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トランジスタの飽和領域と逆(方向)トランジスタの動作
(飽和領域でコレクタに+/-の信号を印加した時の動作)
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通常、トランジスタは活性領域で使用するのですが、analog synthには有用な、飽和領域について考えて見ます。 飽和領域の本質を理解する鍵は普段は影にかくれている逆(方向)トランジスタのふるまいです。

飽和領域とは トランジスタの 2っのPN接合において VbeとVbcが供に順バイアスされる 状態です。 通常の増幅動作では Vbe順バイアス、Vbc逆バイアスで使用するわけです。

飽和領域においては正トランジスタと逆トランジスタの動作が同時に働く状態になるの です。 このことは、通常の正トランジスタの活性領域動作においては逆トランジスタの性質が表面化しないように B-C間のPN接合(diode)を逆バイアスしているということを意味します。

逆バイアスしてしまえば Vbcというか Vceが逆バイアスの範囲で変化しようとも Icは 原則 Vceに左右されない、すなわちIcの定電流性という不思議な性質が生じる わけです。

またトランジスタの逆接続というのがあります。 これはコレクタとエミッタを通常 の接続とは逆に接続すること。 すなわち B-C間のPN接続を主としB-E間のPN接続 を無効とするような使い方です。


Vbeを固定してVceを+から-まで変化させると、正トランジスタの活性領域 --> 飽和領域 ---> 逆トランジスタの飽和領域 -->活性領域、と変化します。  エミッタ領域とコレクタ領域の構造の違いから、逆トランジスタの活性領域での hFE (βr)は非常に小さく 普通のトランジスタでは1から6くらいだそうです。

 

上図はトランジスタの動きを等価モデル化した Ebers-Mool modelです。  これを見るとトランジスタというのは 2っのdiode( B-E間、B-C間) とそれぞれのdiode 電流をαF, αR倍した方向の異なる2っの定電流源で表されます。  すなわち上述の状態の遷移は正トランジスタ(B-E間のPN接続主体)と逆トランジスタ (B-C間のPN接続主体)の力関係のクロスフェード状態を意味しているわけです。


正トランジスタと逆トランジスタの各電流値を重ね合わせることで最終的な Ib,Ic,Ie(表に見える電流変化)が求まります。  最終的なIb,Ic,Ieと正、逆トランジスタのIb,Ic,Ieの関係式を以下に示します。


* キャリアの流れを上のように定義。(Ibrに比べてIbfは微少なので無視できる)

正transistor
Ief = Icf+Ibf
Icf コレクタ領域に向かうキャリア
Ibf ベース領域を通過するキャリア

逆transistor
Icr = Ier+Ibr
Ier エミッタ領域に向かうキャリア
Ibr ベース領域を通過するキャリア

* NPN Trでは電流方向はキャリアと逆の向き


βF = 正トランジスタのhFE
βR = 逆トランジスタのhFEr
αF = hFE/(hFE+1)
αR = hFEr/(hFEr+1)

* Icf= Is* exp(Vbe/vt)-1)
* Ief= (1/αF)Is* exp(Vbe/vt)-1)
* Ibf= (1/βF)Is* exp(Vbe/vt)-1)

* Icr= Is* exp(Vbc/vt)-1)
* Ier= (1/αr)Is* exp(Vbc/vt)-1)
* Ibr= (1/βr)Is* exp(Vbc/vt)-1)

IC,IB,IE transistorの外から見た流れ。
* IE = Ief - Ier
* IC = Icf - Icr
* IB = Ibf + Ibr


Icfの最大値(非飽和時のIcf値)とIerの最大値(非飽和時のIer)は同じであるため βRが小さいほどIcr,Ibrはは大きくなります。

βr=1の時
Icr=2*Ibr
Icr=2*Ier

上式から、IbfとIbrはともに同方向、 Icf,Icr, Ief,Ierは逆方向の増加、減少と なります。 これはベースが正、逆トランジスタにおいて共通の入力端子であり、 コレクタ、エミッタは正、逆トランジスタで反転しているからです。

B-C間の順バイアスが大きくなると、Ierの増加が Iefに対しての反力となってIef を抑えるため、結果Iefは低下する。 βr=1の時Vce=0においてIef=Ierとなるため 理論上、正Tr.主体、逆Tr主体どちらの場合も IE=0です。

この反力の元はコレクタ近傍のベース領域の少数キャリアの増大ですので、この増大が ベース領域の端(コレクタ側)で過剰少数キャリア密度が 0にならなくなるため、それを 受けて濃度勾配が低下してIefが低下することになり、それはさらにベース領域で たまっているキャリアが増大することでありそれがベース電流の増大を促進している ことになります。

B-C間が逆バイアスされていれば,Ier,Ibr,Icrは最小。



* PN接合 = 可変抵抗体? *

トランジスタのVbe-Ic特性は指数変化なので ΔVbe/ΔIbは IbつまりはVbeの値で変化 する。 この ΔE/ΔIは微分抵抗と呼ばれこのことがトランジスタ、ダイオードが可 変抵抗としての要素を本質的に内包しているということです。

またIbとIcは比例関係にあるのでΔVbe/ΔIcも Vbeの変化に応じて変化します。  またこの逆数ΔIc/ΔVbeはコンダクタンス(gm)でありトランジスタの増幅度を示す パラメータのひとつです。 増幅度と減衰度(抵抗値)が大元は同じ要素だというこ とです。 この指数変化はPN半導体の基本性質なのでダイオードにおいても電圧と 電流の関係は同様です。

r =(kt/q)/Ic

r: dynamic resistance(微分抵抗)
k: Boltzman 定数
t: 絶対温度
q: 電子の電荷
Ic: diode 電流


ダイオードを可変抵抗として使用する場合は 直流バイアスの大きさで抵抗値が変化し、 それに微小信号としてのaudio信号を重畳させるということになりますので信号経路と バイアスの経路が同じになります。

トランジスタにおいても B-E間においてはダイオードと同様の反応です。 これは Transistor ladder VCFとして有名です。 ではIbとIcが比例関係にあるのだから VbeとIcの関係すなわちC-E間は可変抵抗として機能するのか ということを考えることになります。

トランジスタは2系統の経路(B-E, C-E)があるので信号をC-E間に与えることができれ ば上記のバイアスの経路と信号の経路を分離できることになります。 これは通常の トランジスタの使い方からすればたいへん奇妙な接続です。 通常の使い方はB-E間 に信号とバイアスを重畳しC-E間には固定電圧を与えるのですから。  しかし C-E間に信号を加えることが可能であればC-E間経路が抵抗体になることなので たいへん便利なのです。

