幻の?ベースライン論文

※この論文は、1998年3月に書いたものです。世間的には…未発表に限りなく近いです。
HP掲載にあたり、正しく表示されるよう記号文字を若干変更しました

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                           ジャズ・ベースラインの研究
                               〜浜瀬理論の検証〜

                                  佃    武  司

                                 は  じ  め  に 

  ジャズベースについての教則本は日本でも現在数冊が出版されているが、そのうち理論
的な説明を試みているのは、浜瀬元彦著『ベースラインブック』のみと言ってよい(注1
)。他の教則本は、楽器の弾き方に重点を置いていたり、ベースラインの譜例がのってい
るだけであり、系統立てた理論的な説明がない。ジャズが即興的な音楽であり「新しいこ
と」を追求していく音楽であることが理論の構築と普及をさまたげているように思われる
が、ジャズ・ベースを習おうとする初心者の参考になる良い教則本が見当らないのが現状
である。
  さて、浜瀬氏の教則本はすばらしい著書ではあるが、一般的なジャズ理論(注2)とも
西洋古典音楽の和声理論(注3)とも少し距離を置いた独自の理論である。そのためか、
現在でもベースライン理論の「標準」には成り得ていない。また、実際のジャズ演奏の実
例にどの程度あてはまるのか、自分の演奏に際してどの程度有効かが著書からはわかりず
らい。
  そこで、本論文ではこうした点をふまえ、1章でジャズ・ベースラインの概略を説明し
、2章では浜瀬理論の特徴的な部分の紹介を、3章では演奏の実例での検証を、4章・5
章では浜瀬理論を補うための新たな理論を提示をしてみることにする。

                     1章.ジャズ・ベースラインについての概略 

 1.ジャズ・ベース奏者の役割 

  ジャズ演奏におけるベース奏者の役割は大きく2つある。1つはビートを示すことであ
り、もう1つは、和音進行、特に根音進行を示すことである。
  一般的には、ベース奏者が1小節に4分音符を4つ弾いていれば4ビート、と考えてよ
い。ジャズ・ベースの演奏スタイルを指す用語「ウォーキング・ベース」「ランニング・
ベース」とは、より自由度が高くて順次進行を多用した4ビートのベースラインのことを
意味し、本稿で取り扱うのも、この4ビートのベースラインのことである。
  和音進行をベース奏者が示すには、その和音が長和音か短和音か(注4)も示さなけれ
ばならないので、和音の第3音もラインに組み入れなければならないが、根音進行を示す
のには根音だけを弾いていても可能である。
  標準的なジャズ演奏の編成では、和音はおもにピアノ・パートが受け持つ。そして、ベ
ース奏者がいることを前提に演奏する場合は、ピアノ・パートは低音域で根音を弾くこと
を避けることが多い。逆に言えば、ピアノが弾かない分、ベースは和音の根音を弾くこと
を期待される。また、和音進行に基づく即興演奏を主とする演奏(注5)においては、和
音進行を明確にするため、ベース奏者は1拍目に和音の根音を弾くことを期待される。し
たがって他のジャンルの音楽に比べて、1拍目に根音以外の和音構成音を弾くことは少な
い。

 2.ジャズ・ベースラインの作成過程 

  ベース奏者は譜例1のようなコードネームが書かれた譜面(あるいはそれを記憶したも
の)をたよりに、演奏をする。他の奏者も同様である。

                                                                          譜例1

  ベース奏者はこの譜面を見たあと、譜例2のように、まず各小節の1拍目にその小節の
和音の根音を弾くことを思い浮かべる。

                                                                          譜例2

  その後、譜例3のように1拍目以外の音をうめていく。4ビートの場合は1小節に4分
音符が4つとなる。

                                                                          譜例3

  他の奏者も即興で演奏しているため、1拍1拍について和声分析することはできないし
、意味をなさない。他の奏者との共通理解はあくまでも、最初にあったコードネームのみ
である。
  以上が一般的なジャズ・ベースラインの作成過程である。この3つ目の過程(1拍目の
根音以外にどのような音を用いるか)がジャズ・ベースラインを作る上でのいちばんの課
題となる。

 3.一般的なジャズ・ベースラインの考え方 

  体系化されたものはないが、教則本の譜例や解説などから推測すると、おおよそ次のよ
うなものであろう。
    ア)根音中心。(1度+5度)                        −−譜例3の1小節目
    イ)和音構成音。(1度+3度+5度+7度または6度)−−譜例3の2小節目
    ウ)和音構成音+経過音。                            −−譜例3の3、4小節目

                    2章.浜瀬元彦「ベースライン・ブック」の理論 

 1.<導音>という概念 

  浜瀬理論のベースラインにおいては<導音>という概念が特別の意味で用いられている
(注7)。
  一般的な「導音」という用語は、狭義には「長音階および短音階の第7度の音で、特に
ドミナント和音の第3音で主音に向かって半音上行(注7)して解決する音」であり、広
義には「旋律線をある安定的な音へと導く音」として用いられる。浜瀬理論においてはこ
れをより広義な用法に用いており、独自な意味合いを持たせている。譜例4のように「次
の和音に移る直前に位置して、次の和音の最初のバス音(注8)になめらかに進むために
用いられるバス音」のことであり、譜例5のように、「到達音の、半音上、半音下、完全
4度下、完全5度上、の音」を用いるように著書では提案されている。

