支払代金の精算、生命保険契約の締結の媒介、損害保険契約の締結の代理、集金代行」、「35類 広告用具の貸与、タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与」、「38類 電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」、「42 電子計算機のプログラム設計・作成または保守、電子計算機の貸与」となっているので、Yが広告していた簡易トイレや携帯電話の販売とはその商品・役務に類似性はなく、したがって、商標法に基づく請求は認められない事例であった(7)。
  なお、本件とは直接関係はしないが、URL全体、あるいはドメインネームの部分(例えば、「jaccs.com」)について先願として商標登録がなされている場合に、その事実をもって違法性阻却の主張がなされることがある(あるいは逆に商標権侵害の主張をされることもあり得る)。しかし、場合によれば、商標法3条1項の普通名称や原産地表示、あるいは同4条1項7・8号の公序良俗(8)や他人の氏名・著名な略称として、あるいは同19号で外国著名表示の不正使用を根拠として、無効審判により登録商標を無効とするなり、同53条で誤認・混同行為を理由に登録の取消しをすることができる可能性がある。

3−3 不正競争防止法による解決
3−3−1 不正競争防止法上の商品等表示の使用とその類否
  サイバースクワッティングへの対抗手段としての商標法に基づく権利行使は、当該商標が周知・著名でなくても良いが、前述のとおり商品や営業の直接の混同がない場合には権利行使ができないという限界がある。しかしながら多くのサイバースクワッティングは当該表示が周知・著名な場合に行われ(だからこそ高価な買取要求がなされる)、かかる場合には直接の営業上の混同がなくても、何らかの資本提携関係があると取引需用者に誤認混同させ、いわば本家側がたいへんな迷惑を蒙る。このような事態に有効なのが不正競争防止法2条1項1号(周知商品等表示)・2号(著名表示)である。もちろん、商標法でも同じであるが、差止請求の認容に「不正の目的」の存在は要求されない。
  そして、商品等表示の使用の有無は、既述のとおり当該表示が出所表示機能を有するにいたるかどうかで判断されるのであるから、商標法上の商標の使用と同じメルクマールで判断することができる。

3−3−2 不正競争防止法上の商品等表示の類否
  また、表示の類否も称呼・観念・外観の3要素によって判断されるのが原則であるが、商標法上も不正競争防止法上も混同の有無に重点がおかれて判断されるべきであるから、侵害の排除という場面においては、両者とも同一の判断基準でその類否が決せられることとなろう。

3−3−3 不正競争防止法上の混同
  ところで、不正競争防止法2条1項2号の著名表示では、同1号の周知表示とは異なり営業の混同は要件ではない。しかし、周知表示の場合でも、両者が系列関係や提携関係にあると誤認するというようないわゆる広義の混同を含む(9)。したがって、実質的には著名表示との間でその保護の範囲について径庭はないといえよう。

3−3−4 本件判決とXの著名表示性
  本件判決では、Xの営業表示を著名表示と認定した。著名とは周知とは異なり一地方で広く知られているのではなく全国的に知られている必要があるとされるのが一般である。2号の規定が制定された平成5年以降に著名表示と認定された事例としては、「モスキーノ」、「住友井桁マーク」、「トラサルディ」、「Elle」、「JAL」、「正露丸」等がある(10)。
  事実認定の問題ではあるが、判決によれば、Xは、平成10年7月1日時点で全国に124の支社・支店・営業所を有していた、本件商標を社名変更案内に表示したのを初めとして、現在に至るまでXの発行するクレジットカード、新聞広告・パンフレット・テレビコマーシャル及びX従業員の名刺等には必ず本件商標を表示してきた、昭和51年11月に東京証券取引所二部市場へ上場し、昭和53年9月には、同一部市場に指定替えとなった、同じころから現在に至るまで全国ネットのテレビコマーシャルを放映し、一般消費者に対し、その営業の宣伝を行ってきた、という程度である。そしてこれらの事実以外に、Xについて資本金・売上高・広告宣伝費等についての著名性認定の根拠となる事実摘示はない。著名であればあるほど著名性についての立証負担が軽減されるのではないかとの考えもあるが、筆者としては、判示部分を見る限りやや強引な認定ではなかったかとの印象を持つ。
  その他の、表示の類似性等に関する説示は妥当であろう。