ここで抵抗体としての性質とは両端子間に電圧をかけなければ電流は0であり、電圧をかければそれに比例して電流が流れるということです。 当然+の電圧をかけたときと-の電圧をかけた時とでは電流の方向は逆転する必要があります。

単純には飽和領域の動作はVceの値に追従してIcが変わるのでC-E間は抵抗になりIcの変化幅の大きさはVbeの値で変化するのでVbeによって抵抗値が変化する可変抵抗ということになります。

上記のダイオードやトランジスタのB-E間においてはあらかじめバイアスをかける必要があるため微小信号の+/-で電流方向は反転すると言うよりはバイアス点が変動するだけで 0をはさんで電流方向が反転することはありません。 またバイアス電圧をかけたことにより信号電圧が0でも電流は発生しますし、バイアス電圧を動かすと信号電圧0V時のバイアス電流も変化します。



* Ic -- Vce特性から見えるもの *

ここでは通常のトランジスタの入出力関係に注目して、入力側の電流Ibに対する 出力側の電圧変化Vce、電流変化Icを関連付けたグラフを見て見ることにします。


以下に正トランジスタの Ic--Vce特性(Ib一定でVceを変化)を示します。

上図はよくある transistorの Ic -- Vce 特性です。(アーリー効果は無視)  Ibを定電流で固定しているのでこのグラフは Vceの変化に対する hFEの関係を 表していることでもあるわけです。

+Vceが低い領域においてIcはVceの値で変化してしまいます。 逆に+Vceが高ければ IcはVceに依存せず一定になります。

このVceでIcが変化する部分が抵抗特性を示す領域ということになります。  抵抗ということであれば Vceがマイナスでも抵抗特性を示すのでしょうか。

-Vce側は変化が+Vceに対して変化が少ないですが -Vceが大きくなるとこちらも 一定値に収束します。 (-Vceの領域は逆Trの領域です)

正トランジスタにおいて、+Vceが十分高いときすなわちVbcが逆バイアスされて いる領域が活性領域で IbをhFE倍したものがIcとなります。

逆transistor 非飽和領域 ---- 飽和領域 ----飽和領域-----正transistor 非飽和領域

Vce=0Vで B-E間とB-C間のバイアスのされかたが同じになるわけです。  上図でVce=300mVというのは Vbe>Vbcでありすでに逆トランジスタとしての働きが弱い 状態です。 B-C間はすでに順バイアスされている領域ですが、B-E間とB-C間の差がこ の程度であればもはやB-C間順バイアスの影響は出ないということになります。

逆にVbcが順バイアスされるとhFEの値が低下します。 この領域を飽和領域 といいます。 この場合IcはVceの値に追従して変化しているように見えます。

ここで Vceがマイナスになる領域では Icも符号が反転してマイナスになって います。 Vbcが順バイアスであることには変わりはないのですが。  つまりここではもう逆transistorが主体で正transistorは主体ではないので、 逆transistorとしてはこの方向の電流が正というわけです。(コレクタを基準電位 にとればエミッタはプラス)

また-Vceが大きくなると-Icが一定に近づきますが -Icの値自体はIbの値とあまり 違いがありません。 すなわち逆トランジスタのhFEは小さいということです。  ( 上図の 逆transistorのhFE、βrは 1になっています。)

IcとIbの差は小さいため早くに正常な逆トランジスタのhFEになる?。

Vbeが固定であれば、飽和領域においてはIbはEXPOで増大し、Ic,Ieは逆に EXPOで減少しますが、上記のグラフにおいてはIbを固定しているのでIc, Ie も収束しているように見えるわけです。 (Ib固定なのでVbeはVceが低下するほど小さくなる。 Ib固定であるということはIbが変化できないのでVbeがつじつまが合うように 変化することです。)

またIcの変化もIbを固定している関係で直線上昇のように見えていますが、Vbe固定 であるとEXPO減少になります。

上図はVbe固定時の Vce -- Ie特性です。 減少EXPO特性が飽和区間で持続します。  Vc=0時 Ieは0なので VceがマイナスならIeがマイナス、 VceがプラスならIeもプラスになり +/-10mV程度の区間であれば比較的直線性が確保されています。

本来は Vceがマイナスでもプラスでも同じ抵抗特性を示せばよいわけですが、 上記のグラフでは同じになりません。 しかし Ibを定電流源にした場合Vceにオフセットを与えれば抵抗カーブの直線領域がつかえそうですが.....これはまた別のテーマと言うか。


* 正、逆 transistor  IbとIcの関係 *


* βr=1(逆transistorのhFE)の時の例


先のグラフはIbを一定にした場合のグラフでしたが、上記のグラフは 正トランジスタのVbeを一定にしてVbcを変化させた場合と逆トランジスタのVbcを一定にしてVbeを変化させた時のIbの変化を示しています。 正、逆トランジスタ接続において飽和度を増やしていった場合Ibはどう変化するかのグラフです。

VbeとVbcを同じ値にした時(上図でVce=0の位置すなわち主PN接合=従PN接合時の飽和レベルMAX)ではどちらの接続時もIbは同じ値になっておりIeの値も0です。 逆に活性領域に近づくにしたがって正トランジスタのIbは微小になっているのに対して逆トランジスタのIbはあまり変化していません。 これは単純の正Tr.のIbが小さいためすなわち正Tr.のhFE>> 逆方向Tr.のhFEなためで、 逆TR.側を主にとればほとんどIbは変化せず、逆Tr.を主に取れば Ibrの変化がそのまま出るためです。

 IB=Ibr+ Ibf

トランジスタの動作というのは最初に述べた通り正トランジスタと逆トランジスタの動作のせめぎ合いですので、トランジスタ外部から見える Ibの変化はトランジスタ内部ではIbf(正トランジスタのIb)とIbr(逆トランジスタのIb)との和となります。 (IbfとIbrは同じ方向)

正トランジスタ:
正トランジスタにおいては活性領域ではIc>>Ibですので当然小さい値になるわけで、Ibの指数増加は逆トランジスタの活性化によるIbrの増加ということになります。

逆トランジスタ:
逆トランジスタにおいては活性領域においてIcとIbの差は大きくはないわけで、さらに上記にのようにIbの変化がほとんどないということは正トランジスタが活性化してもIbに影響を与えないということです。 すなわち Ibr>>Ibf。