                                                                          譜例4


                                                                          譜例5

  4ビート・ベースラインでは「直前」とはすなわち「1拍前」のことである。この、「
次の和音に移る1拍前」のことを本稿では以後、<導音位置>と呼ぶことにする。また、
一般的な用語としての「導音」との混乱を避けるため、浜瀬の定義による<導音>のこと
を以後、<バス導音>と呼ぶことにする。

  浜瀬理論においては、<バス導音>がその小節の和音の構成音かどうかは問われない。
<バス導音>はあくまでも次に進む和音のバス音により決まる。

                                                                          譜例6

  つまり、浜瀬理論では、ベースラインは次に進む和音が何であるかによって決まる。こ
のことは重要である。たいていのジャズベース教則本やパソコン音楽ソフトの自動ベース
ラインなどには、この視点が欠けており、譜例7のように、次にどんな和音が来るかに関
係なくベースラインがその小節の和音の中で決まってしまっている。

                                                                          譜例7


 2.パターン化によるベースライン 

  浜瀬の著書では、4ビート・ベースラインのパターンを提示し、どんな和音進行の曲で
あってもベースラインが自作できるようにしている。実際、巻末にのせられた譜例では、
すべて著者の理論の範囲内で数曲のベースラインを作ってみせている。
  以下、この4ビート・ベースラインのパターンを紹介していく。[  ]の中は、各和音
の根音から数えた音度数による数字譜である。完全音程や長音程のときには数字のみ、短
音程や減音程のときには数字のあとに♭ をつけ、増音程のときには数字のあとに♯ をつけ
た。[  ]内では<バス導音>のことを[導]と略して表記した。記号※の後は原書にあ
る補足事項である。なお、このパターンは1小節ずつ和音が変わる場合の4ビート・ベー
スラインを想定してており、1拍目には必ず和音の根音を用いている。

(1)根音中心の形      [1−1−1−導]  [1−8−1−導]
                        [1−5−1−導]  [1−5−8−導]

                                                                          譜例8

(2)分散和音的な形    [1−3−5−導]
                        [1−3♭−5−導]
      ※完全4度上行根音進行の場合、導音位置には[5♭]を用いる。

                                                                          譜例9

(3)音階的な形        [1−2−3♭−導]
                        [1−2♭−3♭−導]
        ※ただし完全4度上行根音進行でのみ使用する。
        ※長和音の場合、導音には[3]を用いる。

                                                                          譜例10

(4)長短2度を用いる形[1−2−1−導]  [1−2♭−1−導]
                        [1−7−1−導](注9)

                                                                          譜例11

  ※(1)〜(4)のパターンでは、導音位置(4拍目)に3拍目と同じ音は使わない。

  この他に、別項目として以下のものがあげられている。これらは上記の「パターン」と
同様に扱ってもよいだろう。
(5)根音が完全4度下行(完全5度上行)する和音進行を和音細分した形。
                        [1−7♭−6−6♭]−5
                        [1−3−4−4♯]−5
      コードネームで表記すると次のようになる。
      [C]−[G]    細分→  [C−C7/B♭−F/A−Fm/A♭]−[G]
      [C]−[G]    細分→  [C−C/E−F−F♯dim]−[G]

                                                                          譜例12

(6)同じ和音が2小節以上続く場合のパターンとして、
                        [1−1#−2−2♭]−1
                        [1−2−5−2]−1
                        [1−5−9−9♭]−8

                                                                          譜例13

※1小節に2回(4分音符2つずつ)和音が変わる場合は、[1−導]となる。

                                                                          譜例14

※2小節以上同じ和音が続く場合にも、適用できる。

                                                                          譜例15


  浜瀬理論の特徴としては、以上述べた他に、<強進行>(注10)という概念の導入があ
る。浜瀬は、和音の根音が「完全4度上行」「短3度下行」「短2度下行」「減5度下行
」する進行をベースラインにおける<強進行>と定義している。そして、元の和音進行は
なるべく和音細分や和音変換によって<強進行>化することがベースライン作成上のコツ
としている。この<強進行>については和声理論を深く論じていかなければならず、また
、実例での検証がむずかしいことから、本稿では扱わない。

                         3章 .実例による浜瀬理論の検証 

  この章では、2章で紹介した浜瀬理論の特徴的な部分がジャズ演奏の実例にどのくらい
当てはまるかを検証する。
  ジャズは「即興的な音楽」であるから、実例を統計的に分析することは意味がないと考
えられ、今まであまり行われてこなかった。しかし、伴奏をしているパート、特に規則的
なビートをきざむ4ビート・ベースラインは統計をとっての分析に向いていると私は思う
。以下、モダン・ジャズの時代の比較的標準的な演奏を2例選び、ベースラインの分析を
した結果を示す。(各項目の見出しは、録音アルバムのタイトル、アーチスト名、録音年
、レコード会社名、を示してある。)

