c KORG EPS1 (1983)

KORG EPS1 (1983)




KORG初のanalog PF(piano) LP10が発売されたのは1980年と他メーカに比べてanalog PFとしては出遅れた感がありました。これはKORGがpolyphonic Ensemble系のKBD PE1000/LAMBDAを発表しておりこれらがPIANO タイプのEnvelopeを備えていたからだと思います。LP10は全鍵発振による従来からよくあるanalog PIANOでした。

1982年初頭?、次のanalog PF SP80/SP80Sが発売されます。これはLP10よりもよりホームユースを狙ったPFでKORG KBDでは初のtouch senseを備えたKBDでもあり、LP10と異なりTrident/Poly6に続くKey assigner 方式を用いた8voiceのKBDで発振器はROLAND EP09/Juno6と同様なTimerIC8253を使用したものです。LP10とSP80と間は少し年月がたっていますがこれはおそらくその間にPoly6/Mono Polyの開発があったからではないかと想像します。

KORGが家庭用KBD分野に進出するための第一弾としてのanalog PFがSP80/80(S)でそれより半年程度先に発売されたAuto backing 機能が付いたKBDがSAS20でどちらもスピーカーが付いています。

SP80SはKORGらしくSP80にStrings synth機能を付けたものです。1983年初頭になるとこれをLM用にデザインしたCombo EPFとしてのEPS1を発表します。EPS1は天板に他のKBDを置けるような形になっておりこれは他メーカーのCombo EPFと同様なのですが奥行きが足らず実際はKBDがおけません。 そのこともあってかごつい本体一体化ケースをつけた状態ではKBDカバーを後面にとりつけるとKBDが置けるという形になります。本体の奥行きは短くする必要があったのか?。

1983年初頭というとMIDI規格ができた直後ということもあってかMIDIはまだ搭載されていません。この時期としてはまだ各社ともMIDI対応の初号機がやっと発売された時期でKORG初のMIDI機器であるPoly800が出る前でした。EPS1はKORGのpolyphonic ENS. KBDのいわば集大成なanalog poly KBDとも呼べる機種です。このこともあって個人的にはsynth以上に以前からESP1には興味がありましたがsynthではないためかNetでも回路情報は皆無。 オークション等でもあまり見かけない機種ということもあって発売当初は現物も音も聞いていましたが以後本物にふれる機会もなかったです。時たまオークションに出ることもありますが重量もけっこうありかつケース付きの場合はかなり大型な機材のため入手までいたらず。

その後EPS1を入手。現物を見ると当時のことがよみがえる感じがします。実物に接して意外だったのはKBD Unit。DW8000やDSS1と同様な松下の錘つきの高級鍵盤と思いきや、poly6等に使われている松下の廉価版KBDに錘をつけた物でした。このため支点から打鍵位置までの距離は少ないタイプでした。これは意外でしたが錘つきのためpoly6の鍵盤よりははるかにいいです。ガタイがでかいこともあってMIDIがついていればmasterKBDとしても使えそうなのにMIDIがないのが残念です。

1982年当時、まだvelocity対応のPolySynthはほとんどない時代でした。少なくとも国産ではCS80くらい?。Analog poly KBDでvelocityに対応していたのはYAMAHA/ROLANDのanalog EPFやYAMAHA GS1/2という初期のFM音源PF、Hillwoodの一部のanalogEPFやPearlのpolysensor、PK701/801。 電子KBDでなければYAMAHA CP80/70、コロンビアのエレピアン。海外の市販品ではARPのARP PIANOやARP Chroma、MOOG PolyMOOG、ヨーロッパのメーカのanalog EPFなど。

このような状況にあって1983年 YAMAHAがvelocity対応の音色変化を大々的にアピールしたDX7が発売されるのでした。analog EPF時代のvelocityに対する音量処理のテクニックとしては"シンセサイザーと電子楽器のすべて” 1980/1981 誠文堂新光社)でROLANDの技術陣が解説を書かれています。ちなみにKORGが次のホームユース向けPIANOを出すのは1986年の4OP FM音源のDP80でそれ以降はPCM音源によるC4000などのDigital PIANOであったと思います。