Ib=Ibr+Ibfなのでたとえば正トランジスタのVbe=0.6Vとした時の活性領域におけるIbと逆トランジスタのVbc=0.6Vとした時の活性領域におけるIbとの差は βf/βrほどの違いがあるということ。

先のグラフにおいてはパラメータがVceなのでそれを基準に考えた結果です。これはVceが出力になる場合を想定してのことですが、トランジスタの本質においては VbeとVbcの関係、すなわち電圧を印加しているのはB-E間のPN接合と、B-C間のPN接合に対してであり C-E間に電圧を印加しているわけではなく、Vbe. Vbcの関係からVceが見えているだけですので VbeとVbcの関係を調べることが重要であり、飽和領域というのはVbcが順バイアスされる現象なので、VbeとVbcの関係がどうなっているかを考えてみます。



* 飽和動作領域 *

*: 以下に正トランジスタの Vbe一定でVceを変化させたときの電流特性を示します。

* 電流の定義

正transistor内部の動作
Icf コレクタ領域に向かうキャリア(コレクターかエミッタにやってくる電流)
Ibf ベース領域を通過するキャリア (ベースからエミッタにやってくる電流)
Ief Icf+Ibf (非飽和時は単にIeとなるもの)

逆transistor内部

Ier エミッタ領域に向かうキャリア(エミッタからコレクタに向かう電流)
Ibr ベース領域を通過するキャリア (ベースからコレクタに向かう電流)
Icr Ier+Ibr (逆transistorの発生元の全キャリア)

正transistorと逆transistorの全キャリア量の IcrとIefのせめぎ合いの結果がtransistor外部からみた時のIc,Ie,Ibとなるわけです。

IerとIcfは逆方向、IbrとIbfは同一方向です。
内部動作としては、電流方向で考えるよりもキャリアの流れで考えた方が混乱しないと思います。


逆方向Tr.のキャリアの流れと進入する正Tr.のIefの干渉



* 正トランジスタの Vbe一定でVceを変化させたときの電流特性

ここではわかりやすさのため、 βr=1の場合で考えます。(βr:逆transistorのhFE)

* Vce=0で、 Vbe=Vbcとなり、B-E間 B-C間に印加される電圧が同じ。

1:
Vceが十分大きい、すなわちVbcが逆バイアスの領域においてはIbとIcの関係はhFEを満たしているので差は大きい。

2:
Vceが小さくなると B-C間のダイオード作用が活性化してしまうのでIbがEXPO上昇し、逆にIe,IcがEXPO下降するのでhFEは変化する。

この為 Vceの値を下げていくと、Ibの増加により、Ie,Icはしまいにはマイナスになる。 これは正トランジスタの動作というより、方向からいって逆トランジスタの動作領域になるわけである。 Ieの方向が反転する少し前から逆トランジスタが優勢になる。

3:
-Vceの領域ではグラフ上はIb, Ic,Ieも大きな指数変化しているがこれは Vbc > Vbeであり、Vbeが固定されていて、Vbcがリニアに上昇していることであるので、正トランジスタにおいて Vbc固定でVbeがリニアに上昇しているのと同じ現象なので IbはEXPO増加、Ic,Ieは符号が逆でのEXPO増加なのである。

上図において Ic, Ieは連続な曲線であるが、逆トランジスタが活性する領域ではIc, Ieが負の値になるので、曲線が連続でも状態が逆転するのである。

AUDIO信号をコレクタ側に印加しているこの回路では、Icの電流の変化がIeの変化の2倍になっていますのでこの場合の微分抵抗は活性領域におけるIeの値の2倍がIcrの値とすれば Ie基準の 1/2になるということでしょう。 これは逆Tr.のIcrが正Tr.のIefの2倍になることからきている反応です。



* 逆トランジスタの Vbc一定でVecを変化させたときの電流特性

 


* 逆トランジスタの Vbc一定でVecを変化させたときの電流特性

* Vce=0で、 Vbe=Vbc

今度は逆transistor主体で考えます。 本質的には飽和が強くなるとメインであるトランジスタと対峙する一方のトランジスタのIbが急激に増加する反応であることに変わりはありませんが、正トランジスタ時と異なるのはIeに対するIbの値の大きさです。

逆transistorが活性化している時,Ier=Ibrで Ier*2=Icrとなる。(βr=1の時)

Vecが十分大きい、すなわちVbeが逆バイアスの領域においてはIbとIeの関係は一定でありこれをhFErとすれば、逆トランジスタのhFErは小さいということになる。

但し、正トランジスタの特性測定時のVbeの値とこのVbcの値を同じにした場合、Ibは 正トランジスタのIbよりはるかに大きいし、 活性領域における全電流としての正トランジスタのIeより、活性領域における全電流としての逆トランジスタのIcの方が大きくなっています。

Vecが小さくなると B-E間のダイオード作用が活性化してしまうのでIbが指数的に上昇するが正トランジスタのように変化は大きくない。 これは正トランジスタのIbが小さいため影響がでにくいということであり、一方Ie,Icは正トランジスタの場合と同様に低下する。

これはコレクタからエミッタ、ベースにやってくる電流の大元のIcrが指数的に増大することからくる反応であり、IcrがIbrとIerに分流する際にIbrに分流する分が少ないのでIbの変化は少ないということである。


AUDIO信号をエミッタ側に印加しているこの回路では、IcとIeの電流の変化が同じですのでこの場合の微分抵抗は活性領域における逆Tr.のIcrの値の1/2、すなわち正Tr.の活性領域におけるIeの値が基準になるということでしょう。 これは逆Tr.のIcrの半分は Ibrになるから残りは正Tr.のIefと同じになることからきている反応です。


現実的なトランジスタではβrが1から7程度のようなのでこの値が大きくなるほど逆Tr.のIbの影響が少なくなり以下のようなグラフとなります。

上図はβr=7の時のグラフ。 正Tr.主体、逆Tr.主体の差はめだたなくなります。  逆TrのIbrの増加がめだたなくなっています。 よって微分抵抗値の判断は活性領域における正Tr.のIeの値でよいことにはなります。 βr=1にした方が原理を理解するにはよいでしょう。


* transistor内部でのキャリアの流れ *

* ここでちょっと transistor内部でのキャリアの流れについてふれておきます。 (下図の前提説明は省略します。NPN Tr.) 