 1.『枯葉』キャノンボール・アダレイ  1958  BLUENOTE

  この曲は、元はシャンソンの曲だが、やがてジャズ演奏家にもとりあげられるようにな
り、この決定的名演によりスタンダード・ナンバーとして定着した曲である。[a−a−
b−c]の構成の32小節で、和音進行は、1小節ずつの根音4度上行進行が多用されたオ
ーソドックスなものである(譜例16)。この演奏では和音変換や和音細分はあまり行われ
ていない(注11)。
        +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
        |a||:   Cm7   |    F7     |    B♭△  |    E♭△  ||
        |  |    Am7-5 |    D7     |    Gm    |           :|||
        |b|    Am7-5 |    D7     |    Gm    |            ||
        |  |    Cm7   |    F7     |    B♭△  |            ||
        |c|    Am7-5 |    D7     |    Gm    |            ||
        |  |    Am7-5 |    D7     |    Gm    |            ||  譜例16
        +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
  録音は1958年で、ビ・バップを経て発展したモダン・ジャズの黄金期である。遅めのテ
ンポによる演奏で、アドリブ・ソロの間、ベースは基本的な4ビートをきざんでいる。ベ
ースのサム・ジョーンズは、キャノンボール・アダレイのリーダーコンボをはじめとして
多くのジャズメンと共演しレコードを残している奏者である。
  以下に、イントロ、エンディング、テーマを除く5コーラス 160小節のベースラインを
分析してみた。資料は『完全コピー ジャズスコアVol.2 』を参考にした。(注12,13)

(1)<導音位置>に使われている音の分析
  <導音位置>(1小節ごとに和音が変わる場合は各小節の4拍目)に浜瀬が<バス導音
>の例とてし挙げた音が使われているかどうかを調べてみる。
  集計してみると、約7割は浜瀬理論が当てはまることがわかる。内訳は下の表のとおり
(ア〜ウが浜瀬理論によるもの)。
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|到達音(次の和音の最初のバス音)に対して、                  |
|ア.短2度上の音                                    32回  |
|イ.短2度下の音                                    53回  |
|ウ.完全4度下(完全5度上)の音                    31回  |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|エ.その他の音                                      44回  |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
「エ.その他の音の使用」の内訳で多いものは以下のとおり。
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|到達音に対して              長2度上の音の使用      12回  |
|                    減5度(増4度)の音の使用      10回  |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
  減5度の音の使用が多いのは、曲の和音進行に減5度進行があり、その場合に、前の和
音の根音を<導音位置>に用いているからである。他の楽曲ではこれほど多くは使われな
い。

(2)4ビート・ラインの分析
  <導音位置>以外のライン(1小節ごとに和音が変わる場合は各小節の1〜3拍目)が
どのようにできているかを調べてみる。和音変換や和音細分により、2拍ずつ和音が変わ
るところや、和音がはっきりしないものは集計から除外した(注14)。
  集計してみると、約5割が浜瀬理論にあてはまる。内訳は下の表のとおり(ア〜カが浜
瀬理論によるもの。2章参照)。
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|ア.<根音中心の形>のライン                        14回  |
|イ.<分散和音的な形>のライン                      24回  |
|ウ.<音階的な形>のライン                          21回  |
|エ  <長短2度を使う形>のライン                      5回  |
|オ.<和音細分した形>のライン                        3回  |
|カ.<パターン的な形>のライン                        6回  |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|キ.その他のライン                                  67回  |
|ク.集計から除外                                    20回  |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
「その他ライン」の内訳で多いものは以下のとおり
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|    <分散和音的な形>の変形                        28回  |
|    音階を下行する形                                  8回  |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

 2.『ケリー・ブルー』ウィントン・ケリー  1959  RIVERSIDE

  曲は、ケリーのオリジナル曲で、keyがB♭のブルース形式(12小節)である。
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|  |    B♭     |            |             |            ||
|  |    E♭     |            |    B♭     |            ||
|  |    F7      |    F7     |    B♭     |            ||          譜例17
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
  和音進行は上の譜例のとおりで、同じ和音が続くことが多いため、ジャズの演奏では下
の譜例のように和音進行が細分されたりする。細分の仕方はこの他にも様々な方法がある
。本稿で統計をとる際には、和音変換してある個所は変換後の和音で考えることにする。
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|  |    B♭     |    E♭    |    B♭     |Fm7/ B♭7||
|  |    E♭     |   Edim    |   B♭onF   |Dm7/ G7  ||
|  |   Cm7     |    F7     |B♭ / Gm7|Cm7/ F7  ||          譜例18
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
  録音は1959年で、前の曲と同じくモダン・ジャズ黄金期の演奏。ベースのポール・チェ
ンバースは、1955〜1962年にマイルス・デイビス・コンボに在籍していたベーシスト。様
々なジャズメンにひっぱりだこで、この時期最も多くのレコーディングを行ったベーシス
トである。
  テーマを除く24コーラス(288小節のうちベースが休止するところが12小節あるので)
276小節を分析してみた。参考にした資料は前曲と同じである。

(1)<導音位置>に使われている音の分析
  前曲同様、浜瀬が<バス導音>の例とてし挙げた音が使われているかどうかを調べてみ
る。なお、この曲は和音進行の都合で、3小節目や7小節目に、和音の第5音が1拍目に
使われることがある。この場合、1拍目に使用している音を基準に<バス導音>を考える
ことにする。
    例.[E♭−Edim−B♭/F]の場合、最後の和音の1拍目の低音Fの短2度上下、完
        全4度下(完全5度上)が<バス導音>
  集計してみると、約7割が浜瀬理論にあてはまる。内訳は下の表のとおり。
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|次の和音の1拍目の低音の、                                  |
|ア.短2度上の音の使用                              57回  |
|イ  短2度下の音の使用                            124回  |
|ウ.完全4度下(完全5度上)の音の使用              25回  |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|エ.その他の音の使用                                69回  |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
「その他の音の使用」の内訳で多いものは以下のとおり
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|次の和音の1拍目の低音の、                                  |
|    長2度上の音の使用                              57回  |
|    長2度下の音の使用                                4回  |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

