SY1800 antilog 回路



* SY1800 antilog回路(Tr1.. Tr4は CA3046)


Hillwood synthの回路はnetを見ても見当たりません。 上記のSY1800 antilog 回路は現物の基板からトレースしたものでSY1800を所有されているLabさんからいただいた回路情報を元にこちらで手書きしたもので本邦初公開の画像だと思います。

SY1800は従来のanalog synthの音色合成方式とは異なる変わったMMSS方式という方法をとっておりVCOをリニアFMとして使用したり、さらにVCOをSYNCさせ音作りをするものでVCFは主役ではありません。 またこのSY1800は1977年当時としてはCA3080を大量に使用しためずらしいsynthでもあることが基板解析でわかりました。

SY1800のVCOは3基搭載されていますが antilogはMAIN VCOに1個のみ。ここではMAIN VCOのantilog 部分について見ていくことにします。

1: antilog amp
上図を見ると一般的な antilog回路と異なりますが本質的にはOffset補償に関して同様の動作をします。 またScale補償に関してはTempcoでもuA726等による恒温補償ではなく以下に述べるように当時としては画期的なVt(熱電圧)に比例した電圧を発生する回路とその情報をKBD CV生成回路のRef.電圧として使用することにより温度により Gain(Scale)の変わるKBD CV出力として使用することによりKBD CVに関してscale補償(*0)しています。

*0:
これだとOctave Transpose等で問題がおきるのでOctave CV決定のRef. 電圧にもこのVtに比例した電圧源は使われます。 この方式SY1800以外にもテクニクスのSY1010でも採用されているようです。 と言うことはSY1010の方が早い?(未確認)

KBD CVのRef.電圧に使っていることからCV/GATE IN/OUTをそなえたanalog synthには使えない回路ですがSY1800のように内部で完結しているsynthにおいてはすぐれた方法です。 Vtに比例した電圧を発生する回路ということでは CEM3374VCOと同じような仕様で、CEM3374ではVt電圧をCV DACのRef. 電圧に使うことを推奨しています。


通常のOFFSet補償はセンサーのTr.に定電流を与えることにより温度変化でVbeが変わることによってantilog用のTr.の動作開始点を可変するものですが、このSY1800の場合もセンサーTr.を定電流でドライブすることは同様ですが定電流化の方法が違います。 SY1800のOFFSET補償はCMP1のコンパレータとTr2による負帰還回路によってTr1の動作開始点をコントロールするものでTr1がantilog Tr.、Tr2がOFFSET補償用のTr.となります。

通常のantilog 回路は Tr2にあたる部分がOP AMPのFB Loop内に存在しますがこの場合はコンパレータとその外部に配置されたTr2の負帰還LOOPによって同様の作用を行うものです。 すなわち温度上昇によってIc2が増大すればCMP1の(+)端子の電位が下がるのでCMP1のOut putはマイナス電位に向って下がっていきそのことによりIc2は低下してCMP1の(+)電位は再度上昇し、(-)端子と同じになった所で出力は平衡します。

すなわちIc2は温度に影響されない定電流となっているので温度変化に対してTr2のVbeが変化しますから、通常のantilog AMP動作と同様のOFFSET補償になります。 当然この場合Tr3のVbeもTr2に追従して変化します。


2: Scale補償回路

CMP2とBufferのOPAMPとTr4によってVtに比例したOUTPUT電圧を生成する回路になっています。

Vtに比例した電圧を発生する回路
-----------------------------------
transistorの特性から
Ic = Is * exp(Vbe/Vt)
 Vt=kT/q ..... Vtは熱電圧と呼ばれる。(T=300Kで約26mv)

このVtは絶対温度Tを含んでいますからこれが温度変化によってScaleが変化してまう原因です。 このVtの情報を取りだせれば逆にVtをキャンセルする手段の1っになります。

Ic曲線の傾きは動作点の高い方をVbe2、低い方をVbe1、それぞれのIcをIc2、Ic1とすると、
  (Ic2 - Ic1) / (Vbe2 -Vbe1)

