過変調

過変調時の各波形を上に示します。

Fcl=440Hz
fm=440Hz
ΔF=660Hz

ΔFが660Hzなので、変調波がマイナスになる時のピークでは 440-660=-220Hzで マイナスの発振周波数になってしまいます。 マイナスの発振周波数とは何か変です。

これはちょっと考えにくい概念とも言えますが、analog VCOで考えると案外わかり易いです。 これは0Hz以下の周波数ということではなく、VCOを発振させている要素の一つは電流量なので電流の流れる方向が逆転してcapacitorの充電方向が逆になると考えればいいわけです。

結局図のように変調波による変調でキャリアの発振周波数が0を超えたら変調波の変調波形は0Hz以降は波形が折り返してひっくり返ることと同じになります。

analog VCOとしての解釈はそれでいいとして汎用の式、 E(t)=SIN{ 2πFcl*t + (ΔF/fm)*SIN(2πfm*t) } との対応はどうでしょうか。

結局それは SIN{ }の括弧の中の項  2πFcl*t + (ΔF/fm)*SIN(2πfm*t)の微分結果がどうなるかということです。 (ΔF/fm)の変化に対する微分要素の変化を示します。

上図でわかるように (ΔF/fm)=m の値が1.5の時 値が0を超えてマイナスになっています。 上図の波形は変調がかけられる前のSIN波の進行を司る要素(つまり位相の累算値である直線上昇要素)変調波を足した物を微分した波形なので、この図はキャリア波の初期周波数を決める要素より変調波のマイナス振幅が大きくなればマイナスになってしまいますよと言っているわけです。(DCオフセット分がキャリア波の初期発振周波数を決める要素)

SIN{ }の 括弧内がマイナスになるということは SIN波の回転がマイナスつまり逆転することなので上記のVCOの反応と同じになるのがわかります。

位相の進行の累算値である直線上昇が微分されて一定値、つまり等角速度運動で通常のSIN波が発生して、それにSIN波で変調を掛けた時の微分値が加速度としての COS波となります。

ピッチの変動のありなしは キャリアの1周期の区間内でのCOS波単体時の +、-成分の面積で決まり、また上記グラフの曲線がプラスであるかないかで、過変調であるかないかが決まります。


キャリア波形の変形に関与しているのは変調波の微分要素なのでこれとキャリア波形の関係を見ていくことにします。

微分要素も変調波と同様過変調になるとマイナスの数値を示します。 微分要素はこの場合COS波なので変調波より早くその区間がやってきます。 過変調区間は上図のように波形が折り返すのと動作上は同じです。

上記の例では変調度が高く m=ΔF/fm=1.5になっているので変調波が0から90度動く間に約 29*3=87度読み出し位相角が進むことになり上図を見ると変調波の微分波形が90度の時点でキャリア波形は180度近くまで進行(90+87)しているのがわかります。

変調波の微分波形が90度から180度の範囲はマイナス進行になるのでこんどはキャリア波の進行がゆっくりに なります。 変調波の微分波の進行があるところまで行くとキャリア波の発振周波数が0Hzになってしまうところにきます。 0Hz以下の周波数はないのでそこから微分波の折り返しが始まり発振器の capacitorへの電流の充電が逆方向に働くようになります。

この為上図でいえばキャリア波の進行が逆方向に動くのと同じになり波形の読み出し方向が逆転するのと同じことになり、前きた道を戻るように振幅は推移しますので結局キャリア波の振幅変化の軌跡はキャリア波の90度 から現在までの軌跡を逆にたどるような形の進行となります。

この反応は変調波が過変調している区間の間続きます。 よって変調波の微分波の90度から180度までの間のキャリア波は振幅の小さい波となり、また上記の反応の結果0度から180度までの進行に対してキャリア波は0度から360度進行している形となり周波数が2倍になってしまいます。

変調波の過変調が終わる区間に入ると逆方向の充電区間は終了して正常な方向の充電に戻るのでキャリア波の読み出し(進行)は正方向に戻ります。


* キャリア波の進行(読み出し)