* 活性状態のキャリアの流れ       * 飽和状態のキャリアの流れ

活性状態時、エミッタから注入されたキャリア(電子)がベースに入り、キャリアの濃度勾配で拡散電流が発生してそれがB-C間逆バイアスのためコレクタ側からのキャリアの流入がないこともあって、それがそのままコレクタ電流になります。(IcがVbeに依存した定電流になるしかけ)

飽和状態時は B-C順バイアスの結果、ベース領域の端(コレクタ側)で 過剰少数キャリア密度が0にならなくなる為(上図)にキャリアの濃度勾配がゆるやか になった結果キャリアの流入量が低下し拡散電流が減少して、Ic、Ieが減少します。

またベースの端で過剰少数キャリア密度が0にならないのはコレクタ領域からの キャリア(電子)の流入があることなのでベースにとどまっているキャリア(電子)が増え、そのことはその部分がdiodeとして機能してしまうことでもあるのでコレクタに ぬけないでベース電流となるキャリア(電子)が増えることになります。

このような動作と正transistorと逆transistorの共存のイメージ(キャリアの流れの重ね合わせ)とが同じになるということ。キャリア流の方向が違う要素は相殺されて小さくなると言う部分とベース端のキャリア密度が0にならなくなるから拡散電流が小さくなるとうこととの対応がみごと。


* 飽和動作のまとめ

飽和領域の動作というのは早い話がtransistorのdiode化の過程です。 すなわち活性領域で一般に言うtransistorとして動作して定電流性を示しているわけですが、飽和度が強まるにつれて(B-C間がより順バイアスされる)逆transistorが活性化するのでdiodeの性質がフェードインし初め逆にtransistorの性質がフェードアウトしてくるというか。

transistorはB-E, B-Cという2っのPN接合を持っているわけですが、 Ic=0, Ib=IeになるVceの値においては逆transistorによるIerが強くなり、もはや Icつまり、ベースを通過してコレクタに向かうキャリアがコレクタを通過できなくなるため B-E側のPN接合がdiodeとしてのみ機能している状態に外からは見えます。

正Tr.接続の飽和において、transistor内部ではIcrの増加によりIbr,Ierが増加してコレク領域ではIcfが(Ier+Ibr)と、エミッタ領域ではIcfの一部とIerが相殺している状態です。(まだB-Eの方が強い)

さらに飽和が強くなるとこんどはコレクタ側からエミッタに向かうキャリア、すなわちIerが強くなるためIeがへりIcが0からマイナスに移行し始め、Ie=-IcとなるVceの値で BE接合、BC接合の力関係が同じになるわけで、さらにVce=0で 、 Ie=0, Ib=-IcになるにいたってはBC側のPN接合ががdiodeとしてのみ機能しうることになります。

Vce=0というのはコレクタがエミッタと同電位ということですから接続的にもdiode接続 なわけです。

飽和時の抵抗動作というのは逆トランジスタの活性化による正トランジスタの定電流性の無効化であって結果Trの外から見れば、C-E間に印加する信号電圧の変化に追従してIcが変化することであり C-E間の電圧変化が逆トランジスタの活性化を誘発するわけです。


正、逆transistorの飽和抵抗回路おいてVce=0V時のIbの値は両者で同じ。
当然Vce=0VでIe=0である。 また両回路においてIeの変化は同一であり、Icの量はIb-Ieとなる。

正transistorの飽和抵抗回路において Ieの変化量と、Ibの変化量は同じ。 また逆transistorの飽和抵抗回路においてIeの変化量とIcの変化量は同じ。

Vceがプラスに向かうにしたがって Ieの変化は収束に向かうし、逆にVceがマイナスに向かうとIeは EXPOで増加する。

C-E間を抵抗としてみた場合のベースに加える電圧に対しての抵抗値を考えると、飽和抵抗値はIeの電流カーブの Vce=0時の微分値であり、C-E間に交流信号を加えた時の電流カーブIeは βr=1の時は Vce=0でIbと同じ傾きである。

すなわちこれは正Tr.の活性領域でのIeのを基準値=0としてVceが下がるにしたがって値がマイナス方向に上昇するEXPOカーブの Vce=0の時の傾きであるので活性領域でのIeの値が微分抵抗値= 0.026(m)/Ieになるということで、これは活性領域のVbe(Vbc)とIeの関係における微分抵抗値と一致するのでは?。

これはdiodeにおいてCVとしてBIAS電流を流しておいてそれに交流信号を重畳したことすなわち、diodeの電流曲線の上を交流信号の変化で+/-移動することとなんら変わりないことである。 異なるのはCVとaudio信号系の入力が別に設けることができるかできないかまた エミッタに印加する AUDIO信号が 0Vの時おおむねIeは0であること、すなわちbias電流の影響を受けにくい。

diodeにおいては制御信号とaudio信号を重畳しているので audio信号0で電流は0にならないし、diodeの A-K間電圧にもOFFSETが乗る。 これはdiodeにおいて信号経路がPN接合を通過するので、抵抗要素と等価電源要素が混在すことになるためであろうか?。

transistorの場合はaudio信号0で電流は理想値では0になる。 transistorにおいても当然、信号経路もPN接合を通過するが、Vsig=Vceであり、Vceというのは単にVbeとVbcの差であるわけで、この差=信号源の電圧であり、制御電圧はC-E間には出ないとうかかくれしまうので制御電圧系と信号系は分離されているように見えるのでtransistorの C-E間においては抵抗要素のみとなるのかな?。


Vbe(Vbc)を可変した時の Vce=0V付近の特性

Vbe(Vbc)を大きくすると変化率が変わる(抵抗値の変化)のがわかるが、プラス側とマイナス側で電流値が違う非線形性が出るので実際の使用にあたっては負帰還等をかける必要がある。



* 余談(TransistorのSW動作)

analog synthにおいてはTr.の飽和領域の動作も重要ですが、一般的には飽和動作はTr.のSW動作等で出てくるくらで本質をわかっていない人も少なくはないのではと思います。そのよい例として 2000年代の始めごろNIFTYの電気関係のフォーラムで次のような質問が話題になっていたことを後から知りました。

その質問とは
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バイポーラトランジスタでの疑問です。
スイッチング回路として使った場合、オン状態のVceは(ほぼ)0vまで下がりますが、なぜ0vまで下がれるのでしょうか。コレクタ・エミッタの間にはベースがあって、Vbeは0.6v程が掛かっているのに。
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と言うものです。 意見が色々出たようですが当時そのフォーラムでは満足のいく回答が得られなかったようです。 一応Tr.のSW動作は飽和領域の動作と言うことは出ていましたし、Tr.の物理構造等の話も出ていましがそれでも明確に原理を示せる人はいなかったようです。

