IONの filter

IONの設計思想には過去のanalog synthに対するオマージュというようなものが 他社の製品に比べてより多くあるようにマニュアルを眺めていた時に感じた点、 (開発陣の analog synthに対する造詣の深さと勝手に解釈しました....... 実際のところ 開発は andromedaの設計チームにより行われたそうです。)Andoromedaで実現できなかった3 OSC.構成と複数のVCFのシミュレションが特徴です。PreとPostのMIXERがあるのも某ANALOG Synthをリスペクトしてとのこと。Alesis originalのDSPを9器使用しています。

CPUはandromedaと同様 coldfireを使用。54MhzのMOTOROLA coldfire MCF5206e (50MIPS@54MHz)ちなみに16voiceのandromedaは75MIPS@90MhzのMCF5307Fを使用。


* DSP部 close up

9個のDSP device。(1個あた48MIPSだそうですが)、DSP chip AL3101 ( ALESIS "1K" ) は 1個で1voice担当*8とFX用に独立した1個の計9個使用。このためFXのvocoder機能とsynth機能は同時に使えるのでしょう。後に発売されたALESIS FUSIONに装備されたVA synthの方が性能/完成度は上のようですが.....。 またFXは下位機種のMicronの方が上位の仕様でReverbが使えます。 これはION/MicronのFX dspが大容量のRAMを搭載していないためでMicronでは新たに1chip ReverbのAL3201を搭載しているためです。


1 voiceあたり20種類の mode( ver1.05時点 ) を持つ filterを2系統装備しています。  2っのfilterは通常パラレル接続ですが、 filter1の出力を filter2の入力に mixすることができるので シリーズ接続も可能な構成となっています。

* filter type ( ver1.05 )

 * 00: bypass
 * 01: moog 4pole
 * 02: ob 2pole LP
 * 03: ob 2pole BP
 * 04: ob 2pole HP
 * 05: ARP 4pole
 * 06: TB303 4pole
 * 07: JP 4pole
 * 08: 8pole LP
 * 09: op 4pole HP
 * 10: 8ve dual BP (2pole BP *2 cutoff差1octave)
 * 11: 6pole BP
 * 12: phaser warp (8段 allpass filter)
 * 13: comb filter 1
 * 14: comb filter 2
 * 15: comb filter 3
 * 16: comb filter 4
 * 17: vocal formant 1
 * 18: vocal formant 2
 * 19: vocal formant 3
 * 20: 2pole HP+ 2pole LP (band width可変)

オリジナルのマニュアルでは filterは16種類ですが、 Ver1.05 の Voice Enginでは 上記のように20種類に増えています。

comb filterとvocal formant filterがあることによって soundに幅ができる感じです。  またfilterが2基あって並/直列接続できるメリットは大きいです。

filter offset modeによって 2っのfilterの cutoffが 指定されたoffsetをもちながら 連動して動きます。 filterの直列接続の際は両者がoffset分のseparation, bandwidthを持ったfilterとなるわけです。 つまりpole位置がそろっていない肩特性 の2段カーブになったfilterを作れるわけです。

offset mode時は filter1に加わるmodulation 要素はfilter2にも同時に加わります。  この際 filter2に加わる modulation要素は filter2のみに作用します。  要はMOOGのFILTER COUPLLERのような機能です。


IONはfilterの種類が豊富なのでことばではなかなかわかりにくいので、 以下に各filterの波形、 F特のグラフを示します。

注意項目としては cutoff全開でも filterによって filterの出力レベルは異なります。  また manualのcutoff parameterがmaxでも filter タイプによって cutoff周波数は異なります。

ARP, TB filterは入力レベルによって歪みが発生するようになっているようです。  その他の filterは基本的には歪まないようです。

moog 4pole LP と op 4pole HP filterは自己発振可能です。 発振可能帯域はおおむね300Hzから5KHzくらい まで。 GAINは極端に下がりますが8KHzぐらいまではかろうじて発振しているようです。 


* moog 4pole LP *


* Fc全開 resonance=0


* resonance大

このfilterは resonance maxで発振します。
ただし発振の引き金となる若干のノイズ成分やなんらかの信号、過渡的な変化がfilterに入力されないと発振しません。


* ob 2pole LP *


* Fc全開


* resonance大

ob 2pole filterは resonanceをmaxにしても発振しません。
また LP は 入力信号に対して出力信号は位相が180度ずれています。
基本的に正帰還タイプであるため resonanceを上げても通過帯域のゲインは減少しません。

analog の state variable filterと同様このfilterは HPと BP, BPとLPの位相差は90度、 HPとLPの位相差は 180度あります。



* ARP 4pole LP *


* Fc全開 mixer 出力大


* ARP Fc全開 mixer 出力 小

他のfilterと違い同じoscillator信号レベルでもクリップしやすくなっています。  また 少しHPF効果も入っていますので cutoff全開でも oscillatorの元の波形イメージ を保てません。

* 入力レベルの大きい正弦波入力時 ---> *
* 正弦波を入れても入力が大きいと歪んでいます。
 非対称ひずみなので奇数倍音が発生しています。
 filterとして利用せず soft clipperとしての利用方法もあるかも知れません。

* 上記の入力でcutoffを下げて resonanceを上げた時 ---> *
 高次の倍音が増幅される感じでしょうか。


* resonance大

クリップ、HPF効果によって中高域にくせのあるfilterとなっています。
本来は resonanceを上げると通過帯域が大きく減少するタイプのfilter
のシミュレーションですが、その効果は緩和されているようです。



* TB303 4pole LP *


* Fc全開 resonance=0

soft clipがかかっているようです。

* 入力レベルの大きい正弦波入力時 ---> *
* こちらは対称ひずみなので偶数倍音が発生しています。
 これも同様に soft clipperとしての利用方法もあるかも知れません。
 ARPとTB filterで 非対称、対称、両歪みがえられるというわけです。


* resonance大

負帰還タイプなので resonanceを上げると通過帯域が減少します。
これもくせのあるfilterです。



* JP 4pole LP *


* Fc全開 resonance=0


* resonance大

resonanceの効きはおさえぎみのようです。
そのためかresonanceをあげても通過帯域はあまり下がりません。
このfilterも入力信号に対して位相が180度ずれています。
入力信号のエッジが強調されています。

SH-1などの CA3080 *4 の 4段直列filter系のキャラクターが
出ているように思います。



* 8pole LP *


* Fc全開 resonance=0


* resonance大

いちばんスロープがきついLPF
上記と同様 このfilterも入力信号に対して位相が180度ずれています。
波形を見る限り上記のfilterの 8pole版?



* Phase warp *

8段の allpass filterによる 4 notch phase shifter
これ以降のfilterは波形よりF特を見た方がイメージがつかめます。



* comb filter 1 *

* comb filter 2 *



* comb filter 3 *

強力なflanging効果が得られるfilter

* comb filter 4 *

上記 3に resonanceをかけた感じのfilter



* vocal formant filter 1 *

3 bandの BPF。 "ah" と "oh" を 模倣する filter

* vocal formant filter 2 *

3 bandの BPF。  "oh" と "ee" を模倣する filter



* vovcal formant filter 3 *

5 band の BPF。 声道をモデリングしたfilterだそうです。
これだけでも vocoder的な音になります。


* IONのfilterの 周波数特性