(2)4ビート・ラインの分析
  次に、<導音位置>以外のラインがどのようにできているか調べてみる。集計から除外
する場合は前曲同様である。
  集計してみると、約3割が浜瀬理論に当てはまる。前曲よりも当てはまる割合が少ない
のは、和音の根音以外の音で1拍目が始まる場合があり、それを「その他のライン」とし
て集計したのが主な要因である。
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|ア.<根音中心の形>のライン                          7回  |
|イ.<分散和音的な形>のライン                        1回  |
|ウ.<音階的な形>のライン                          11回  |
|エ.<長短2度を用いる形>のライン                    7回  |
|オ  <和音細分した形>のライン                      25回  |
|カ.<フレーズ的処理>のライン                      10回  |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|キ.その他のライン                                143回  |
|ク.集計から除外                                    61回  |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
「その他ライン」の内訳で多いものは以下のとおり
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|    <分散和音的な形>の変形                        24回  |
|    音階を下行する形                                47回  |
|    根音以外の和音構成音から始まる場合              30回  |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

                               4章.浜瀬理論の補足 

 1.<バス導音>の再考 

  浜瀬理論における<バス導音>は、前述したように、次の和音のバス音の「短2度上下
の音」と「完全4度下(完全5度上)の音」である。著書の譜例においては、特に「短2
度上下の音」の使用が目立っている。
  しかしこれだけでは、実例に完全には当てはまらないことは3章で分析してみたとおり
である。また、下の例からもわかるように、「短2度上下の音」だけにした場合、音階音
ではない「変位音」による連結が頻繁に起きてしまい、2拍ずつ和音が変わる場合など、
低音が違和感なく進行するとは言い難い。

                                                                          譜例19

  そこで、次の和音のバス音の「長2度上下の音」を浜瀬理論に追加し、<バス導音>と
すると、より実例に即したものになる(注15)。

                                                                          譜例20

  ただし、長2度上下の音は「音階内の音」であることが条件であり、次のような例は見
あたらない(注16)。

                                                                          譜例21


 2.和音の根音以外を1拍目に使う場合 

  浜瀬理論では、和音の1拍目は根音を用いることを前提にしていた。前述したように、
ジャズにおいてはベースは主に根音を1拍目に弾く。しかし、せっかくの理論が、根音以
外を1拍目に使ったとたんに適用できなくなるのでは惜しい。以下、適用できるかどうか
検討してみる。
(1)<バス導音>について
  根音以外の和音構成音を1拍目に使った場合にも同じように適用できる。

                                                                          譜例22

(2)4ビート・ベースラインの形について
  <根音中心の形>,<分散和音的な形>は、次のようなパターンが考えられる
  [5−1−5−導][3−5−1−導][3−1−3−導]

                                                                          譜例23

  <音階的な形>については、次のようなパターンが考えられる。
  [3(♭)−2−1−導][5−4−3(♭)−導][3(♭)−4−5−導]

                                                                          譜例24

  ただし、短3和音の場合、根音が1回も現れない形は、3♭音を根音とする長3和音に 
聞こえてしまうので避けた方がよい(注17)。

                                                                          譜例25

  <長短2度を用いる形>について
  1・3拍目が同じ音で、和音構成音が1種類しか現れず、和音の性格があいまいになる
ので、あまり適用しない方がよいだろう。ただし、あらかじめ和音の低音に根音以外の音
を指定している楽曲の場合はこのかぎりではない。

 3.<分散和音的な形>の再考 

  浜瀬理論においては、学習の便宜をはかるためであろうか、次の2つの形に限定されて
いた。2つの形は和音が長3度を持つか短3度を持つかのちがいである。
        [1−3−5−導]  [1−3♭−5−導]
  3章の実例の分析を見てみると、「和音構成音を使う」という条件さえ一致すれば、分
散和音的な形は他の形でも現れうることがわかる。
  例としてつぎのようなものがあげられる。
        [1−5−3−導]  [1−5−3♭−導]

                                                                          譜例26

  また、和音構成音として和音の第7度音も含めた次のような形もあげられる。
        [1−7♭−5−導音] [1−5−7♭−導音]

                                                                          譜例27

  1拍目に和音の根音以外の音を使う場合については、前の項目参照。

 4.<長短2度を用いた形>の再考 

  この形は西洋古典和声理論における非和声音のひとつ「刺繍音」を使っていると解釈で
きる。2度下の刺繍音は上方変位することが多いためか、浜瀬理論では[1−7♭ −1−
導音]という形はなかった。
  しかし、短七の和音や属七の和音では、この形も使われる。また、ブルース色を出すた
めに意識してこの形を用いることもある。黒人系の音楽である、ブルース、リズム&ブル
ースや、ソウルなどの音楽のベースラインでは、根音の長2度下の音(短7度音)を含ん
だベースラインがよく使われる。
  <バス導音>として長2度下の音を追加したが、それを応用したものともいえる。2拍
目は3拍目に向かっての<バス導音>であり、この形は、4拍続く同じ和音を「2拍ずつ
同じ和音が続いたもの」と解釈して、[1−導]の形に当てはめたものと言える。