3−4 本件判決の主文等について
 本判決の主文は、
 「1 Yは、そのホームページによる営業活動に、「JACCS」の表示を使用してはならない。
  2 Yは、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター平成10年5月26日受付の登録ドメイン名「http://www.jaccs.co.jp」を使用してはならない。」
というものである。
 この種の事件に関連する差止請求に対する判決主文をみると、例えば、@韓国シャネル事件では(11)、「被告は、インターネットのホームページにChanel等の文字又はこれを含む文字を被告のホームページに使用しないこと。被告は、インターネットのドメインネームにChanel等の文字を使用しないこと。被告は、ドメインネーム登録機関KrNICに登録したドメインネームChanel.co.krの登録抹消手続を履行すること。」、Aアーゼオン事件では(12)、「被告は、会社案内及びインターネットのホームページその他の被告の宣伝、広告から、その態様のいかんを問わず、商号、通称、愛称その他の被告の営業を表示する「アーゼオン」の文字を除去せよ。」というものがある。
 これらと本件判決の主文を対比すると、本件判決では、表示の使用禁止を求めているだけである。そうすると、仮にYが判決に従わなかった場合にXのとりうる手段としては、使用を中止するまでの間、1日あたり金○○万円を支払え、というような間接強制を行えるだけであろう(それ以外に、損倍賠償請求訴訟を提起したり、周知表示の認定がなされた場合には刑事告訴〔不正競争防止法13条。なお、著名表示の不正使用については認められていない〕の可能性もある)。そこで、不正表示の除去(これは一般に認められている)や抹消登録手続請求を不正競争防止法3条2項により求める手段が考えられる。しかしながら、除去命令がなされたとしても執行官によって除去手続を実行することはできない。ドメインネームの登録・管理をしているのは、第三者たるJPNICだからである。勿論、JPNICはこの判決により登録の取消をすることになろうが、それは登録機関と登録者との契約関係に基づくものであり、登録機関を被告にできない限り、判決の効力は及ばないし、登録機関を被告にすることも理論的に困難な問題があろう。本来なら、端的にYからXへの登録移転請求が認められれば良いと思われる。しかし、わが国では、冒認出願が認められた場合でもドイツなどとは異なり、契約で合意していない限り、移転請求は認められていない。この点は、第三者のためにする契約の構成等を工夫して、登録機関が登録者との間で一定の場合には正当権利者への移転請求を容認する契約とその効力について検討すべきではないかと思われる(13)。
 なお、主文第2項は「http://」アクセス方法の部分まで含めているので(これは一般にはドメイン名とは言わない)、かなり限定されたものであるが、主文第1項で全体としてカバーされていると言えようか。
 冒頭で説明したとおり、今後わが国においてもドメインネームにまつわる紛争が多発する。したがって、仲裁機関による迅速な解決と司法機関によるより実効性のある解決により、ドメインネームの健全な発展が期待されるところである。
  (弁護士 小松陽一郎)

 
(1)松倉・押谷「インターネットの商標問題(1)」パテ51巻2号101頁
(2)岡村久道「ドメイン名紛争の法的解決(下)」NBL No707,57頁
(3)特許ニュースNo.10478,4頁
(4)ドメインネームの使用態様等を総合判断すべしとするのが一般的であろうと思われる。フェアトレード委員会第2小委員会「ドメイン名に関する富山地裁判決」知財管理Vol.51 No.2.203頁、高橋・松井「インターネットと法」190頁、なお、岡村・近藤「インターネットの法律実務」208頁、横山経通「インターネットにおける商標権侵害について」知的財産研究所(インターネット上における商標の保護についての調査研究報告書)40頁、内田・横山「〔新版〕インターネット法」35頁、田村善之「商標法概説〔第2版〕」144頁、等
(5)実際には、混同の有無に重点がおいて類否の判断がなされるべきであるとする最判平9・3・11民集51巻3号1055頁参照
(6)本文中で紹介した(社)日本国際工業所有権保護協会の「インターネットドメインネームに関する各国事情調査」によれば、『http://www.XYZ.co.jp』が先に登録されていて『XYZ』が後願として商標登録出願された場合には、イギリス特許庁、ドイツ特許庁、欧州特許庁、韓国特許庁のいずれもが、両者が類似すると判断している(特許ニュースNo.10478.2頁)
(7)前掲・岡村久道「ドメイン名紛争の法的解決(下)」NBL No707,56頁によれば、本件訴訟において当初は商標法違反も請求原因に加えていたが、途中で撤回したようである。
(8)最近は公序良俗違反の解釈が拡大される傾向にある。東京高判平11・11・29(母衣旗〔ほろはた〕事件)判時1710号141頁、東京高判平11・12・22(DUCERAM事件)判時1710号108頁、等。土肥一史「ドメイン名と表品等表示の抵触関係」知財研フォーラムVol.43.18頁
(9)最判平10・9・10判時1655号160頁(スナックシャネル事件)
(10)小野昌延編著「新・注解不正競争防止法」293頁以下、等
(11)1999.10.18判決99Ga合41912(中村知公「インターネット上における商標の使用について」(前掲・知的財産研究所「インターネット上における商標の保護についての調査研究報告書」7頁)
(12)東京地判平11・12・28特許ニュースNo.10438.2頁
(13)前掲・土肥一史「ドメイン名と表品等表示の抵触関係」知財研フォーラムVol.43.19頁参照