これを機会に内部回路等をさぐって見ました。EPS1の印象としてはさすがにVC Filter等が搭載されていない固定filterのanalog PFなのでPFの音はそれなりなのですが。きょうびEPS1を入手したのはPFというよりはおまけでついているstringsの音に興味があったからで実際analog stringsとしては上質なものでした。この機種以降はpoly synthが普及していくこともあってこの種のpoly KBDは作られなくなってKORGがLM向けEPFを発売するのは1986年のPCM音源+analog FilterのSG1となります。

この手のpolyphonic KBDはpoly synthに比べてcost面等制約があるためanalog 回路的には色々な工夫があって回路的にはとても面白いものです。analog PFは現在のPCM音源やFM音源と比べて音色変化の乏しいのでリアルな音は望めません。 EPS1では音源を2系統のLong EG toneとShort EG toneの2系列を用いることによって音色変化を出すようになっています。とはいえ所詮Anlog方式のEPFですのでリアルな音は望めないですがEPS1ではpresenceというVRがありこれを調整するとよりattack感が強調されいい感じの音になります。これは基本的にdistotion / exciter回路で音量レベルが大きいほど効果が増大される原理を使っています。このようにこのanalog PFの構造はかなり凝ったしかけが施されています。

EPS1の概観は初期のPolyKBD PE1000によく似ています。 ケース一体化のPE1000はたいへん重かったですがこのEPS1は本体17Kgで一体化できるケース込みでは27kぐらいはあるかと。ケース一体化するととてもかっこいいですがおそらくケース込みでスタンダードなEPFに近いたたずまいを狙っているのでしょう。

このEPS1をもってPE1000から始まるKORG polyphonoc ensembleの系列のKBDは終了します。


* netでも見たことのないEPS1の内部基板



回路構成

8253使用の初のPolyKBD ROLAND EP09と比べるとかなり大掛かりな回路構成です。この構成は下の方で説明しますがこのような構成ができるのも従来からある全鍵発振の音源でなく8voiceのKeyAssignerを使った音源であるので1voiceあたりにかける資源が全鍵発振にくらべ多く取れるため可能なことです。

実際EPS1よりは前の70年代analog EPFのYAMAHA CP20/30あたりの機種は全鍵発振でEPS1のように2系統のEnvelopeで音色を作っているようですがとても大掛かりな回路構成になっています。 その後のCP25/35といった機種はKeyassign typeの16音Polyのようで音源にはパルス波音源というものが使われています。ちなみにCP35は本体重量50Kgだそうです。

ROLANDもEP09以前のanalog EPF、RD700/600/EP10などは全鍵発振だと思われます。RD700は当時のROLANDの自信作らしく気合の入った作りが印象に残っています。PearlのpolysensorはKey assign方式の8音polyですがpolysenseの回路はいったいどんなものなのかこれらの機種のservice manualを入手したいものです。(この時代のEPFのschematicsはとても少なく貴重)



* 内部基板 Close Up

上の左の基板: PIano音源EQ(KLM428)
上の中央の基板: Piano音源ToneFilter郡(KLM429)
上の右の基板: String VCA/EG/EQ/2相Ensemble chorus(KLM422)
真ん中の基板: PF Chorus/tremolo(KLM406)
下の左の基板: 2系統Piano VCA/EG(KLM417)/Piano波形生成(KLM418)
下の中央の基板: CPU/8253 Timer音源(KLM424)
下の右の基板: 電源(KLM405)


* EPS1 ブロック図(一部間違いあり)


基本事項としてpolyphonicなのでEGはVCEGである必要があるのですがPIANO音色はDecayTimeは意外や固定でstringsのみVCEGになっています。 現時点で回路を十分理解していませんし、実機の信号をオシロで追って調べてはいないのでおおまかな動作概要ですが以下に暫定版を示します。