そもそもの疑問点はVb > Vc になることがその人にとっては理解できないことがらだったようなのですが。( と言うかIbとIcが同じベース領域を通過するのならVb > Vcになるのはおかしいという疑問点らしくIbとIcが別領域を流れるのならわかるという見解らしいのですが.....。)  おそらくはTr.の記号から受ける印象としてエミッタ領域、ベース領域、コレクタ領域を抵抗体のように考えていて電圧降下的に Vb > Vcになるのがおかしいと思ったのでしょうか。上の方で書いた transistor内部でのキャリアの流れの図の理解がまずは必要でしょうか。少なくともTr.の記号からだけではTr.内部のキャリアの動きは理解できませんしさらには飽和領域の振る舞いも理解不能でしょう。

この場合、コレクタ電位の発生元はトランジスタによる電流源であって抵抗の電圧降下はその電流値に対する結果であり、印加電圧Vccの分圧による結果ではないわけです。ここの部分を勘違いされる方が多いようですがIcはVccをRcで割った結果であるわけではありません。 便宜的に(というかTr.の外から見れば)その値になるというだけですしそんな単純な回路ではありません。

そう考えてしまうからVb > Vcがおかしく思えてしまうわけです。Netの質問箱にもおなじような疑問点を挙げているケースがいくつもありました。Vb > VcならIcは逆方向(Vccに向って)に流れなければおかしいのではという疑問でした。 これはある意味正しくてIcf > Icr だから逆方向にならないだけですし、上記の飽和抵抗の説明のようにVcがマイナスの値まで変化できるのならIcは逆方向に流れるわけです。

抵抗の電圧降下はIcの値に応じてオームの法則によって得られる現象に対してIcはTr.のVbeの値からコントロールされるものなのでIcは本来Vbeの値によってはVcc/Rc以上になれるはずだが(*1)抵抗の電圧降下はVcc以上にはなれないので当然IcもVcc/Rc以上にはなれない制約の中でTr.がIcをどのようにコントロールしてつじつまを合わせる反応が発生するかと言うことです。またこのVcc - Rc - C-E - GNDの直列回路部分には電圧源と電流源の2っが存在している回路であるということです。(等価回路的には電流源は2つ)

*1:
非飽和ならば Ic= Is* exp(Vbe/vt)-1)なので飽和していなければIcはVcc/Rc以上になるはずのVbeを与えてもIcの値が破綻しないためのしくみ。

またこの回路はVcはRcによって間接的に印加されていますがコレクタにダイレクトに電圧を印加すれば簡単にVb > Vcに設定できるわけですのでVb>Vcでも何の不思議もないように思われますが。 トランジスタを動作させるためには2っのPN接合に対してそれぞれ電圧を印加すればいいわけでC-E間に電圧をかけているように見えても実はB-C間に電圧はかかっているわけです。

この部分、飽和領域の動作は逆Tr.の活性化によって生ずるということがわかっていれば理解できると思います。 Tr.のコレクタとVcc間に抵抗を配置した Tr. SW回路においてVbeが増加してコレクタ電流が増加すると抵抗の電圧降下によってVc電位は低下していきB-C間の逆Biasが序所に崩れVb=Vcさらには Vb > Vcで順BiasになっていくわけでそうするとIcfと逆方向にIcrが発生するためコレクタにつながった抵抗には2方向の電流が重畳されることになりVcの低下は両電流のせめぎ合いの結果となります。

飽和がより強くなるにはVcがさらに低下する必要がありますが飽和が強くなればIcが減る(*1)すなわちhFEは低下するのでVcは上昇しようとして(単純には低下できず) 飽和の増加は抑えられます。 Vbは正Tr.、逆Tr.の共通電位なのでベースへの印加電圧の上昇に対してはVbe、Vbcとも上昇しますので両者は印加電圧の上昇に対してトラッキングして上昇しますがVcすなわちVceは上記の負帰還によって(ほぼ)変化しません。

それぞれの電流は増加しますが僮cfは僮crによって相殺されるので表に表れるIcは変化無しでIbとIeは上昇します。 Ieは増加しますが増加の度合いはTr.単体時に比べて小さくなります。これは逆Tr.のIcrがIbrとIerに分流するので Ief - Ier が Ieとなるためです。 Ibの増加は Ibrによるものです。 上図でベースにはRb=10Kが入っているのでIbが増えれば負帰還が働き Vbeの変化はLOGとなりますのでIb,Ieの変化は飽和後はリニアな変化です。

1:
Vce - Icの静特性においてVce(Vc)の低下(飽和が強くなる)でIcは低下。
Vbの上昇で飽和のレベルは固定でIcf、Icrは増加だが外からはIcは一定となる。



* 電流関係( 飽和後はIcが一定  僮b=僮e βr=6.5)


* 電圧関係( 飽和後はVceが一定、 Vbe、Vbcはトラッキング βr=6.5)

Tr.の飽和が始まってもVceが数100mVオーダーではIcはまだEXPO上昇ですがVceがより低下するとIcのEXPO上昇が一転しIcは(ほぼ変化しなくなる。 すなわちIcがほんとうに飽和する現象が生じるわけです。 飽和領域という言葉と微妙に意味合いがちがうような....。


上の方の "正トランジスタの Vbe一定でVceを変化させたときの電流特性"はVbe固定時のIb、Ic、Ieの変化でしたがこのSW回路では印加電圧上昇と共にVbeが上昇していることに注意。

そのグラフとTr. SWの電流特性との対応を考えます。 TrSW回路のTr.のβrを=1として簡略化のために帰還がかかっているベースの10K抵抗をはずした状態でのIb、Ie、ICの関係グラフを以下に示します。


青: 100K抵抗無し時のIc(Ie)
橙: Ie(飽和後は Ie=Ief - Ier)
桃: Ib(飽和後は Ib=Ibr)
水: Ic (飽和後は一定値を保持)
緑: Ier

上図においてIeとIbはVbeの上昇とともに ΔIb = ΔIeに近づきます。  よってVbe一定の時の電流特性においてIbとIeの比率関係に対応したVceの値にこの Tr. SWの飽和時のVce(Vc)が固定されるというか近づきます。

Vbe固定時のグラフでIb=Ieの時Ic=0、よってIcの変化が無くなった時ΔIb=ΔIeとなるのでしょう。

Vbeが増加する過程で非飽和時はIcが増加していきますがVceが低下して飽和していくとIcは本来のIcから低下していくのでVbeの増加に対してIcの増加率はさがりIc=0になるVceの値まで下がるとIcの変化は最小になるという関係が基本動作から導かれる。


