=========================================== トランジスタの飽和領域と逆(方向)トランジスタの動作 (飽和領域でコレクタに+/-の信号を印加した時の動作) =========================================== 通常、トランジスタは活性領域で使用するのですが、analog synthには有用な、飽和領域について考えて見ます。 飽和領域の本質を理解する鍵は普段は影にかくれている逆(方向)トランジスタのふるまいです。 飽和領域とは トランジスタの 2っのPN接合において VbeとVbcが供に順バイアスされる 状態です。 通常の増幅動作では Vbe順バイアス、Vbc逆バイアスで使用するわけです。 飽和領域においては正トランジスタと逆トランジスタの動作が同時に働く状態になるの です。 このことは、通常の正トランジスタの活性領域動作においては逆トランジスタの性質が表面化しないように B-C間のPN接合(diode)を逆バイアスしているということを意味します。 逆バイアスしてしまえば Vbcというか Vceが逆バイアスの範囲で変化しようとも Icは 原則 Vceに左右されない、すなわちIcの定電流性という不思議な性質が生じる わけです。 またトランジスタの逆接続というのがあります。 これはコレクタとエミッタを通常 の接続とは逆に接続すること。 すなわち B-C間のPN接続を主としB-E間のPN接続 を無効とするような使い方です。
Vbeを固定してVceを+から-まで変化させると、正トランジスタの活性領域 --> 飽和領域 ---> 逆トランジスタの飽和領域 -->活性領域、と変化します。 エミッタ領域とコレクタ領域の構造の違いから、逆トランジスタの活性領域での hFE (βr)は非常に小さく 普通のトランジスタでは1から6くらいだそうです。
上図はトランジスタの動きを等価モデル化した Ebers-Mool modelです。 これを見るとトランジスタというのは 2っのdiode( B-E間、B-C間) とそれぞれのdiode 電流をαF, αR倍した方向の異なる2っの定電流源で表されます。 すなわち上述の状態の遷移は正トランジスタ(B-E間のPN接続主体)と逆トランジスタ (B-C間のPN接続主体)の力関係のクロスフェード状態を意味しているわけです。
正トランジスタと逆トランジスタの各電流値を重ね合わせることで最終的な Ib,Ic,Ie(表に見える電流変化)が求まります。 最終的なIb,Ic,Ieと正、逆トランジスタのIb,Ic,Ieの関係式を以下に示します。
* キャリアの流れを上のように定義。(Ibrに比べてIbfは微少なので無視できる)
正transistor
逆transistor * NPN Trでは電流方向はキャリアと逆の向き
* Icf= Is* exp(Vbe/vt)-1)
* Icr= Is* exp(Vbc/vt)-1)
IC,IB,IE transistorの外から見た流れ。
βr=1の時 上式から、IbfとIbrはともに同方向、 Icf,Icr, Ief,Ierは逆方向の増加、減少と なります。 これはベースが正、逆トランジスタにおいて共通の入力端子であり、 コレクタ、エミッタは正、逆トランジスタで反転しているからです。 B-C間の順バイアスが大きくなると、Ierの増加が Iefに対しての反力となってIef を抑えるため、結果Iefは低下する。 βr=1の時Vce=0においてIef=Ierとなるため 理論上、正Tr.主体、逆Tr主体どちらの場合も IE=0です。
B-C間が逆バイアスされていれば,Ier,Ibr,Icrは最小。
* PN接合 = 可変抵抗体? * トランジスタのVbe-Ic特性は指数変化なので ΔVbe/ΔIbは IbつまりはVbeの値で変化 する。 この ΔE/ΔIは微分抵抗と呼ばれこのことがトランジスタ、ダイオードが可 変抵抗としての要素を本質的に内包しているということです。 またIbとIcは比例関係にあるのでΔVbe/ΔIcも Vbeの変化に応じて変化します。 またこの逆数ΔIc/ΔVbeはコンダクタンス(gm)でありトランジスタの増幅度を示す パラメータのひとつです。 増幅度と減衰度(抵抗値)が大元は同じ要素だというこ とです。 この指数変化はPN半導体の基本性質なのでダイオードにおいても電圧と 電流の関係は同様です。 r =(kt/q)/Ic
r: dynamic resistance(微分抵抗)
トランジスタにおいても B-E間においてはダイオードと同様の反応です。 これは Transistor ladder VCFとして有名です。 ではIbとIcが比例関係にあるのだから VbeとIcの関係すなわちC-E間は可変抵抗として機能するのか ということを考えることになります。 トランジスタは2系統の経路(B-E, C-E)があるので信号をC-E間に与えることができれ ば上記のバイアスの経路と信号の経路を分離できることになります。 これは通常の トランジスタの使い方からすればたいへん奇妙な接続です。 通常の使い方はB-E間 に信号とバイアスを重畳しC-E間には固定電圧を与えるのですから。 しかし C-E間に信号を加えることが可能であればC-E間経路が抵抗体になることなので たいへん便利なのです。