                                                                          譜例28


 5.<音階的な形>の再考 

  浜瀬理論では、<音階的な形>は完全4度上行根音進行のときのみ使われる、とされて
いるので、とりあえずその範囲内で考えていこうと思う(注18)。
  ここで、<音階的>という意味が「1〜3拍が音階音を順次進行する」という意味であ
るのか、「1拍目から次の和音の1拍目まで、音階以外の音も交えながら順次進行する」
という意味であるのかはっきりしていないのでそのあたりを整理してみる。

(1)前者の意味の場合、完全4度上行進行は次の3種類に分けられる。4拍目には、先
に定義した<バス導音>を使う。ただし、3拍目と同じ音は4拍目には使わない。
      a.[1−2−3♭−導]−4
      b.[1−2−3−導]−4
      c.[1−2♭−3♭−導]−4
  浜瀬理論には、aとcはあるが、bはない。

(2)後者の意味の場合、完全4度上行進行は次の4種類に分けられる。この場合、音階
以外の音も使用しなければ音数が合わなくなる。
      ア.[1−1#−2−3]−4
      イ.[1−2−3♭−3]−4
      ウ.[1−2♭−3♭−3]−4
      エ.[1−1#−2−3♭]−4




                                                                          譜例29

  a.において、<バス導音>に[3]を使った場合が、イ.の例である。
  c.において、<バス導音>に[3]を使った場合が、ウ.の例である。

  ア〜エの中で見ていくと、3章における実例では、アの例と、イの例が半数ずつくらい
あった。ウはわずかに1例であり、エは使われていなかった
  どような種類の和音のときに使われているかを見てみると、アの例は長和音のとき、イ
の例は、短和音と長和音の両方でみることができた。逆に言えば、短和音のときはイの例
に限られるが、長和音のときはアの例でもイの例でもどちらでも用いられている。同じ和
音なのになぜ2通りのラインが使われるのだろうか。次章ではこのことについて詳しく考
察してみたい。

         5章.根音が完全4度上行する和音進行における順次上行ベースライン 

  前章であきらかになったように、前の和音が短和音の場合は、下の イのラインが使われ
る。一方、長和音の場合は、下のア、イのラインの両方が使われている。また、根音から
短9度の音を持つ和音の場合には下のウのラインも使われることがある。このうち アのラ
インは浜瀬理論にはないものである。
      ア.[1−1#−2−3]
      イ.[1−2−3♭−3]
      ウ.[1−2♭−3♭−3]
    ([1−1#−2−3♭]の形は実例には現れない)


                                                                          譜例30

  この章では、根音から短9度の音を持つ場合を除き、長和音のときに、アの例、イの例
のどちらを使った方がよいのかを、考察していく。

 1.ベース奏者による頻度の違い 

 (1)スウィング・ジャズ以前の奏者 
  まだ、ベースラインは1度5度中心の2ビートであった。フィルインなどで4ビートに
なっても、[1−1−2−3]などの、変化音を使わない形がおもに用いられた。

                                                                          譜例31

  また、ビ・バップ初期にチャーリー・パーカーやバド・パウエルらと録音を残している
カーリー・ラッセルはまだこの形を主に用いている。
 (2)ジミー・ブラントン、他
  →アのラインを使用 
  スイング・ジャズの時代の中期以降、4ビートのベースラインが現れ、また、ジャズ和
声法が発展し、より複雑な半音階的な進行を各声部が行うことが多くなった。低音声部を
受け持つ楽器としてウッドベースが定着したのもこの頃である。
  スイング・ジャズと同時期に発達したビックバンドでは、綿密な編曲がなされた。この
ように即興的要素の少ない演奏では、理論的に「正しい」ラインを選択することになると
予測できる。
  ジミー・ブラントンは1939〜1941年の間、デューク・エリントン楽団に在籍し、モダン
・ジャズ・ベースの歴史はこの人から始まったと言われている(注19,20)。録音を聞い 
てみると、アのラインを一貫して使用していることがわかる。
  また、ジミー・ブラントンと同時期、ディジー・ガレスピー楽団に在籍していたオスカ
ー・ペティフォードやレイ・ブラウンはやはりアのラインを主に用いている。レイ・ブラ
ウンはその後、チャーリー・パーカーやオスカー・ピーターソンなどと共演を重ね、今も
現役で活躍している。
 (3)ポール・チェンバース、黒人系、バップ以後の奏者
   →ア、イの両方のラインを使用 
  理由のひとつには、ピ・バップの時代になり、より即興性を重視した演奏になったため
、1つ1つの音が和音に「合っているか」どうかはあまり問われなくなったためと思われ
る。このラインに限らず、楽曲全体を通してかなり自由なラインになっている。悪く言え
ば、理論的には混乱しているベースラインであり、これはビックバンドにおける理論的に
整合性のあるライン作りが次の時代の奏者にうまく継承されなかったとも言える。ビ・パ
ップの時代の録音でもスイング系のベース奏者が参加した録音では、アのラインを用いて
いる。
  もうひつとの理由としては、ブルース色を出すためにわざとイのラインを用いていたと
も考えられる。この場合、3拍目の音3♭ は3のブルーノートと考える。ブルーノートを
多用する音楽として、ブルースやジャズの他に、ロックンロールもあげられるが、たとえ
ばロックンロールにおける低音のリフに次のようなものがあるのは興味深い。