* Icカーブの変化

上のグラフはVbeをリニアに増加していった場合の結果ですが飽和領域に入る前は当然IcはEXPOで増加していきますのであるタイミングから急上昇します。 飽和しなければこれが続くわけで非常に大きな変化要素を持っているわけですがVbe固定時、飽和が始まるとVceの低下に対してIcは逆方向のLOGカーブで低下してきますがこのTr. SWの場合Vbeは固定ではなく増加しているのでこの(本来のIcのEXP増加)  *  (飽和におけるVceの値に対するIcの減る割合...すなわち飽和時と非飽和時のhFEの比率)で飽和領域のIcの値が決まり、Icは最終値(Vcc/Rc)を漸近線としてLOGカーブ的な上昇になるということです。

これは1次LPFの通過帯域における負帰還現象や100%負帰還がかかるOP AMPのボルテージフォロワと同じく急激な増大にたいして負帰還が大きくかかる動作なのである特定値に向って収束する反応となります。ボルテージフォロワもGAINが1に近いが1には原理上ならないわけでこの場合もIcはVcc/Rcに近づくが同じにはならないこれは飽和によりC-E間が抵抗として動作するも飽和抵抗が0にならないためでもあります。さらには飽和が進行して飽和レベルが上がると逆方向のIcrが増大してIcfの増大を抑えることでTr.の外から見たIcの変化が鈍ることでもあるのです。


* Vbeの大きさに対するIcカーブのIc=0になるポイントの変化

上図はVbeの大きさの変化に対する飽和領域でのIcカーブの変化を示しています。Vbeが大きくなるほど飽和領域でのhFEの低下が飽和がより浅い時点から始まります。 すなわちVbeが大きいほど同じ値のVceでのhFEの低下が大きいということになります。これはVbeの上昇でIcのEXPO値がより増加しょうとするほど飽和領域に入るとIcに対して負帰還が強まりIcを低下させIc増加の進行がLOGカーブ的に圧縮されるしくみなのでしょう。


* Vbeの大きさに対するIcカーブのIc=0になるポイントの拡大


Tr.SWのVceの値は上記のように "正トランジスタの Vbe一定でVceを変化させたときの電流特性"のグラフのIc=0となるVceの値に近づきますがこの手の負帰還反応同様、その値までは下がりません。それはIc=0となってしまったらVbe増加による本来の定電流性のIcのEXP増加がいくら大きくても Tr.SW回路のIcが0になってしまい破綻してしまうからでそれより少し大きいVceの値でおちつくのでIcは一定値で変化しない(実際には微量の増加がある。すなわち増加が圧縮されてしまう)という結果になります。

上記の電圧関係のグラフでVbcの上昇はIcの変化を受けての結果なので初めEXPO上昇であとは上の説明のように飽和が強くなればLOG的変化で最後はVceがほぼ変化しなくなればベースがVbe、Vbcの共通電位なのでVbe増加にVbcはトラッキングして動くので、VbeとVbcが増大していってもIcの変化が動かなくなる時点で飽和レベルの変動はなくなるので以後Vbeがさらに増加してもIc一定、Vce一定で変化が無いということが成り立ちます。

Tr. SW回路のきもと言うのはSW ON時のIcの一定値化(安定化)であって、SW ONを指定する印加電圧と言うかVbeがある程度以上あれば多少変動してもかなり大きくなっても飽和領域でのIcの定電流性の破壊によりこれがIcの増加に対して負帰還となってOutPUTとしてのVceの最低値、SWON時のOUTPUT levelを安定化させる回路であるということでしょうか。 すなわち入力側の印加電圧の変化は飽和領域に入ったことで出力電圧の変化としてはLOG圧縮されるので変化していないように見える。

上図はベースの抵抗を取り除いた場合のグラフですが実際はベースに抵抗が入るので印加電圧上昇に対して Vbeの変化は LOG変化なので Vbeが収束に近づくわけでその時のVbeの 値とVbe一定の時の電流特性のグラフを対応させてIc=0の位置のVceの値に近づくということになります。

飽和領域に入ることは逆Tr.が順Biasされることなので当然 Vb > Vcであってこの場合、上記のVCR回路と違って逆Tr.の順 Bias化としてのVbcの値は Vcがマイナスになれないことさらには正Trの構造と逆Tr,の構造の差により Vbe > Vbcになるということです。 飽和領域ではコレクタにつながっている抵抗には方向の異なる電流が重畳されていることが理解できているかと言うことが重要かと。

参考
Vce(sat) Vbe(sat)なることばの意味

Data Sheetにあるコレクタエミッタ間飽和電圧ですがこれはたとえばIb=10mA、Ic=100mA流した時のVceの値だそうです。 すなわちhFEが10に低下する飽和レベルのときにVceがいくつの値を示すかという意味ですので飽和時のVceの取れる最低値という意味ではありませんので念のため。またVbe(sat)...ベースエミッタ間飽和電圧はIbを10mA流すのに B-E間に与える最大必要電圧だそうです。 以下に例を示します。


* hFE=10の位置でのIbとIcの関係の例
* 黄: Ib
* 白: Ic
カーソル位置でVbe=719mVでIc=100mA、Ib=10mAになっています。この時Vbc=656mV。 よってVce=63mV。飽和が開始してしばらくした位置。


* Vbe=719mV固定時でVceを0から100mV可変した時ののIb、Ic、Ibの関係

カーソル位置がIbとIcの関係が10倍になるポイント。この時Vce=63mVになっています。IbとIcの差が10倍に低下している飽和レベル(位置)のイメージ。 Icが0になる位置まではまだ距離があります。


* Ic=Vcc/Rlの漸近線と飽和進行時のIcの差

カーソル位置はVbe=719mVでhFEが10に低下した状態ではまだIcと漸近線の差はありこれがVceに反映しているのでこれが狭まるほどVceは小さくなるが......