上記のダイオードやトランジスタのB-E間においてはあらかじめバイアスをかける必要があるため微小信号の+/-で電流方向は反転すると言うよりはバイアス点が変動するだけで 0をはさんで電流方向が反転することはありません。 またバイアス電圧をかけたことにより信号電圧が0でも電流は発生しますし、バイアス電圧を動かすと信号電圧0V時のバイアス電流も変化します。
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* Ic -- Vce特性から見えるもの *
ここでは通常のトランジスタの入出力関係に注目して、入力側の電流Ibに対する 出力側の電圧変化Vce、電流変化Icを関連付けたグラフを見て見ることにします。
上図はよくある transistorの Ic -- Vce 特性です。(アーリー効果は無視) Ibを定電流で固定しているのでこのグラフは Vceの変化に対する hFEの関係を 表していることでもあるわけです。 +Vceが低い領域においてIcはVceの値で変化してしまいます。 逆に+Vceが高ければ IcはVceに依存せず一定になります。 このVceでIcが変化する部分が抵抗特性を示す領域ということになります。 抵抗ということであれば Vceがマイナスでも抵抗特性を示すのでしょうか。 -Vce側は変化が+Vceに対して変化が少ないですが -Vceが大きくなるとこちらも 一定値に収束します。 (-Vceの領域は逆Trの領域です) 正トランジスタにおいて、+Vceが十分高いときすなわちVbcが逆バイアスされて いる領域が活性領域で IbをhFE倍したものがIcとなります。 逆transistor 非飽和領域 ---- 飽和領域 ----飽和領域-----正transistor 非飽和領域
逆にVbcが順バイアスされるとhFEの値が低下します。 この領域を飽和領域 といいます。 この場合IcはVceの値に追従して変化しているように見えます。 ここで Vceがマイナスになる領域では Icも符号が反転してマイナスになって います。 Vbcが順バイアスであることには変わりはないのですが。 つまりここではもう逆transistorが主体で正transistorは主体ではないので、 逆transistorとしてはこの方向の電流が正というわけです。(コレクタを基準電位 にとればエミッタはプラス) また-Vceが大きくなると-Icが一定に近づきますが -Icの値自体はIbの値とあまり 違いがありません。 すなわち逆トランジスタのhFEは小さいということです。 ( 上図の 逆transistorのhFE、βrは 1になっています。) IcとIbの差は小さいため早くに正常な逆トランジスタのhFEになる?。
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* 正、逆 transistor IbとIcの関係 *
VbeとVbcを同じ値にした時(上図でVce=0の位置すなわち主PN接合=従PN接合時の飽和レベルMAX)ではどちらの接続時もIbは同じ値になっておりIeの値も0です。 逆に活性領域に近づくにしたがって正トランジスタのIbは微小になっているのに対して逆トランジスタのIbはあまり変化していません。 これは単純の正Tr.のIbが小さいためすなわち正Tr.のhFE>> 逆方向Tr.のhFEなためで、 逆TR.側を主にとればほとんどIbは変化せず、逆Tr.を主に取れば Ibrの変化がそのまま出るためです。 IB=Ibr+ Ibf
トランジスタの動作というのは最初に述べた通り正トランジスタと逆トランジスタの動作のせめぎ合いですので、トランジスタ外部から見える Ibの変化はトランジスタ内部ではIbf(正トランジスタのIb)とIbr(逆トランジスタのIb)との和となります。 (IbfとIbrは同じ方向)
正トランジスタ:
逆トランジスタ:
Ib=Ibr+Ibfなのでたとえば正トランジスタのVbe=0.6Vとした時の活性領域におけるIbと逆トランジスタのVbc=0.6Vとした時の活性領域におけるIbとの差は βf/βrほどの違いがあるということ。
* 飽和動作領域 * *: 以下に正トランジスタの Vbe一定でVceを変化させたときの電流特性を示します。
* 電流の定義
正transistor内部の動作 逆transistor内部
Ier エミッタ領域に向かうキャリア(エミッタからコレクタに向かう電流) 正transistorと逆transistorの全キャリア量の IcrとIefのせめぎ合いの結果がtransistor外部からみた時のIc,Ie,Ibとなるわけです。
IerとIcfは逆方向、IbrとIbfは同一方向です。
3: 上図において Ic, Ieは連続な曲線であるが、逆トランジスタが活性する領域ではIc, Ieが負の値になるので、曲線が連続でも状態が逆転するのである。
* 逆トランジスタの Vbc一定でVecを変化させたときの電流特性