                                                                          譜例32

  いずれにしても、3章で見たように、同じ曲の演奏中に同じ和音の箇所でア、イのライ
ンの両方が使われるというのは、不思議な現象といえるのではないだろうか。
 (4)白人系の奏者,現代の奏者
    →アを使うことが多い。 
  ヨーロッパのデンマークに拠点を置いて1960年代以降活躍しているベーシスト、ニール
ス・ペデルセンは、ケニー・ドリュー・トリオなどでの演奏でおなじみだが、アのライン
を必ず用いている。全体的に理路整然としたベースラインを弾く奏者である。
  理論的な解明が進み、ジャズ教育期間が発達したためであろうか、現代の奏者はアのラ
インを奏することが多い。キース・ジャレット・トリオにおけるゲイリー・ピーコックの
演奏は、非常に現代的な演奏スタイルであり、オーソドックスなラインを弾くことは少な
いのだが『オール・ザ・シングス・ユー・アー』や『枯葉』における演奏で、はっきりと
アのラインを使っているのが聞きとれる。
  しかし、日本において入手できるベース教則本では、積極的にアのラインをとりあげた
ものはないし、それに対する説明もない。浜瀬氏の著書でも、アのラインはなかった。

 2.曲調によるちがい 

(1)ブルースの場合、あるいはブルーノートを多用した演奏の場合、長和音でもイを使
う例が現れやすい。
(2)短調の曲の場合、ウを使う例が現れやすい。根音から短9度の音を持つ和音は、短
調の和音進行でよくみられる。
  例.Cmがkeyのときの、Dm7-5−G7-9−Cm
      Dm7-5は短9度音E♭を、G7-9は短9度音A♭音をそれぞれ持つ。
  一般に、減5度を持つ和音は短9度音を音階として持つ。また、属七の和音の第9音は
長調の曲においても下方変位する可能性を持つ。

 3.左手のポジショニングの考察 

  ベーシストがアとイのラインを混在させる理由として、左手のポジショニングの問題も
あるのではないかと思われる。下図のように、B♭のkeyで[F7]−[B♭]の和音進行を
<順次上行形>で追う場合、下のFから出発する場合は  のラインの方が弾きやすく、上
のFから出発する場合は  のラインの方が弾きやすい。
        開放弦   1F    2F    3F    4F
           G +−A♭+−A−+−B♭+−−−+−−−−−−−1弦
ネック側   D +−−−+−−−+−F−+−−−+−−−−−−−2弦  ボディ側
           A +−B♭+−−−+−−−+−−−+−−−−−−−3弦
           E +−F−+−−−+−G−+−A♭+−−−−−−−4弦

  もちろんプロの奏者であるから、どのポジションがどの音かは当然わかっていたと思う
が、とっさに新しい曲を演奏したり、急速テンポで演奏した場合には「手くせ」で弾いて
しまう場合もあったのではないだろうか。ビ・バップ以降、音使いはより自由になり、1
つ1つの音が「間違っている」などと言われることはなかったであろうから。

 4.和声理論的な考察 

(1)アのライン[1−1#−2−3]−[4]の分析
  アのラインを1拍ずつ和声進行として解釈してみる。
  key Cの場合、C−F と G−C の進行が、前の和音が長和音である完全4度上行進
行である。key Cの場合をコードネームで表すと、次のように解釈でき、自然な和音進行
であるのがわかる。
  [C−F]は、[C−C#dim−G7/D−C7/E]−[F]
          または[C−C#dim−Dm7−C7/E]−[F]となる。
  [G−C]は、[G−G#dim−D7/A−G7/B]−[C]
          または[G−G#dim−Am7−G7/B]−[C]となる。

  アのラインは「経過音」としても解釈できる。下の譜例のように、[1−4]の間に経
過音2−3を入れ[1−2−3−4]とし、さらに1−2の間に1# を経過音として入れ
[1−1#−2−3−4]としたものといえる。

                                                                          譜例33

(2)イのライン[1−2−3♭−3]−[4]の分析
  イのラインは、アのように和声進行的には解釈できない(短和音の場合は、key Cmの
場合、[Cm−G/D−Cm/E♭−C7/E]と解釈できるが、今は、長和音の場合を分析 
しているところである)。
  イのラインである[1−2−3♭−3]−[4]は、強拍である3拍目に経過音として
「変位音」が位置してしまっている。しかし、4ビートのジャズにおいて低音は「リズム
」と「和音」の両方の役割を担っており、1拍目・3拍目の強拍には「和音構成音」また
は「音階音」を弾くのがふつうである。この3拍目の3♭ は、解釈するとすれば「倚音」
または「ブルーノート」だが、和声進行としては特殊な例と言えよう。