1: Base Tone generator(KLM424)
CPU=uPD780 /Timer=8253*3/8255*1/LS138=(Kbd scan port)
音源は8253でKeyScan信号はLS138経由でdiode matrixにつながっている。8255は3個のTimer IC制御とPF/Strings用のGate信号生成に使われる。

Gate信号はPFで16個、strings用8個。KBD信号は34個。KBD matrixにいく線は14と20だが回路図にKBD周りは明記されていないので詳細不明なので実機で確かめる必要がある。 KBD接点はコンタクトが1系統なのでどうやら1接点のようだが下の写真を見ると真ん中の導電ゴムと周囲の導電ゴムに段差があるのでこれは2接点KBDのようにもとれるがはたして。

ちなみにこのころICのDACは非常に高価であったためPoly synthにおいても抵抗ネットワークによるDACが主流。 ましてやSynthでないanalog EPFにDACを使用することなどなかったのだろう。鍵盤からのvelocity検出はCPUによってDigital的に行いVCAに対するvelocityはCPU無しのanalog PFのような純然たるanalog回路で行っているようだ。 すなわちEGを含むveocity CVはDACがないので発生されずanalog EGとGate信号でVelocity対応EGを発生させる。 はたしてstring sectionのVelocity対応信号はどこにあるのか?。

analog poly synthにおいてもhard EGによるVelocity制御はそれなりにたいへんなのでSoft EG以前のpoly synthでさえvelocity対応機種はほぼなかったような状態のなかcostをかけられないanalog Poly KBDでそれを実現するための隠し技的な回路だということ。


* KBD接点

2: PIANO 波形生成 MIX(KLM418)
源信号の矩形波が2段の4013 D-FFを通って1/2octave低い矩形波を生成それらが複雑にMIXされLong/Short波形となる。

Long Tone
1oct Down
2oct Down
2oct Downの矩形波のピッチが基本周波数で1oct Downは倍音という扱い。Long toneは8253 outの源音はMIXされない。 2っの矩形波がFcの異なる1次LPFを経てMIX

Short Tone:
normal:
1oct down:
2oct down:
こちらは8253の源恩もMIXされているので8253の周波数が一番高い倍音となり、Short ToneはLongToneに比べてDecayの短い倍音の多い音となる。3っの矩形波がFcの異なる1次LPFを経てMIX。

Short Toneの方が倍音が多いということ。 この場合LPFを構成するCap.は各toneで共通でRののみ異なるという簡略化がされているということと当然8253の出力周波数がことなれば音域によって音色が異なるということ。

KLM418回路概要....準備中
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3: PIANO EQ(KLM428)
よくあるBass/Mid/TrebleのEQであるがStereo 2系統つんでいるのが特徴でこれはTREMOLO回路がStereo仕様であるかららしい。 stereoEQの後にはPF音源OFF用のFETによるGateSWがありその後最終出力用のBufferAMPがある。

4: PIANO VCA/EG(KLM417)
PF/Strings供VCAはKORGお得意の2Tr.VCAであるが通常タイプではなくMono/Polyで使われたタイプ。 PF EGはDecay Timeをユーザーがいじれる仕様ではないがEGのvelocity処理をanalog 的に行っているようで大変複雑でありEPS1の真骨頂的な回路で一読では動作がまったく理解できない。 またPFVCA/EGは1voiceあたり2系統でLongToneとShortTone別々にある。

Velocityに対応した値をEGに供給する際velocityの効きを調整するDynamics Volに対応した処置は各voiceに行う必要があるが8連VRを使うわけにもいかないのでVCRを使う必要があるがよくある高周波信号のパルス幅を可変して analog SWをコントロールするのと同様な原理でここではDiodeに対してそのような処理で実現。