上記の質問の根本的な回答としては回路図ではコレクタ -- エミッタ間に電圧をかけているように見えても実は両(正、逆) PN接合に対して電圧は印加しているのであってB-C間のPN接合に対しはVbcを加えているので別に Vb > Vcであってもおかしいことはないということではないでしょうか。 始めの方で示したEbers-Mool modelの図が生きてきます。

それ(飽和の問題)以前にtransistorと言うのは抵抗などのpassiveな素子と違い内部動作はオームの法則に従って動いているのではないということの理解不足と言うことでしょうか。 Vce=0VなのでVccと抵抗Rcによってオームの法則的にIcが決まると思っているからVb> Vcがおかしいという考えに陥るのでしょう。 活性領域においてはIcはVbeに依存する定電流源で定電流源なのでつながる相手に関係なく必要電流を発生するわけでこれはVbcがプラスになり飽和するまでは有効なわけです。 定電流、これは別の言い方をすれば回路の破綻が生じない範囲で必要電流を定電流値を満足するように引っ張ってくる動作なわけです。Rcの電圧降下と電流についてはオームの法則を満足するように定電流Icで電圧降下が発生しています。 飽和領域に入るとTr.の外から見れば定電流性は破綻することによって抵抗に対するオームの法則は守られるわけですが、Tr.内部の動作としてはVbeによる定電流性は機能しているがVbcによる逆Tr.の定電流性が発生しているので外部からほそのように見えている。

さらに外部印加電圧のtransistorに対する作用として、B-E間、B-C間に外部電圧を印加してもそれが作用するのは抵抗値の高い両空乏層に作用し、エミッタ、ベース、コレクタの各領域には作用していないという点。 あくまでtransistor内の電流の発生はB-E間の空乏層という障壁を緩和することによってエネルギーバランスが崩された結果、エミッタ領域の活性化したキャリア(NPN時電子)がベースに侵入してきたキャリアの濃度勾配による拡散であるという点を考えれば、この質問のようにtransistorを抵抗のような電界によるドリフトだけ発生する電流のイメージでとらえて理解しようとすると動作は??になってしまいます。 また電流の元となる活性化したキャリアの量はPN障壁(空乏層)を順BIASする具合で変化するという部分は動作を理解する上でさらに重要です。

飽和時はB-C間も順BIASされるためコレクタからベースに侵入するキャリア(電子)が発生しそれにより上記の" transistor内部でのキャリアの流れの図"にあるようにベース領域に発生する濃度勾配のすべり台の傾きが低下することによりIeが低下しますがこれは実質コレクタからのキャリアの侵入によりVbeが実質低下するのと同じ反応と解釈できます。


さらなる余談(1) ...... Tr.の diode接続


1: コレクターベースを結線してB-E間に順BIASを加える。
2: コレクターオープンでB-E間に順BIASを加える。

たとえば抵抗の片方の端子に5Vをかけ片方をオープンにしてオープンにした時の電圧を見ると電流が流れていないので電圧降下はないのでオープン端子は5Vになります。 と言う ことで単純に上記のQ2の図を見るとコレクタに電流が流れないのでベースと同じ電圧と思ってしまいますが実際はそうはならない。

1: diode 接続1(活性領域動作)
------------------------------------------
Vb=Vcではあるがまだ飽和の入り口であってtransistorの動作は活性領域の動作になりますのでIe=Ib + Icの通常動作でベースに侵入したキャリア(電子)は一部はホールと結合してベースから排出、多くの電子はコレクタに侵入してコレクタから排出されます。 transistor動作の活性化動作そのものですが端子が2端子しかないので diode接続と呼ばれます。

2: diode接続2(飽和領域動作)
------------------------------------------
単純に考えるとVbeとIbの通常の関係で動くように思われますがそれだとIbは小さすぎます。 結局この回路は飽和動作となり Vbe一定でVceを変化させたときの電流特性カーブのIb=Ieの関係と同等になるのでIeは本来のIeよりかなり減ります。

図のカーブではIb=Ieになった時の条件としてVceの値がありますが、このコレクタオープン接続ではコレクタオープンですがコレクタ電圧を測るとそのような値(Vce)が出てきます。なんだか不思議ですね。 上記のTr. SWのケースとよく似た条件になるわけです。


さらなる余談(2) ...... 飽和を利用したanalog synthの典型的な回路


* SAW波 三角波コンバータ

上図はVCOのSAW波を三角波に変換するコンバータでTr.の飽和領域を巧みに利用し正/反転回路です。 エミッタ電圧Veは入力電圧V1に追従するエミッタフォロワとして動作します。 一方コレクタ電圧VcはVeの位相反転した電圧を活性領域では出力しますがR1の電圧降下でVbcが順バイアスになると一転してVeと同相かつ同じ変化で出力するので抵抗値等を調整すれば上昇SAW波を三角波に変換できるコンバータになります。

上記のTr.のSW動作を基本としてエミッタフォロワの作用が重なった応用問題と言った所で動作はかなり複雑です。


* 電圧特性

Tr.が活性化するとVeはエミッタフォロワのOut putとして動作するので入力印加電圧をリニアに上昇させれば入力電圧と同じ変化で上昇します。一方IcとIeはほぼ同じ値なのでVc電位はVeの上昇変化に対して変化幅は同じで逆相で低下していきます。

Vc=Veに近づく以前にVbc=0になり飽和が始まりますがこの時点でVbe > Vbcです。さらにVcとVeの値が接近した時点でVbeとVbcの値も同様に接近。 またR1の電圧降下は(V2-Ve)以上になれない制約からVceが0に近づく飽和がかなり強くなった時点からVc電位はVeと同じ変化で上昇を初めます。 これは上記のTr.のSW動作と同様Icが(V2-Ve)/R1以上にはなれない制約からする反応で抵抗としてはオームの法則に従っている反応ですがTr.としてはどうIcのつじつまを合わせているのか。

Icが減るといことはVcだけ見れば飽和が弱くなっていくのかと思ってしまうがVeも上昇しているのでVceはVoutが上昇しても増加はしません。また入力の印加電圧はそれ以上に上昇しているので飽和レベルはわずかに上昇しています。

Vbcに注目すると飽和以前は逆バイアスですがR1の電圧降下を受けて値は上昇、飽和して順バイアスになると負帰還がかかって変化が最少の上昇でVbeの変化とほぼ同じ。 逆トランジスタ側からみればエミッタフォロワ(この場合コレクタフォロアというべきか)として動作しているイメージ。ここがポイントでしょうか。



* 電流特性

飽和以前はIcはIeとほぼ同じ変化でエミッタフォロワなので入力電圧のリニアな変化に対してリニアで上昇するがVbcが順バイアスになってさらにVbeとVbcの値が接近するとIeの増加と同じ変化で低下していく。 これは上記の電圧特性においてVeの値にVcの値が追従するから当然なのであるが飽和動作としてはどう考えればいいのか。