                                                                          譜例34

  以上見てきたように、理論的には、イよりもアの方が正しいといえる。

                                 お  わ  り  に 

  本稿において論じてきたことをまとめると次のようになる。
1.浜瀬の提示した<バス導音>はジャズ・ベースラインにおいて確かに存在する。
    <バス導音>としては、浜瀬の挙げた、次の和音のバス音の「短2度上下の音」と「
    完全4度下(完全5度上)の音」の他に、「長2度上下の音」も加えた方がよい。
2.浜瀬の挙げた4ビートベースライン例には、いくつか追加例が必要である。
    特に、根音が完全4度上行する和音進行のときの順次上行ベースラインは、前の和音
    が長和音の場合には[1−1#−2−3]−4 となる方がより正しいと思われる。

  本稿で得た結果は、他のジャンルの音楽、すなわち、西洋古典音楽や、4ビート以外の
ポピュラー音楽にも当てはまる部分があると思われるので、次の研究対象としたい。
  本稿が、ジャズ・ベースの学習者や研究者に役立てば幸いである。



                                     <注>   

注1|現在発売されている教則本には、文献1〜9のようなものがある。
注2|ジャズの理論に関しては、渡辺貞夫『ジャズ・スタディ』(文献16)がある。アメ
    |リカのバークリー音楽院での理論を紹介したこの著書は最も一般的なジャズ理論書
    |として日本で普及している。
注3|西洋古典音楽の和声理論に関しては、現在、島岡譲を中心とした執筆によるもの(
    |文献10,11)が、日本の音楽大学で教科書として採用されるなどして普及している 
    |。戦前から諸井三郎や下総皖一が紹介してきたドイツ系の理論とは多少違い、フラ
    |ンス系の理論を土台に独自の和音記号をつけたものである。非和声音を、和音構成
    |音の「転位音」として把握することに特徴がある。
注4|和音の第3音が根音から数えて、長3度の音である和音のことを「長和音」、短3
    |度の音である和音のことを「短和音」と本稿では表記する。したがって、属七の和
    |音は「長和音」に含まれる。
注5|時代でいうと、1940年代以降、ビ・バップとよばれる演奏スタイル以降を指す。一
    |般に、ビ・バップ以降のジャズを「モダン・ジャズ」と言っている。モダン・ジャ
    |ズの時代にも、一方でスイング時代(1930年代)の演奏スタイルによる演奏も行わ
    |れており、一般大衆の人気を得ていた。
注6|浜瀬の<導音>に似た概念として、E.コステールの<牽引音>がある。彼は『和声
    |の変貌』(文献13)の中で、完全8度、完全5度上下の音には共鳴親和性があり、
    |半音上下の音には連続移行親和性があるとし、これらを合わせて<牽引音>と名付
    |けている。
注7|浜瀬の著書では「上行」は「上昇」、「下行」は「下降」と表記されているが、本
    |稿では「上行」「下行」に統一する
注8|本稿ではアメリカで生まれ発展した音楽「ジャズ」を扱っているので、元が英語で
    |ある「ベースライン」という用語を使っている。一方、楽曲のもっとも低いパート
    |の奏する音のことは「バス」または「バス音」という用語を使うのが一般的である
    |と思うので本稿でもこの用語をもちいた。日本語の「低音」という用語は音響学的
    |に「低い音」という意味合いが強く感じられるので使用しなかった。
注9|この項目は、原書では、[1−長2度上−1−導音]のように表記されている。し
    |かし、他の項目の表記との統一をはかるため本稿ではこのような表記とした。
注10|西洋古典音楽の和声理論での<強進行>の定義は確定しておらず、音楽辞典の項目
    |にもない場合が多い。
注11|ベースラインを分析すれば、ベース奏者がどのように和音細分や和音変換を行った
    |かが推測できる。ベース奏者は根音を中心に弾くということを頭に置きながら、代
    |理和音や和音進行の理論を当てはめればよい(経験によるところが大きいため、こ
    |こではその方法の説明は省略する)。
注12|文献23。筆者も元の録音CDを聞いて確認したが、かなり精度の高いコピー譜であ
    |る。また、従来、アドリブ・パートのみのコピー譜が多かったことを考えると、こ
    |のような全パートの全コーラスのコピー譜の存在はたいへん貴重である。例えば、
    |個々のパートが任意に和音変換を行っていることや、1拍ごとに和音分析できない
    |ことなどが、はっきりとわかる。
注13|このコピー譜を元にしたMIDIデータも発売されているが、  +−−+−−+−−+
    |ここで興味深いことが起こっている。本稿でも取り上げた  |小節|楽譜|MIDI|
    |完全4度上行の根音進行における順次上行ベースラインが  +−−+−−+−−+
    |右の表のようにMIDIデータでは合計4カ所が楽譜とは違う  | 116| ア | ウ |
    |ラインになっている。これは、この進行の場合のベースラ  | 128| イ | ア |
    |インはどうあるべきかが共通認識になっていないことから  | 180| ア | ウ |
    |起きた結果だと思われる。このことからも本稿の意義が見  | 192| イ | ウ |
    |いだせる。なお、筆者の確認による実際の演奏音は、192小  +−−+−−+−−+
    |節目は、楽譜ともMIDIデータとも違うアのラインであり、  (ア〜ウは5章で規定
    |それ以外は楽譜が正しい。                                したラインを指す)
注14|ジャズはその即興演奏という性格から、ベース奏者が和音変換を行っても、他の奏
    |者(ピアノなど)が同時に和音変換を行うとは限らない。モダン・ジャズ以前の例
    |えばスイングのビックバンドなどでは綿密なアレンジにより、同時に和音変換する
    |場合があっただろうが、モダン・ジャズ以降は、テーマの演奏以外、各奏者の和音
    |変換は任意に行われる。また、そうした任意の和音変換にも対応できるような伴奏
    |の仕方が工夫された。ピアノの左手で根音や和音の第5音を弾かないのもその1例
    |である。
注15|本稿で分析した演奏では「長2度下の音」を使う<導音>機能音の例は少なかった
    |。しかし他の演奏ではもっと多く用いられることを筆者は確認している。
注16|ジャズの理論で用いられる「スケール」という用語は、日本語訳すれば「音階」だ
    |が、「その調の音階」という意味だけではなく、「その和音に合った音階」を意味
    |することもある。また、選択できるスケールは複数あることもある。
注17|このことは、『JAZZ IMPROVISATION』(文献17)にも解説がある。
注18|  章で見たように、下行形の<音階的な形>もかなり例が多い。浜瀬理論において
    |<和音細分した形>として説明されている、
    |    [1−7♭−6−6♭]−5
    |は、完全4度下行根音進行における<音階的な形>とも説明ができる。完全4度下
    |行根音進行においては、この他に、
    |    [1−7−7♭−6]−5     [1−7−7♭−6♭]−5
    |などが考えられ、実例にも現れる。
注19|『ベース&ドラムス』(ジャズ批評社)
    |『モダン・ジャズ・歴史と決定盤』(スイング・ジャーナル社)
注20|3章で分析した楽曲の録音されたモダン・ジャズ黄金期の約20年も前に、変化音も
    |用いた流れるようなベースラインを弾いていることには驚く。この時期はビパップ
    |が誕生した時期にも当たるが、ビバップ期の録音のベースラインはもっとぎくしゃ
    |くとしており、理論的に整理されないまま、モダン・ジャズ期に突入したような印
    |象を受ける。