おそらくKeyDynamicsに対応したanalog VCEGがこのEPS1で一番凝った回路かとおもわれます。

KORG 2Tr.VCAの怪?
KORGおとくいの2Tr.VCAですがこれはMS20の後期versionからTrident MKIIまで使われていますがその変形versionとしてMONO/POLYからはTransisterの接続が異なる2Tr. VCAが使われておりこのEPS1/SP80(S)やSAS20といった機種に使われています。同じKORG製品でも同時期のTridentMKII/POlY61では従来からある2Tr.VCAが使われています。設計担当者の違いによっておそらくこのような結果になっているのでしょうがどのような違いが実質あるのでしょう。

KORG2Tr.VCAの動作
KORG2Tr.VCAの動作(MONO/POLY type)

KLM417回路概要.....準備中
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5: PIANO Tone Filter(KLM429)
基本、固定filter郡によって音色を作るが各音色に対してLong ToneとShortToneの分量を変えることで変化を出している。ここらへんはKORGM500等のpreset mono synthのテクニックが生きているのでしょう。

6: Presence EQ / Distortion(KLM428)
各voiceに簡易Distortionが搭載されておりLongTone出力のみが通過しShortToneはスルー。その後にpresence SW on時はpresence用EQ(全体で1っ)を通過。
KLM428回路概要.....準備中
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7: Chorus /Tremolo(KLM406)
BBDによるPF専用ChorusとPhotoCouplerによるTremolo回路。Chorus回路の後の信号はChorusと原音が別Chの2系統となりそれが2CHのTremolo回路に入る。

8: String VCA/EG(KLM422)
String Soundは回路構成からもKORG DEltaに近い感じですがDeltaほどダークな感じではないかと。擬似SAW波の生成がDeltaでは4octave矩形波MIXに対してEPS1では3octaveの矩形波MICXです。矩形波からSAW波を発生する回路は基本KORG TRIDENTの2nd VCOと同様。8253の矩形波出力を2段のD-FFに通し3octave分の矩形波を抵抗MIXすることにより擬似SAW波を作りVoiceごとに独立したVCAに入ります。VCAはPFsectionと同じ2Tr. VCAです。StringsのEGは Attack/Release可変であるためVCEGでなくてはならない。

KLM422回路概要.....準備中
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9 Strings Emsemble(KLM422)
KORG Delta/VC10などに使われているBBD 2相Chorue ENS. LFOは3相の高/低speedの2系列LFOが2組。2相といえども源音とまぜるので実質3系統の音源にはなります。これらがMIXされた後のもう1段StringPartVCAが続きます。 これはおそらくNoise Gateのかわりなのでしょうか?。

10: Strings Gate/EG clock(KLM430)
VC EGのVCRはanalaog SW 4066のCont.端子を高周波Clockで変調したものでパルスの幅で抵抗値を可変している。高周波発振器の矩形波のパルス幅をかえる回路は矩形波をFilterで加工してなまらせたものをコンパレータにかけOFFsetの直流電圧を可変することで得るといういかにもanalog synthh的な発想。

さらにattack TimeはVol.についているSWををPull ONするとvelocityでattack timeをコントロールできる仕様でAttackをコントロールする方法は先の説明のとおりClockの幅をVeloctyで可変しており、これは各Voiceごと独立にvelocityがattack Timeに関与するのでなく全Voiceに同じ値でかかるのは当然だがこのvelociy要素も各Keyに対するvelocitを個々に反映できる回路構成ではないので1ゅのvelocityに対して反映しているのだが、その際のvelocityはどこの信号からくるのか回路図を見てもよくわからず謎。

service manualにある回路図は一部はしょられているところがあるのと各基板に対する入出力信号線の関係がよくわからない。

KLM430回路概要.....準備中
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11: Strings EQ(KLM431)
よくあるEffector等のLOW/HIGHのシェルピングEQ。EPS1は音域が広いのでEQというよりは高域、低域のLevelScaling的なEQ

12: Power supply(KLM406)
+5V/+15V/-15Vの3電源で3端子Reg.使用。



<2023/04/02 rev0.0>