上のグラフからTr.の外から見ればIe = Ib + Icが非飽和、飽和領域共に成り立っており(*1)飽和しているのでIb(Ibr)は劇的に上がっている。 これは元々hFEが小さい逆方向Tr.が活性化しているから当然です。 上記のTr. SWでは飽和時 ΔIeの上昇の低下、Ibの急上昇がありIcに関してはΔIefが-ΔIerにより相殺されてIcは一定値であったがこの回路の場合同様の変化はIbのみ(Ieの2倍)でIeは変化なく上昇し、IcはIe変化と同じ傾きで下降する。

*1:飽和時はIb(すなわちIbr)がとても大きいのでIeがリニアに上昇したければIcは低下する必然。

そもそも飽和しているのだから本来Ie増加も鈍ってゆるくなるかと思いきや変化率は変わらない。 この回路はエミッタフォロワによる負帰還回路なので入力電圧VinにVeは追従する必然がありIeが減ってしまえばVeがVinに追従しなくなってしまうので負帰還量を減らしてIeが飽和で減った分を補っています。そのためΔVbeが通常のエミッタフォロワ(R1無しの)より大きくなっています。(下図)

IerによりIefが減れば必然的にエミッタフォロワの抵抗Re(図ではR3)の電圧降下が下がりVbeが上昇するのでIefは増加してIer分を相殺してエミッタフォロワの動作を保つ。 この際若干エミッタフォロワの負帰還は下がるが。


R1無しのエミッタフォロワとこの回路のエミッタフォロワのVbe
Vbe0: normal
Vbe: この回路
普通のエミフォロでは十分バイアスされたポイントならΔVbeは最少で飽和以前はそうなっているが飽和後はかなり上昇し続けていることからIcrがかなり大きくIefと逆方向のIerをキャンセルするためにこれだけΔVbeが増加しなければならない。 これはVbcも同様。


飽和はしているのだからIbは急増加しておりIcr、Ierも増加している。(Icr = Ibr + Ier)  すなわちTr. SWの場合ΔIef = -Δier でIcが一定値だったのでこの回路の場合はΔIerが2倍となることで外から見たΔIcがΔIeと同じ変化で低下動作となり、R1の電圧降下の低下と合致するようにつじつまをあわせています。


* Vc/Ve/Vin/Vbe/Vbcの変化
* 桃:Vc
* 白:Vin
* 青: Ve
* 赤: Vbc
* 緑: Vbe

上のグラフを見ると飽和以降、逆方向Tr.もエミッタフォロワとして動作しているのが分かります。 すなわち入力印加電圧よりVbcだけ低い値でVc電位がリニアに追従上昇するようにIcの値にも負帰還かかり動くと言うことでしょう。 2っのエミッタフォロワ動作と飽和ということでTr.のSWよりかなり複雑でTr.SWのように "正トランジスタの Vbe一定でVceを変化させたときの電流特性"のグラフとの対応は簡単には取れません。 
と思いつつ " 正トランジスタの Vbe一定..."のグラフをよく見るとIbがIcの2倍になるポイントにおいてはIcがマイナスでIeと同じ値になっています。すなわちこれはIeの変化とIbの変化は上昇でIbはIeの2倍、Icは下降変化で変化率はIeと同じということを意味して いるようにも思われます。しかしTr. SW回路のように飽和するとVceがほぼ一定の値で推移するのとことなりこの場合Vceは飽和後も低下に向って変動しており上記の関係が成立するVceの値に収束するわけではないようです。

やはりこれは複雑な回路でTr.SWの場合は飽和でIeの変化率が低下しますがこの回路の場合エミッタフォロワの負帰還によりIeの増加変化率は保持されます。保持されたままでは Ic*R1の電圧降下が飽和とともに低下できないのでTr.SW以上にIcrが増大して外から見たIcの変化を下降変化になるような飽和レベルに移行させR1に対するオームの法則との整合性が取られます。 当然飽和時のIbの値の変化率はTr.SWのそれより増加するという結果になります。

上の説明のように飽和に入ると正トランジスタのみならず逆トラ供ににエミッタフォロワとして動作することになるのでこれの影響でVceの値は上記のポイントで固定されず変化しているように思われます。実際この変化はVbcのわずかな上昇を反映したものです。正トラのエミフォロに対してIerが影響するのと同様、逆トランジスタのエミフォロ動作に対して正トラのIcfが干渉するのでVbcは影響を受け結果Vceも固定せずVcのリニアな低下に対して飽和レベルも変動することでつじつまが合うのでしょう。

非飽和動作時は正トランジスタのエミッタフォロワで発生するIcfがR1の電圧降下に反映して飽和時は逆トランジスタのエミッタフォロワで発生するIcrとIcfがR1の電圧降下に反映する。Ierは正トラのエミフォロに干渉するがIcfも飽和時は逆トラのエミッタ(コレクタ)フォロワに干渉している。

実際VbeとVbcの変化は完全にトラッキングしてはいず、飽和の弱い時点ではその差が大きいですが傾きが同じに近くなるVinのタイミングでは" 正トランジスタの Vbe一定..."のグラフのIbがIcの2倍になるVceの値に近くなっています。のでVbeとVbcの変化率が同じであれば上記グラフのポイントが意味を持つということなのでしょう。


* VbcとVbeの傾きが同じになるポイント

単純に考えるとエミッタフォロワのoutputの上昇が続き飽和領域に入ればVceが最少なのでVeにおされてVc電位はリニアに上昇するという解釈も表面上は成り立ちますが、実際は 飽和に入れば逆トラ側のエミッタ(コレクタ)フォロワが動作しIcfと逆方向にIcrを発生するのでIcf-IcrでIcが低下しかつ飽和しているのでVceは小さいままVcが上昇しているように見えている。

Ierの影響が正トラのエミフォロ動作に干渉するのでそれをキャンセルするようにエミフォロが働くと同時に逆トラ側もエミフォロに干渉するIcfの影響をキャンセルするように逆トラ側のエミフォロも動いている。 正逆両者ともエミフォロなので入力電圧Vinに追従するようにVe、Vc電位は動く。 逆トラ側はVbc、Icrが増加しているがIcrの方向がIcと逆なのでVcは上昇(R1の電圧降下は下がる)というかなり複雑な動作が内部では起こっています。 またVinの上昇でVb電位は上昇Vbは正逆トラの共通電位なので結局IeとIcの変化率は符号が違えと同じでVeとVcの変化も同様。 Ibに関してはTr.SWではIcが一定になるのにこの場合はIeの変化幅と同じ下降になるのでTr. SWの2倍のIbが発生していると言うことです。



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