今度は逆transistor主体で考えます。 本質的には飽和が強くなるとメインであるトランジスタと対峙する一方のトランジスタのIbが急激に増加する反応であることに変わりはありませんが、正トランジスタ時と異なるのはIeに対するIbの値の大きさです。 逆transistorが活性化している時,Ier=Ibrで Ier*2=Icrとなる。(βr=1の時) Vecが十分大きい、すなわちVbeが逆バイアスの領域においてはIbとIeの関係は一定でありこれをhFErとすれば、逆トランジスタのhFErは小さいということになる。 但し、正トランジスタの特性測定時のVbeの値とこのVbcの値を同じにした場合、Ibは 正トランジスタのIbよりはるかに大きいし、 活性領域における全電流としての正トランジスタのIeより、活性領域における全電流としての逆トランジスタのIcの方が大きくなっています。 Vecが小さくなると B-E間のダイオード作用が活性化してしまうのでIbが指数的に上昇するが正トランジスタのように変化は大きくない。 これは正トランジスタのIbが小さいため影響がでにくいということであり、一方Ie,Icは正トランジスタの場合と同様に低下する。 これはコレクタからエミッタ、ベースにやってくる電流の大元のIcrが指数的に増大することからくる反応であり、IcrがIbrとIerに分流する際にIbrに分流する分が少ないのでIbの変化は少ないということである。
現実的なトランジスタではβrが1から7程度のようなのでこの値が大きくなるほど逆Tr.のIbの影響が少なくなり以下のようなグラフとなります。 上図はβr=7の時のグラフ。 正Tr.主体、逆Tr.主体の差はめだたなくなります。 逆TrのIbrの増加がめだたなくなっています。 よって微分抵抗値の判断は活性領域における正Tr.のIeの値でよいことにはなります。 βr=1にした方が原理を理解するにはよいでしょう。
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* 飽和動作のまとめ
飽和領域の動作というのは早い話がtransistorのdiode化の過程です。 すなわち活性領域で一般に言うtransistorとして動作して定電流性を示しているわけですが、飽和度が強まるにつれて(B-C間がより順バイアスされる)逆transistorが活性化するのでdiodeの性質がフェードインし初め逆にtransistorの性質がフェードアウトしてくるというか。 transistorはB-E, B-Cという2っのPN接合を持っているわけですが、 Ic=0, Ib=IeになるVceの値においては逆transistorによるIerが強くなり、もはや Icつまり、ベースを通過してコレクタに向かうキャリアがコレクタを通過できなくなるため B-E側のPN接合がdiodeとしてのみ機能している状態に外からは見えます。 正Tr.接続の飽和において、transistor内部ではIcrの増加によりIbr,Ierが増加してコレク領域ではIcfが(Ier+Ibr)と、エミッタ領域ではIcfの一部とIerが相殺している状態です。(まだB-Eの方が強い) さらに飽和が強くなるとこんどはコレクタ側からエミッタに向かうキャリア、すなわちIerが強くなるためIeがへりIcが0からマイナスに移行し始め、Ie=-IcとなるVceの値で BE接合、BC接合の力関係が同じになるわけで、さらにVce=0で 、 Ie=0, Ib=-IcになるにいたってはBC側のPN接合ががdiodeとしてのみ機能しうることになります。 Vce=0というのはコレクタがエミッタと同電位ということですから接続的にもdiode接続 なわけです。 飽和時の抵抗動作というのは逆トランジスタの活性化による正トランジスタの定電流性の無効化であって結果Trの外から見れば、C-E間に印加する信号電圧の変化に追従してIcが変化することであり C-E間の電圧変化が逆トランジスタの活性化を誘発するわけです。
正、逆transistorの飽和抵抗回路おいてVce=0V時のIbの値は両者で同じ。 正transistorの飽和抵抗回路において Ieの変化量と、Ibの変化量は同じ。 また逆transistorの飽和抵抗回路においてIeの変化量とIcの変化量は同じ。 Vceがプラスに向かうにしたがって Ieの変化は収束に向かうし、逆にVceがマイナスに向かうとIeは EXPOで増加する。
これはdiodeにおいてCVとしてBIAS電流を流しておいてそれに交流信号を重畳したことすなわち、diodeの電流曲線の上を交流信号の変化で+/-移動することとなんら変わりないことである。 異なるのはCVとaudio信号系の入力が別に設けることができるかできないかまた エミッタに印加する AUDIO信号が 0Vの時おおむねIeは0であること、すなわちbias電流の影響を受けにくい。 diodeにおいては制御信号とaudio信号を重畳しているので audio信号0で電流は0にならないし、diodeの A-K間電圧にもOFFSETが乗る。 これはdiodeにおいて信号経路がPN接合を通過するので、抵抗要素と等価電源要素が混在すことになるためであろうか?。 transistorの場合はaudio信号0で電流は理想値では0になる。 transistorにおいても当然、信号経路もPN接合を通過するが、Vsig=Vceであり、Vceというのは単にVbeとVbcの差であるわけで、この差=信号源の電圧であり、制御電圧はC-E間には出ないとうかかくれしまうので制御電圧系と信号系は分離されているように見えるのでtransistorの C-E間においては抵抗要素のみとなるのかな?。
Vbe(Vbc)を大きくすると変化率が変わる(抵抗値の変化)のがわかるが、プラス側とマイナス側で電流値が違う非線形性が出るので実際の使用にあたっては負帰還等をかける必要がある。
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