                               参  考  文  献  表 

<ジャズ・ベース教則本>
現在入手可能なものを挙げた。ただし文献8は輸入版である。
1.浜瀬元彦  「ベースライン・ブック」  全音楽譜出版社  1987
2.伊藤伸吾  「スタンダード・ジャズ・ベース」  中央アート出版社  1987
3.野村恒夫  「ジャズ・ベース・ランニング・ノート」  ドレミ楽譜出版社  1996
4.根市タカオ  「ウッドベースの弾き方」  東京音楽書院  1994
5.稲垣護  「はじめてのウッドベース」  リズム・エコーズ  1996
6.C・シャー  「インロバイザーズ・ベース・メソッド」  中央アート出版社  1987
7.W・ヌーンズ  「ジャズ・エレクトリック・ベース」  エー・ティー・エヌ  1991
8.William Curtis  「A Modern Method for String Bass」  Berklee Press 1964
9.JAZZ LIFE 別冊「直伝!コンテンポラリー・スタンダード」  立東社  1993
<和声教本、他>
以下は、本稿を執筆するにあたり特に参考にしたものに限定した。
10.池内友次郎・島岡譲  「和声  理論と実習 1~3」  音楽之友社  1964
11.島岡譲  「音楽の理論と実習 1~3」  音楽之友社  1982
12.A・シェーンベルク  「和声法」(上田訳)  音楽之友社  1982
13.E・コステール  「和声の変貌」(小宮訳)  音楽之友社  1980
14.H・I・テホン  「パレストリーナ様式による対位法」  音楽之友社  1988
15.W・コルネルダー  「通奏低音の奏法」(角倉訳)  音楽之友社  1987
16.渡辺貞夫  「ジャズ・スタディ」日音楽譜出版社  1971
17.J・ミーガン  「JAZZ IMPROVISATION 1~4」(青井訳)  デルボ社  1969~1976
18.「総合音楽口座7  コード進行法」  ヤマハ音楽振興会  1989
19.黒住彰博  「古典的音楽理論から観察したジャズ理論の諸相」  エリザベト音楽大学
    研究紀要第14巻  1994
20.F・ティロー  「ジャズの歴史」(中嶋訳)  全音楽譜出版社  1993
21.「モダン・ジャズ=歴史と決定盤」  スイングジャーナル社  1995
22.「ベース&ドラムス」  ジャズ批評社松阪  1993
23.「完全コピー・ジャズ・スコア 1~3」  ヤマハ・ミュージック・メディア  1995
24.(MIDIデータ)「完全コピー Jazz Data 1~3」  ヤマハ  1995
25.小山昌之  「DTM打込みベース師匠」  スパイク  1997
26.篠田元一  「ザ・シンセ・ベース・プログラミングス」  リットー・ミュージック  1994
27.(パソコン・ソフト)「Singer Song Writer Lite」  INTERNET  1996
28.(パソコン・ソフト)「BAND IN A BOX 7.0J」  カメオインタラクティブ  1997

※この論文は、1998年3月に書いたものです。世間的には…未発表に限りなく近いです。
HP掲載にあたり、正しく表示されるよう記号文字を若干変更しました
ワープロのデータをMS-DOSテキスト変換し、PREタグを使用して掲載しています
見た目がズレている箇所もあると思いますが、ご勘弁を・・・

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