上図の 2が過変調時のキャリア波の読み出しとなるわけで、ループ区間が生じるのと同じことになっているわけ です。 過変調が終了すると3の正常な流れになります。


さらに変調度を上げた状態の波形を上に示します。 変調度を上げると過変調部分の振幅が増加していくのがわかります。 さらに変調度をあげると0度から90度区間の位相進みがさらに増えるので0度から90度間に波形の一周期以上の波形がはいってしまう形になります。

また変調波の微分波が大元の変調波の2倍の周期の変調波に見える区間ではキャリア波形が方形波の波形に近くなっています。

変調波のSIN波(COS波)を2倍にするには簡単にはSIN波を全波整流すればいいわけで上記の折り返しが変調度を高くしていくと全波整流と同様の効果をかもしだしているというわけです。

キャリアのピッチはさらに上昇しますが、元のキャリア周波数とは整数倍の関係を保っています。 また微分波形の過変調部分の折り返し波形の最低値も上昇しているのがわかります。



* キャリア周波数が0の場合の反応

上記の反応は初期設定のキャリア周波数を変調波の変調が下回ってしまう結果の反応ですが、それであれば初期設定のキャリア周波数をなくしてしまう、つまり0Hzに設定した上で変調をかけてみた場合はどうなるのでしょうか?。 つまり、

 E(t)=SIN{ 2πFcl*t + (ΔF/fm)*SIN(2πfm*t) } の式が,
 E(t)=SIN{ (ΔF/fm)*SIN(2πfm*t) } になるということです。

SINと SINの入れ子状態というわけですが、通常のSINのように等角速度運動をするわけではなくなるのでちょっとむずかしいですね。

たとえば ΔF/fm=2、fm=440Hzの場合を考えてみると SIN(2πfm*t)は 1/440秒で1周期(360度)動く SIN波で振幅は+/- 1です。 これがSIN波を読み出すと考えればいいので、入れ子の中のSIN波の振幅が1*2の時、(2/2π)*360度=116度で、116度分外のSIN波を読み出すことができます。

ということは SIN波の振幅が-1*2の時 -116度分外のSIN波を読み出すことができるということです。 つまり入れ子の中の SIN波の1周期で外のSIN波の+/- 116度分の範囲までしか読み出すことができないということです。

また入れ子の中のSIN波は周期運動をしているので出力波形は変調波の周期を反映したものにはなります。 ちょっと考えにくいのですが、入れ子の中のSIN波の0度から90度までの動きで、外のSIN波の0度から116度までを読み出すということです。

この為 入れ子の中のSIN波の90度から180度では、外のSIN波の116度から0度までを読み出すという逆転劇がここでも起こります。 さらに中のSIN波が180度から270度では外のSIN波の0度から-116度まで、中のSIN波が270度から360度では外のSIN波の-116度から0度までの読み込みになります。


ΔF/fm の値が大きくなれば外のSIN波の読み出せる角度が増えるので波形も変化します。 ΔF/fm の値が小さければ読み出せる角度も小さいですし、かつ出力振幅も小さくなります。 ΔF/fm=1.5で87度だから約90度で振幅は最大値になるので結局出力振幅はオリジナルのキャリア波振幅以上にはならないわけです。 大変ユニークな反応だといえるでしょう。

結局上記の動作はキャリアの初期設定値が存在する通常の動作時も同様に働いていることなのですが、キャリアの初期設定値が0であることによってより動作が明確になっているわけでこの部分がFM音源の本質だということです。


上図にmを可変つまり変調度を可変した場合の出力波形の変化を示します。 mが3.14(つまりπ)より小さい場合は変調波のピッチを保っていますがそれ以上大きくなるとピッチが大幅に変化していきます。

図において変調度をあげていって周波数は変化しても真ん中の波形のキャラクターだけは多少幅が変化してはいますが継承されています。



変調波をSIN波以外にした場合のグラフを以下に示します。

上図のように変調度が少ない場合はオリジナルの変調波に近い形の出力波形となり、変調度が上がれば複雑な形の出力波形になるのはSIN波の場合と同様で、変調度が上がって出力波形の周波数が大きくなってもSIN波の場合と同様波形の特徴的なキャラクター部分は保持されます。


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<2018/12/03 rev0.1>
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