Ic2/Ic1 = Is*exp(Vbe2/Vt)/Is*exp(Vbe1/Vt) = exp(Vbe2-Vbe1/Vt)

上式からVbe2-Vbe1が固定ならVtの影響によって温度が高いほどIc曲線の傾きは小さくなります。

またVbe側から見ると
ln(Ic2/Ic1) = ln*exp(Vbe2-Vbe1/Vt)
ln(Ic2/Ic1) = (Vbe2-Vbe1)/Vt
(Vbe2-Vbe1) = ln(Ic2/Ic1)*Vt

となり温度が上昇すると(Ic2/Ic1)で示される倍率を得るためにはVtに比例してVbe2-Vbe1すなわち必要とするVbeの間隔が大きく必要です。

Ic変化のScaleは上記のように2点間のVbeの値に対する両Icの値差で決まります。
たとえばT=300K時、Vbe1、Vbe2値の差が18mVあればIcは2倍変化するが、温度上昇があればIcの差はそれより小さくなる。

逆に温度が変化しても(Ic2/Ic1)の値をたとえば2倍に固定できるようにすればT=300KではVbeの差は18mVとなり温度上昇があればVbe変化幅ががVtに比例して大きくなる。


* 温度上昇とIc曲線の傾きの変化

上図はT=300Kと320KにおけるIc曲線の変化を示しています。 Isの影響で温度が高い方が同じVbeでもIcが大きくなり逆に傾きは低下。



SY1800のVtに比例した電圧を発生する回路におけるIcの変化

上図のようにIc曲線の左端を両者であわせると2倍のIcになるのに必要なVbe2−Vbe1の値の差がわかります。T=320Kの方が T=300KよりVbeのインターバルが大きいことがわかります。

SY1800のVt検出回路では1個のTransistorに対してIcを一定に与えることでVtに比例した電圧源を構成しています。 まず、Tr4のコレクタをantilog ampのOffset補償部分(Tr2のエミッタ)に配置してIcの開始点を温度変化に関係なく固定しています。 さらにTr4に開始点のIcより大きい定電流をCMP2、BufferAMP、分圧回路、Tr4からなる負帰還ループで発生させています。 これによりIc4は温度に影響されない定電流源となります。

たとえばT=300K時、Tr4のベースを0Vとした時Vbe4が0.6VとするとVeの値は-0.6V、これがT=320KになるとOffset補償でIcが一定値になっているので1度の温度上昇に対してVbeは-2mV下がるのでT=320Kでは40mV下がりVbe4'=0.56VとなりVe'=-0.56V。 ここでIc4の大きさを2倍にするとT=300KではVbe=0.618V、T320Kでは上記Ic2/Ic1の式からVbe'=0.5792Vとなります。

またこのVbeを得るためのVinは T=300Kでは18mV、T=320Kでは19.2mVとなり温度上昇でVtに比例して大きくなっています。



SY1800のVtに比例した電圧発生回路において、Vcc=+12VでありCMP2のOPAMPは(+)(-)端子が同電圧になるように動くが(-)端子の電圧は約9.2Vなので(+)端子のR2による電圧降下が2.8Vになるよう Ic4が2.8/2.2k=1.2mAになるような動作点で動いていることになる。

OP AMPの FBループがなければ上記動作点でのIc4は温度上昇で低下するがOP AMPの(+)(-)端子は同電圧にならなければならない必然からOPAMP OUTが上昇しTr4のVbe4を増加させIc4を温度上昇以前の1.2mAに戻す。 すなわちIc4を増加させるためにVbe4は大きくなり、そのためにはOP AMP OUTが増加する必然がある。

Out Putの電圧をSPAN VRで可変しTr.4の Vbに与えれば OP AMP OUTの変化の大きさを変えられる。 下のグラフのように温度変化にリニアに比例した電圧をCMP2出力は発生している。



* 温度変化に比例した OUTPUT(SY1800回路)

温度変化に対して出力Vref.はリニアな比例関係になっています。

<2021/03/02 Rev0.5>
<2021/02/28 Rev0.0>